121 事件、事件、また事件 その4
一週間、時間を稼ぐのは村長がやってくれている。エルフを襲った事での取り調べと言う名目で一週間引き延ばすと言っていた。一週間程度なら人間も不審に思わないだろう。そして六日間の時が何事も無く過ぎて行くのだったが、七日目に事件が起きた。牢獄に入っていたマリアがいなくなっていたのだ。布団には人が寝ているように見えるように細工がしてあった。最初はマリアが牢獄から抜け出したことを疑ったっていた。だが牢獄がある建物にマリアの所有物が保管されているのだが、それが無くなった形跡は無かった。取り敢えずいつ逃げたか調べるために昨日の夜から今日の朝までの見張りを呼び出したが、その見張りのエルフたちがいないことが分かったのだった。
村長はある結論に至った。朝方まで見張りをやっていたエルフがマリアを連れ出して、勝手に人間の所に連れて行ったと。
そして見張りをしていたエルフは村長の事を慕っていて、あの会議の場で俺に詰め寄ってきたエルフだった。
見張りエルフ視点
私たちはあの白髪の男の言う事が信じられなくて、独自に行動を起こしていた。村長は何をとち狂ったがあんな奴の策を信じて実行しているが、私はこのバンパイアもどきの小娘を渡すことを警戒し過ぎだと考えている。この小娘を渡した所でこの村が危機に晒されることは無いだろうと結論に至った。この行動が村長が私よりもあの白髪を頼ったことによる嫉妬に基づいた行動な事は否定はしない。しかし私も村を危機から救いたいのだ。これで村を救えたなら村長も何も言わないだろうし、あの白髪の男の鼻をあかせられる。
本来なら結界の境がある所を超えて、私たちは人間がいるはずの場所に向かった。
人間がいる場所はすぐに分かった。空を眺めればいくつかの煙の筋が地面から空へと登っていたからだ。
バンパイアもどきを、半ば引きずりながら連れて行く。こいつを連れてくるときは苦労した。牢屋の中でも一応腕は縛られていたが、激しく抵抗されて、青あざを作ったエルフが幾人か居る。
見張りの兵士が二人拠点の入り口で雑談をしていたが、私たちの姿が見えると話を止めて私たちを待ち構える。
「人間よ、連れてきたぞ」
見張りの一人が私の背後にいるバンパイアもどきを確認する。
「そこで待っていろ、報告してくる」
人間は横柄にそう言うと見張りを一人残して、拠点の奥に走って行った。
そして、数分後に私たちは拠点の中のテントに招き入れられた。
「これはこれは、エルフのみなさん朝からご苦労なことです、そいつは私が引き取りますよ」
私たちの前には髪が黒い男が一人代表して私たちと話をするようだ。
「そんな話はどうでも良い、こいつを引き取ったんだ。この村から出ていてくれ」
「まあ、そんな焦らずご足労した労をねぎらわせてくださいよ、長耳野郎ども」
「な?!」
唐突にこの男が私たちを侮辱したことにも驚いたが、その次の言葉と行動にさらに驚くことになる。
「わざわざ殺されに来たんですからねっ!!」
その言葉と同時に男の腰から剣が抜かれ、一緒に来ていたエルフを刺し殺す。全員がこの状態にあっけに取られていたが、次の犠牲者が出る前に行動を起こせた。こここにいるのは戦闘訓練を受けている兵士だ。私だって不測の事態ぐらい想定している。そして全員がそこにいる黒髪に精霊魔法を放った。日ごろの訓練の賜物か、全員が一斉に放った。黒髪に一斉に私たちの魔法が襲う。その時黒髪が笑みを浮かべたように見えた。
そしてテントが吹き飛んだ。
テントが吹き飛んだあとには男が一人立っているだけだった。黒髪の男だ。
「どうして、一体何が」
私意外のエルフはすでに息絶えていた。私が今息をしているのは運が良かったからだろう、だが今日はそれを恨まずにはいられなかった。
「あ~ん、なんで生き残ってるんだよ。今ので死んだと思ったんだけどな!!」
黒髪が私の腹に刺さっている氷の槍を思いっきり蹴飛ばしてくる。先程の紳士的な態度とは別人だ。ぐりぐりと氷の槍が私の内臓を掻きまわす激痛に私は氷の槍から離れようと体を動かそうとするが、体がわずかに動くだけだった。
「あれだけの精霊魔法を食らいながら何故だ……?」
黒髪は私の呟きを無視して質問には答えなかった。
「ク、魔力を半分は持ってかれたか。全く長耳の癖に。いや、長耳だからこそか……魔法に長けた糞忌々しい種族だな!!」
「ガハッ」
黒髪がさっきより強い力で俺を蹴飛ばす、そのせいで私の体にはさらに氷の槍がめり込む。口の中は血ので溢れる。危険だこいつは、村に行かせるわけには行かない。何とかしなければ、取り敢えず時間を稼ぐ!!
