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しぶしぶ、夜会に参加する

 私は今、王都の王宮の大広間に、居る。

 キラキラでピカピカの、王宮の大広間では今、王家主催のパーティーが開催されていた。


 私としても、ユーストン伯爵としても、王宮は近寄りたくない場所の筆頭格だ。

 が、拠所無(よんどころな)い事情により、私は、この場へと出向いている。

 ユーストン伯爵家の有能な執事であるトマス氏の判断に、渋々ながらも、同意せざるを得なかったのだ。

 遺憾ながら、昨日(さくじつ)の可愛い養女(むすめ)二人を連れた弾丸お買い物ツアーが、王国の貴族社会に話題を提供してしまったらしく、私の体調不良を理由としてこの夜会に欠席してしまうと、ユーストン伯爵家に不利益が生じる可能性が高い、という判断が下されたのだ。

 まあ、身内の不幸とそれを理由にした長期の引き(こも)りも、状況悪化の背景にあるので、私だけが責められている訳ではないのだが、どちらにせよユーストン伯爵が原因なので、私が責任を取ることに変わりはない。

 大変不本意ではあるが、致し方ない。


 ユーストン伯爵が、王宮に象徴される貴族社会へ忌避感(きひかん)を示すのは、私と一緒で、腹芸が出来ない不器用さも一因のようだ。

 が、ユーストン伯爵家が重きを置く古くからの領地持ち貴族としての価値観と、王宮の内部だけで離合集散を繰り返す宮廷貴族たちの価値観とでは、そりが合わない、という点も大きい。

 先程から、チクチクと嫌味を遠回しな表現で分かり(にく)く言ってきたり、あからさまな嫌味を此方に聞こえるように周辺でこそこそと話してみたり、かと思うと露骨なおべっかを言って来る者が居たりと、うんざりさせられる状況が続いているのは、様々な要因が影響していると頭では理解できるのだが、気分の良いものではない。

 しかも、直接は領地経営に関係のない、貴族としての見栄や自慢話やゴシップネタが表面的な話題となっているので、余計に、真面目な対処を行う気が失せるのだ。

 勿論(もちろん)、他の貴族との人間関係は、自領が不利になる取り決めが為されないよう自衛するために必須な訳で、社交もお仕事である、と納得はしていても気力を振り絞るのは結構な重労働なのだ。

 という事で、(ひと)仕事終えた私は、大広間の(すみ)の目立たない場所で、優雅に(くつろ)ぎながらも少し疲れて物思いに(ふけ)っている(てい)(よそお)い、近寄って来るなというオーラを意図的に放って、休息を取っていた。


「ユーストン伯爵。少し、よろしいかな?」

「...」

 思わず、不機嫌な態度を前面に出してしまいながら、振り返る。

 と、そこには、ユーストン伯爵が個人的にも親しくしているロンズデール伯爵ウィリアム・ラウザーその人と娘のベアトリス嬢が連れ立って、にこやかな笑顔をこちらに向けていた。

