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人生は金次第

販売個数は、複数人です。

▽舞台


 占いの店がしのぎを削る激戦区の路地に入って奥に進み、人ひとりが通るのがやっとの建物と建物間の階段を上った先にある店。

店主と店員が二人で経営している。

常連客が何人かいる模様。



▽店の場所


 立地は自由設定。

ただし、店への入り口に行くには、階段を上る、もしくは、下ることが必須。(エレベーター、エスカレーターは使用不可)

階段を上る(または下る)前に、「人生、売っています」という看板が設置されている。



▽店内装飾

 

 レイアウトや展示、店の規模も自由に変更可能。



▽売っている物


 人生を売っている。つまりは、未来を金で買える店。

 未来を書き込める本以外にも、好きなものを売ることが可能。

しかし、未来を好きにできるアイテムは、本のみ。

ほかの品物には、特殊な能力や効果はなく、未来や過去などを変更したり、何かを避けるような能力はないこと。

 本は、かならず本の装丁をしているなら、洋装和装問わず



▽料金体系


 未来を書き込むための白紙の三百六十五ページが一冊になった本。


ハードカバーサイズ(大):三十六万五千円

文庫本サイズ(中):三万六千五百円

メモ帳サイズ(小):三千六百五十円


大きさの違いは、単純に書き込める未来の量。



▽本のお試し版


 大きさは、文庫本サイズで、売り物と同じ形だが、最初の七ページ分(一週間)しか効果はない。

使用期限は、一か月間。

無料で試すことができるが、対象は一度も本を購入したことがない人で、一人につき一回だけ。


 期限が過ぎる、もしくは、七ページ分使い切ると

【続きは有料版にて。

ハードカバーサイズ(大):三十六万五千円

文庫本サイズ(中):三万六千五百円

メモ帳サイズ(小):三千六百五十円


ご利用ありがとうございました。

引き続きメモとしてご利用いただけます】

という文言が現れる。



▽本に書く際の禁止事項


・過去を記入すること


・他人のことを詳細に記入すること

(道で会う、というようなものは大丈夫、道でプレゼントを渡してくれるというのは駄目)

