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第七話 愛という名の鳥籠

三重県内某所にある屋敷、魔使家の別邸である。

 執事服の男、魔使侍郎が書斎の扉を叩く。

「旦那様、侍郎でございます。ご報告に参りました」

 書斎の中から威厳のある声が響く。

「侍郎か、入れ」

「失礼します」

 侍郎はゆっくりと書斎の扉を開け、中に入る。

 書斎では一人の男が座っていた。

 年は三、四十といったところだろうか。オールバックにした黒髪には少し白髪が混じっている。

「それで、娘は何と?」

 白いスーツを着こなし、鋭い眼光を携えるその様はまるでその筋の人間のようである。

 侍郎は自身の主、魔使操蛇(まつかいそうだ)に今日の顛末(てんまつ)を報告する。

「はい、お嬢様は明日屋敷に戻られるそうです。そして、お嬢様なのですが使い魔を得たそうです」

「何っ⁉︎それは本当か⁉︎」

 侍郎の言葉に操蛇は立ち上がって驚く。

 侍郎は話を続ける。

「お嬢様はある魔術師を使い魔にしたようです」

 侍郎の言葉を聞き、操蛇は怪訝な目を向ける。

「魔術師?優奈は魔術師を使い魔にしたと言ったのか?」

「えぇ、そうです」

 主の質問に侍郎が答える。

「そして、お嬢様はその魔術師と共に決議に参加するおつもりの様です」

 侍郎の言葉に操蛇が激昂する。

「何だと‼︎どこの馬の骨とも分からん魔術師と共に決議に参加するだと⁉︎」

 少し落ち着いた後操蛇は呟く。

「あの子は弱い。決議に参加などすれば死んでしまう。絶対に決議に参加することをやめさせなければ」

 そんな主に侍郎は話しかける。

「お嬢様は(わたくし)に勝ちました最低限の力はありましょう。それでも不安であるならばお自身で確かめられては?」

 執事の提案に操蛇は少し考えた後話す。

「いや、まずは娘の考えを聞く。それと決議に連れてきたうちの魔術師を10人ほど集めろ。使い魔になったという魔術師の力を確かめさせる」

「仰せのままに」

 侍郎は主の命令を聞き、礼をした後書斎を出た。

 書斎に一人になった操蛇は椅子に座り直し、息を吐く。

「お前を死なせたくないのだ優奈。それが何故分からない……」

 操蛇の呟きを聞いていたのは部屋に飾ってある一つの写真立てだけだった。



 今日は日曜日、魔使家の別邸に行く日だ。

 魔使さんが俺に話しかける。

「それじゃあ、いきましょうか」

「はい」

 魔使さんのお父さんに決議の参加を承諾させる。昨日会った魔使侍郎が言うには戦いで実力を確かめてこようとするだろうと言っていたがそれならば俺が頑張らなくてはならない。気合いを入れなくては。

 魔使家の別邸の位置だが魔使さん曰く東神高校の最寄駅からそれほど遠くないらしい。二駅ほど電車に乗った後駅から徒歩10分ほどで別邸についた。

「ここが……魔使家の別邸……」

 七代魔家といのうはやはりお金持ちらしい。かなり大きい別邸だ。

 魔使さんが屋敷のインターホンを鳴らす。

「私よ、迎えを出してくれる?」

 数分後迎えがきた。昨日出会った魔使侍郎だ。

「お帰りなさいませお嬢様。そしていらっしゃいませ黒峰殿」

 俺たちは魔使侍郎に連れられて屋敷の中に入る。

「こ、これは……!」

 屋敷は外から見た時もかなり大きいと感じだが、中に入るとより大きく感じる。屋敷は洋風の造りで広間には大きな水槽があり、漫画などに出てくる洋館にあるあの階段もあった。

