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第38話 ラターシュの野望

 ラターシュは決して卑怯者でも何でもなかった。

 ただ戦いに徹しているだけで。

 まともに戦えば普通に強いし、そのよく回る口も作戦の一つでしかない。


 目的があるからこそ突き抜けられる強さがある。

 それが出来るこいつは、紛れもなくドゥキエル家の人間だよ……!


 壁に叩き付けられた俺の身体がずり落ちて。

 間も無く床へも叩き付けられる事に。

 クソッ、身動きがロクに出来ない……。


 だが――


「なんッ!?」

「お、おい嘘だろぉ!? なんでラターシュの剣を受けたのに、アイツ……ッ!?」


 悪いな、俺はこの程度で死ぬほどヤワじゃない。

 これくらいの痛みなら日常茶飯事に受けて来たからな……!


「アイツまだ生きてやがるぞラターシュッ!!」


「全く、うるさいですねぇ豚野郎。そんな事、見ればわかりますよォ!」


 そして動揺しているなッ!

 明らかに俺が死んでいない事で狼狽えているぞ!


 それだけ今の一撃に自信があったんだろうな。

 だからこそ耐えられた事が理解出来ていない。


 いや、耐えた事自体は一番本人がわかっているか。

 なにせ、俺は全攻撃を防いだんだからな。

 手練れなら、手応えでわかっているハズさ。


 そんな動揺の中で俺はすっくと立ち上がり、服の中をまさぐる。

 そうして中から一枚の板を取り出し、そこらに放り投げた。


「危ない所だった。これを今(・)創(・)ら(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)間違いなくやられていた」

 

「――今、創った、だとォ……!?」


 それは鉄板。

 ただし並みの鉄の板なんかじゃあない。

 聖剣と同じ材質、神鉄を用いた超鋼板だ。


 ツァイネルの聖剣を分解した時に構造式は理解したからな。

 同様の物質を生み出すのは訳なかった。

 それを予(・)め(・)、防具として密かに用意していたんだよ。


 つまり、今の一言はハッタリだ。

 俺の存在感を際立たせる為のな。


 ほら、おかげで奴め、目つきが変わったぞ。

 俺がやって見せた事が信じられないと言わんばかりに。


「はは、君は本当に面白いねぇ。この突きをもろに喰らって生きてるなんて初めての事だよ。一瞬、自分の腕を疑ったさ」


「そうだな、凄まじい剣捌きだった。偽物じゃないってわかるくらいにな。他の奴はどう思ったかわからないが、アンタのそれは間違い無く騎士のそれだと思うよ」


 そう、防ぐ事自体が普通は無理なんだ。

 神鉄の聖剣で切れない物質はこの世界には無いのだから。

 だとすればこうして防いだのもまた必然と神鉄という事になる。


 だけど神鉄は早々と手に入る代物じゃあない。

 あの父でさえ用いた武具を持っていなかったくらいなのだから。

 

 それを創り出したとあれば動揺しないハズが無い。

 こうして無造作に投げ捨てたとあれば特にな。


「っはは、嬉しいねぇ! 私の剣を真に評価してくれたのはあっちの豚と君くらいだ。ならさ、友達にならないかい? 今なら大サービスで側近に置いとくけど?」


「悪い、ドゥキエル家の友人ならノオンで一杯一杯でな」


「チッ、この期に及んでやっぱりあの雑種か……」


「それに、何であれ人を簡単に貶められる様な奴は好きにはなれないんだ。だから代わりに今棄てた神鉄で墓標を立ててやるよ」


「そうかい、なら仕方ないか。珍しく私の事を理解出来そうな御仁に出会えたのに、残念だよ」


 おかげで一歩踏み出せば、ラターシュが一歩引く。

 平然としている様だが、思ったよりハッタリが効いているらしい。


 さて、後はコイツを如何にして倒すかだ。

 正直な所、小細工は通用しないだろう。

 普通の戦い方じゃ、あの神速には敵わないだろうしな。


「でも私は今、褒められてとても気分がいいよ。だから君に私とあの豚の計画をほんの少し教えてあげよう」


「お、おいラターシュっ!?」


「ほら皇子、君は黙ってろって言っただろ? 先に君を刻んでスープにしてやろうかぁ~ッ!?」


「いぃ!?」


 とはいえ考える時間はくれるらしい。

 まるで倒せるものなら倒してみろって言っている様だな。

 そんな事がわからないラターシュでもないだろうに。


 つまりこれがコイツにとっての敬意の表し方か。


 まったく、ひねくれているにも程があるな。

 気持ちを察せる人間なんてほとんどいないんじゃないか?


「私はね、世界の頂点に登り詰めたいのさ。虹空界の誰よりも」


「随分と尊大な野心だな」


「当り前さ。誰かが最強になりたいなんて思う事と一緒なんだよ。人生とは大博打、長年を懸けて願いを成就させるサクセスストーリーなのだから」


 ラターシュの剣が言葉に沿って何度も跳ね上がる。

 これもまるで先の誘導に見えてならないな。

 今は当人も明後日の方向に目を向けているから平気だろうが。


「だけどね、人っていうのはその成功を得るのに大半の人生を費やしてしまう。で、残りカスみたいな余生で幸せを享受するしかない。これって、本当に成功する意味があるのかな?」


「それは人それぞれだろう」


「そうだよ。そして私は不満なんだ。だから今すぐ権力・名声・資産が欲しい。それであの豚に与する事にしたのさ」


 けどそんな中で、再び鋭い視線が俺に向けられる。

 ニタァリとした笑みを浮かべつつも、冷徹さを見せつけて来たのだ。


 剣先を俺へと向けつつもクルクルと回しながらに。


「それで最初に青空界へと罠を仕掛けた。あの国が一番欲しかったからさ」


「盗賊紛いの人さらいがそれか!」


「そうさ。けど正解じゃあない」


「えッ!?」


「あれは所詮、礎だよ。本当に欲しい物を得る為の前準備。私が真に狙いを付けたのはね、あの土地そのものなんだからさぁ!」


 そうか、あの剣の動きは奴の感情なんだ。

 感情をそのまま剣の動きで示している!


