3.七人の魔法少女
沈黙を破ったのは、私の向かいに座る茶髪の少女だった。
「驚きはしたがね。まずは一度、冷静になろうじゃないか」
眼鏡を掛けた少女は、落ち着いた声で全員を見渡した。
「既にゲームは始まっている。今一度、ルールを確認しよう」
不思議な声だった。
特別大きいわけでもない。
それなのに、その一言で場の空気が少しだけ落ち着いた。
「我々七人の中には、魔女が潜んでいる。彼女の目的は、世界を滅ぼす禁断の魔法を完成させること。このまま七ターンが経過すれば魔法陣が完成し、世界は滅亡する」
私は眉を寄せた。
その説明には聞き覚えがある。
というより、嫌というほど知っていた。
『7 Turn』には、そもそもストーリーが存在しない。
あるのは簡単な世界設定と、ゲームのルールだけ。
七人の魔法少女が集められ、その中に世界を滅ぼそうとする魔女が紛れ込んでいる。
プレイヤーは魔法を使えない一般人として彼女たちに混ざり、魔女を見つけ出さなければならない。
それだけだ。
少女たちの過去も、集められた理由も、魔女の正体も明かされない。
だって、ただのゲームだから。
なのに、目の前の少女はそれを当たり前の事実として語っている。
まるで、本当に自分たちが世界を救うために集められたと信じているかのように。
「我々にできることは、一ターンに一度の投票だ。全員で怪しい人物を選び、最も多くの票を集めた者を処刑する。魔女を処刑できれば、我々の勝利というわけさ」
「なるほどな。つまり、毎回誰かひとりを処刑して、魔女をあぶり出せばいいってことか」
紫色の髪をした少女が、楽しそうに笑った。
「なんだよ。思ったより簡単なゲームじゃねェか」
彼女は乱暴に足を組み、隣に座る私へ指を向けた。
「んじゃ、とりあえず今回はコイツでも処刑するか」
「⋯⋯は?」
思わず間の抜けた声が出た。
「おい、何だよその顔。文句あんのか?」
「いや、どうして私なわけ?」
「さあな。なんとなく怪しいからだよ」
「⋯⋯なんとなくで処刑とか一番の悪手でしょ」
いきなり処刑対象に指名されるとは思わなかった。
ゲームでもこういった展開は起きたりするが、基本的に最初のターンでプレイヤーは怪しまれないはずなんだけれど。
さてどうやって言い返すか。
私が冷静に考えていると、
「あの!」
隣に座る赤髪の少女が手を挙げた。
「ルールの確認もできたんだから、次は自己紹介をしようよ! ほら、私たち、まだ名前も知らないでしょう?」
「それもそうだね」
眼鏡の少女が頷いた。
「では、私から時計回りに行こう。私の名前はワン。推理は得意だから、頼ってくれたまえ」
その名前を聞いて、私は小さく息を呑んだ。
ワン。
知っている。
もちろん、知っているとも。
「⋯⋯次はボク。名前はトゥー。よろしく」
青い髪の少女が続く。
「えっと、私はスリィです。その、みんなよろしくね!」
赤髪の少女が、私に向かって微笑んだ。
「ほら、次は君の番だよ」
「⋯⋯⋯⋯」
私は返事をしなかった。
自己紹介の流れもゲーム通りだ。
そして、名前も見た目も話し方だって、全てが同じ。
だからこそ、私はこれ以上彼女たちの名前を聞きたくなかった。
だって、それはこの世界が『7Turn』であることを突きつけられているようだから。
そんなの、今の私にはとても耐えられなかった。
何よりも、私にはひとつどうしても考えなければならないことがある。
「⋯⋯ごめん。私は最後にしてほしい」
「えっ、どうして?」
「ちょっと考えたいことがあるから」
「けっ、やっぱり怪しいなコイツ」
紫髪の少女が鼻を鳴らした。
「まぁいいや。そんじゃ次はアタシ様だ。名前はファイブ。逆らう奴は魔女だろうが誰でも魔法でぶっ殺すかんな。精々態度には気を付けな」
「じゃあ次は私の番ね。シックスよ。魔女ではないわ。と言っても、証拠もないし、信じられないでしょうけど」
白髪の少女が淡々と告げる。
「最後はみんなのアイドル、セブンちゃんでーす! チャームポイントは可愛い笑顔! 悪い魔女さんはセブンちゃんがやっつけるからね!」
ピンク色の髪をした少女が、元気よく手を振った。
これで、私以外の六人の自己紹介は終わりだ。
ワン、トゥー、スリィ、ファイブ、シックス、セブン。
全員、ゲームと同じ容姿で、名前も同じ。
そして、ひとりだけ足りない。
七人の魔法少女の内、残るひとりが私の前にはいない。
ずっと、この世界を認め始めた時から恐れていたこと。
認めたくはなかったもうひとつのこと。
私は恐る恐る、自分の前髪に触れた。
指先に絡む、柔らかな髪。
その色は――緑。
刹那、心臓が大きく跳ねた。
「⋯⋯ねぇ、スリィちゃん」
「どうしたの?」
「私の髪って、何色に見える?」
「髪色? うーん⋯⋯綺麗な緑色だよ」
やっぱり。
私はゆっくりと顔を上げた。
もう、答えはひとつしかない。
私はこのゲームの登場人物になってしまったのだ。
しかも、よりにもよって。
「⋯⋯私の名前は、フォー」
最初のターンで必ず処刑される、あのネタキャラに。
冗談じゃない。
私はまだ、死にたくない。
絶対に。
何が何でも、生き残ってやる。
そう決意した私の耳に、無機質なアナウンスが響いた。
『ターン終了まで、残り十分』
⋯⋯最悪のゲームが始まろうとしていた。
生存者7名
1.ワン⋯⋯⋯魔法:不明 アイテム:不明
2.トゥ⋯⋯⋯魔法:不明 アイテム:不明
3.スリィ⋯⋯魔法:不明 アイテム:不明
4.フォー⋯⋯魔法:不明 アイテム:不明
5.ファイブ⋯魔法:不明 アイテム:不明
6.シックス⋯魔法:不明 アイテム:不明
7.セブン⋯⋯魔法:不明 アイテム:不明




