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第36話 届け、想い駆けし虹宝華よ(ノオン視点)

 カイオン兄様がエルナーシェ姫を愛していたなんて。

 あの方の死がこの反旗に加わった理由だったなんて。


 その想いは本物だった。

 不壊と言われた神鉄の聖剣を叩き折ってしまう程に。

 こんな不可能を可能にする男を止めるなんて、ボクにはとても出来ない。


「ノオンっ! だいじょぶー!?」

「フィー!?」


 そんな時、入口の穴からフィーの顔が覗き込んだ。

 きっと心配になってこっちにも気を回してくれたんだね。


 そうだ、フィーの強化魔法さえあれば兄様にだって勝てるかもしれない。

 この想いを打ち破るにはもうそれしか……。


「大人しく仲間に助けを乞いたらどうだ? そうでもしなければ俺は止められんぞ。 エルナーシェ姫への想いは不壊不朽! 少なくとも、聖剣を折ってしまった今のお前にもう成す術など無い!」

 

「ッ!!」


 ――いや、ダメだ。

 そんな事をして勝ったって、何の意味も無いんだ。


 ボクはボクのままで、兄様に勝たなければならないんだから。


 ……きっと妙な騎士道精神だなって、またアークィンに笑われそうだね。

 勝たなきゃいけない所で変に意固地になるなんてさ。

 これで負けちゃったらそれこそ意味が無いんだって。


「フィー、ボクの事は平気さ。なんて事は無い。だからマオとテッシャについてあげて。ボクが必ず、兄様を止めてみせるから」


「わかた。がんばてねノオン」


 けどね、これだけはやっぱり譲れないよ。

 信条だからね、心に染み付いて離れないのさ。


 ボクは騎志としてカイオン兄様に勝たなきゃいけないんだって。


 だって、当たり前じゃないか。

 今この時にだって本当なら兄様はボクを殺せる。

 だけど今は剣を降ろして自ら退いてくれているんだ。

 フィーに気付いて猶予を与えてくれたんだよ。


 こうなっても兄様は相変わらずだ。

 この人はいつもそう。

 とても優しくて、変に正々堂々で。


 そんな貴方に憧れたから、ボクは〝騎志〟となったんだ!


「良いのか? 友の想いを無碍にして」


「うん。平気さ。だってフィーもボクを信じてくれたからね。きっと兄様を止められるって」


「それは不可能だ!」


「いいや! ボクは! やっぱり兄様に、勝つ!」


 兄様、今の行動は失策だったよ。

 貴方の行動がボクに火を付けた。

 燻っていた心に、とびっきりの【シャンカナ】花油を注いだのさ!


 なんたってボクは甘党だからね!

 あの香りはとても大好きなのさ!


 だから今、ボクは折れた聖剣を構えた。

 例え半身となろうと、刃が切れる事に変わりは無いから。


「ならば【ガンドルク】の斬撃波を使うか?」


「使わないよ。あれは騎士の技じゃあない。相手が【業魔】じゃないなら、扱うのはこの剣だけでいいっ!」


「その意気や良しッ!!」


 ならばと、兄様もまた剣を深く構える。

 先程以上に力を感じさせてくれるよ、まったく。


 けど怯んではいられないよね。

 闘志を見せてくれるって事は、まだ相手に足るって思ってくれているから!


 故にボクは駆けていた。

 再び雷光の足捌きをもって。


 この速さは兄様でも捉えるので精一杯だ。

 ここまでの戦いでしっかり把握出来た。


 なら、それ以上に速く動けばいい!


 その想いが想像以上の加速をくれたよ。

 盾にしていた腕を蹴り

 床へと跳ねてまた蹴って

 それで背後頭上へと飛び上がったのさ。それも一瞬でね。


 あとはスロープを蹴って斬り掛かる。


「ぬぅぅぅんッ!!」

「ッ!?」


 けどそんな太刀先には兄様の剣腹が。

 先回りして防いでいたんだ。

 軌道が、読まれていた!


 だけどもう止まらないよ!

 何があろうとも!


 剣を打った衝撃で、ボクの身体がまた跳ねる。

 天井をも足蹴にして、次に床を蹴り、一気に兄様の側面へ。

 空いた懐を突き抜け、一気に斬撃を見舞う。


 よって重鎧の腹部が爆ぜた。

 破片を沢山舞わせながら。

 軽いからこれだけだけど、充分な成果さ!


 そしてボクはもう兄様の正面遥か先に立っている。

 歯軋りしても無駄さ、捉えられるつもりはない。


「兄様の想いはよくわかったよ! だけど姫様がそんな復讐を望んでいない事くらいはわかっているよねッ!?」


 なら更に雷光を刻もう。

 兄様がその膝を地に突くまで、何度でも!


「わかっているとも! だからこれは私怨だ! ぐぅおッ!? ――例え姫に嫌われ疎まれようともォ! この恨み辛みだけは絶対に晴らしてみせようッ!! があッ!?」


 その度に兄様も剣を奮う。

 剛と速、どちらをも重ね揃えた一撃必殺の斬撃が。


 だけど、当たる訳にはいかない!


