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 レコルナスに着いて、出入りをチェックしている門の前の列に並ぶ。


 ここで騒いでも早くなったりはしない。おとなしく並んで待つのが一番早く入れる方法だ。


 一瞬、塀を越えればいい、と考えがよぎったが。

 街全体を敵に回して追われていては、ロザリンのところまで辿り着けない。

 さすがにその人数は今の魔力量では躱せない。


 そう自分に言い聞かせ、待つ。

 悪いことばかりじゃない。待てば待つほど魔力は回復する。


 今のところ半分くらいまでは回復してきている。


「あっ。アルフレートさん!」


 十組ほど先にディランくんの姿が見えた。

 周囲にいるのは彼のパーティか。


「こっちこっち! やっと追いついてきたんだな!」


 そう言いながら、「来い」と仕草で伝えてくる。

 戸惑っているとディランくんはパーティから離れ、私の近くに来た。

 今度は仕草で「耳をかせ」と伝えてくる。


「なんかわかんねえけどすっげえ急いでんだろ? ほんとはまずいんだろうけど、俺らのパーティに入ってたことにして入っちまえよ」

「…感謝する」 


 いつか絶対何か礼をしよう。

 ディランくんの助けは数分の時間を省けた。


 街の中に入り、ロザリンちゃんに持たせた護身用魔道具の魔力結晶の位置を探る。

 魔力を節約するため、まずは方角とざっくりした距離だけ。


 中央商業区の端の方か。


 普段なら街中ではポチさんに乗ったりはしないのだけど、今は緊急時である。時間が惜しい。


 人混みを避け最短で辿り着くため、私たちは魔法で足場を作って屋根まで駆け上がり、そこから目的地まで一直線に駆けた。


 魔力結晶の反応はみるみる近づいてくる。


 なぜか今日はやたらとこの近辺に冒険者が多い。何かを探している?

 もしかしたら銀麦亭のご主人が何か手配してくれたのかもしれない。


 どこだ。


 魔力の反応のある場所をあらためて探す。

 

 あそこだ。見つけた。

 あの古い倉庫か。


 付近に降りてから内部を魔法で探る。


 大人1人分の反応がある。

 1人だけ。他には何もいない。


 ロザリンちゃんだ!!

 倉庫内にはロザリンちゃんだけ。突入する前に罠の有無を確認。無し!

 魔法で解錠し、扉を押し開け、侵入した。


「ロザリン!!」

「アル……!」


 声の返ってきたほうを見れば、手足を縛られただけのロザリンちゃんの姿があった。

 それを見たら、途端に力が抜けてしまいそうなほど安堵したのだった。


 手足の縄を解いてロザリンちゃんを抱きしめる。

 ロザリンちゃんだ。


「い、生きてて、よかったぁぁ…」

「アルぅ…」


 抱きついてくるロザリンちゃんは柔らかいしあったかい。

 探査してみても、手足の若干の赤み以外、傷らしいものは無い。


「ロザリンちゃん」

「ロザリン、でしょう?」


 つい頭に血がのぼって以前の呼び方に戻っていたのを指摘された。


「そうでした」

「ひとまず、出ましょう」

「うん」

「ほら行くわよ」

「うん」


 ロザリンの声が聞けるだけで満たされていく。

 急いで倉庫から出て、私たちは銀麦亭へ戻ったのだった。









「ロザリンさん!」

「ゾフィさん…ブルーノさん…ごめんなさい」


 ロザリンは銀麦亭に戻るなり、ゾフィさんとご主人に謝った。


「何を言ってるの!あなたは何も悪くないでしょう!…ぁあ!無事でよかったわ!」


 どうやら、いつもの中央商業区のパン屋までお使いに出たものの、パン屋を出たところで子どもとぶつかったのだとか。

 その後の記憶がない、という。

 なんらかの魔道具でも使われたんだろうな。


「今日はもう休んで。ギルドと保安部への連絡は、こっちでしておくから!」


 気を揉んでいたらしいゾフィさんに促され、私とロザリンは部屋へと帰った。

 その際、ちゃんとそばにいるのよ、とゾフィさんに念押しされた。

 もちろんですとも!


「ロザリン、赤い跡のほか、何か、嫌なこととか、されていないよね?」


 服も今すぐ綺麗にしてやりたいところだけれど、事情を聞いてからじゃないと証拠保全の観点からもしてやれない。クローゼットからロザリンの部屋着を取り出し、手渡した。

 探査した限りでは何の傷もなかったけれど、聞かずにいられない。

 着替えをガン見するわけにもいかないので、そっと後ろを向いて待った。


「ええ。大丈夫よ。…ちょっと触られただけだから」


 それを聞いて、私はその場に崩れ落ちた。


「…よかったよぉぉぉ…。ごめんねロザリン〜」


 着替え終わったロザリンが抱きついてきたので、ぎゅうっと抱きしめる。

 護身用魔道具が、一瞬で意識を刈られた場合に意図通りには反応しない、ってのは盲点だったとしか言えない。私の落ち度である。


 あれ?そういえば魔道具といえば…。触られたのに反応しなかったの?


「ロザリン、魔道具盗られちゃった? でも倉庫内に反応あったよね。置いてきちゃった? あれ? 違うな、持ってる…?」


 首元を見ても、あの魔道具のチェーンが掛かっていないのだ。


「もちろん持ってるわよ」


 そう言ったロザリンは、その豊かな胸元に指を突っ込んで、スルスルとそれを引っ張り出した。

 まさかの収納場所だった。


 ロザリンに聞いたところによると、あの時点で魔道具はロザリンの生命線だったため、取られないためにあえて発動させないようにしたのだそうだ。

 どうやったのか私にはいまいちピンとこないのだけど。

 お胸に収納されていたのもその一環なのだそうだ。

 それでも触られたのはけしからんな。


「アル。助けてくれてありがとう」

「こちらこそ無事でいてくれてありがとう〜」





***





 クソっ。

 あの女、どうやって逃げやがったんだ!?


