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青色の猫  作者: 猩々緋
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その16

 相変わらずリズさんが来るより早く目を開けるラディス。が、開けるだけで起きてはいないらしい。結局リズさん頼りだ。

 いつも通り朝食を終え、今日はそのまま書類仕事を始めた。

 私はと言えば、今日は部屋を出る前に考え事だ。

 ラディスのお父さん――陛下は、聞いた話とは違って彼を嫌ってはいなかった。

 じゃあなんでそんな話になったんだ?と考えをめぐらせ、特に何か思いつくこともなく項垂れた。

 どうにかこの問題解決できないかなぁ…。やっぱり、家族はみんな仲良しが理想的です。

 ない頭で考えているとノックが鳴った。ラディスが返事をすると、「失礼します」とディックとライツが入ってきた。どうやら彼ら、入室の礼儀はちゃんとできるようになったらしい。

 彼らの手にはいつも通り勉強道具が抱えられている。

 「本日もよろしくお願いします!」

 「ああ。…いや、今日は少し手伝ってくれ。いいか?」

 ぺこりと礼をした二人の頭に向かってラディスが言うと、彼らは明らかに驚いて、次の瞬間には嬉しそうに顔を輝かせた。

 「は、はははい!もちろんです!なんでもお言いつけください!!」

 「何をお手伝いしましょうか!?」

 犬のようにしっぽが生えていたのなら、確実にちぎれんばかりに振っていただろう。それほどにわかりやすく彼らは喜んでいた。

 ラディスは机の上にある紙の山を叩き、そんな二人を見た。二人の様子にほんのわずかに笑みながらも、少し硬い声で言う。

 「この書類、大体書いたんだが合計は出していない。数が多くて申し訳ないが、合計を埋めていってくれ」

 その書類は先日からなぜか合計の欄を空けたまま積んでいたものだった。

 このために空けていたんだ…。

 


 場所は変わって応接室。ディックとライツは合計の抜けた書類を持って、ラディスは今日の書類を一部だけ持ってきていた。

 テーブルを挟んで二つ置いてあるソファにそれぞれが座り、私もラディスの隣に座る。

 テーブルが少し低くてやりにくそうにも感じたが、二人はそんなことも気にせず一心不乱に計算している。

 やがて解き終わったのか二人の間に書類が積まれだした。退屈に思っていた私はテーブルに乗り、その書類を覗き込む。数字を追って、首を傾げた。もう一度追って、書類に手を乗せた。

 これ、合計間違ってるじゃないか…。

 「あれ、あー…っと、ソラ?その手を避けてくれないか?」

 どうにかこの書類だけをどかせないかとちょいちょいしていると、ライツが書類片手に困ったように言ってきた。私も困って彼を見返す。間違ったままになんてしたら絶対大変なことになる。

 おろおろと書類とライツを交互に見ていると、ラディスが私の手の下にある書類を抜き取り、一通り眺める。

 「この字は…ディックか。間違っているぞ」

 「え!?」

 ディックはラディスから書類を受け取り数字を追っていった。視線が一番下までたどり着き、しばらく固まってまた上に戻る。しばらくそれを繰り返したので、とうとうラディスが訂正箇所を教えた。

 「も、申し訳ありません…」

 「まぁ、次からは気を付けてくれ」

 「はい」

 力強くそう応えると、ディックは訂正に取り掛かる。それをじっと見ていると、ライツがほぉ、と息を吐いた。

 「その子は計算ができるのですか。賢いのですね」

 「…そうだな」

 頭に重みが乗ったのを感じ振り返ると、ラディスが私を撫でていた。そうして「またあいつらの喜びそうな情報だな…」とつぶやいた。

 あいつら…。…ああ、白衣三人衆。

 また「調べる」とか言われたら、と思うと、少し憂鬱になってしまった。

 「兄上、これでどうでしょうか?」

 ラディスは差し出された書類を受け取り、確認する。

 「よし。本当に気を付けろよ」

 「はい!」

 ディックはぱぁっと顔を輝かせて、次の書類を手に取って計算を始めた。私は興味本位でそれを覗き込む。彼はちらりと私を見た後、計算を続けた。

 やがて最後の空欄が埋まる。もう一度上から見直して、彼は顔を上げた。と思えば、

 「どうですソラ、合ってますか?」

 書類を私に向け、口元に手を当てた状態で小さな声でそうたずねてきた。

 え、私に聞くの?というかなんで敬語?というかそんな小声で話しても、この部屋には三人しかいない(私はノーカウント)上に静かなのだから聞こえないわけがない。ああほらライツがすごい顔で見てるっていうかライツは本当、ディックを兄だと思っているのかな。

 混乱しながら動けずにいると、ディックが急かしてきた。私は慌てて計算する。

 そしてある一か所に手を置いた。

 おしい。すごく惜しい。最後から三つ目で繰上りが消えている。

 計算自体は小学生でもできるような簡単なものだが、桁がすごい。なので間違えるのも仕方がない…と思っておこう。

 しかし間違いのままはだめだ。

 ディックは私が手を置いたまま微動だにしないのを見て、「もしかして間違ってます?」と尋ねてくる。私は書類を見たままとん、とん、と訂正箇所を叩いた。

 彼はそこをじっと見つめて、間違いに気が付いたらしく早速訂正を始めた。

 「次は…どうですかね」

 訂正し終わったのか再び書類を向けられる。もう一度それを見て確認する。こんどはちゃんとあっていた。

 頷くと、ディックは嬉しそうにそれを山に積んだ。

 次の書類を取り、計算し、そしてまた私に確認を求めた。それを何度も繰り返す。

 …ディックさん、こんなにやっていて、なんで必ず一度は間違えるんですか。

 訂正箇所に手を置いたままため息を吐きたくなった。協力できるのはうれしいけれど、こんなことでディックの将来は大丈夫なんだろうか。

 ディックって、どう見ても私より年上なんだけどなぁ。なんでこんな心配してるんだろう私。

 訂正しているディックを見ていると、またしてもラディスが頭を撫でてくれた。

 ものすごく、労わられている気がした。

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