15.誤解(2)
「あの、――小説を読むの、お好きなんですか?」
ダイニングテーブルにあった読みかけの本を目にして、梅室さんはおずおずと尋ねた。
「小説はあまり詳しくないんだけど、友だちがおすすめの小説を貸してくれたり、贈ってくれたりするので、いつも楽しく読んでます」
「これは夢咲フユカ先生の『なずなの恋』ですよね。今度、実写映画にもなるらしいです。実写化するのって、うれしい反面、キャストが理想とかけ離れているとがっかりしてしまうので、今すごくドキドキしています」
梅室さんは、普段の表情のない感じとは違い、ころころと笑いながら言った。
「私はとても小説が好きで。作家さんのSNSもフォローしたり、サイン会がある場合は並ぶくらいなんです」
「なにかおすすめはありますか?」
「そうですね……。今読んでいるのは、海月賀津也先生の『闇姫の祈り』です。幼いころに神隠しにあった女の子の話で、戻ってきた彼女はすっかり人が変わってしまっていた――というものです。シリーズのすべてを集めているのは、朱原楼先生の作品で……。それから、夏目花純先生の『泡沫の夢、金色の獅子』も捨てがたいです」
「友人がすすめてくれたのと一緒です。最後の作品だけは、違うタイトルだったような気がするけれど……」
「『妖精女王の二度目の人生』ですか? そちらが代表作だと思います。そちらも大好きなんですが、『泡沫の夢、金色の獅子』はバッドエンドなのに美しさがあって、私はそこに惹かれるけれど、好みが大きく分かれると思うんです」
梅室さんが買ってきてくれたお惣菜は、彩り豊かなたくさんの野菜おかずに、がっつり食べられそうなお肉とバリエーションも豊富だった。せっかくなので大皿に出して並べたら、さながら小さなパーティーのようだ。
「キャロットラペが入ってる。うれしい」
「お好きですか?」
花夜子はうなずく。
「このキャロットラペは、りんごが入ってるんだね。薄切りのりんごがサクサクしておいしい」
「本当ですね。実は、今日いろいろ買ってきたけれど、食べ慣れているものではないから、どれがおいしいのかわからなかったんです。喜んでいただけたならよかった」
ドライトマトとスモークサーモンのムースに、バルサミコ酢の風味が効いたひと味違う唐揚げ、ミックスピクルス……。どれもおいしくて、花夜子は目と舌で、料理をしっかり記憶しておくことにした。