99 エルフの四季
鶏から数百メート離れたところで鹿を見つけた。あれだけ大きかったらそれなりの肉が取れるし、それに前の世界では鹿鍋とかもあったから味は大丈夫だろうしな。
「あれはどうかな?」
「鹿か?」
「ああ」
俺たちは鹿を見つめながら風下に立たないように草むらに身をひそめた。
「やめた方が良いぞ」
「ん、なんでだ?重さなら大丈夫だぞ、スキルでアイテムボックスを持っているから」
「アイテムボックスを持っているのか!!……だがそう言う問題じゃ無いんだ。鹿を捌くには色々と面倒でな。まず鹿を一撃で仕留めなきゃならない」
「たぶんそれは大丈夫だ」
俺ならあいつの首を一瞬で吹っ飛ばしで絶命させることでできる。
「その後も問題でな」
困ったように頬を書いて説明してくれる。
ガウルンいわく鹿の肉の処理は非常に手間で、初心者にはあまりお勧め出来ないとの言う事だった。
まず初めに鹿の肉の処理は即死した鹿の首の動脈を切って、まだ動いている心臓の力で血抜きをする。そしてこの血抜きのスピードと、内臓をできるだけ早く体から出し、毛皮を剥いで肉の温度を下げることが美味しいシカ肉とそうでないシカ肉の大きな分かれ目になるのだ。さらに、死後硬直による肉の縮みを防ぐため半身にして骨はつけたままの状態で1日置き十分に冷やさなければならないと言う事だった。
俺はその説明を聞いて鹿を狩るのを止めてしまった。
面倒な事この上ないので。処理が楽なの探そう。
次に見つけた獲物はイノシシだ。これなら素人でも楽に捌けそうだな。
「あれならどうだ?」
「問題は無いな」
「じゃあ、遠慮なく」
俺は後ろ脚に力を入れて飛び掛かる体制に入った。出来るだけイノシシと自分を直線上に置きたくて障害物が無い様にイノシシの動きをじっと見つめて機会を待つ。
まだ、まだ、まだだ。
イノシシがゆっくりとその場から右にゆっくりと移動していく。あともう少しで一直線になる。それまで我慢だ。
今だ!!
俺は後ろ脚に思いっきり力を入れて、イノシシの首元目掛けて飛んで行った。
ブチッ!!
俺はイノシシの首に噛みつき勢いのまま首の肉を噛み千切って地面にぶつかるように着地した。俺が着地した地面には俺の着地した足跡がくっきりと残っていた、これでもイノシシの首の肉を取った時に大分勢いは落ちたのだけど、結構な勢いがあったようだな。
イノシシは首から一瞬間を置いた次の瞬間血が噴き出した。
俺は自分に血が掛らないようにアイテムボックスにイノシシを放り込んだ。
「良し、まずは一匹」
「素晴らしいお手並みだな、これならすぐに冬越しの分は集まるだろう」
背後からガウルンが声の声が掛けてくる。たぶん俺が飛び出すと同時にこちらに向かって走って来たのだろう。
「そうか?」
「ああ」
「…………そう言えば冬越しの肉ってどれ位狩ればいいんだ?」
「何も考えてなかったのか?」
「……まあな」
ガウルンが呆れたような顔と困惑した顔がミックスされた表情をされた。
「そうだな、大体アルビオンがエルフ一人分食べると考えて………イノシシ大体六頭から七頭分ぐらいかな」
「そんなんで大丈夫なのか?もう少しいるかと思っていた」
「……お前が動物を狩り尽くす前で良かった」
「おいおい、俺だって限度は弁えているつもだぜ。さすがに狩り尽くすまではやらないよ」
たぶん
「そう言えばエルフの冬ってどんなんだ?」
「そうだな………半日で家が埋まるほどの雪が降る」
「へえ~」
「そして家から一歩も出れないほどの吹雪になる」
「それで?」
「それが大体四月前半まで雪が吹き荒れる」
「……」
「四月後半に雪が溶けて外にやっと出ることが出来るようになる」
え?四月の前半まで雪が振ってるの?それはちょっと想定外だな、別に構わないけど。
「ちょっと待ってガウルン。悪いがエルフの里の一年間の季節の移り変わりを教えてくれないか?」
「ん?構わないが……」
俺とガウルンは移動しながら話を始めた。もちろん周りに気を配りながらだ。
「春は大体四月後半から五月前半だ」
「随分と短い期間が春だな」
「まあな」
「夏は五月後半から九月前半までが夏だ。いきなり真夏の暑さがこの期間続く。そして秋は九月後半から十月前半だな。丁度今だ」
「秋も短いんだな」
「春と秋はかなり短いと感じると思うぞ」
話ながらガウルンは地面を一瞥して、近くの茂みに体をひそめる。俺もそれに続いて茂みに身をひそめた。ガウルンはさっきのグリーンバローナを狩った時より真剣な顔をして弓を構え、矢をつがえて斜め上に矢を向ける。
パンッ!!
