魔法少女殺し
「はぁ……はぁ、はぁ……」
月と星が頼りなく照らす森の中、一人の魔法少女が息を切らしながら走っている。遠くで炎と煙が上がっているが、それも目には入らない。
少女の頭上では、数十羽の白鳩が不自然に飛び回っている。彼女を追跡する魔法少女の魔法で作られたものだ。すなわち、少女の居場所はとっくに把握されているということだ。
「い゛っ……」
白鳩の一羽が急降下してきて、彼女の左膝に嘴を突き刺した。少女は倒れ込み、木に頭からぶつかってしまう。振り返ると、すぐ目の前に彼女を追う魔法少女の姿があった。
透き通るように美しい少女は、純白のドレスを身にまとい、地面から数十センチメートルばかり浮かび上がっていた。何の感情も映さない虚ろな目で、倒れた少女を見下ろしている。
「あ、アシェンプテル……」
怯える少女はその名を呼ぶ。魔法少女アシェンプテル。シンデレラと呼んだ方が馴染み深い、童話の主人公の名を冠した魔法少女だ。
「だ、誰か……助けに来いよ……!」
少女は炎が上がる方に向かって叫んだが、反応はない。
「あなたには何の恨みもないし、殺したいわけじゃないけど、魔法少女は死なないといけないの。だから、死んで」
「だったら、一人で勝手に死ねよ……! 何で私が……!」
「魔法少女は全員死なないといけないの。ごめんね」
「ふ、ふざけ――」
魔法少女アシェンプテルは、少女の目の前で手を横に振った。そして次の瞬間、少女の首は切断された。
まるで虫を払うかのように、一人の魔法少女の命は絶たれた。
「これでもう大丈夫。体はちゃんと見つかるようにしてあげるから」
アシェンプテルは首と胴を丁寧に拾い上げ、森の外に歩いていった。
「やっと殺したのね。もう11時32分よ。危ない橋は渡らないで」
真っ黒なゴスロリ衣装をまとい、長い紫の髪を持つ毒々しい姿の魔法少女が、厳しい口調で語りかける。が、アシェンプテルは意に介さない。
「エリクシル、そっちの首尾は?」
「ええ、ちゃんと殺したわ」
「よかった。これで残り何人だっけ……」
「どうでもいいことじゃない。どうせ全員殺すんだから」
「うん。私もあなたも、死なないと」
アシェンプテルは薄く微笑んだ。




