第20話 武踏会本選開始!
宿に入り早速食事を注文するカイル。何人か利用している者がおり、カイルは目の端でそれを確認していた。
今まで食べたことがない様々な料理に感動しながら胃につめていく。そこでもスクリーンが設置されており、各予選会場の様子を見ることが出来た。幾つかは既に終わっている所もあったが、彼女たちとガーランドの姿はそれぞれの会場で確認できた。
中でも目を引いたのはシーラの戦い方であった。
「面白い。治癒能力のみかと思ったが反転させることも出来るのか。それも相手に触れずに……」
カイルは映像を見ながら推測していた。
仲間ではあるが武踏会であたるならば敵である。
むしろ彼女たちとの戦闘すら楽しみにしていた。
「相変わらず早いねー、私もなんか食べよ」
不意にレフィアが声をかける。
「レフィアもな。正直意外だったけど」
「私の能力は一対多には不向きなの! それにグール相手だと効果も殆どないし。あ、すいませーん。これとこれ……あとこれお願いしまーす」
レフィアはふー、と息を吐き机に伏せる。
「空腹でやばい、お腹鳴る」
「俺は戦ってる最中鳴りっぱなしだったよ」
「それで圧勝だもんね、正直戦いたくないなー」
運ばれてきた料理に目線を移し食べ始めた。
「うわっ、なにコレ美味しすぎ!」
「だよな。暫く滞在したい」
「決勝までいけば、四日は堪能できるねー」
「悪いな、俺一人だけ味わう事になって」
「は? 誰も勝ちを譲るなんて言ってないし」
自然と笑顔になる二人。
「まぁ……そうだよな」
「なにが?」
「いや、多分全員二次予選も通過した」
「カーイールー!」
キャミィが大きな声でカイルの名前を叫びながら走ってきた。
カイルたちがいるテーブルまでくるとじーっと見つめていた。
「もしかしてお邪魔?」
「なんで?」
「んー? べつにー! じゃあいいや。あたしもご飯食べよー」
キャミィの問い掛けに一切動揺せず表情一つ変えないカイルに、レフィアは苦笑しながら注文した料理を食べ出した。
***
翌朝、宿のエントランスでは武踏会の参加者たちがスクリーンを眺めていた。
『――以上が抽選結果です。本選会場はランペイジ闘技場で行われます。十三時までにお集まりください』
放送だけを聞きカイルはランペイジ闘技場へと向かった。
彼にとっていつ誰と当たろうが関係なく戦うだけである。
カイルの姿をみかけてなのか、アイリスが走りながら近づいてきた。
「……おはよ」
「おはよう」
「……みんな別のブロックだった」
「そっか」
「……カイルは初戦ミリア姫」
「なんか細工でもしたんだろうなぁ」
「……その後【十王】が続いてた」
「へぇ、そいつは楽しみだ」
アイリスの目的地は闘技場なのか、それともカイルについて歩いているだけなのか。
気付けば闘技場についていた。
「……カイル」
「ん?」
「……私は負けない」
「あぁ……」
「……それじゃ」
アイリスは闘技場とは別の方向へ歩いていく。
いつもより口数の多いアイリスを気にしながら、カイルは中へと入っていった。
「もう受付されますか? ではナンバープレートをご提示ください……はい、確認しました。参加者用の控え室と休憩室はコチラ右手に真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がったところにあります。カイル様はCの控え室です。トーナメント表も掲載しておりますのでご確認ください」
休憩室はかなり広く、食堂も備わっていた。カイルは適当な所に座りスクリーンをぼーっと眺めている。
彼は考えていた。今の自分が何者なのか――
明らかに元の自分ではない考え方をしている。本来なら独りでやりたいようにやり、武踏会も手加減などせず死人の山を築いていただろう。誰かと共に行動することもありえない。しかし昔のようになりたいとは思えなかった。
「こいつのお陰か……」
自分の体を見つめながら呟くカイル。気付けば既に何人かが休憩室を利用していた。
