エピローグ
「ふ~ん、今回も大変だったんだね」
「そうなんだよ~。ラッピーのこと忘れちゃうしさぁ・・・・・・あ、でもこれは私が悪いだけかぁ」
二人の女の子はテラス席で向かい合って楽しそうに笑顔を見せる。二人の間には、色とりどりのフルーツで飾られた巨大なパフェが鎮座していた。
「これ、ムリだよね・・・・・・マスターも何考えてるんだか」
クレアはパフェをつつきながら苦笑する。
「それを注文しちゃう私たちも私たちなんだけどねぇ」
エステルも大好きなマンゴーと一緒にソフトクリームをすくった。
「よう。またここでしゃべってんのか」
「あ、ダンテ。これ食べる?」
「食べねぇよ」
長身の青年は考えるそぶりもなく辞退した。
「おいしいのに」
「なら自分で食えよ。余りもん人に食わそうとしてんじゃねぇよ」
「えへへ~、バレちゃった?」
「・・・・・・ちゃんと全部食えよ。食いもん粗末にすんじゃねぇぞ」
「は~い」
ダンテはそれだけ言うと、さっさと席を離れていった。調査官になって初めての賢人会議を間近に控えた彼は、最近目に見えて忙しそうだった。
「もうすぐ賢人会議なんだね」
「うん。私は行けないんだけどね。ダンテもドミニクさんも、大変そうだよ」
「・・・・・・ドミニクさんも」
「あっ、う、うん」
クレアの表情が曇ったのを見てエステルは少し戸惑った。
「ドミニクさんのお父さんが、オーディンを精霊界に帰したんだね・・・・・・」
「え? うん、そうみたい」
「私・・・・・・知らなかった。お父様からもそんな話聞いたことなかった。オーディンを帰したのがミルドだったなんて。絶対に知ってるはずなのに・・・・・・どうしてかな・・・・・・」
「クレア・・・・・・」
「エステルに何にも知らないなんて言っちゃったけど、私の方が全然、何も知らなかったんだね・・・・・・ほんとに恥ずかしいよ」
「・・・・・・」
「おい、パフェはさんで何、暗い顔してるんだ」
「あ、ロック・・・・・・と、ユリアちゃん」
「こ、こんにちは」
ユリアはロックの後ろから控えめに挨拶をした。
「へぇ! この子がユリアちゃんなんだ! かわいい!」
クレアの顔はさっきまでの表情が嘘のようにパッと明るくなった。エステルはホッと胸をなで下ろす。
「ロックがユリアちゃんと一緒なんて珍しいね? パフェ食べに来たの?」
「んな訳あるか。賢人会議の予行練習だ。さっき終わったとこだ」
「あ、じゃあ一緒にパフェ食べようよ!」
エステルがにこにこしながら二人に提案する。
「・・・・・・俺はいい。ユリアさん、もし迷惑じゃなかったら、この子たちに付き合ってあげてくれないか?」
「え? そ、そんな迷惑なんて・・・・・・むしろ、私なんかがご一緒させてもらってもいいんですか・・・・・・?」
「全然いいよ!」
「大歓迎だよ!」
エステルとクレアはユリアに無邪気な笑顔を向ける。ユリアはそんな笑顔を向けられた経験がなかったので少し戸惑ったが、とても温かい気持ちがした。
「じゃ、じゃあ、お邪魔します・・・・・・」
そう言うとユリアはエステルとクレアの間に座った。
「仲良くな~」
ロックは去っていった。
「ユリアちゃん、この子が前に言ってたクレアだよ」
「よろしくね! ユリアちゃん!」
「はい! 私は・・・・・・あの、ご存じかも知れませんが、ユリア・ゴルチエと言います」
ユリアを頬を赤く染めながら自己紹介した。
「ユリアちゃんはね~、お屋敷に住んでたお嬢様なんだよ!」
「へぇ!」
「エステルさんの方が・・・・・・ずっと格式の高いお嬢様だと思いますけど・・・・・・」
「え!? 私はお嬢様じゃないよ!」
「エステルは典型的なお嬢様って感じじゃないよね~」
「そうそう、それに執事さんとかもいないし」
「え!? では、身の回りの世話は、どなたが?」
「もちろん、おじいちゃんだよ」
「えぇ!? 光の賢者様、自ら!?」
ユリアは目を丸くする。
「おじいちゃん、ごはん作れるし、裁縫も得意だよ!」
「そ、そういう問題ではなくて・・・・・・」
「ユリアちゃん、これはバークリー校長の教育方針なの。だから、エステルみたいなのが育ったのよ」
「ちょっと~それどういう意味よ」
「私はいっつも褒めてるんだよ?」
そう言うとクレアはくすくす笑った。エステルは「ほんとかなぁ」と言いながら、頬を膨らます。そんな二人の様子を見て、ユリアもくすっと笑った。
しばらく三人が巨大なパフェに苦戦していると、少し離れたテラス席に一冊の本を抱えたポニーテールの青年の姿が映った。
「あ・・・・・・ドミニクさん」
ユリアが気付き声を上げる。しかし、その声は小さすぎて彼の耳には届かなかった。エステルはユリアの声が聞こえたものの、クレアのいる建前、いつものように大声で声をかけることが出来ず、かといってそのままユリアの声を無視することも出来ず困ってしまった。