 内装の豪華さに目を見開いている俺に魔使侍郎が話しかける。

「黒峰殿、失礼ですが旦那様はひとまずお嬢様と二人きりで話し合いたいとのことです。なので黒峰殿はこちらに」

 そう言って魔使侍郎は俺を2階に連れて行く。

「それじゃあ、魔使さん。頑張ってください」

 魔使さんは俺の言葉に頷き、書斎へと入っていく。

 もしも話し合いで解決するならばその方がいい。

 殺し合うことにはならないだろうとはいえ、親子で戦うだなんてできれば無い方がいい。

 魔使侍郎は2階のとある部屋の前で立ち止まる。

「黒峰殿はこちらでお待ちください」

 そう言われて俺は部屋の中へと入っていく。

 そこには10人ほどの魔術師がそれぞれの使い魔と共に待ち構えていた。

「歓迎の空気って感じじゃなさそうですね」

 俺は自身の後ろにいる魔使侍郎に向かって尋ねる。

「侍郎さんこれはいったいどういうことですか?」

 侍郎は申し訳なさそうな雰囲気で答える。

「申し訳ありません黒峰殿。ですがこれは旦那様のご命令です。殺す気はありませんのでどうかご容赦を」

 どうやらここにいる魔術師全員で俺を叩きのめそうという気らしい。

 おおかた俺が痛い目に遭えば魔使さんから手を引くだろうという考えからなのだろう。

 だから俺は笑いながら挑発する。

「なら、全員使い魔がやられても恨まないでくださいね」



 一方その頃魔使優奈は書斎に入り父である魔使操蛇と対面していた。

「失礼しますお父様」

 父といえど相手は魔使家の当主、優奈は礼節を持って対応する。

「あぁ、久しぶりだな優奈。お前が屋敷を出てから一週間ほどだというのに随分と久しぶりに感じる」

 強面な顔とは裏腹にその目は穏やかでまさに娘に対する父の愛情が現れていた。

 しかし、すぐにその態度は一変する。

「さて、本題に入るがお前はまだ決議に参加しているようだな」

 唐突に放たれるプレッシャーに優奈は怖気付く。

 それでも一歩踏み出し父に言葉を返す。

「……私は力を得ました。彼と一緒なら私はもう戦える!」

 その瞬間、上から大きな音がする。

「何っ⁉︎」

 優奈は驚き、固まる。対して操蛇は平然としている。

「始まったな」

「どういうこと⁉︎」

 父の言葉に優奈は尋ねる。

 操蛇は娘からの質問になんでもないように答える。

「お前の連れてきたあの黒峰とかいう魔術師を魔使家の魔術師10名ほどと戦わせているのだ。なに、殺さぬように言ってある。死にはしない」

「何故そんなことを‼︎そんなことをする必要はないでしょう⁉︎」

 声を荒げて父を詰問(きつもん)する。しかし、操蛇の言葉は優奈の勢いを簡単に失わせる。

「思い上がるな」

 短く、大して声を荒げてもないただの一言。されど、その一言には優奈を怯ませるだけの()()があった。

 操蛇が立ち上がり話を続ける。

「お前が使い魔を得たのは確かに喜ばしいことだ。人間を使い魔にしたという話を聞いた時は驚いたが侍郎が確認したというなら本当なのだろう。しかし、決議に参加するのは話が別だ。お前たちは術木薔薇を倒して自分たちでも決議を戦い抜けられると思ったかもしれないがそれは大きな勘違いだ。術木薔薇は確かに候補者だったがあくまで次期当主、未熟な若輩者だった。だが、他の候補者は違う。皆、七大魔家の当主で歴戦の魔術師だ。術木薔薇とは格が違う。たとえ、お前が使い魔となったあの黒峰とかいう魔術師を強化したとしても勝てるわけがない。七大魔家に次ぐ名家の魔術師ならともかくその辺の魔術師を多少強化したところでその差が埋まるわけがないのだ。まして、精鋭とはいえ魔使家分家の魔術師10人に勝てないようならな」

 操蛇は優奈の目の前に迫り、トドメの言葉を言う。

「だから、決議に参加することは諦めろ」

 優奈は思う。確かに父の言葉は正しいのかもしれない。

 自身も彼も魔術が使えるようになって日が浅いようなものだ。そんな自分たちが歴戦の当主たちに勝つのは難しいかもしれない。

 そう思うと心が、体が固まる。自分は結局あの日契約に失敗した小さな子供のままでたまたま契約に成功して翼を得てもどこにも飛び立つことはできないのだと思ってしまう。

 それならば、このまま飛ぶことを諦め、父の鳥籠の中で一生を終える方が幸せなのかもしれない。

「わ……わか……」

 父の言葉を承諾する言葉を言おうとする。

 だがその時、彼と契約したあの日言われた言葉を思い出す。

「俺はあなたを信頼できる」

 父も、誰も、自分ですら自分を信じることができなかった。それでも彼は自分を信じてくれた。

 このまま父に従うことは彼を裏切ることになるのではないか?

 それでいいのか?彼の主として、彼の仲間としてそんなことをしていいのか?

 否だ。そんなこと絶対にあってはならない!

 優奈は言葉を紡ぐのをやめる。

 そしてもう一度父を見つめる。

 父によって自身を囲っていた鳥籠はすでに切り開かれている。他でもない黒峰刀也によって。

「ごめんなさいお父様……。私は……」

 優奈は承諾の言葉ではなく反発の言葉を紡ごうとする。

「彼と共に決議に参加する‼︎」

 その時、書斎の天井が切り裂かれる。

 天井から人影が降ってくる。

 その人影はナイフを突き出し、操蛇へと話しかける。

「初めましてお義父様(とうさま)、ご挨拶に参りました」

 その人影――黒峰刀也に向かって操蛇は怒りながら返す。

「貴様にお義父様(とうさま)と呼ばれる筋合いは無いっ‼︎」

 二人の七大魔家当主との初めての戦いが幕を開ける。

 

 

 

 



 

 

 

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