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第21話 戦姫ミリア・ランペイジ

 ミリアは組んでいた手をゆっくり解き構えをとる。カイルは一挙一動を眼で追っている。

 それは警戒心からではなく、単純に興味からの行動だった。


「これでは(らち)が明かないな。観客も退屈だろう。仕方ない、派手にいくか」

「【狂戦姫形態(モード・ベルセルク)】!」


 ミリアの威圧感が増し、ミリアの周囲が赤黒い煙のような何かが渦巻く。

 それはまるでカイルの【闘気(オーラ)】に似ていた。


「さぁカイル。手加減無用だ」


 カイルの視界からミリアが消える。


「本気で来い」


 刹那、背後から声が聞こえた。


「ちっ」


 体をひるがえし何とか攻撃を防ぐ。カイルは驚愕していた。この若さで、しかも女性でありながら【闘気(オーラ)】と酷似した能力を扱える事に。

 攻撃を捌きながらも防戦一方のカイル。観客は大いに盛り上がっている。


『何という速さ! これが噂に名高い【戦姫】の実力だ!!』


「ふっ、防御だけは流石だな」


 余程楽しいのだろう。ミリアは笑みを浮かべたまま攻撃を仕掛け続けていた。カイルは未だ防御に徹していた。


「【狂戦姫形態(モード・ベルセルク)】でも攻めきれないか……ならばこれで終わらせる」

「【戦女神形態(モード・アテネ)】――!」


 ミリアの速度が飛躍的に上昇し、攻撃を捌ききれず拳がカイルの胸に突き刺さる。

 体を纏う光は鎧のように、背中に輝く光はまるで翼のように。

 ミリアの赤黒い力の渦はいつの間にか青白く美しい輝きに変化していた。


『遂にミリア選手の拳がカイル選手にヒット! しかしミリア選手の姿が……これは美しい!! まるで天使! いや、女神のようです!!!』


「この身に纏った光は力そのもの。触れただけでも相当のダメージを与える。油断していたとはいえこの一撃で――」


「なるほど、やはり似ている」


「――!」


 先程まで勝利を確信していたのか、ミリアの顔が一瞬驚きの表情に変化し、再び笑みに変わる。


「さすがは【十王】を退けた男だ。ダメージを感じさせない……しかし、それでこそ倒し甲斐があるというもの!」

「一回戦で使うつもりはなかったけど……」


 カイルは【闘気(オーラ)】を解放する。

 ユメリア城跡で解放した時は不自然なほど大きく放出されていた【闘気(オーラ)】に比べると小さく落ち着いた光だが、寧ろ自然に体を包み無駄がなく精錬された印象を与えた。


「む……それがお前の能力か。なるほど、私にそっくりだな」

「見た目だけはね」

「口だけなら何とでもいえる……」


 再びカイルの視界からミリアが消える。

 カイルは右拳を突き出し脚を広げ構え、背後の気配に対応した。

 裏拳がミリアの頭部を捉えたが、拳は空を切る。


「残像だよ」


 カイルの背後にいたはずのミリアは更に回り込み拳を構える。

 その拳を纏う光は槍状に鋭く伸びていた。


「楽しかったぞ、カイル・イングラム!」


 光の槍がカイルの体を貫く――はずだった。

 槍はカイルの【闘気(オーラ)】に触れると霧散し、拳の光も消えてしまった。


「残念だったな、ミリア」


 左掌に【闘気(オーラ)】を集中させ、体制を崩したミリアの腹部に下から押し当てると、体が宙へ跳ね上がる。


「ぐっ……!」


 すかさずカイルが蹴りを放つが辛うじてそれを防ぐ。

 ミリアは衝撃で吹き飛びながらも体制を立て直した。


「速度に重点を置いた強化だろうけど、守りが疎かになっている。光の練度も甘いから武器化させるより打撃に上乗せした方が効果的だと思うな」

「敵に向かってアドバイスか……余裕じゃないか」


 ミリアから完全に笑みが消え殺気を全面に出している。

 彼女の全身を纏っていた光は消え、両腕と両足に集中していた。

 凝縮した力が強すぎるのか、バチバチと音を立てながら電気のようなものが走っているのが見える。


「…………行くぞっ!」


 カイルの周囲に所々現れては消える。

 もはや人の領域を超えた速度に、カイルは思わず笑みを浮かべていた。


「これで終わらせる!」


 蹴りが腹部に当たり、カイルはその威力で体が持っていかれる。

 既に先回りしていたミリアが体を蹴り上げ空へ運ぶと、空中で連続攻撃をしかけた。

 空気を蹴り、高速移動しながらカイルに攻撃を叩き込む。

 しかしそのどれもが決定打にはならなかった。


「流石に堅すぎる……!」


 焦ったのか、攻撃が単調になっているのをカイルは見逃さない。

 背後からの攻撃に合わせてカウンターで肘打ちを食らわせる。さらに動きが止まった所で背中に向け両腕を振り下ろし追撃。

 そのまま落下し、ミリアは倒れこんだ。彼女の意識は途切れており、そのままピクリとも動かない。

 会場はしん――と静まり返っていた。



『な、な、な……なんという決着! なんという結末!! 途中ミリア選手が優勢かと思われました。カイル選手は彼女の怒涛の攻撃に防戦一方でした! しかし、しかし! 気が付けば逆転!! まさかの展開!!!』