「ユリアちゃんもドミニクさんのこと知ってるんだ」
言葉を発したのはクレアだった。
「はい。壊れそうになっていた屋敷から脱出させてくれたのがドミニクさんです」
「そうなんだ」
クレアはユリアに対して全く不快な表情を見せていなかった。隠しているだけかもしれない--他の話題に移れるようにしなきゃ・・・・・・そうエステルが思ったときだった。
「エステル、ドミニクさんもこっちに呼んだら?」
「え!?」
「ユリアちゃんもドミニクさんと話したそうだし。もちろん、お邪魔じゃなかったらだけど」
「う、うん」
にこっと笑うクレアにエステルは少し安心してドミニクのテーブルへと向かう。
「あの、ドミニクさん、こんにちは」
「--? あ、エステルさん、こんにちは」
ドミニクは本からエステルに視線を移し、自然に微笑んだ。
「あの・・・・・・もしよかったらなんですけど、私たちと一緒にお話しませんか?」
「へ?」
やけに他人行儀に話しかけるエステルに疑問を持ったドミニクだったが、エステルの視線の先にクレアを確認して納得した。
「・・・・・・いいのかな?」
「あ、はい。もちろん!」
彼女はクレアがミルドを嫌っていることをドミニクは知らないと思っている。ドミニクは改めて盗み聞きしてしまったことに後ろめたさを感じながらも、せっかくのお誘いを断りたくはないと思った。
「じゃあ、お邪魔させてもらうよ。クレアさんとユリアさんもいるんだね。僕、一度、クレアさんとは話してみたいと思ってたんだよ」
「ほんとですか! よかったです!」
エステルはにこにこしながらドミニクを連れて席に戻った。ドミニクは空いていたエステルの右隣、クレアの左隣の席に座った。
「女の子たちで話してるのに、僕なんかが参加しちゃってごめんね」
ドミニクは少し困ったように笑った。
「そんなことないですよ! でも、外でドミニクさんとお茶するのって、私も初めてかも!」
「そうだね。いつも研究室だからね」
「何か頼みますか? ここの紅茶も、ドミニクさんが入れてくれるの程じゃないですけど、おいしいですよ!」
「あ、ありがとう・・・・・・さっき頼んだから」
ドミニクは店員が近くにいなかったことを確認しホッとした。そして、しばらくして現れた店員から紅茶を受け取ると、目の前の巨大なパフェに視線を移した。
「すごいねこれ・・・・・・何人分あるの?」
「五人分だそうですよ!」
「それを三人で食べようとしてたんだね」
「いえ! 最初は二人だったんですよ!」
「え!?」
「私とクレアで! 新メニューだったんで頼んじゃいました」
エステルはクレアの方を向いてにこっと笑う。
「クレアさんもパフェ好きなんだ?」
ドミニクは平静を装いながらも、精神力を振り絞ってクレアに話しかけた。
「はい! いつもはストロベリーパフェ派なんですけど、今日は特別なんです」
クレアは笑顔で答える。
「ストロベリーパフェかぁ、僕も一度作ってみたいなぁ」
「え、食べるんじゃなくて?」
「僕は作る方が好きなんだ。誰かに食べてもらって、おいしいって言ってもらえるのが好きなんだよ」
ドミニクは照れくさそうに笑った。
「じゃあ、もし作ったら食べさせてくださいね!」
「もちろん、喜んで--あ、そろそろ行かなきゃ。ダンテに調べ物頼んでるのに、僕だけ楽しくおしゃべりしてちゃ悪いからね。じゃあ、またね」
そう言うと、ドミニクは少し慌てたように席を立ち、三人に別れを告げた。紅茶はまだ半分も残っていた。
「忙しかったんでしょうか・・・・・・」
ユリアが少し残念そうに呟く。
「ユリアちゃん・・・・・・もしかして、ドミニクさんのこと好きだったりする?」
「え!?」
クレアの突っ込みにユリアが絶句する。
「ち、違います! でも、嫌いって言う訳じゃなくて・・・・・・その・・・・・・」
「違うよ! クレア!」
エステルの援護にユリアがホッとしたのも束の間--
「ユリアちゃんはジェイさんのことが好きなんだよ!」
「え~~~~~!? そうなの!?」
「ち、違います! そんな、ジェイは・・・・・・そんなんじゃないんです!」
「もう~、真っ赤になっちゃって! じゃあ、ジェイさんが本命なんだね~」
「そうだよ、クレア!」
「どうしてエステルさんが断言するんですか!」
「だってユリアちゃん、ジェイさんの話するとき、すっごく切なそうな顔するんだもん!」
「そ、それは・・・・・・!」
「きゃ~~! ユリアちゃん、乙女! ねぇどこが好きなの!?」
「だ、だから・・・・・・! 違うんですってば!」
二人でも賑やかないつものテラス席は、三人になって、ますます勢いを増していた--
読んでくださりありがとうございました。
第3章もぼちぼち書いていますので、そちらもよろしくお願いします。
次はユーリが中心のお話です。




