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第二十七話 セシリア・アメレール

腕のいい庭師が整えた豪華な庭、美しい女官に所作の美しい召使い。そして、料理人が腕をふるった大好きな料理。優しいお父様とお母様。


ここは私の完璧な居場所だった。








もうすぐ社交界にデビューする私は同世代の子たちとの茶会を我が家で行われるのを心待ちにしていた。

どんな子がいるんだろう。自分と仲良くしてくれるだろうか。

そんな事を考えながらも、その実、自分と仲良くしない者などいないと思っていた。


ついにその日が来て、数々の着飾った令嬢、令息が我が庭に集まり思い思いに過ごしていた。その中で自分は主役になれるのだと思い、期待に胸を膨らませていた。

その思惑通り、ある者は私の容姿を褒め、ある者は私の教養を賛美した。その中で私は目を引く令息があるのに気づいた。確か、彼の方はティモシー様。公爵家の跡取りであり、眉目秀麗、才色兼備。

ぽーと見惚れていたが、私は気を取り直し、ティモシー様に話しかけられるように澄ました顔で近づいていった。


しかし、私の自尊心は砕かれた。

ティモシー様に親しげに話しかける令嬢がいたのだ。

ゆるくウェーブのかかった金髪に翡翠の瞳。有名な公爵令嬢のロザリー嬢だ。

公爵家の令嬢と令息が揃って登場したことで、今まで私にまとわりついていた連中はこぞって2人の元へ群がり出した。

あまりの変わり身の早さに私が呆然としていると、屋敷の方からお父様とお母様がゆっくりと歩いてきた。


「お父様!お母様!」


私が駆け寄ると、2人は微笑みながら、少し私の頭を撫でて、


「貴女もきちんと公爵家のお二人にご挨拶をしなさい。あそこにいらっしゃる方たちよ。」


その言葉には何の悪意もなかったし、子供に促すだけの優しい言葉だった。

しかし、私はかすかな苛立ちを抱いていた。


私をその場において、お父様とお母様は多くの人の中心にいるお二人の元へ歩いていく。





ここは私の完璧な居場所で、私が一番なはずなのに、この少しの時間であの2人の世界になってしまった。













と、まあ小さい頃の私はくだらない嫉妬を抱えていたわけだけど、そこからまた勉強して、階級の絶対性について学んだ。いま同じ状況になっても嫉妬はしないだろうけれど、引っ込みがつかなくてずっとロザリー嬢に突っかかってばかりいる。


ロザリー嬢は私が邪魔ならさっさと公爵様にでも言いつければいいのに、それをしないで、むしろ少し楽しんでるような顔をしている。

その様子に、まあ、ロザリー嬢だったらティモシー様の事を諦めてもいいかな、と思っていた………のに。


いきなり現れたアリエス嬢はいとも簡単にティモシー様の隣を約束された。

なんで。辺境伯令嬢よりも私の方がいいでしょう?

そして、私よりも公爵家同士の方がお似合いでしょう?





疑問を抱いている私に、異国風の男が私に呟いた。


「アリエス嬢がもしもいなかったら、ティモシー様の婚約者様はどなたになっていたと思いますか?」


それは私じゃない。ロザリー嬢。でも、それは私の中で折り合いをつけられる。


「今のまま、妬心に苛まれていては、いつか貴女は魔物に成り果てますよ。」


魔物に成り果てるなんて、子供への教えのために脅かすだけのもの。真実なるわけではないわ。


「思い出してください。アリエス嬢は貴女へなんと言ったでしょうか。」


そう、サプライズに発表するためだったから他の貴族はまだ知らない。私にわざわざ手紙で詫びを入れてきた女。


「手紙のとおりの方なのですか、貴女は。」


いや、違う!私は可哀想でもないし、素直に祝福するような綺麗な女でもない!


「さあ、もう一度、思い出して見てください。彼女の手紙。彼女と面会した時にどんな顔を彼女が、貴女がしていたのか!」


あの女は、私に傲慢にも謝ってきた!この、私に!

そして、面会の時には私を哀れむ目で笑っていた!


「貴女は貴族だ。自分の手を汚さない方法、ありますよね?」


「……そうね。」















全てが終わった今、後悔をしても遅かった。

幸い子供であるため自宅軟禁ではあるが、貴族として致命的。今後賊に襲われるか、恥さらしとして内密に殺されるか。どちらとも言えないが、私の貴族人生が終わったのは変わらぬことだ。



そういえば、あの実行犯の男は乞食にしては度胸のある奴だった。普通なら恐れをなして逃げ出すものを。


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