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第37話 誘惑の剣

――――――

――――

――

―




 それはマルディオン城突入の為の準備をしていた時の事。

 街から離れたとある丘で、俺とノオンは剣を交わしていた。


「ハッ! たあッ! さすがだねアークィン! ボクの剣にここまで着いて来るなんてさ!」


「余裕かよッ!!」


 もちろん互いに木の棒で。

 実力を測る為にと打ち合い始めたんだが。


 まさか俺の方が翻弄されるとはな。

 コイツの実力、半端じゃないぞ!?

 確かに、父より学んだ剣術は全てじゃあないが。

 それでも他者を圧倒出来る技術はあったハズなのに。


 それで結局、叩き伏せられるに至る。


「ハッハー! 剣術ならボクの方が上らしいね! なんだったら我がドゥキエル家の七剣殺法を伝授してあげても構わないよ!」


「……調子に乗るなッ!」


 だけどここまでやられて黙っていられる訳が無い。

 それで咄嗟に剣を取った腕を掴んで、引き込んで。

 その勢いで立ち上がり、腰をも取って密着させる。


 さながら、ダンスを踊る男女の様に。


「アッ、アークィン!?」

「こうなると隙だらけだな」


 それで今度は腕を捲し上げてクルクルと。

 舞の様に回した後に離しては――


「【鋼穿烈掌(ウルアーティ)】!」


 闘氣拳を打ち当てて吹き飛ばす。

 もちろん最小にまで力を弱めた一撃だ。


「んぎゃっ! いったたた……」


「剣術を見るとは言ったが、お前の有頂天まで見るとは言っていないからな」


「辛辣ゥ」


 これで仲間の大体の力は見れた。

 後は本番でどれだけこの力が通用するかどうか。


 いや、実際に言えば通用する。

 仲間は皆いずれも特筆する程の能力を秘めていたから。

 フィーだけはイマイチ本命の力が見えないけどな。


「アークィンは剣より拳闘術で戦った方がいいんじゃないかい? 動きが全く違うよ」


「そうかもしれんが、その違いで翻弄するのが本来の戦い方だ。何でも出来るからこそ、多様に対応出来る。それが我が父の目指した形なんだよ」


 後は俺の戦い方を見せて終わりだ。

 もうその片鱗は見せつけたけどな。


「確かに、その力ならカイオン兄様にもラターシュ兄様にも勝てるかもしれないね。だけどカイオン兄様は特に強敵さ。だからあの人が立ち塞がったら、ボクが戦うよ」


「わかった。となると、俺がラターシュ、長男をやる事になりそうだな」


 どうやらノオンは今の戦いで充分把握出来たらしい。

 こうやってしっかり見てくれている所はありがたい。


「でもいいのか? 実の兄を殺す事になっても」


「……本当は嫌さ。だけど仕方ない。その兄様が国堕としをしようとしているのなら。 それにここだけの話、ラターシュ兄様はあんまり好きじゃないんだ」


「え?」


 するとそんな時、こう零しつつノオンが立ち上がる。

 腰に纏った埃をさっさと払いながら。


 ただその目は笑っていない。

 まるであまり話したくない、みたいな。

 それだけ長男の事をよく思っていないのだろう。


「あの人は強いけど、それ以上にストイックで野心家なのさ。誇りとかそういう概念を簡単に捨てられるくらいにね。だから卑怯な事も抵抗無く出来るし、勝つ為に手段を択ばないんだ」


「騎士の家に生まれてそれなのか」


「父上は〝それもまたラターシュにとっての騎士道〟と言って許したけどね。だからこそあの人は強いよ。カイオン兄様とは違った強さがある。それこそアークィンが見せた様な自在性が無いと太刀打ち出来ないかも。剣だけじゃあの人には勝てないから」


 ノオンにここまで言わせるんだから相当だな。

 性格的にもなんだかひん曲がっていそうだ。

 となるとヴェルストと手を組めるのも同類だからって察せそうだよ。


 もっとも、怠け者ヴェルストなんかとは訳が違うだろうけど。


「にしてもさっきの動きと拳は凄かったね。闘氣功の類かい?」


「ああ。〝戦闘の要は闘氣に在り〟、これが父の教えだ。だから攻撃にも転用出来る様に徹底的に教え込まれたよ」


「ボクも身体能力を上げる闘氣功は習熟しているけど、攻撃への転用は無理だ。切り替え(スイッチング)が絶望的なまでに難しいからね。そこはさすがアークィンって所さ」


 しかし俺の戦術は型にも嵌らない自在戦闘方式(フリーファイト)だ。

 その力と知恵ならきっとラターシュだろうと突破出来るさ。


 まぁ実際に手を合わせて見ないと何とも言えないがな。


 こうして俺達は互いの力を再認識して街へと戻っていった。

 ラターシュ対策をノオンより叩き込まれながら。




―

――

――――

――――――




 そして今この場に至る。

 そのラターシュが目の前へと現れた戦場に。


 皇帝よ、少しだけ待っていて欲しい。

 今すぐコイツを倒して、アンタの息子の凶行を止めて見せるから。


「おや、どうしたんだい? 剣を取らないのかい? もしかして腰に下げた剣は、実は飴の棒だったりするのかい?」


「だったらいいな。それならお前を黙らせるのも簡単そうだ。甘言が大好きそうだからさ」


 ラターシュが身構える。

 剣を視線と並べる様に水平で構え、切っ先を俺に向けながら。

 それでいて微動だにもしない程に形が様となっているぞ。


 やはりノオンの言った通り、コイツは強いな。

 先のカイオンとは違った怖さがある。

 あの次男さんは力で全てねじ伏せると言った感じだったが。


 コイツは、その冷たい眼で相手の心を刺し殺すタイプだ。


 ここでようやくわかったよ。

 ノオンが毛嫌いする理由がな。

 