時刻は十二時半。カイルは適当に昼食を済ませると控え室に向かった。
十三時。予選通過した参加者たちが闘技場のリングに終結していた。
『レディース&ジェントルメーン! さぁさぁ、遂にやって参りましたランペイジ武踏会本選!! 本日はここ、ランペイジ闘技場で行われます本選の様子をお伝えさせて頂きます。まずは本選のご説明をさせて頂きます!』
『まず、三十二人の予選通過者の皆さん、おめでとうございます! 本日は一日一試合ずつ、トーナメント方式にて計十六試合行います! 基本ルールは変わらずでございます。えー、全員既にいらっしゃるということで、早速! 第一試合から始めさせて頂きます!! それではまずはこちらの大型スクリーンにご注目ください』
大型スクリーンには組み合わせが表示されていた。
第一試合にはカイル・イングラムの名前と、ミリア・ランペイジの名前が記載されている。
『まずは第一試合! なんといきなり! いきなりランペイジ王国の姫君、ミリア・ランペイジ選手の出場でございます!! これは注目の一戦だあぁぁ!! なお対戦相手のカイル・イングラム選手はというと、えー…………え!?』
司会者が手元の資料に釘付けとなり、黙ってしまった。
その様子を見て観客がざわついている。
『し、失礼致しました。えー、手持ちの資料では、ですね……あの、冒険者登録をして五日でAランクに昇格をして、おります……ね、はい。それと【命王】と対峙し、さらに撃退したと…………ちょっと、これ本当?』
アシスタントに確認をしながら話続ける。
観客のざわつきは次第に大きくなっていった。
『これはギルド関係者の話で全て事実! らしいです。いやぁ、五日でAランク昇格というのは最短記録ではないでしょうか!? 相当の実力であると予想されます、これは屈指の好カード!』
「カイル・イングラム……知ってるか?」
「噂だけな……だが見た目は強くなさそうだぞ」
「ばっか、お前予選の映像観てなかったのか? ハンパねーぞ!?」
観客だけでなく、参加者もがやがやと騒がしくなる。
当の本人はというと、あまりやる気も起きずスクリーンをただ眺めているだけだった。
『それでは第一試合の準備を致します! 一度参加者の方々は控え室にお戻りください!!』
「カイル様、どうかされましたか?」
戻る途中にシーラが声をかけた。
「いや、別にどうもしてないよ」
そう答えるカイルの言葉には明らかに覇気がない。
表情も暗く、心ここにあらずといった様子だ。
「このような見世物はお嫌いですか?」
「そういうわけじゃ……」
「実はわたくし、皆さんよりもカイル様のブロックに一番近いんですよ?」
それに対しカイルは何も言えなかった。
何と言えば良いのか分からない、そんな表情をしていた。
「今のカイル様でしたら秒殺ですね♪」
にこやかに言うとカイルから離れていく。
シーラなりの気遣いだろうか。
だがこのやり取りで少しだけ、カイルの心に火が灯る。
『間もなく第一試合を始めます。カイル・イングラム選手、リングまでおいでください』
スクリーンから声が聞こえ、カイルは控え室を出る。
薄暗い石造りの通路を抜けると太陽の光で一瞬、目の前が真っ白くなる。
光が晴れると腕組みをしてリングの上に立つミリアの姿が見えた。
『さぁ、これより始まりますのは世紀の一戦! 【戦姫】の異名を持つミリア・ランペイジ! 対するは突如として現れた超大型ルーキー冒険者にしてAランカー、【王喰】カイル・イングラム!』
「何なんだ、【王喰】って……」
「観客へのサービスだよ、カイル。キャッチーな二つ名はウケが良い」
独り言にミリアが応える。
その口調はカイルが知っているミリアではなかった。
「そっちが素か?」
「おや、幻滅したかな?」
「むしろ好きになれそうだ」
「そうだろう? 初めて会った時から気が合うと思っていたんだ」
顔では笑いながら互いに殺気をぶつけ合う。
「さぁ、見せてもらおうか。【十王】を退けた力を」
『それでは第一試合……開始ぃ!!』




