学校はどこ?
さて、科学実験といえば、あらゆるフィクションの相場では爆発と決まっているものだが、実際にはそんな事は滅多に起こり得ない。しかし私は、中学生時代にそれを間近で目撃したことがあった。
「すみません! 大事なお嬢さんの顔に」
「眼鏡のお陰で助かったね、バーバラ。ところで先生、もしこの子が息子なら、まだ何とか許されるとでも?」
詳しい原因などもう覚えてはいないが、何かの拍子にペトリ皿がキャッと音を上げて飛散して、見学の為に近くまで集まっていた生徒達に降り掛かった。ほとんど誰も怪我は無く、唯一と言っていい被害者は、顎によーく目を凝らさないと分からない程小さな、赤い点状の傷跡1つと、眼鏡のレンズに極微小なスリ傷をこさえた、この私バーバラ・プラスティラスしか存在しなかった。
「今、何ですって。バーバラが顔に怪我? 眼は大丈夫なんですか? えっ、えっどうしよう。学校はどこ?」
急に掛かってきた電話の内容に、慌てたパパは頭の中から学校の所在地が飛んでしまう程だった。何故今更こんな話をするかというと、実はこの先生こそが、現在ママの再々婚約者だからだ。
「意味が分からない! そのポンコツ教師は富豪か何かなのか? それともすっごくハンサムだとか?」
私は、優雅な顔立ちに相反する様なpart time job を始めたシャリム・マリスを冷やかしてやろうと、雪けぶる町のクリーニング店を訪れていた。
「ここって民族衣装も出せる? パパが持ってる二部式着物の上衣と巻きスカート、クローゼットの中から一着だけ拝借してきたんだけど」
「バーバラ先輩。それは化繊だから、家で洗った方が安上がりだよ。あ、いらっしゃいませ」
「あはっ、超ウケる! アンタこんな安月給で、何作り笑顔なんか浮かべてるの? そんな事したってチップは増えないよ」
「やあバーバラ、イオニアは元気かい? 一昨日帰って来たんだってね」
「うん! もうデートした?」
シャリム・マリスは一瞬だけ信じられないといった驚愕の表情を浮かべ、一見すると冴えない中年である、白衣を出しに来た私の恩師を凝視した。




