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第17話 十王会議

 二日後に開催される武踏会に出場する為、カイルたちはランペイジ王国に戻る準備をしていた。


「ロディさん、色々ありがとうございました」

「何言ってんだよ、俺の方こそ助けられたよ。あとAランク昇格おめでとう」


 ロディは右手をばっと差し出す。

 カイルもそれに応え二人はかたい握手を交わすが、暑苦しいのが苦手な彼は顔が引きつるのを必死でこらえていた。


「よっしゃ、それじゃランペイジ王国へいこうか!」


 そう言いながらガーランドが馬車に乗り込む。


「団長……何やってんですか」

「何ってお前、こいつら武踏会出るんだぞ? 俺も出るから一緒に行けば楽だろ!?」


 豪快に笑いながら図々しい事を言い放つが、カイルは気にしない。


「あぁ、いいですよ」


「ほら見ろ! 流石一度の昇格でAランクになった男だぜ!!」

「手綱はお任せするんで」


 すたすたと歩きながらカイルは荷台へと乗り込んだ。

 ロディとガーランドはそんな彼の背を目線で追う。

 一拍置き、ガーランドが気を取り直して馬車の御者席に向かう。


「……よし! 任せろ!! ロディ、クランを頼んだぞ!!!」

「予選突破したらみんなで応援行きますよ」

「余裕だろ!」


 ガーランドは笑いながら手綱を引く。

 一行はロディと別れ、ハルの街を出た。


「あ! クランの名前どうするのー?」


 キャミィはウキウキしながらカイルに聞く。


「後から変えれるらしいから適当につけておいたぞ」

「嫌な予感がするけど……一応聞いておこうかしら」

「『王殺し(キングスレイヤー)』だ」


 彼女たちの表情が凍りついたように固まる。

 だがシーラだけは別だ。目をキラキラ煌かせカイルの手を取る。


「まぁ、大胆不敵なお名前、さすがカイル様。お名前の通り有言実行してカイル様のお名前を世界に轟かせましょう」


 レフィアは不穏な発言をするシーラの口を塞ぎながらカイルから引き剥がす。


「本気でやりかねないから焚き付けないの!」

「……修正案件」

「命がいくらあっても足りなさそうだよ~……」


「ちょっとした洒落だ。一週間以内に別の名前を申請すれば良いらしいよ」


 カイルは真顔で言い放つ。

 ちょっとした悪戯のつもりだろうが、この世界の住人からしたら死活問題のレベルだ。


「……洒落になってないのよ!」


 カイルはレフィアに勢いよく頭を叩かれる。

 その様子を楽しそうにガーランドは聞いていた。


 馬車は順調に街道を進み、やがて城が見えてくる。

 ランペイジ城――城塞都市とも言える難攻不落の城だ。

 当然、警備も厳しく関所が随所に設置されている。

 特に武踏会の時期はあちこちから参加者がやってくる為、治安が悪くなる。


「お! 城が見えてきたぞ!!」


 ガーランドが嬉しそうにカイルたちに向かって叫ぶ。

 年に一度の武踏会。猛者たちがその力を証明するために世界中からランペイジ城へと集う。



 ***



「カイル様、ようこそおいでくださいました」


 城門にはランペイジ城の執事、グラン・エンハンスが立っている。兵士からの連絡を受け出迎えに来たのだ。


「既に皆さま方のエントリーは済ませております。さ、中へどうぞ。姫がお待ちです」


 口ではそう言いながらも馬車の前に立ち尽くすグラン。

 その目はガーランドをじっと見つめている。


「おい、爺さん。さっさと案内してくれよ!」


「申し訳ございませんが、貴方様はお招きしておりません。クラン【血塗れの狼(ブラッディウルフ)】の団長、ガーランド・バスクレイ様」


 深々とお辞儀をするが威圧感を隠すどころかむしろ放っている。

 ガーランドはそれを受けて満足そうな笑みを浮かべた。


「そいつぁ悪かった! ところでアンタも出るのかい?」


 その問いに言葉では答えなかったが、グランの表情で満足したのかガーランドは豪快に大笑いする。


「……楽しみだぜ」


 一瞬、冷たい殺気を放ちガーランドは城門に背を向け街へと歩いていった。


「豪快な御方ですな」


 楽しそうに笑いながらカイルたちを城内へと促す。


「カイル様のご活躍は耳にしております。まさか【十王】を二人も退けるとは」

「勝手にどこかへ行っただけさ。フェレスとは直接戦った訳じゃないし」

「ご謙遜を。さ、お連れの方々もこちらへ」


 いつの間にか複数のメイドが彼女たちに連れ添っている。

 案内された部屋に入るといつか見た光景が広がっていた。


「カイル様、皆様、お久し振りですね。どうぞお掛けください」


 にこやかに微笑むミリア姫と、仏頂面でこちらを見ているランペイジ国王。


「カイル、お主に話しておく事がある。此度の武踏会についてだ。既に【十王】と接触し、それを退けたというお主らにしか話せぬ事だ」



 ***



 薄暗い部屋に豪華な長机と肘掛け椅子が並ぶ。それぞれに三人ずつ、上座に一人座っていた。


「皆、よく集まってくれたな。早速だが【十王会議】を始めよう」


 三ヶ月に一度、【十王】は一ヶ所に集まり会談を行っている。目的は多々あるが、影響力が大きい彼ら同士が衝突すると世界にもその余波が及ぶ為、互いに意見の擦り合わせを行う場所が必要となる。【十王会議】はその場を担っていた。


