第18話 開催! ランペイジ武踏会
煌びやかな装飾、賑やかな街並み。道には様々な露店が出ており今日を楽しみにやってきた観光客を相手に商売をしている。
鳴り響く花火の音。時刻は十三時。当然花火は見えないが、音だけで十分、皆の心を躍らせる。
「レディース&ジェントルメン! 皆様、本日はここ、ランペイジ城武踏会にようこそいらっしゃいましたー!! ……年に一度、最強を決める闘いが、ここにある……。第百十七回ランペイジ武踏会! 今回はなんと、参加者数最多の六千名以上! 只今選手たちは抽選会場にて待機中でございます。今暫くおまちください!」
街中に放送が響き渡る。参加者以外にも武踏会を見に世界中から人がランペイジ王国に集まってくる。
それはもう人だらけであり、実際に闘いをその目で見ようと思うなら十万Jilもの大金を積んで入場権を得る必要がある。
当然それでは人が集まるわけがない。
各酒場や飲食店、宿屋には武踏会の様子を映像化して放送される装置、スクリーンが設置されており、そこで異国の人たちとコミュニケーションを取りながら見学するのが武踏会楽しみの一つでもあった。
カイルたちは抽選会場にはおらず、既に予選会場に入っていた。
一昨日ヴェテル王から伝えられた言葉を思い出しながら、カイルは手元にある八十七と書かれた球を眺めていた。
***
「カイル、お主にはこの武踏会の一回戦目でミリア姫と戦ってほしい」
自分の娘と戦えと言う内容に皆、驚きの表情を隠しきれない。
ヴェテル王も本意では無い。それをカイルは渋い顔つきから察する。
「分かりました」
「ちょ、カイル本気!?」
理由も聞かず即答するカイルに、レフィアは思わず口を挟んでしまう。ヴェテル王も即答されるとは思わなかったのだろう。口を開けたまま、ぽかんとしている。
「ふ、ふふふ……失礼、流石はカイル様。抽選はこちらで操作致しますのでご安心ください。予選ブロックも皆バラバラに致します。それではお話は以上です。グラン、お客様をお送りなさい」
「し、しかしミリア……」
突然笑いだし、早口で話を終わらせるミリアにヴェテル王が何か言いかけるが、視線でそれを遮る。
「こちらは何もしなくて良いんだな?」
「えぇ、全てお任せください」
「……それではヴェテル王、ミリア姫、失礼します。……皆、行こう」
カイルたちはグランの後に続き部屋を出る。ヴェテル王は深いため息を吐き頭を抱えた。
ミリアは笑顔から一変、厳しい顔つきになった。
「ミリア……奴は【十王】を退けた男だぞ……」
「分かっている。だが、だからこそ闘い甲斐があるというもの。ふっ、滾るではないか」
「……口調が戻ってるぞ」
「おっと失礼。お父様、私が優勝したら……」
「分かっておる。武踏会には【十王】が二人も参加しておる。それを倒せたとなればもはや口出しはできん」
「あぁ、楽しみだ…………ですわ」
ヴェテル王は机にうつ伏せになってしまっている。ミリアは愉悦で顔を歪ませる。
戦姫――彼女の本性を知る者は極僅かだったが、皆陰でこのように呼んでいた。
宿を取ることにした一向は街を歩いたいた。
「仮に傷付けでもしたら国外追放とかされたりして……」
レフィアが心配そうに言ってくる。
「追放されるのは慣れてるから大丈夫。それこそ世界から追放さらてるし」
「うん、頭大丈夫?」
「至って健康体だ」
何を言っているのか分からないといった表情でカイルを見つめながら然り気無く馬鹿にするレフィアだが、カイルにはそのような冗談は通じない。
「ミリア姫が戦うなんてどのようなお考えがあるんでしょうか。謎ですね」
「……謎」
一様に不思議がるが、キャミィだけは違った。
野生の勘だろうか、不安そうな表情をしてカイルに声をかける。
「ミリア、多分すっごい強いよ? カイル大丈夫?」
「あぁ、むしろ期待してる」
***
「カイル様、そろそろお時間です」
シーラに声をかけられ我にかえる。カイルはじっとシーラを見つめていた。
「そういえばシーラは戦えるのか? 回復系の能力だと思ったんだけど」
「あら、何事も使い方次第ですよ?」