※匙加減は作者に任せます。



▽本に書く際の注意事項


・時系列順に記入すること


・間違えた場合は、二重線で消すこと


・使用期限は、購入日から一年後の同日まで、それ以降は、ただの白紙の紙として使用可能



▽本の最後のページ


 禁止事項と注意事項が記入されている。

次の文が書かれている。


【ご使用にあたり、禁止事項および注意事項をよく読んでからご記入ください。

また、ご使用した場合に、想定の結果と異なった際に、当方は責任を負いませんので、予めご了承ください。


~禁止事項~


・過去を記入すること


・他人のことを詳細に記入すること



~注意事項~


・時系列順に記入すること


・間違えた場合は、二重線で消すこと


・使用期限は、購入日から一年後の同日まで、それ以降は、ただの白紙の紙として使用可能】




***イメージSS



 太陽がアスファルトを温めて灼熱地獄に変えている中、一人の男が今にも溶けて消えてしまいそうな悲愴な面持ちで歩いている。

草臥れた背広に履き古した革靴に角が削れた鞄を抱えた男は、一枚の紙を持って、どこか探しているようだった。

何度も時計を見ては溜息を吐き、路地をひとつずつ見て回る。


「しまったな。これじゃ待ち合わせの時間に遅れるぞ」


 駅からの道筋が書かれた地図を頼りに目的地を目指すものの完全な迷子になっていた。

初めての土地で、それも似たような造りをしている占いの店が立ち並ぶのなだから分からなくなるのも無理はない。

開いている占いの店で道を尋ねられたら良いのだが、あいにくとどの店も客が入っており聞ける雰囲気ではなかった。

仕方なく自力で探そうと重い鞄を抱え直したときに足元に何かがすり寄った。


「にゃー」


「猫か。悪いが構っている時間はないんだ。あげられるものもないし」


「にゃー」


 猫は男の言葉が分かっているのか再び鳴いて足元から離れた。

少し歩いては振り返り小さく鳴いた。

また歩いては鳴くということを繰り返し、まるで男を誘っているようにも見える。


「ついて来いって?」


「にゃー」


「仕方ないなぁ」


 早く目的地を探さないと時間に遅れると分かっているのに元来の猫好きが祟って猫の後を追いかけることになった。

猫は目的があるのか時折、男がついて来ていることを確認する以外は細い路地を奥へ奥へ進む。

すでに帰り道も分からなくなった男は猫の後を追いかけて路地を進む。

やがて建物と建物の間で猫は立ち止まり小さく鳴いた。


「ここが、お前の家なのか?」


「にゃっ」


「そうか」


 猫と意思疎通ができるとは思っていないが、男は猫の横にある看板を見て驚いた。

目的地としていた店だったからだ。

猫がそのことを分かっていたとは思えないが、男にとって偶然会った猫は招き猫にも見えた。


「お前のおかげで、遅れずにすみそうだよ」


「にゃー」


「うん? 人生、売ってます? 占い屋だったのか」


 店のインテリアをコーディネートするのが男の仕事で、現場に出向いて直接、話をする。

集客を上げたいという顧客の要望を叶えるのは難しく、営業成績も芳しくなかった。

今回、契約が締結しなければ、正社員からアルバイトに格下げになる瀬戸際だった。


「雑貨屋だと聞いていたのに」


 ここまで案内した猫はすでにいなくなっており、あとは男が建物と建物の間の階段を上るだけだ。

猫のおかげで遅刻せずに済みそうという状況に気持ちが上がり、重いはずの鞄も軽く感じた。


「すみません」


「いらっしゃい」


「あっ、コーウッドの宇井です」


「あぁ、宇井さん、ようこそ。わかりにくいところでごめんなさいね」


「いえ」


 店の中は、占い屋とも雑貨屋とも違う趣を持っていた。

背表紙にタイトルの書かれていない本が棚に収まっている。

天井まである本棚すべてに隙間なくだ。


「ここは雑貨屋なんですか?」


「雑貨屋のようなものね。さぁ奥に座ってくださいな。あかりちゃん、コーヒーをお出しして」


「はぁい」


「見ての通り殺風景でしょう? だから華やかにしたいと思って」


「そうですね。窓がないので、華やかなタペストリーなどはどうでしょう? あとはランプシェードを鮮やかに?」


「まぁ素敵ね。どんなものがあるかカタログを見せていただけるかしら?」


 重い鞄には顧客のどんな要望にも応えられるように古今東西のカタログを用意していた。

なのに、タペストリーのカタログもランプシェードのカタログも見当たらない。

焦って探しても見当たらない。


「・・・すみません。ちょっと手持ちが」


「あら、そうですのね。ならまた後日、見せていただけるかしら?」


「はい! もちろんです」


「お店のことを詳しく知っていただけた方が良いと思うの。一冊お持ちになって?」


 重厚感のある一冊の本は表紙に何も書かれておらず、中も白紙だ。

今流行りの好きに書ける日記帳だろうか。


「日記帳ですか?」


「日記帳・・・そうね。そうとも言えるわね。それは過去ののことを書くのではなく未来のことを書くの」


「未来?」


「詳しくは、一番後ろのページに書いているわ。試してみてくださるかしら?」


「はい、ありがとうございます」


 宇井は貰った本を鞄に仕舞うと元気よく頭を下げて店を出た。

カタログを忘れるという失敗をしたにもかかわらず怒られなかったということに喜びを感じていた。

階段を降りると猫が行儀よくお座りしていた。


「お前のおかげで契約が取れそうだぞ」


「にゃー」



◇◇◇



 機嫌が良い宇井は、上司の小言も同僚の嫌味も気にすることなく就業時間を迎えた。

何が待っているということもなく真っ直ぐ家に帰ると貰った本を開いた。


「なになに?」


 書かれている禁止事項、注意事項を読み物は試しと、明日の日付と契約が取れると書いた。

そうなれば良いなと希望を持ちながら布団に入る。

早く寝たからか目覚めは爽やかで契約のひとつやふたつ軽いと思えるほど調子が良かった。


 星占いでは一位を取り、まず座れるはずのない満員電車では、たまたま前に立った席の人が下車して座れた。


「すごいじゃないか!」


「へっ?」


「岩井商事の益村さんからオタクのカーペットを買いますと電話があったぞ。あそこはウチのエースが行っても梨の礫だったのに、宇井さんになら任せられると直々に言われたんだぞ。これは、みんなもうかうかしてられないな」


 岩井商事の益村と言えば業界では知らない人はいないと有名だった。

呼びつけては、あれが見たい、これが見たいとサンプルを持って来させるが、次は、ここが気に入らない、色が悪いと難癖をつけて契約まで漕ぎ着けられたのは片手も要らない、指一本で済んでしまう。

大手は早々とブラックリスト入りさせ、依頼があれば下請けに丸投げしていた。


「これのおかげか?」


 偶然かもしれないが、宇井は気をよくして新しい未来を書いた。

岩井商事の益村と同じくらい難敵のヴァート株式会社の基山係長だ。

昇進で同期に差をつけられて、部下には先を越されてしまい窓際になってしまった。

その鬱憤を晴らしているのが丸分かりだった。


「・・・基山係長から契約が取れる、と」


 契約が締結できるのでは無いかと半信半疑ではあったが、基山係長から電話があって宇井は有頂天になった。

電話を受けたのは上司だったが、電話が終われば、また賞賛されると信じていた。


「はい、はい、はい、はい」


 電話を切った上司は神妙な面持ちで宇井を呼んだ。

笑顔で上司の元に向かった宇井は、上司の言葉を待った。


「オタク、何したんや? 唯一あった基山係長との契約を破棄されたわ。ワケ聞いても宇井に聞け、そればっかや」


「俺には何がなんだか」


「もうエエわ。こないだの契約で正社員に残したろ思とったけど、自分でしたことも分からんヤツはアルバイトで十分や。来月から、よろしゅう頼むわ」


 契約が取れる。

契約が締結するという意味ではなく、契約が外れるという意味で叶った。



***以下、使用時の約束事



【禁止事項】


・ジャンルは問いませんが、エッセイや詩は不可


・店主および店員の死亡不可



【注意事項】


・タイトル自由設定


・短編および長編自由選択


・世界観のも自由設定

その場合は、設定で使用している「円/円マーク」をそのまま使用しても構いませんが、独自の通貨を設定する場合も、小の十倍の金額が中、小の百倍の金額が大という概念はできるだけ崩さないでください。


・一年は、三百六十五日で、うるう年はあってもいいですが、本のページ数は固定


・店主および店員の性別および年齢自由設定可能。ただし、年齢は自発的行動ができるに限る。


・登場人物の性別年齢の自由設定可能。


・登場人物は、人限定。国籍問わず。

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