最終話 三原色のプロポーズ
ダークワイバーンが巻き起こした暴風をかわした残存戦力は、聖竜リュカオンを駆るセシルと、少数の飛兵隊だけだ。風の暴力を作り出したダークワイバーンの大翼は、まだ元の体勢まで翻っていない。
「好機は今しかない! 一か八かだ! 最後の特攻をかけるぞ!」
『はっ!!』
大空に浮かぶ漆黒の巨体に隙が生じた今を逃さず、飛兵長セシルは、残った部下たちと身命を賭して、ダークワイバーンの胸元を目掛け、全速力で突貫した!
「ガアアアアアッッ!!!」
「クオオオオンッッ!!!」
我が身を屠る可能性を秘めた神槍ロンギヌスの力が迫ってきているのを、獰猛な感覚で勘づいたダークワイバーンは、不十分な体勢から激しい暗黒のブレスを吐く! まともに喰らえば一巻の終わりだが、聖竜リュカオンが、邪悪と相対する聖炎のブレスを吐き、セシルと飛兵隊を呑み込もうとしている暗黒の炎を、完全に相殺した! 無理な体勢からブレスを吐いたダークワイバーンは、バランスを大きく崩し、胸元がガラ空きになっている!
「災厄の邪竜よ! くたばれ!」
「グオオオオオオッッッ!?」
残った飛兵隊の支援を受け、聖竜リュカオンと共にダークワイバーンの胸元まで到達したセシルは、渾身の力を込めて、神槍ロンギヌスを鋼鉄の如き竜の胸板に突き刺し、災厄の邪竜をついに打ち倒した!
断末魔の咆哮を上げ、力を完全に失った漆黒の巨体は、真下の大海原へ落ち、山の如き水柱を上げて、海の底へと沈んで行く……。
多大な犠牲を払いながらも、飛兵長セシルと飛兵隊は、災厄の邪竜に打ち勝った。だが、辺りの暗雲は晴れず、邪気がまだ漂い続けている。
「まだ終わりではない。災厄の元凶があるはずだ」
神槍ロンギヌスの導きを受けているのか、そう悟ったセシルは、残った飛兵隊を連れ、聖竜リュカオンと共に更に北へと飛び、天を呑み込まんとするほど大きい邪悪な空間の歪みを、その空域で発見した。
「なんという大きさだ! これが災厄の元凶か。何とかして塞がねば……だが、どうやって?」
圧倒的なスケールで邪気を発している空間の歪みを前にし、セシルと飛兵隊が途方に暮れていたその時、突然、神槍ロンギヌスが強く光り輝き、辺りにおびただしく漂う邪気を打ち消し始めた。
ロンギヌスの神力の顕現に気づいたセシルが、天空に浮かぶ災厄の元凶に向けて神槍をかざすと、みるみる内に邪悪な空間の歪みは小さくなり、暗雲が立ち込めていたはずの辺りには、何事もなかったかのように平穏の青空が戻ってきている。
全てを成し遂げ、アトランティスの首都に帰還したセシルと飛兵隊は、国王と謁見し、任務完了を報告している。国王は、疲労の色が濃い飛兵長セシルの手を取ると、涙を流し、
「私は、もう少しでお前を失うところだった。アトランティスを守ってくれてありがとう、セシル。よく無事に帰ってきた」
仁君として、国を救った英雄たちに最上級の感謝を示すと共に、何よりも深く、功を労った。
ダークワイバーンを打ち倒し、災厄の元凶を神槍ロンギヌスの力で封じたセシルは、アトランティスに伝わる預言の大英雄として讃えられ、救国の英雄たちの帰還を祝う国を挙げた大宴会が、その数日後、催された。
英雄となったセシルは大宴会の主賓であり、杯を注がれることひっきりなしだったが、うまく宴席を離れると、恋人のティアに声をかけ、聖竜リュカオンの背に共に乗り、宴会場から色とりどりの花が咲くアトランティス国定公園へと抜け出す。
「ふふっ、英雄になっても英雄になりきれないのがあなたらしいわ、セシル」
「はははっ、俺は英雄にはなれないけど、君をずっと守りたいんだ。結婚してくれるかい? ティア?」
国定公園の広大な花畑の中央でセシルはそうプロポーズすると、用意していたエメラルドのエンゲージリングを、ティアの左手薬指にゆっくりと嵌めた。ティアは嬉しさに涙を流し、
「もちろんよ。一緒に生きていきましょう」
笑顔でセシルからのプロポーズを受けると、三原色の花の彩りが祝福する中、2人は、長く幸せな誓いのキスを交わす……。




