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その1

俺は無口で人見知りで引っ込み思案な性格で、おまけに正真正銘のオタクだ。

マンガが好きでアニメが好きで、昔の作品から最新のものまで幅広くチェックしてるし、外に出るよりも家にこもってビデオを観たりゲームをしてる方が性に合ってる。

我ながら、一歩間違えれば引きこもりになっていてもおかしくなかったと思う。

服装だって、普段はとても地味な格好をしている。秋葉原で宝探しをする時はそっちの方が目立たないし、俺自身も落ち着く。革ジャンに袖を通すのはステージに立つ時だけだ。髪の毛の色は帽子で隠している。

女の子の前に出るといまだに緊張する。上手にしゃべれないし、女性と付き合うなんてもっての外だ。だいいち、オタク趣味を理解してもらわないとならない。

いまだに実家暮らしで、当分は家を出るつもりもない。

どっちが本当の俺なのかは俺にも分からない。たぶん、どっちも本当なんだろう。

とにかく、オタクな俺は一方ではパンクが好きで、ベースを弾いていて、パンク・バンドに入っていて、そのバンドは「高円寺のパンク」といえば真っ先に名前が挙がる存在になってしまった。

人は俺のことをこう呼ぶ。

“「ズギューン!」で一番地味なやつ”と。

今日はそんな俺、ジャッキーがなぜ「ズギューン!」の一員になったのかを聞いてほしい。


初めてベースに触ったのは高校生の時だった。

正直に言えば、その時に聴いていたのはパンクじゃなくてハード・ロックだ。

当時の俺は中学からの友人に薦められたバンドを何でも受け入れて聴いていた。

龍二君は高校に入ってすぐ洋楽に目覚めた。そしてハード・ロックの名盤を次々と俺に紹介してきた。

特に音楽の趣味というものがなかった俺は、そのままそれを受け入れた。

「俺、ギター弾くからよ。お前ベースな。」

そう言われて、俺はアルバイトで貯めた金を持って楽器屋に行った。欲しいと思っていたベースの金額を一桁間違えていて、いわゆる「モデル」タイプになってしまったけど。

有名バンドのスコア本を一緒に買って家に持ち帰り、いざ弾いてみると…すぐに問題にぶち当たった。

龍二君が指定してきたバンドの曲は、どれも難しすぎたんだ。初心者の俺に到底弾きこなせるものではなかった。

そのことを龍二君に話すと「じゃあ、とりあえずパンクでも弾いてみれば」と言われ、有名なパンク・バンドをいくつか教えてもらった。

そう、俺がパンクを聴き始めた最初の動機は「ベースラインが簡単だから」。

実際、ハード・ロックに比べればパンクの曲は比較的弾きやすかった。30ワットの自宅用アンプのボリュームをさらに絞って、俺は毎日パンクの曲を弾き続けた。

そして、そのうちにパンクにどっぷりと浸かってしまった。

パンクの何が好きなのかは、今でも明確には分からない。ただ、ハード・ロックと比べるとパンクの方が俺には生々しく、聴いていて心が「ざわざわと」うごめく感じがする。その感じがとても好きだった。

ある程度パンクの曲なら弾ける、と自信がついたところで、俺は龍二君に「バンドどうするの」と聞いた。

すると、龍二君は事もなげに「あ~わりーわりー、他のベースを見つけた」と答えた。

聞くと、他校の先輩でベースの上手な人が入ってくれることになったそうだ。

少しガッカリしたけど、でもまあ、正直に言えば人前で演奏するのは考えただけでも緊張するし、ベースを弾くことは楽しいから、今のままで十分かも。俺は龍二君に「分かった」とだけ言った。

そして高校を卒業し大学に入り、龍二君も俺の前からいなくなった。大学には軽音楽部もバンド・サークルもあったけど「入りたい」という勇気も欲求もなく、俺はオタク業のかたわら自宅で「趣味として」ベースを弾き続けていた。


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