アイギス一行
深夜、できる限り人のいない路地裏を選んで、魔法少女たちは対面した。
「誘いに応じてくださって光栄です。私はアイギス。本名は加賀珠守、中三です。よろしくお願いします、アシェンプテルさん、エリクシルさん」
まず挨拶したのは古代ギリシャのような甲冑をまとった魔法少女であった。実に礼儀正しく凛々しい少女である。
「よ、よろしく。年下だったんだね」
「……ふん」
エリクシルは怪訝な目を向け、挨拶することはなかった。
「そして、こちらがアリアドネ、中二の能登糸於莉です」
アイギスは彼女の腕に抱き着いている魔法少女を紹介した。黒い外套で全身を覆い、長い金髪にオリーブの冠を戴いた、これまた古代ギリシャを思わせる装いの魔法少女だ。
「私はアイギス様以外に興味ないわ。勝手にして」
「はは……。アリアドネはいつもこんな感じなのです」
「そうなんだ……」
――こっちにも同じような人がいるけど。
「どうしてアイギスがそんなに好きなの?」
「私がマジカルバレットに襲われた時、アイギス様が助けてくださったの。そう、アイギス様は私の王子様なのよ!」
「な、なるほど……」
「気が合いそうね。私もアシェンプテル以外の奴に興味ないわ」
「そうね。アイギス様以外の存在なんて、どうなってもいいわ」
「アシェンプテルがどうでもいいって言いたいの?」
「ええ、もちろん」
「やめてよ、二人とも。仲良くして!」
エリクシルとアリアドネは、出会ったばかりなのに火花を散らしていた。
さて、魔法少女はもう一人いる。修道女の服装を真っ白にしたような衣装で全身を包み、アイギスとアリアドネの後ろで保護者のように微笑んでいる少女であった。
「私はセラフといいます。中学二年生、本名は美濃御天です。よろしくお願いしますね、アシェンプテルさん、エリクシルさん」
「うん、よろしく」
――すごい優しそうな人だな。
魔法少女アイギス、アリアドネ、セラフ。この3人はチームを組んで行動している。マジカルバレットとアルカロイドもペアで行動していたし、魔法少女は複数人で行動するのが一般的なようだ。
――アリアドネを除いていい人そうだし、アリアドネも悪い人ではないよね。
○
「さて……私たちは願望機の欠片を集めるつもりなどありません。あなた方が先程遭遇したマジカルバレットやアルカロイドのような危険な魔法少女から身を守るべく、このようにチームを組んでいます。互いに手を取り合いませんか?」
アシェンプテルは二つ返事で承諾しようとしたのだが、エリクシルが制止した。
「そんなことを提案するなら、あなたたち全員の魔法を教えて。信用して欲しいんでしょう?」
「ちょっと、エリクシル……」
「いえ。エリクシルさんの言う通りです。信用を勝ち取るために、隠し事はしません。私の魔法は、あらゆる攻撃を自動で防ぐ魔法です。セラフ、私に向かって石を投げてください」
「お任せください」
セラフはかなり容赦なく、アイギス目掛けて石を投げつけた。アリアドネはアイギスにくっついたままだ。
人間相手だったら即死してもおかしくない勢いであったが、アイギスの手前2mほどの地点で、石は壁にぶつかったかのように上方へ弾き飛ばされた。
「へえ? 不可視の壁といったところかしら」
「はい。そう理解していただいて、概ね正確です。たとえ私が認識していなくても、この魔法はあらゆる攻撃を防ぎます」
「すごい魔法だね……」
――マジカルバレット相手にはめちゃくちゃ相性よさそうだけど。
「私の魔法は……糸を作ることよ」
「糸?」
「ええ。こんなふうに」
アリアドネは気怠そうに左腕を振った。すると、その先にあった木の枝が綺麗に切断され落ちてきた。
「面白い魔法ね」
「ええ。楽に死ねるわ」
「喧嘩しないでよ」
――でも、全く見えない攻撃だし、当たったら確実にやられる。味方でいてくれてよかった……
「最後は私ですね。私の魔法は治療です。どんな大怪我をしても、絶対に治すことができます」
「アイギスとアリアドネみたいに実演してみせて?」
「それはさすがに無理だって……」
「いえ、可能です」
「え……?」
アイギスがやろうとしていることを察し、アシェンプテルの顔から血の気が引いた。
「これで納得してもらえるはず」
「ま、待って!」
アイギスは腰の剣を抜き、左腕を斬り落とした。赤黒い血が、壊れた蛇口から水が噴き出すように流れ出す。
「ひっ……!」
「セラフ」
「はい。治しますね」
セラフが傷口に手をかざすと、すぐさま腕が生え始め、あっという間に完全な形に再生された。切断の跡など少しも残らなかった。
「これで満足していただけましたか?」
「ええ、そうね。今すぐ殺す必要はなさそう」
「治ったけど……こんなこともうしないで! アリアドネも、アイギスが好きなら止めてよ!」
「自分の身を省みないのは、アイギス様の悪いクセだけれど、そういうところも素敵なのよ」
「あ、そう……」
アシェンプテルはアリアドネの盲目っぷりに頭を抱えた。
ともかく、これで3人の魔法が明らかになった。アシェンプテルとエリクシルも、魔法と本名をそれぞれ教えた。
「これで同盟締結、かな?」
「その前に、一つだけ言っておきたいことがあります。あなた方に付き合ってもらう必要はないのですが、私は個人的に、アルカロイドを敵視しています」
「え? それはどういう……」
マジカルバレットの名が出てこないあたり、先に攻撃されたからというわけではなさそうだ。