「へー、今回は珍しく【征王】もいるじゃん。いつも公務で忙しいって言って来ないのに」


「おや、これは手厳しい。しかし流石にGウイルスの話となると参加しない訳にはいきませんよ、【賢王】」


「そもそも此度の議題である【命王】本人がおらんではないか。参加しておるのは……【無王】、【賢王】、【征王】、【心王】、【舌王】に、この儂【金王】か。いつもよりは集まったの」


「【拳王】と【刃王】は武踏会だと言っていたな。【魔王】は自分の国から出るつもりが無いらしい」


「あぁ、【心王】、あんたも珍しく来てるんだね。いつも居ないから顔を忘れちまったよ。お友達の【舌王】と何かやってるらしいじゃない?」


「そんな……(あね)さん、俺は別に……」


「新参は黙ってな」


「静粛に。居ない者についてとやかく言っても仕方ない。まずは現状の把握から始めよう」


 険悪な空気の中、【無王】が話を進める。【十王】たちが大人しくしているのは彼の能力に他ならない。

 【能力無効(キャンセル)の領域(テリトリー)】――

 彼の半径五十メートルは能力の領域である。その領域内にいる全ての【能力者(ホルダー)】の能力を無効化出来る能力なのだが、対象を絞る事は出来ず常時発動している状態である。彼にとって全ての【能力者(ホルダー)】はただの人間と等しい。


「――では、【命王】フェレス・ファウストは我ら【十王同盟】とは決別したとし、以降姿を見かけたら身柄を確保する方針で宜しいか?」


「「「意義なし」」」


「それでは今回はこれで……」


「【無王】、一つ議題に取り上げるべき案件があります。【十王】に仇なす存在について」


【征王】ヴァルクが右手を挙げて【無王】に対し発言する。

 それに対し、【舌王】アルビーの体が思わず反応する。


「……それなら既に話は聞いている。我々にとっては対して脅威ではないと判断した」

「しかし――」

「奴はギルドに登録している冒険者だ。既に飴も与えてあるし動向も報告が来る。他に何か問題が?」


「……いえ、それなら良いのですが」


「むしろ奴は私にとって良い駒となってくれる気がするよ。それでは今回の【十王会議】を終了する」


 アルビーは自分の事ではないと分かるとほっと胸を撫で下ろす。会議が終わり各々席を立つ。アルビーはタイミングを見計らって【心王】セイヴ・アスクドの元へ駆け寄った。


「申し訳ないセイヴの旦那……」


「話は聞いている。まさかお前の能力が効かない奴がいるとはな。【五煌姫】を一気に手中に収めるのは流石に無理だったか」


「【五煌姫】――王に匹敵する能力を秘めた存在か……

確かに俺と旦那が手を組めばどんな相手でも思うがままだろうけど、そこまであの女たちが必要かね?」


「彼女たちは特別なのだよ。世界に愛されていると言っても過言ではない。それに……近々【十王】同士の殺しあいが……戦争が始まると言ったら、信じるかね?」


「――は?」


「ふっ、なに、只の妄想さ。だがもしもその時が来たら戦力になる者は一人でも欲しいのだ。勿論、君は私と共に戦ってくれるね?」


「あ、あぁ……」


「さしあたって君を邪魔した者の正体を探ろうか。確か、エリグラーズ・ルクカイン……だったかな? 相応の報いを受けてもらわねばな」


 【心王】セイヴはアルビーと共にその場を離れる。

 彼らの後ろ姿を【征王】ヴァルクが眺めていた。


「何眺めてんのよ、【征王】さん?」


【賢王】リーン・ネルシウスが気配を消して【征王】の背後から近付く。

 青く長い髪に服と言えるか分からない程露出のある布地、先端に宝石のついた杖を持つ彼女はまるで魔法使いのような見た目であった。

 その横には背が低く、胸元まで長く垂れた白い髭が印象的な老人、【金王】ジェラルド・マテリアも立っている。


「別に眺めていたわけではありませんよ。ただ考え事をしていただけです。では、失礼」


 そう言うと【征王】はその場を離れた。

 【十王】は集団の呼称ではない。あくまで十人の【能力者(ホルダー)】を一括りにしただけの呼び名である。彼らはそれぞれの思惑で動いており、最大の障害となり得る【十王】と敵対しない為にその名を利用しているに過ぎない。彼らが表立って動けば、それは世界を巻き込む事になるのは間違いない。それを知ってか知らずか、表立って動こうとしている二人の【十王】がランペイジ王国へと向かっている。


 年に一度開催されるランペイジ武踏会が始まろうとしていた。

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