『ミリア選手は――ダメです、意識がありません! つまりこれは!! カイル・イングラム選手の勝利です!!!』


 試合終了の瞬間、大勢の観客が立ち上がり雄たけびを上げながら足踏みをしていた。

 それは地鳴りかと思う程の声であった。

 カイルはそれを心地良く思っていた。今までに無い……いや、忘れ去られていた感覚。いつか勇者だった頃のような高揚感を感じていた。


 控え室に戻ると、そこにいる参加者の様々な反応が待っていた。

 畏怖、敬意、敵意……そして好意。


「いやー、いやいやいや。にいさん、やりますやんか!」


 いきなり訛りの強い青年に声を掛けられ呆気にとられるカイル。


「いきなりすんまへんなぁ! オレ、エッジ・クラフト言いますー。以後よろしゅう! ほんま凄いなぁ、あれなんていうん? ぶわー光るやつ!」


『第二試合を始めます。エッジ・クラフト選手、リングまでおいでください』


「あ、次オレかいな。ほなにいさん、戦えるのを楽しみにしてまっせ!」


 カイルが喋る間も無く去っていく青年。

 ひらひらと手を振りながら闘技場へ向かっていく。


(……馴れ馴れしい奴だ)


 予選の様子を見ようと腰を掛けると、控室にランペイジ兵が入ってくる。


「カイル・イングラム殿、ミリア姫がお呼びだ。一緒に来てもらおう」



 ***



 兵士に連れられてランペイジ城内の一室に入る。

 そこにはドレスに着替えたミリアとヴェテル王が居た。

 戦闘の傷がまだ癒えていないのか、何人かの看護師が付き添っており、ベッドに横たわっていた。


「突然呼びつけてすまない。しかし流石はカイルだ。まさか私が負けるとは……」


 笑顔ではあるが少し引きつっているようにも見える。


「言葉遣いはもういいのか?」

「あぁ、あれは姫っぽさを演出するためのものだ。ウケも良いからな。あちらの方が良ければそうするが?」

「どっちでもいい。用件は?」

「ふっ、そう言われると寂しいな」


 ミリアが自嘲気味に笑うとヴェテル王が口を開いた。


「単刀直入に聞こう。ミリアと婚姻を結び、行く行くはこのランペイジ王国の王になる気はないか?」

「無いです」

「…………」

「ハッハッハ! 即答とはな。父上、彼を引き込むのは諦めた方が良さそうだ。しかしこちらからの誘いを断られるというのも意外とショックなものだ」


 ミリアはひとしきり笑うと言葉を続けた。


「すまんな、実は真意は別にある。【十王】がこの国を狙って動いている。それに対抗するにはいささか戦力が足りん。どうだろう、力を貸しては貰えないだろうか?」


 カイルは考え込む。

 もしも一人なら迷う事なく引き受けていただろう。

 しかし今はクランで活動している。【十王】と表立って敵対する事で他の仲間が狙われる可能性を考えると迂闊に返答する事が出来なかった。


「……今冒険者として活動しています。ギルドを通して依頼という形でなら、引き受けるかもしれません」

「分かった、それでいい」


 ミリアは満足した。

 彼が敵になることだけは避けなければならない。

 とするならばこの答えを引き出せただけでも十分だった。


「……ミリア姫、自らを差し出すような真似はしない方が良い。……と、思います」


 カイルは思わず口にしていた。

 その言葉が意外だったのか、ミリアとヴェテル王は僅かな間だったが目を見開き唖然とした表情をした。


「ふふっ、聞いたか父上。彼は思った以上に面白い男だぞ。ますます気に入った」

「……カイルよ。武踏会での活躍を楽しみにしておる。話は以上だ」


「……? はっ、有り難きお言葉。では失礼します」


 一礼して部屋から出るカイル。

 それを見届けてからヴェテル王はゆっくりと口を開いた。


「ミリア、もしも奴が優勝したなら……お前は好きに動け。国は任せよ」

「父上…………ならば彼には存分に力を奮ってもらわねばな。しかしあの武力、なんとしても王国の……いや、私のものに……」


 ぶつぶつと独り言を繰り返すミリアの様子に困ったような呆れたような、複雑な表情をヴェテル王は浮かべていた。

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