 だから今、剣が鋭く刻まれているんだ。

 つまりこの話と共にとても激情しているという事に他ならない。


 それだけ、自分の目的に熱意的だからこそ。


「この継承計画を以て青空界全てを乗っ取るのさ! そしてあの土地の性質を利用して、次の計画へと移るッ!!」


「何ッ!?」


 ――熱意? いや違う。

 これはそんな生易しいものじゃないぞ!


「ところで、君は依存毒の事を知っているかい? 長年ちょっぴり摂り続けると、逆に毒が抜けたら生きられなくなる恐ろしい物さ」


「ま、まさかッ!!」


「そう、そのまさかだよォ! その依存毒を青空界の水や麦にほんの少しだけ混ぜておく! そして世界にばら撒くんだ! それらは世界中で親しまれている製品だからねぇ、きっと皆知らずに口にしてくれるさぁ!!」


 これは野望だ!

 それも紫空界だけに留まらない、世界への反旗・侵略への目論見か!


 青空界にツァイネル達を送ったのはその前の更に前準備。

 奴は最終的に青空界の人間を全て消すつもりだったんだ。

 その上で少しづつ自分の手の者達を送り、自分達の色に染め上げて。


 そして、最終計画を発動させる。




「後はゆっくり成功を享受しながら待てばいい! そうすれば奴等は勝手に依存し、私達に逆らえなくなる! そうして私は世界を束ねる【真王】になるのだァ!!」 




 その末に、世界はラターシュ達の手に落ちる。

 これがこの二人の描いた野望の筋書きだったんだ。


 ヴェルストはその尖兵、紫空界の皇帝という一人の代表に過ぎない。

 ラターシュは更にその上、六つの大陸を治める者に成るつもりなのだ。


「そうなれば、なまじ可愛いからと男子を女装させる様な親は生ませない!」


「んなッ!?」


「淑女の作法を叩き込んだり、剣よりメイクブラシを奮う能力を鍛えたりなど、絶対にさせはしないッ!」


 しかもその動機が、それか……!

 コイツ、どれだけの怨念を自分の家に対して溜め込んでいるッ!?


 いや、それが当たり前なんだ。

 ドゥキエル家の慣習が異常で、理解出来ないだけで。


 それをまともな感性を持った者が受ければ――ここまで捻くれるか!


 そうか、感情を出しにくいのもそれが原因なのだろう。

 美しい顔を維持する為に表情さえ人形の様にしないといけなくて。

 そう鍛えられたから冷徹に見えるし、何を考えているかも読み辛い。

 それでいて剣は正直だから、感情が顔よりずっと出ているんだ。


 どうやらドゥキエル家は俺が思っていたよりずっと業が深かったらしい。

 確かに、それをやられるのは俺も嫌だ。


 その点で見れば、ラターシュの主張は間違っていない。


「私はそんな全不遇の者達の為に頂点へ立つ。混血である君ならその気持ち、わからなくもないんじゃあないか?」


 だがそれでも間違っているぞラターシュ!

 それは何も奪われない事を前提とした話だ!

 お前のそれは、もはや他人を操る事しか考えていない者の考えなんだよ!


 つまりお前は、世界で人形遊びをするつもりなんだッ!!

 それはまさしく、お前の人生を映した様なものじゃないかッ!!


「わからん!」


「……ほう?」


「確かに蔑まされる事に理不尽は感じる。だが、だから操るというのはまた違うと思うぞ。それは只の封じ込めに過ぎない。結局不満は生まれ、抑え付けられた感情が吹き出す。そうなれば、世界中の人間が女装するかもしれない!」


「なっ!?」


 もちろんこれは只の凡例に過ぎない。

 だけど人というものは抑え付けられれば反発するものなんだよ。

 まるで極厚バストアップブラの様に、力が強ければ強いほど!


「それでは何の解決にもならないんだ。世界から女装という概念を失くす以外にな。けどそれは無理だ。人の意思は止められない。なら、女装しても良いという世界を育てた方がずっと早いし自由だッ!!」


「なん、ですって……!?」


 そう、今まさにお前が自身を抑え付けている様にな。

 地が出ているぞラターシュ。


 正直、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。

 しかし理屈が通っている事に違いはない。


 少なくとも、今の奴の計画よりはな!


「だから自由を奪うお前を、俺が止める! その準備はもう整った!」


「ちぃ……!」


 だからここは押し通させてもらう。

 奴が計画を遂行してしまえば、関係無い多くの者が不幸になる。

 女装という概念を消し去りたいと思う者よりもずっとな。


よりぬき言語紹介


――――――――――――――――――


極厚バストアップブラ


 この世界にも胸を意識する慣習はあった。シリコンにも似た軟質ゴムを使用しており、その質感は本物そっくり。備え付ける貴婦人の方々も満足する程の出来栄えとされている。なお買いたてだと若干匂いがあるので消えるまで仕込み(!?)が必要。おまけに言うと男性用もある。膨らんだ大胸筋は力の証。

 アークィンがこの存在を知っていたのはもちろん、あの方から教えて貰ったから。にしても、そうなると十五年以上も昔からこのブラが存在していたという事になる。という事はもしかしたら、この世界の文明は現代と比べても相当進んでいるのではなかろうか。テレビなどもあるくらいなので。


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