「貴様、一体何が目的だ?」
蹴飛ばされて飛んで行った私に一歩一歩近づいて来る。私にはそれが死神の足音にしか聞こえて怖くて仕方なかった。
「目的~?そうだなあえて言うならー」
黒髪が私の目の前で止まり、私の顔の位置までしゃがむ。そうでもう少し近づけ、もう少し近づけばー。
「実験だ」
「実験だ…と?」
黒髪が嬉々として笑みを浮かべながら話し始める。
「ああ、長耳どもがどんな態度を取ろうとエルフの村を襲うつもりだったからな」
「何だと」
「今回の実験結果としてエルフの村を壊滅させる」
絶対にこいつを村に行かせるわけにはいかなくなった。
「全く勇者が現れたから異種族に対する扱いが厳しくなっちまってよ、こんな遠まわしいな方法をしなければいけなくなったぜ。まあ、筋書としては、エルフの里に逃げ込んだ犯罪者を捕まえようとエルフと交渉したが交渉決裂で、仕方なく応戦し、エルフの村を壊滅」
壊滅させるとしたが、一体どうやってだ。人数は40人程度で9000人に勝つつもりなのか。
「まあ良い、さよならだ」
黒髪が俺から顔を離そうと瞬間、私は黒髪の胸ぐらを掴んだ手で体勢を崩す。そして片手に隠し持っていたナイフを脇に思いっきり突き刺す。手応えはー
「痛ってーな!!このくそ耳が!!」
蹴り飛ばされる。手応えは鎧は刺したような感じだ。だけど鎧は身に着けていなかった。私は薄れゆく意識の中でナイフを刺した場所を視認する。ナイフによって破けた服の下から皮膚が見える。その皮膚は鱗のようになっていた。それが私の見た最後の景色だった。
その頃、俺はあいつがいなくなったことを長老に伝えるために、四本脚を動かして家に向かった。
「爺さん!!」
「話は聞いておる」
爺さんは俺とは落ち着いており、お茶を飲んでいる。
「爺さん、お迎えの船はいつ来るんだ?それと到着場所を頼む」
「お昼にはついているはずじゃ、ここから一時間くらいのこの川を下った所じゃ」
お昼か……あと三時間ほど。それ以降の時間に付かなければ意味が無いな。早すぎるのはあんまりプラスにはならない。マリアを救出するのにそこまで急ぐ必要は無いな。
「爺さんは先に手紙を持って、集合場所に行っていてくれ」
「分かった」
俺は爺さんの家を出ると、森の中に入っていた。
ある程度進むとあることに気づいた。つけられている、三人だ。
「お前らなんで付いてきたーー!!」
「「「わあ!!」」」
背後にいる三人に向かって叫ぶとびっくりした声が三人分上がるのだった。
「エリカ、リリアナ、クシア。何でついてきた?」
三人が草むらから顔を出してくる。
「僕はエリカさんが慌てて走って行くのを見て、追いかけまして」
「私はお姉ちゃんが慌てて家を飛び出すのを見て、何事かと追いかけて行きました」
「あたしは家を出て行くアルビオンンを見て」
全員芋ずる式的についてきたのかよ。俺は三人とお供連れて、森の中を歩くことになった。




