第11話 ことの幕切
なだれ込んできた武装集団はよく訓練された動きで俺たちを中心にし囲み、何かから守るかのように銃口を外に向けた。
「お前ら大丈夫か?」
「え……あ、はい……」
何も分からないこの状態ではどう返すのが適切か分からず、とりあえずは敵ではないと判断して刀の柄の部分に添えていた手を離し、返事をした。
「状況説明をお願いします」
この状態の中で声を上げたのは後続の武装集団を連れて入ってきた茶髪のセミロングで腰の後ろに刀を帯びている女性だった。
「隊長、ここには奴はいないようですが、要救助者二名を確認しました」
「そう、ご苦労様」
敬礼をしながら報告してきた部下を労うとこちらを方を向き
「私は八咫烏神戸支部第一部隊隊長の片倉 葵と言います。悪性霊体出現の報を受けて討伐の為にここに派遣されてきました。見たところ報告にあった学生のようだけど大丈夫よ、キチンと保護してあげますからね。ところで貴方たちの名前を聞かせて貰っていいかな?」
隊長と呼ばれた女性__葵は安心させるように微笑みを浮かべていた。
八咫烏とは大戦後、日本が悪性霊体を迅速に討伐するため出動するのに何かと手続きが面倒な国防軍から切り離す形で組織された特殊機関である。
「俺は一条 暁です」
「私は本田 雪と言います」
「一条君に本田さんね。あそこにいるのは幻獣よね? どちらが召喚したの?」
「私です」
「とりあえず仕舞ってもらえるかな?」
「分かりました。シロお疲れ」
「うむ、ではさらばだ」
シロは一度頷くと音も立てずに消えていった。
「それで見たところ一条君が腰に下げているのは神魔武装の様だから二人とも覚者だね。登録番号は?」
葵は携帯端末を取り出していた。
覚者として国に認められている者は国から登録番号というものが渡される。
「私の登録番号はA-3321です」
「……はい、確認出来ました。一条君は?」
「………俺は持っていません」
俺の言葉を聞くと今まで優しかった葵の目に鋭い眼光が宿る。
「どういうことか説明してもらえますか?」
「俺のことは多分調べてもらえば分かると思いますが俺は覚者じゃないんです。正確には魔素を持っているけど使えないんです」
「………つまり君は魔素を使えなかったけど今は使えてしかも神魔武装まで使えちゃったってことでいいの?」
「その通りです」
葵は俄かには信じられないといった視線をこちらに向けてくるが俺の目を見てからをため息を吐くと
「俄かに信じがたいですが、嘘をついているようにも思えないですし、データベースを漁ればすぐに出てくると思いますが、一応念のために貴方を覚者報告義務違反の容疑で拘束させていただきます。あと刀も一度回収させていただきますね」
「お手柔らかにお願いしますよ」
「分かりました」
葵は柔らかく微笑むと部下に命じて俺の腕に魔素の発生を抑制する拘束具を付けさせ、刀を回収するとそのまま連れていかれた。
暁を先に連れて行くのを確認した後、葵を雪の方に振り返り
「それと雪さんにはここで起きたことを聴きたいので同行をお願いできますか?」
「………分かりました」
雪は暁と離れたのが嫌だったのか不承不承といった感じだが別段抵抗するわけでもなく大人しくついていった。
「やっと終わった」
「お疲れ様。でも驚いたよ、君たち二人で悪性霊体を倒しちゃうなんて。でも今後はこんな危険な事は出来るだけしないように」
夜の八時も過ぎた頃、取調が終わり取調室から葵と一緒に廊下に出ると驚きと不快が入り混じった表情で注意をしてきた。
「以後出来るだけ気をつけます」
「うん、よろしい。今から車回してきて宿まで送ってあげるからちょっと待っててね」
葵は微笑むとそのまま走り去っていった。
「お待たせ。それとこれは私からのちょっとしたサービス」
俺は八咫烏神戸支部から出てきて伸びをして待っていると車を回してきた葵が後ろから肩越しに缶コーヒを頬に当ててきた。
「ありがとうございます。あの、ところで雪はどうしました?」
辺りを見回しても雪が見当たらないのでに問いかけるとは葵は微笑むと
「一条君は優しいね。まず本田さんの心配するなんて流石婚約者同士は違うね」
無邪気に言ってのけた葵の爆弾発言に飲んでいたコーヒーを吹き出しかけた。
「あの、片倉さん、俺と雪はただの幼馴染でそれ以上でもそれ以下ないですよ」
「心配しなくてもちゃーんと分かってますよ。ちなみに本田さんの事情聴取は簡単に済んだから先に宿の方に送っておきましたから安心してください」
絶対にこの人分かってない。
そう確信しつつ葵が回してきた車に乗り込んだ。
事情聴取と言われてもただ起きたことを話しだけだったので時間はかからなかったが、ここまで時間がかかった理由は本当に適格者になったのか調べるための検査に時間がかかり、この時間となった。
結果として俺は異端のままであった。
あの神魔武装を所持している状態なら問題なく魔素を扱えるが、所持していなければ今まで通り魔素を扱うことが出来なかったからだ。
(結局刀は返してもらえなかったな。まぁ俺のでもないけどさ)
神魔武装は調査と登録という名目で回収されたままだった。
「お兄ちゃん! 大丈夫? 何か変なことされなかった?」
宿に入るやいなやロビーで座って待っていたのか雪がこちらに飛んできて俺の体を心配そうにペタペタと触りだした。
「大丈夫だからあんまり体をペタペタ触るな。それとお前何アホな事を片倉さんに言ってんだよ」
しまいには頬擦りまでしてきた雪に嘆息しながら脳天にチョップを繰り出した。
「で、他のみんなはどうした?」
「他のみんなは疲れて部屋で寝てるよ。あと予定は全部キャンセルで明日には帰るってさ」
何時ぞやと同じように雪は涙目で頭を押さえながらも答えてくれた。
「なら俺たちもさっさと休むか」
「なら一緒寝ようよ。一組と二組のみんなは部屋割り関係なく友達同士やカップルで固まって寝てるし先生たちも黙認して自分たちも部屋に引き篭もっちゃってるから空き部屋で何してもバレないよ」
雪は妖艶に微笑むと俺に抱きつき、予想通りの台詞を言ってきたのでいつも通り引き剥がそうとすると雪が微かに震えているのを感じた。
「…………寝るだけならな」
「え……いいの?」
雪は驚きながら上目使いでこちらを見てくる。
「男に二言は無い」
きっぱりと言い放つと雪は喜色満面になり、さらに強く抱きついてきた。
「ほら、さっさと寝るぞ」
「うん!」
空いている部屋に入り、布団を手早く二人分敷き、その上に寝転がると雪がそっと腕に抱きついてきた。
「…………今日だけだからな」
「うん……」
暫くすると隣から安らかな寝息が聞こえてきた。
そちらの方を振り向くと雪が安心しきった顔で眠っていた。
「おやすみ」
空いている手で雪の頭を優しく撫でた後、俺は静かに目を閉じた。
次回も再来週辺りに更新します
 