矢が弧を描いて飛んで行く。そして木から何かが落ちる音が……落ちる音がしない?気に入る獲物を狙った訳じゃないのか。
「……一体何を狙って矢を放ったんだ?」
「見てからのお楽しみだ、ついて来てくれ。ホントに狩れたか分からないしな」
そう言って茂みからガウルンは立ち上がると矢が飛んで行った場所と思われる方に向かって歩いて行った。もちろん俺もその後について行った。
矢が飛んで行った先には三本足のダチョウのような生物が矢に刺さって死んでいた。前足が一本で後ろ脚が二本で二メートル半はありそうだ。
「なんだこれは?」
「オオチョウダと言ってな。こいつの出汁とアサビで作った鍋がすさまじく美味いんだ」
「そうか………ところでどうやって狙ったんだ?」
「うん?」
こいつはかなり俺たちから遠く離れ場所にいたし、木などが邪魔で視認できなかった。一体こいつはどうやって狙いを付けたんだ?
「こいつは視認できるとこまで来ると逃げられてしまうんだ、しかも足も速くてな。捕まえることが難しい。見えない所から射るのが一番だ」
「だからどうやって?見えないんだろ」
「勘と経験それと足跡」
「どういう事だ?」
「こいつら歩いた所、走った所に足跡が残るんだ。ほら、こんなふうに」
ガウルンが指さす所には三本の爪の形が三つ並んでいた左右にあるのは平行になっていて、真ん中の足跡はそれより少し前の方にある。線で囲むと三角になるような感じだ。
そう言えば弓を構える前に地面に目を向けていたな。
「足跡で向かった方向が分かる。後は勘と経験で地面に付いた足跡の深さでどこまで走ったか分かるんだ。足跡が深ければ深いほど走り始めでそこから遠くにいることになる」
「へえ~」
見えない敵を射ぬくなんてすごいな。まあ、このオオチョウダだけに対してだけだと思うが。
「すまないんだが」
「ん?」
「アイテムボックスに入れといてくれるか?」
「ああ」
俺はオオチョウダをアイテムボックスに放り込んだ。
「すまないな中々狩ることが出来ないから、狩ることが出来るときにやっときたくてな」
「構わないさ、荷物持ちくらい」
それからすぐにイノシシ五頭と鳥二頭を狩って冬の蓄えは確保した。
何事もなく終わると思っていた所に地響きが鳴り、木々がなぎ倒される音でこちらに近づいてくるのが分かった。
「なんだ?」
「分からない」
俺たち二人は背後から来る音に目を向けると一人のエルフが走って来た。
「チェイス!!」
「先輩?!」
どうやら知り合いのようだが、チェイスと言う男は泥まみれで転がるように森を走って来たのだろう。一体何が?
「おい、知り合いのようだガっ!!」
俺の言葉に返事をせずガウルンは俺の体を乱暴に掴むと駆け出した。
「逃げるぞ!!」
「なんだよ一体?!」
俺は乱暴に体を掴まれたことに抗議の意味を含めて声を荒げたが、ガウルンは俺よりもさらに声を荒げて叫んだ。
「あいつは不味いんだ!!」
「何がだ?」
「あいつはトラブルメーカーなんだ!!」
「そんな先輩トラブルメーカーなんて酷いです!!」
いつの間にかチェイスが隣を一緒に走っていて、抗議の声を上げる。
「ああ言う問題事を毎度の如く起こしておいてそれを言うか!!」
バタバタバタ バキバキ ドン!!
背後から羽の羽ばたきと木が折れる音と倒れると音そして
「「コケーコッコ!!コケーコッコ!!」」
鶏の鳴き声。振り返るとあの大きな鶏がこちらに向かってすごい勢いで跳んで来ていた。
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