第24話卑弥呼、モダンに迷い込むの巻 〜神託は珈琲のあとで〜
「さぁて、どうしたものやらのう……」
気がつけば大正の街角。
卑弥呼、降臨。しかもやや戸惑い気味。
鏡のごとく輝くショーウィンドウを覗き込み、「これが神の器か?」と首をひねる。
――いや、それは蓄音機。
くるくる回って、恋の歌を量産中。
絹ではなくレースをまとった令嬢たちが、珈琲の香りの中で未来をぐるぐるかき混ぜている。
卑弥呼、そっとカップを持ち上げ、ひと口。
「……苦い。だが、これは占いに使えそうじゃ」
なにやら応用が効くご様子。
紫煙ゆらぐ喫茶店。文士は難しい顔で恋をこじらせ、画学生は色彩に溺れてバタフライ。
その隅っこで、巫女ひとり。
静かに、しかししっかり神託待機中。
やがて彼女は気づく――
神の声は、天の上だけにあるのではない。
タイプライターのカタカタ、
路面電車のギシギシ、
失恋した詩のスキマにも、ちゃっかり潜んでおる。
「ほう……ならばこの時代、いけるぞ」
妙に手応えを感じる卑弥呼。
モダンガールにまじって歩き出し、羽織の代わりにボレロをひらり。
過去と未来の境界線を、まるで石けん玉でもまたぐように軽やかに越えていく。
占いは当たるのか?
それは、まあ、神のみぞ知る。
(本人もわりとフィーリング派)
だが、ひとつだけ確かなことがある――
この街のロマン、ちょっとだけ神がかって見えるのだ。
そして今夜もどこかで、彼女は珈琲片手に微笑む。
「時代とは……なかなか粋な神であるな」
などと言いながら、次はケーキも頼もうかと、ひそかに悩んでいる卑弥呼であった。