「その私怨は! 父上を、母上を殺す程に強いのかあッ!!」


「そうだあッ!!」


「ならそんな兄様の剣はいずれ民も帝も殺す! それは只の破滅の刃だッ!!」


 何故なら、その動機は余りに不純だから。

 想いは本物でも、余りに独善的過ぎるから。


 そんなもので斬られたら、民を守る者として不甲斐ない。

 きっと父上ならそう言ってボクを叱るだろうさ。


 だからさ、ボクは今の兄様と向き合うよ。

 その想いを断ち切らないと、前には進めないんだって。

 そんな父上の教えさえも忘れた兄様に、ボクが教えてあげるんだ。


 決意の切り上げ刃が兄様の背中を縦に裂く。

 鎧片を弾かせ舞わせる程に強く。


 そうして切り抜け上がった刃がボクと共に天井を突き、再び雷光を刻む。

 またしても兄様の正面へと戻る様にして。


「ぐぅ、まさかここまで強くなるとは……!」


「いや、違うよ兄様。これは多分剣が折れたからかもしれない。これくらいで丁度いいんだ。ボクにとってはさ」


「ッ!?」


「本当は鎧も要らないけど、これは騎士の証だから。ボクが守りたい志の象徴だから脱げないさ。剣も同じ、折れても絶対に棄てない。誇りまでを棄てる訳にはいかないんだ!」


 その上で深く構え、足を強く踏み締める。

 気迫で、闘志で、床へ亀裂が走る程に。


「来るか……! ならば、返り討つッ!!」


 きっとその意志が見えたんだろう。

 兄様もまた同じくして剣を構え、己の体に力を籠めた。


 次の一撃が、この戦いに決着をもたらすのだとわかって。


「「ドゥキエル相伝、七剣殺法」」


 そうだ。

 いつもこうだった。

 稽古で決着が付かない時はこうやって決め合っていたんだ。

 その最後の勝負で勝った試しは無かったけれど。


「疾の位……!」

「檄の位……!」


 だけど今は負ける気がしないよ。


 だってさ、兄様はもう三年前から止まっているんだ。

 あの時から、前を向く事を辞めてしまったから。


「【叶・烈・断(かれつだん)】!! うぅおおおーーーッ!!」


 対してボクはずっと前を向いて来たよ。

 悲しみも、苦しみも振り払って、ここまで来たよ。


 だから後ろを向くのはもう終わりにしよう。


「――銀麗式・変卦!」

「ッ!?」


 だって世界は広いんだ。

 前を向かなきゃ、そんな世界は――見きれない。




「【宝・華・駿・駆・刃(ほうか・そうくじん)】ッ!!」




 今この時、兄様の視界にはきっと見えただろう。

 この世界を彩る虹の華が。

 生きとし生ける者達の生命賛歌が。

 ボクの剣はその為に奮ったのだから。


 故に二人の身体が擦れ違う。

 互いに凄まじいまで鋭い斬撃を見舞いながら。


 ボクの左腕が宙へと跳ね飛ぶ中で。


「うっぐあぅ……!」


 余りの痛みで眩暈がする。

 今すぐ剣を落として血を塞ぎたいと思えるくらいに苦しい。


 だけどまだ剣を降ろす訳にはいかないんだ。

 兄様はまだ、立っているんだから!


「そうか、これがお前の生き様か……」

「兄、様……?」


 でも兄様は背中を見せたまま動かない。

 今の斬撃をもろに受けたからこそ。


「良き道に進んだ。俺と違ってな」


 するとそんな頭が顎が持ち上がって。

 ふと見えた素顔には涙が滴っていた。


 きっと兄様はわかっていたんだろうね。

 自分のやっていた事が如何に愚かなのかと。

 それでも止められなかったのは、自分がちっぽけな人間だから。


 誰かに止めて貰いたかったのかもしれない。

 出来る事なら、エルナーシェ姫自身に。


「ならば示して、くれ。俺が本当に、目指したかった、明日の、為に……」


「わかった、約束するよ」


「あり、がとう……」


 だからきっとこれが本望だったんだ。

 こうなる事が、自分の破滅こそが。




 今、我が兄カイオン=ハウ=ドゥキエルは地に伏せた。

 虚しく、悲しく、力無いままに。


 まるで誇りを棄てきった騎士の如く。




 だけど兄様、それもまた誇りなんだ。

 愛に殉じた誇りは本物だったよ。


 なら、この戦いは引き分けだね。

 ボクももう、疲れてしまったから。


 さて、アークィン……後は任せた。

 君ならきっと、皇国を救ってくれると信じている。


 でもこれでお別れだ。

 ボクは一足先に行くとしよう。




 他の皆の事も、よろしくね――




 こうしてボクもまた倒れた。

 昏倒していく意識の中で、そう呟きながら。


 それでも本望だったよ。

 カイオン兄様も止められて、父上も皇帝陛下も助けられるだろうから。


 おかげでもう、悔いは……無い、よ……


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