 夕方の勤務でギルドに出勤してみれば、銀麦亭の女従業員が行方不明になり、緊急依頼が出され、それも既に解決したという。

 焦燥に駆られるが、抜け出すわけにもいかず、確認に行くこともできない。


「銀麦亭のすっげえオッパイの子、見つかったらしいぜ。怪我もなく無事だってよ」

「俺ら以外にも保安部も動いてたしなぁ。でも解決してよかったぜ」

「犯人は見つかってないらしいぞ。キャサリンちゃんが次に狙われやしないか心配だし、食事にでも誘ってみるかな」

「バーカ。キャサリンは受付嬢だぞ?返り討ちだろ」


 軽口を叩き合っている冒険者たち。ふざけた会話だ。

 あの倉庫から、どうやって出た。

 倉庫に、何か俺につながるものを置いてきていなかっただろうか。

 あの女に俺の正体は明かしていない、はずだ。

 どこまで知られている?

 あの子どもはどうした?

 子どもから辿られる可能性はあるだろうか。

 まだ、俺に辿り着いてはいないはず。

 本当に?


 仕事が終わり次第、確かめなくては。

 

 鍵は掛け忘れてなどいなかった筈だ。

 手足は縛ったのだから動けないはずだったし、あの倉庫からは音も漏れにくかったはずなのに。

 子どもは口封じするべきか?

 あの女にも顔は見られていた。


 考えが、まとまらない。

 今夜は時計の針が進むのが異様に遅かった。








 ギルドの業務を終えて、すぐに中央商業区へ向かった。

 このあたりは冒険者の多い第二商業区や夜の街である第三商業区とは違い、夜になれば閉まる店ばかりだ。


 昼間のあのパン屋も閉まっている。


 まるで寝静まったかのような街から路地裏に入り、そして目的の倉庫へ。


 周囲には誰もいないようだ。人の気配は、無い。


「鍵…閉まってんな…」


 針金で解錠し、重い扉を開けて中へ入る。


 昼間は屋根などのすき間から陽光が漏れていて多少明るかったが、今はそれもなく真っ暗だった。


 あまり得意ではないが、灯りの魔法を使った。

 女を縛って置いておいた場所には、埃のない部分があり、確かにここに女がいたことを示している。

 特に落としていた私物などは無いようだった。


 少し、息をするのが楽になった気がした。


 よし。大丈夫。まだ大丈夫だ。


 なんとなく、床に触れる。


 その時耳元で鳴った、カチャリ、と軽い金属音に総毛立った。


 空気が、重いのだ。

 まるで泥がまとわりついているような、息苦しさを感じた。


 息が詰まる。

 振り向いたら、いや、動いたら死ぬ。


 まるで話に聞いた、竜種のような。

 そう感じさせる、異質で濃密な気配だった。


「やあ。犯人さん」


 それはいつか、どこかで聞いた声だった。





***





 なぜか声を掛けた途端にその場に倒れてしまった、推定?犯人氏。

 困った。

 保安部の詰所までご同行いただこうと思ったのに、倒れられてしまっては予定が狂う。


 高手小手縛りで腕を縛ってから、どうにかポチさんの背に乗せ、保安部に報告にうかがった。


 昼間は婚約者を慰めていて来れなかった、といった体で、なんとか来れるようになった今になって報告に来たように装って。


 そしてこの男を、侵入方法についてのお話も含め、婚約者を発見した場所に居た不審者としてお届けした。


 今後保安部のみなさんが根掘り葉掘りきっちり取り調べてくれることだろう。


「今日は本当にお世話になりました。おかげさまで無事に彼女も無傷で見つかり、こちらの保安部の皆さんのご協力、感謝に堪えません。こちら、皆さんでどうぞ」


 お礼です、とちょっといいお酒を手渡す。

 これが汚い大人のやり方です。

 ふふん。


 心証というのは大切にしておくと、なにかと良いことが起きるのだ。


「協力が必要な際はお申し付けください。私、ランクB冒険者のアルフレートと申します。いつも銀麦亭を定宿にしておりますので、何かありましたらいつでもお声がけ下さいね」


 名刺よろしくギルドカードを見せ、まるでビジネス会話のように自己紹介をする。

 推定犯人氏はこうして無事、保安部へ納品されましたとさ。


 ふう。

 一人は不安かもしれないと思いロザリンが眠るまでついていたけれど、間に合ってよかった。


 あと少し遅ければ遭遇しなかったかもしれない。


 もしかしたらロザリンが夜中に起きてしまうかもしれないので、早く戻りたかった。


 銀麦亭に戻ってからゾフィさん達にあらましを伝えてから、自室へ戻る。


 なんだか今日は疲れたよ…。


 めんどくさいので装備ごと自分を魔法で丸洗いしてから、装備をぽいぽいっと投げ捨てて、静かにベッドに潜り込んで。


『おやすみ、ロザリン』


 ロザリンの頬にそっとキスをした。

 

 




これで第三章は終了となります。

明日、第四章開始予定です。



…50話、へんなとこで切ってごめんなさいぃぃぃ。

すまんかった。

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― 新着の感想 ―
久々のヒット小説!!! 一気に読んでしまいました! ロザリンちゃん無事に救出出来てよかった~ もっと犯人ギッタギタのボッコボコにしても良いのに! 続き楽しみにしおります これはコミカライズ化する小説…
凄く面白い! 毎朝読むのが楽しみです!
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