ふふ、と笑うシーラ。その笑みは今まで見たことの無いような無邪気さが含まれていた。
「他の者はかなり離れたブロックみたいですね。予選は問題ないでしょうけど、ご健闘をお祈りしております」
「お互いにな」
すっと右拳を前に突き出すカイル。シーラには意図が伝わらなかったのか戸惑った様子だったが、カイルが少し拳を前に動かすと、あぁ、と呟き右拳を軽く当ててくる。
「ふふっ、なんだかんだ楽しいわ」
「あぁ、楽しいね」
カイルはシーラの口調が少し砕けたのを感じたが口には出さなかった。
『只今より予選ブロック第一試合を始めます。各ブロックに割り振られた番号の方、リングへ上がってください。』
「じゃあな」
「はい」
アナウンスが流れると二人は該当するリングへ向かった。
リングは五十以上あり、会場も複数用意されている。一つのリングには二十人ずつ割り振られていた。
『今大会の予選内容はバトルロイヤル方式です。最後の一人になるまで闘ってください。武器の使用は可、ですが死亡させてしまった場合はペナルティとして十万Jilをお支払い頂きます。遅刻した場合、誤ったリングで戦闘した場合、リングアウトは無条件で失格となりますのでお気をつけ下さい。
制限時間は十分です。制限時間を過ぎた場合、五分の延長を行い、それでも決着が浮かなかった場合は全員失格となります。それでは残り一分で開始します――』
(生死は問わずか……)
アナウンスで不安になるカイル。
彼女たちの心配もあるが、うっかり殺してしまった場合、膨大な額の借金を背負う事になる。
(優勝すればいいか。三百人まではいけるな)
などと考えている内に予選が始まった。
当然、混戦状態にはならず、皆様子を伺っている。
この場合名前が売れていると狙われやすい。
幸い、と言っても良いものか不明だが、カイルがAランクの冒険者になったことを知る者はまだ世間にさほど居なかった。
「おい、あんちゃん!」
小声で声をかけれた事に気付きカイルは声の主の元へ行く。
「あそこにいるあいつ、Aランカーだぜ。あとそこの奴はギルドのブラックリストに載ってる危険なやつだ。
とりあえずここは皆で協力してあいつらを落とそうって話をしてるんだが、あんちゃんも乗らねぇか?」
カイルたちが会話をしている所へ体を向けている者は誰一人居なかったが、顔や目で合図をしてくる者が八人いた。
彼らは上手く闘うことを避け様子を伺っている。
既に五人は失格になっている為、数では圧倒的に有利な状況だろう。
「あぁ、そうだな」
「へへっ、決まりだな。そろそろ仕掛けるか」
男が顎で合図を出した瞬間、カイルは男の首元に手刀を浴びせ場外へ飛ばす。
合図を見る為にこちらを見ていた男の協力者たち全員がその様子を見ていた。
「てめぇ! この野郎!!」
八人が一斉にカイルに襲いかかる。囲まれる前に自ら前に出て確実に一人一人倒していく。その全てを一撃で終わらせると、リング上には三人の男だけが残っていた。
「とんだ伏兵がいたものだな。てっきり俺とお前の勝負になるかと思ったが」
「今の動きからすると相当の使い手だろう……となるとここは……」
男二人が顔を見合せた瞬間、カイルに向かってくる。八人の男たちとは違う、熟練の腕を持った強者。
カイルは正面に体を向け構える。左右から襲いかかる男二人を相手に片手ずつで戦っていた。全力の攻めを片手でいなされ続け、攻撃しながらも彼らの表情はどんどん絶望のそれに変化していく。
「Aランカーもブラックリストもこんなものか……まぁピンキリだろうからその括りに落胆するのは後にしよう」
一通り楽しんだカイルは両手で【闘気】を一瞬だけ解放すると、僅かな時間ではあるが彼らの体に隙が出来る。
男たちは突如全身に衝撃が走り体の自由を奪われた。
「【能力者】!?」
「ならばこちらも――」
その言葉を最後まで聞くことなく、二人の男はリングの外まで吹き飛んでいった。
「出し惜しみして負けるとか最も恥ずべき事だな」
開始から一分半弱、危なげなく予選を突破したカイルであった。




