閑話 領主の娘
王都の清閑な住宅街。
その一角にある、重厚感あふれる広大な邸宅。
ユーストン伯爵家の、王都における住処であり拠点だ。
由緒ある伯爵家の邸宅としては、飛びぬけて巨大でも豪華すぎる訳でもなく、その家格に相応しいと訪れた者も納得する立派な佇まい。
そんなユーストン伯爵家の王都の邸宅にある、その主のために用意された質実剛健な雰囲気を漂わす寝室。
そのベットに、少し窶れた中年の男性が一人、横たわっていた。
コンコン。
早朝の、まだ早い時間。この部屋の扉が外から、遠慮がちに、ノックされた。
少しの間が空いてから。
ピンクの髪の大人びた雰囲気の少女が、扉を開けて、この部屋へと静かに入って来た。
少女は、微妙に悲しそうな表情で、ベットに横たわる男の様子を見ながら、寝具の軽い乱れを直す。
男の顔を控えめに覗き込み、小さな声で、呟いた。
「養父さま」
微妙に張り詰めた表情のまま暫く待ち、反応がないと分かると、小さな溜息をつく。
少女は、ベットの横に置かれていた椅子に、無表情となって、身じろぎもせず座っている。
部屋の中を静寂が満たし、静かに時間だけが流れる。
少し時間が経ち、屋敷の中を静かな活気が満たしだした頃。
コンコン。
この部屋の扉が外から、元気よく、ノックされた。
かと思うと、間髪入れず。
水色の髪の明るい笑顔の少女が、扉を開けて、この部屋へと元気に入って来た。
「姉さま、おはよう」
髪色は違うが瓜二つの容姿の少女たちが、顔を合わせる。
水色の髪の少女は、ニコニコと。
ピンクの髪の少女は、無表情の中に微妙な親しみを含ませて。
「おはよう。レイネ」
「姉さま、今日のお仕事は? 来客は? お勉強は?」
「そうね。来客は無いけど、お仕事はあるわね」
「お勉強は?」
「今日は、レイネの好きな、ダンスと乗馬もあるわよ」
「わぁ~い。楽しみね、姉さま」
「そうね。レイネは、体を動かすのが好きだものね...」
「姉さま。朝食をご一緒しませんか?」
「ええ、そうね」
「姉さま、しっかり!」
「...」
「姉さまが、ちゃんと領主代行のお仕事して、学園入学のためのお勉強をしっかりして、大丈夫なところを見せないと、養父さまが悲しむよ」
「う、うん。そうね」
「今日のお仕事は、昼食までには終わらせましょうね、姉さま」
「え、ええ」
「姉さま。お客様が来られないなら、午後からは二人でお勉強、だね」
「その筈よ。...何だか、レイネは、急にしっかり者になったわね」
「姉さまとレイネは、同点の一番で合格だった、ってトマスさんからお聞きしましたもの」
「そうよ。レイネは、やれば出来る子、だもの」
「うふふん。そうなの、姉さまとレイネは、優秀なお子様なの」
「そうよ、レイネ。では、朝食にいきましょう」
「はぁ~い」
「養父さま、失礼します」
「失礼しまぁ~す」
二人の少女が、部屋からお淑やかに退出していく。
そして。
静寂。
* * * * *
ユーストン伯爵家の王都の邸宅にある、質実剛健な雰囲気を漂わす主のための寝室。
そのベットに横たわる、少し窶れた中年の男性。
コンコン。
この部屋の扉が外から、静かに、ノックされた。
ほんの少し間が空いてから。
厳しい表情を浮かべた執事と若いメイドと老年の医師が、扉を開けて、この部屋へと静かに入って来た。
医師は、一通りの診察をした後、首を振る。
執事が礼を言い、退室を促し、メイドが外に誘導する。
一人、この部屋に残った執事が、ベットの横に置かれていた椅子に座って、ベットに横たわる男の顔を覗き込む。
「旦那さま。ライラお嬢様と、レイネお嬢様は、一所懸命、頑張っておられますよ」
静かな呼吸の音。
全く反応がない男に、執事は溜息をつく。
「旦那さまのおかげで、当家は有望な跡取りを迎えることが出来ました。万が一、旦那さまも、アルフレッド様も、このままお戻りにならなくても、ユーストン伯爵家は何とかなりそうです」
「ただ。お嬢様方には、まだ、保護者である旦那さまが、必要だと思うのです」
「優秀で頑張り屋さんなお嬢様たちなら、立派な跡取りとして当家を盛り立てくれるでしょう」
「だが、やはり、まだ、保護者が必要な年頃です。私では後見人には成れますが、保護者代わりには成れない様です。まだまだ、旦那さまは、必要とされているんですよ」
静かな呼吸の音が、規則正しく繰り返される。
溜息をつく、執事。
「アルフレッド様にも、困ったものです」
執事はそう呟いて、一礼してから退室する。
そして、また。部屋が静寂で満たされる。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
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今回の、おまけの閑話とは別に、番外編としての閑話など、別シリーズも掲載させて頂きました。
よろしければ、そちらの方もお読み頂けると幸いです。
完結とさせて頂いてる此方のお話の方は、再開が未定のままで恐縮ですが、よろしくお願いします。




