閑話:デートをしましょう(1)
恋人関係を素っ飛ばして、結婚することになった結衣と昌哉。
数え切れないほど二人で『お出掛け』をしていても、それは『デート』ではなかった。
傍からみればデート以外の何ものでもない雰囲気があったとしてもだ。
想いを通いあわせて、初めてのデート。
しかも指輪を買いに行くということで、結衣は余計に緊張していた。
「う~ん…。やっぱりこっちかなぁ」
鏡の前で、クローゼットから引っ張り出した服を身体にあてる。
少しでも昌哉につり合う様に大人っぽい装いにしようとするが、生憎持ち合わせが少ない。
頭を悩ませながら服を選んでいると、ドアをノックする音がしてから昌哉の声がした。
結衣は慌てて時計を確認するが、迎えに来る時間までまだ余裕がある。
首を傾げながらドアを開けると準備万端といった装いの昌哉が立っていた。
「おはよう」
「おはよう、昌哉君。まだ時間大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ。結衣のことだから服で悩んでるんじゃないかと思って」
まだパジャマ姿の結衣と部屋の惨状を見て、昌哉はクスリと笑った。
一から十まで行動を見通され、恥ずかしくなり結衣は視線を泳がせる。
「そんな姫のために服を用意しました。お気に召せばいいのですが?」
目の前に差し出されたしっかりとした素材の紙袋には、結衣でも知ってるブランドのロゴ。
最近若い女性に人気のあるブランドだが、女子高生である結衣にはちょっと手が出せない値段だ。
ファッション雑誌で眺めるだけだったものが目の前にある。
嬉しいが、値段のことを考えると素直に受け取ることができない。
「金額のことなら気にしなくていいよ。俺が結衣に着て欲しくて、勝手に買ったんだから」
「でも…」
「とにかく開けてみて、気に入るはずだから。ね?」
恐る恐る受け取った紙袋を開けて取り出した服をみて、眼を輝かせた。
(こ、これは、この間の雑誌に載ってた服っ!)
可愛くてジッと見つめて、値段が高く手が出せなくて諦めたいた服が手元にある。
「なんで、これ…」
「気に入った?」
「…気に入った、けど…」
どうして欲しがってたと知っているのか、結衣は聞きたくても聞けなかった。
あの雑誌を見ていたときは、昌哉はいなかったはずだ。
というか、昌哉がいる時に雑誌を見ると目敏く観察され欲しいと思ったものがいつのまにか結衣の手元にある。
プレゼントは嬉しいが、あまりに頻繁にあるため自衛のために雑誌を読まないように気をつけていたのに。
「じゃあ、早く着替えて見せてね」
「うん。って、服以外にも何か入ってる………っ!」
結衣は紙袋に入っていたものを手にして、固まった。
細かい可愛いレースがいくつもしつらえられた白い物体は、何度瞬きしてもブラジャーにしか見えなかった。
そして同じデザインの、ショーツもある。
「ま、ま、昌哉君っ! これっ?!」
「見てのとおり下着だけど? どうかした?」
「どうかした、じゃないよっ!」
何がおかしいのか分からないといった顔で首を傾げる昌哉に、結衣自身の認識がおかしいのかと思ってしまう。
「結衣に似合うと思ったんだけど、嫌だった?」
昌哉の羞恥も何も含まない言動に、結衣は口をパクパクと動かすが声にならない。
肌触りだってそこらの量販店で売られている物に比べるまでもなく、上質だと分かる。
きっと値段だってそれなりにするだろう。
何より結衣の乙女心を擽るデザインが良い。
(いや、そうじゃなくて!)
結衣は、現実逃避をしようとした思考を無理矢理戻すと昌哉を見た。
優しい微笑みを浮かべて結衣を見つめる昌哉に、喉まで出掛かっていた言葉を投げかけられるはずもなく。
着替えるからリビングで待っているように言うと、ドアを閉めてから深い溜息を吐いた。
(朝からなんて精神攻撃…)
パジャマをノロノロとした動作で脱ぐと、昌哉からの贈り物である下着を身に着けた。
「サイズがぴったりってどういうことですかっ!」
結衣の部屋から悲鳴に近い叫び声がリビングまで届き、元凶である昌哉は肩を小さく震わせながら笑っていた。