「ああ。ウイリアムか...」

「おいおい、しっかりしてくれ。いくら周りに人が居ないとはいえ、気を抜き過ぎだ」

 苦笑いのロンズデール伯爵と、楽しそうな笑顔のベアトリス嬢。

 ユーストン伯爵にとってロンズデール伯爵は、気が置けない間柄であり、幼少時からの長い付き合いだ。そして、義兄でもあり、今は少し顔を合わせ辛い人物、でもある。

 が、勿論、適当にあしらって良い相手ではない。

 グッと下腹に力を入れて、排他モードと疲労感オーラをオフ。シャキッと背筋を伸ばして、スッと立ち上がる。

「ご無沙汰しております。ロンズデール伯爵」

「...」

「ベアトリス嬢も、お久しぶりです。しばらく見ない間に、一段と綺麗になりましたね」

「ありがとうございます。おじ様」

「立ったままでは何ですので、座ってお話しませんか?」

「ああ、そうだな」

「はい」


「元気そうで何よりだ」

「ご心配をおかけしました」

「いや...。私に出来ることがあれば、遠慮なく言ってくれ」

「ありがとうございます」

「おじ様」

「何だい、ベアトリスお嬢様」

「もう。おじ様は、いつまで経っても、子ども扱いするんだから」

「そうかい?」

「そうよ。(わたくし)は、もう十八歳なんですから、淑女として扱って下さいな」

「はいはい。では、どの樹に登られすか? ご希望の樹までエスコートさせて頂きますよ」

「もう! 淑女は、木登りなど致しません!」

「そうだったかな。では、何の証拠隠滅を手伝えばよろしいのですか?」

「え?」

「三歳の時のおねしょ跡の証拠隠滅には失敗しましたけど、今回は頑張りますよ?」

「...」

「ははははは。アルフレッド、それくらいにしておいてやれ。ベアトリスが固まっているじゃないか」

「そうだな。しかし、良い子に育ったね、ベアトリスは」

「ああ、ありがとう。お陰様でな」

「いや、本当に。あのお転婆な元気娘が、こんなに立派なレディに育つんだ。月日が経つのは早いよな」

「ああ、子供の成長は、あっという間だ。...そういえば」

「ん?」

「可愛らしい双子の姉妹を、養女にしたんだって?」

「そ、そうですわ。おじ様、本当ですの?」

「おや。ベアトリスの復活は、意外と早かったね」

「当然ですわ。って、それよりも、双子の姉妹です。ま、まさか、変な趣味に目覚めたのでは無いですわよね?」

「変な趣味?」

「いえ、おじ様に限って、そのような事は無いと信じていますわ」

「ありがとう?」

「で、養女を迎えられた、のですわね?」

「あ、ああ」

「なぜ、また、急に?」

「いや、まあ、急に思い立ってという訳ではないのだが、色々と事情があってね」

「それは、まあ、確かに、色々な事情もあるかとは思いますが...」

「うん。まあ、簡単に言うと、将来有望な人材が(くす)ぶっていたので少しお節介をしてみた、といった感じかな」

「ほう。そんなに優秀なのか?」

「何が優秀なのですか?」

「二人とも、かい?」

「双子の持つ特殊技能???」

「あ、いや、特殊な技能や特別な才能がある訳ではないよ」

「あら、そうなんですの?」

「でも、跡取り候補としての養女、なんだな?」

「あ、ああ。まあ、そうだな」

「まさか、本当に(たぶら)かされて...」

「おいおい。彼女たちは、何歳だい?」

「ん? ああ、十二歳だよ」

「やっぱり、幼女趣味に...」

「こらこら。で、養女として迎えることにした一番の理由は何だい?」

「う~ん。難しい質問、だね。彼女たちに会えば、君たちも納得してくれると思うんだけど」

「そうなんだ?」

「ああ。勿論、優秀なんだが、見ていて飽きない面白い子供達、だよ」


 結局、王宮の夜会は、軽く一通りの挨拶を済ませた後で、隅っこに引っ込んで、ロンズデール伯爵とその愛娘(まなむすめ)であるベアトリスを相手に雑談に明け暮れて時間を潰してから、サッサと引き上げてしまった。

 まあ、トマス氏からの要求は参加すること、だったので、問題なし。

 私も、多少は不快な思いをしたものの、特に目立つことなく役目を終えて、一安心。

 私にとっても、王都にある王宮は、同じく王都にある学園と同様に、鬼門、なのだ。

 なぜなら、現実世界での娘がプレイしていた乙女ゲーの主要な舞台であり、何やら胡散(うさん)臭くてキナ臭い事件が起きそうな場所、だから。

 という事で、君子危うき近寄らず、ではないが、まかり間違っても現実世界の娘とかち合うことが無いように、今後も極力、王宮には近寄らないでおこう、と改めて硬く決意したのだった。


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