なぜか、三人でお茶会に招かれた
王都の邸宅で迎えた五日目の朝、朝食を取りながら本日の予定確認をする場で、私がライラとレイネシアを連れてアイヴァー伯爵家での私的なお茶会に参加する、と執事のトマス氏から通知された。
寝耳に水、という奴だ。
詳細は、私の執務室で説明してくれる、らしい。
トマス氏の瞳が、そう語っている、ように見える。
夜に王家主催のパーティーへ参加した一昨日も、特に予定のなかった昨日も、ほぼ一日中、ユーストン伯爵としての執務を熟すために、この王都にある邸宅の執務室で過ごした。
もはや、食後にこの部屋へと移動するのが習慣と化してしまいそうな兆しすらあるのだが、本日も、朝食後に、当然の如く私は、執務室の奥にある一番立派なデスクへと着席した。
そして、さあ来い書類の山、と仕事を始める体勢を取って、横に控えるトマス氏の方を見る。
「旦那様」
「ああ」
「アイヴァー伯爵家については、どのようにご認識されておられますでしょうか?」
「ん?」
「本日、午後のお茶会にお招き下さった、アイヴァー伯爵家、です」
「お茶会、ねぇ」
「はい」
「普通、お茶会は、女性が女性に招かれるもの、の筈だが?」
「はい。アイヴァー伯爵家のご令嬢から、ライラ様とレイネシア様宛に、招待状が届いております」
「普通、お茶会に男親は同行したりしないものだよね?」
「はい。母親や祖母や叔母などが居れば、そうでございますね」
「私に、アイヴァー伯爵夫人のお相手をせよ、と?」
「いいえ。旦那様には、アイヴァー伯爵のお相手をお願い致します」
「成る程」
「...」
「で、アイヴァー伯爵家について、だったかな?」
「はい。あまり深いお付き合いはございませんが、旦那様のご記憶に残っておられますでしょうか?」
「我が領とは王都がある直轄領とは反対側の北方で隣接する領地を治めている、中堅どころの伯爵家、だな」
「左様です」
「確か、我がユーストン伯爵家以外の周辺領地を治める領主とは、何かと諍いの絶えないお家柄、だったかな。ご当主は、少し難儀で気難しい方だったと思うが、多数の娘さんに恵まれた家庭を大変大切にされている子煩悩な人柄、だとか」
「はい。息子が欲しい、と頑張った結果が五人姉妹、といった逸話もございますが」
「羨ましい話、だね」
「はあ」
「で、そのアイヴァー伯爵からの急で変則的なお茶会のお誘いには、どんな裏の事情があるんだい?」
「いえ。裏事情という程のものではございませんが...」
* * * * *
麗らかな昼下がり。咲き誇る花々を背景に、午後のお茶を楽しむ華やかな娘たち。
うん。うちの娘は、二人とも可愛いな。
と、早くも親ばかモードに突入している、私。
だが、何とか、迷走しそうな思考を引き締めて、少し強引に、目の前の御仁との会話に意識を戻す。
うん。こちらは味気なく地味な光景、だ。が、仕方ない。お仕事、お仕事。
私は、現在、王都のアイヴァー伯爵家の邸宅に、ライラとレイネシアを連れて、お邪魔している。
テラスのテーブルにお茶とお菓子を並べて賑やかに談笑しているアイヴァー伯爵家のお嬢様方とライラとレイネシアを、少し離れた部屋の中から眺めながら、アイヴァー伯爵とアイヴァー伯爵家の執事であるラグラン男爵と、表面上は和やかに、談笑している最中だ。
その話題は、簡単に言うと二点。
一つは、本命。
ライラとレイネシアをユーストン伯爵家に養女として迎えた表向けの事情の、念押し。
ラグラン男爵は、自身の親戚筋から薦められて将来有望で優秀な双子の姉妹を引き取った。
が、アイヴァー伯爵家は、娘には十分に恵まれていたので養女の需要がなかった。
ので、昵懇の仲であったユーストン伯爵家の執事であるトマス氏に、ラグラン男爵が彼女たち二人を連れて相談に訪れた。
のだが、ユーストン伯爵家の領地の街で、ちょっとしたトラブルが発生して双子の姉妹はラグラン男爵と逸れてしまい、その際にユーストン伯爵すなわち私と偶然に出会った。
その結果、ライラと私が意気投合して、とんとん拍子で二人を養女として迎えるという話になった。
という筋書き、だった。
ちなみに、アイヴァー伯爵は真実を知らず、ラグラン男爵とトマス氏はグルである。
もう一つは、目眩まし。
アイヴァー伯爵領からユーストン伯爵領を経由して王都に向かう際の、条件交渉。
まあ、有り体に言うと、色々と便宜を図る代わりにそれなりの利益と役得を求める、といった交渉だ。
勿論、安心感を与えつつもお安く見られる事は無く、友好関係だが主導権はユーストン伯爵家が確実に握っている、といった関係の構築が、トマス氏から課された至上命題なのだが...。
「ユーストン伯爵、お話も終わったので、あちらに移られますかな?」
「いやいや。大変、心惹かれるお申し出だが、娘たちに嫌われたくないので、こちらで大人しくしておきます」
「そうですな。その方が、ご自身のため、です」
「アイヴァー伯爵は、普段から可愛い娘さん達に囲まれているので、あちらへの参加には魅力を感じない、のですね」
「いやいや。娘たちの事は大切にしているが、彼女たちは幼くとも女性だ。男が女性の集団に混じると、碌なことにならない」
「そういうものですか?」
「そういうものだ」
「成る程。ライラとレイネシアであれば、そのような事もないとは思いますが、多くの娘を持つ親の先達であるアイヴァー伯爵からの助言として、心に留めておきます」
「ふん。分かっておられないようですな」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
「いや、分かっておられない。やはり、身をもって知るべき事のようですな」
「...」
「では、ユーストン伯爵。申し訳ないが、娘たちにお茶会のお開きを伝えて頂けませんかな?」
「はあ。構いませんが...」
「娘を持つ親として、良い経験になる、と思いますよ。そうですな、今後とも我が領に便宜を図って下さる事に対する、私からのささやかなお礼、とでもお考え下さい」
「...」
結果的に、アイヴァー伯爵家を訪問した目的は、二つとも、トマス氏に次第点を貰えるレベルで果たすことが出来た、と思う。
ライラとレイネシアも、初めてのお茶会に大満足、のようだ。
更に、私は、娘達との集団戦は、相手に悪意など全く無くとも大変な労力が必要だ、という貴重な経験も得ることも出来た。僥倖、である。
だが、めげない。
娘を百人とまでは言わないが、あと何人かは...いや、まあ、二人でも問題ないし、希望者が居れば、だな。