 コイツの眼は、混血を嫌う人々の眼と同じなんだ。

 相手を蔑み、卑下し、こき下ろす。

 しかも種族に拘らず、立場に拘らず。


 ラターシュは全てを見下しているんだ。

 恐らくはヴェルストさえも。


 それが力の――野心とやらの根源かッ!!


「おやおや、私の眼がそんなにお気に入りかい? なら、是非とももっと近くで見て――ごらんよッ!!」


 そんな野心が今、駆けて来た。

 俺を捻り潰して踏みにじろうと!


 速い!

 ノオンにも負けないくらいに!


 故に、また咄嗟に部屋奥へと跳ね避けていた。

 するとたちまち、驚くべき光景が目の当たりに。


 なんと壁に穴が開いていたのだ。

 それも三つ、一瞬にして!

 閃光の様な太刀筋と共に!


 更にその閃光が軌跡を描いて粉塵も断つ。

 鋭利に、まるで文字を描く様にして。


 それで転がっていた俺へと向けて、更に伸びて来た!


「おおおッ!?」

「ハッハァーーー!!」


 突撃だ!

 素直なまでの!

 その剣を引き込みつつ、額を充てんばかりに首を伸ばして。


 これは、剣でないと凌げない!


「【破・蓮・牙(はれんが)】ァーーーッ!!」


 そうして俺が剣を抜いて盾とした時、閃光がまたしても瞬いた。


 同時三突だ。

 それ程に速い刺突が繰り出されていたんだ。


 それも、俺の剣を瞬時に砕くほど強い!


「くッ!!」


「おやおやぁ? どうやら大した得物じゃなかったみたいだね。てっきり君は聖剣を持ってると思っていたんだけど?」


「あれはノオンに渡したよ……! アイツの方がずっと得意に扱えるからな」


 おまけに吹き飛ばされはしたが、ダメージは無い。

 空かさず空中で体勢を整え、構えたままに床へ着く。

 やはりツァイネルと同じで、生半可では勝てないな。


 元は木の枝とはいえ、鉄の剣をこうもあっさりと砕くなどとは。


 だけど、あの剣の秘密がわからない以上はまだだ。

 まだ秘策を出す訳にはいかない。


 それ以上の計略で覆されれば、俺の負けが確定してしまう。


「そうだ、面白い事を教えてあげよう。この剣はね、とても速くなるんだ。今の神速三連撃が叶ってしまうくらいにさ」


「ッ!?」


「凄いだろう、そして面白いだろう? 少しでもあっちに目を向けようものなら、うっかり死んでしまうよ?」


 くっ! コイツ何を考えている!?

 そうして力をバラして余裕を見せて、隙を見計らっているのか!?


 それとも――


 そう思っていた時だった。

 俺は気付けば、ラターシュから目を逸らしていて。


 きっと奴の挙動が視線誘導を兼ねていたのだろう。

 今、再び構えられたラターシュの刃が横へと跳ねていたから。


 それに釣られた時、俺の眼にふとヴェルストの姿が映り込む。


 王冠を守って蹲る皇帝を蹴っていたのだ。

 なんとしてでも奪い、自分に被せようとして。

 あのド外道が……!


 だがその瞬間を縫って、鋭い刃が俺の傍を突き抜けた。

 頬を、首を、肩を掠めて血飛沫舞わせる程のギリギリに。


 それと同時に再び跳ね退け、距離を取る。

 今の一瞬、回避動作が遅れてたら本気で串刺しだった。


「君ィ、凄い反射神経だ。いや、予測動作が鋭いのかな?」


「お前、敢えてヴェルストを好きにさせているな! 俺に動揺と焦りを与えようとして!」


「そうだよ? だってその方がずっと戦いが楽になるじゃあないか。私はね、とても怠け者なんだ。楽したいのさ。当たり前だろ、人間だもの」


 あの速さも脅威だが、この謀略も侮り難い。

 全ての動作が俺を殺す為に仕組まれている!


 ダメだ、このままでは奴の剣筋を見切る事さえ叶わないッ!!


「こうやって剣を奮うのも本当は面倒臭いんだ。だからさ、もう死んでよおッ!!」

「う、お、おおーーッ!?」


 その剣は確かに実直だ。

 だけどそれ以外の挙動に目を取られ、離せない。

 それが隙を生んで、連撃をしっかりと見切れないでいるんだろう。


 まったく、卑怯なんて誰が言ったもんなんだよ。

 戦い方はまさしく騎士のそれそのものじゃあないか!


 ただ相手を動揺させる技術に秀でた、だけのぉーーーッ!?




 そんなラターシュの一撃が無情にも、遂に俺の腹を突く。

 その威力のふんだんに乗った至高三連撃が。


 故に今、俺は吹き飛ばされて――奥壁へと叩き付けられていたんだ。


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