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第10話: カザミとイチゴ①

 葉っぱと藁にくるまって、ベビードラゴンがすやすやと眠っている。


「寝たね」

「寝たな」


 電池が切れたように、ベビードラゴンがコテンと倒れたときには慌てたけれど、なんてことはない。リリアと一緒だ。遊び疲れて寝てしまった。


 アンデスは眠ってしまったベビードラゴンを口にくわえると、葉の上に優しく置いた。そのまま、雌のアンデスのところへ戻ると2人で頭を擦り付け合う。


「アンデスのコミュニケーションの仕方って素敵よね」

「殺されそうだったのに、よくそんな気持ちになれるな」


 ジンが呆れた顔をしてマリアを見る。


「リリアと私のいる家に、モンスターが押し入ってきたらどうする?」

「殺す。マリアが止めるなら、何としても追い出す」


 ジンの即答にマリアは苦笑する。


「アンデスがやったことはそれと一緒よ。当たり前に家族を守っただけ」

「そうかもしれないが、殺されそうになった方にも怒る権利はある」

「殺しあう前に話し合えると良いんだけどね」


 雄と雌のアンデスも体を伏せて休み始める。

 木の合間から細く降り注ぐ光の向こうで、二頭はとても幸せそうに体を寄せ合っていた。




 アンデスの寝床の近く、村からも遠い場所にもツキノワの古い穴蔵を見つけた。ベビードラゴンをその穴蔵に寝かせ、近くで見つけたガマグミを置いておく。


「なるべく早く来るわね」


 ベビードラゴンの穴蔵に、マリアのステルスをかけ、さらにジンのステルスを重ね掛けする。これで、だいぶ見つかりづらくなったはずだ。


「あとは、ベビードラゴンがパニックになって暴走しないように祈るだけ」


 パンパンと手を叩いて祈っておく。

 本当に仕事に行くジンとは別れ、途中で薬草を摘んで村に戻った。


「リリア! カザミ!」


 マオ婆の家の前で、カザミとリリアがしゃがみ込んでいる。


 しゃがみ込んだまま、カザミがシーッというポーズをして振り返った。紫色の薬師用の服が汚れるのも構わずに、地面に這いつくばっている。


 やがて体を起こすと、手のひらに載せた何かをリリアに渡した。


「キャー」


 リリアが喜びに声をあげる。

 立ち上がったカザミが服の汚れを払い、マリアを振り返った。


「おかえり。買い物は済んだか」

「うん。家に置いてきた。リリア見てくれてありがとうね」

「まま! みて! くわみゅし!」


 リリアの手にはクワムシの半透明の抜け殻が載っている。クワムシは、幼児期の間は手のひらに乗るほどに小さなモンスターだ。脱皮を繰り返して成長し、最終的には手のひら大くらいになる。


「こいつの抜け殻は滋養にいいんだ。それにしても、リリアは筋がいいな。クワムシとカブムシの見分けもすぐに覚えたぞ」


 カザミがリリアの頭をぐりぐりと両手でなで回す。キャーとリリアがまた喜びの声をあげる。


「リリアは本当に目がいいのよね。なんか本能で感じ取ってるみたい」

「お前の娘だからな。筋金入りだ」


 カザミも、マリアのモンスター談議を興味深く聞いてくれる数少ないうちの一人だ。


 カザミ曰く、モンスターの話は薬師の仕事にもつながる話らしい。怪我は回復魔法のキュアで治せるものもあるが、自身の回復能力以上の大きな怪我や病気になると、薬師が力を発揮する。カザミは、そういう意味では、村の医療を担うパートナーでもある。


「りりあ、しゅごい?」

「すごいよ! リリア、よく見つけたね」

「やった、やった! だいせーこー!」


 マリアも頭を撫でると、リリアがぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 その手を見て、カザミの目が薄く細められたのがわかった。


 しまったと思いながらも、気づかれないようになるべく自然に手を引っ込める。カザミもとても目が良い。体の不調をピタリと言い当てて、適切な薬を調合してくれる。


「マリア」

「あ、カザミ、これ。お礼の薬草」


 不自然すぎたか、と内心焦るが、差し出した布袋をカザミは黙って受け取った。


「飯でも食っていけ」


 カザミが背を向ける。


「ありがと。リリア、ご飯だよ」

「はーい! だっこ!」


 元気よく手をあげて抱っこをせがむリリアに笑ってしまう。


「しかたないわねえ」


 その日食べたご飯は、ヒジキとトウフの煮物に、ショクドリの卵スープとタライモのおやきだ。


 白黒のコントラストが鮮やかな煮物には味がしっかりと染み込んでいる。ショクドリの卵は食用が可能で、寒い時期に産む卵は味が深くなる。弾力がプルンとしていて、生で食べても美味しい。


 溶いた卵を流し入れたスープは黄色い菜の花の絨毯のようだ。タライモはもっちりとしていて、塩味がよく効いている。タンパク質や鉄分を重視しているところを見ると、マリアの手のケガにはやはり気づいているらしい。


「かざみしゃんのごはん、おいしーねー」

 リリアのごはんを頰張る姿にカザミが微笑む。


「そうだろう。体も元気になるんだぞ」

 カザミがわざわざマリアの方を向いてニヤリと笑いかけてくる。


「リリア、いつもはタライモとか食べてくれないのにー」

 こういう時はリリアで持ち上げるに限る。


「うちは塩で蒸してから潰すからな。味がしっかりついてるんだ」

「あ、皮も一緒に蒸すと肌にもいいんだよね」


 カザミのツルツルの肌を見る。これはそうやってできた肌なのか、と妙に納得してしまう。薬草に詳しいカザミは、食べ物にもとても詳しい。


「皮の近くにそういう成分が多く含まれてるからな。皮ごと蒸すと栄養が逃げないで済む」


 どれだけわかっているのか不明だが、リリアが大真面目な顔で、うんうんと頷いていた。


「さて、次はデザートだな。今日はイチゴだぞ。体を丈夫にする栄養素の吸収率が格段にあがる」


「わーい! いちご!」


 喜ぶリリアの頭をなでがてら、カザミがテーブルを離れ、デザートの用意をしてくれる。

 その時、家の戸口が開く音が聞こえた。

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