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依頼で請けた一角狼を五匹狩ったはいいものの、解体が苦手な私、アルフレートです。
どこをどうすればいいかオロオロするだけでどうにもできなくなっちゃうんだよね。
ライリーとフェイのスルスルと刃が入っていっちゃう魔法みたいなナイフ捌きに惚れ惚れしちゃうよ。
以前実際に魔法でやれば私でもイケんじゃね?とか思ってやってみたら魔法でも無理だったけど。
魔法みたいなだけで魔法じゃないんだねと納得したわけよ。
今回紹介された仕事は、損傷の少ない一匹を解体せずに持ってくること、という少し変わった依頼だった。
貴族か金持ちが剥製にでもするんだろうか?
解体無し、というトコが実に私向けである。
キャサリンちゃんの私に対する理解度すごい。
あまりに技術が拙いせいで私が手を出すと素材の価値が下がるので現在の私はパーティメンバーから解体を禁止されているのだ。
お魚程度なら私にも上手く捌けるんだけどなあ。鮭くらいまでなら。
まぁそういうわけで今現在の私は解体する二人の雑用係なのである。
「アルフレート、水をくれ」
「はーい」
空気中の水分子を集めて気体から液体へ変換、仮の器として空中に作成した目に見えない器に溜めていく。量はとりあえず十リッターくらいにしておこう。
「ここに」
「わかったー」
「アルフさん、こっちにもお願いします」
「はいはーい」
周囲に魔物避けの結界張りつつ水をかけるだけの簡単なお仕事しかしてないのが、私のぶんまで解体作業をしている二人に申し訳ない。
完全に年下に甘えきってるという事実が時々心に突き刺さるけど、ひとには向き不向きというものがあるのだ。
申し訳無さ過ぎて、お仕事終えた二人のために椅子とテーブルと冷えた飲み物などのおもてなしセットを用意せずには居られなかった。
お疲れ様。くつろいでくれたまえ。
まずは手を洗ってね。
魔法で水球を二つ用意し、水流を起こして手の汚れを取り去ってから、そのへんに捨てた。
「何も無い草原にテーブルセットって違和感すごいですね…」
言われてみればそうだね。私も今そう思ったところだよ。
こんな場所でこんなことが出来るのは、冒険者御用達便利グッズのマジックバッグのおかげです。
見た目の何倍もの荷物をいろいろいっぱい入れられて便利。しかも私のは自慢の特別製だからね!
マジックバッグは魔道具工房で制作販売されているんだけど性能はピンキリらしい。
私のは……容量はよくわかんない。
とりあえず全財産一切合切を突っ込んであるものの、私個人の持ち物の量なんてたかが知れている。全部詰めても満杯になったりしないので限界が解らないんだよ。
「こんなものまで入れることは無いんじゃないか?」
「前から思ってたんですけど、アルフレートさんのマジックバッグって、容量すごいですよね。どこの工房製ですか?」
「私のはハンドメイドだよ。いろいろ入れておけばいざというとき困らないでしょう?」
ワンオフです。
いやぁ、コレ縫うの苦労したんだよ。
この世界、まだミシンみたいな道具は高額だし巨大だからそれだけのために買うのもどうかと思って私が一針一針ちくちく手縫いで縫ったんですよ。
だって工房に頼むと時間もお金もかかるし自分好みの形や色にするなら自分で作ったほうが早いじゃない?
ハンクラ大好きなんだよ。
齊藤朱里はレザークラフトにも手を出していたから、ある程度革の扱いもわかったし素人なりに良い出来になった。
「自分で作ったんですか!?」
「私、手芸は得意なんだよ」
ふふん。褒めてくれてもいいんだよ。そう思いながら腰のベルトから取り外して見せる。
手持ちにあった適当なハギレで作ったから外見は小さめ。
「これ…白竜の革…?」
「うん。コートとグローブ作ったときの余りの素材だよ」
開けて中からダッチビスケットを取り出す。お気に入りの店で買ってあったものだ。
お茶菓子にもちょうどいいし美味しいからとりあえず食べたまえ。
「な、なんて無駄に耐久性と防御力の高いマジックバッグ…」
「素人のハンドクラフトって、つい材料費とか手間とか採算度外視しちゃうよね」
このマジックバッグを作るときは盛大に採算度外視で機能も特盛りに盛ったね。
空間歪める魔法を掛けるために魔力をすべて出し尽くしちゃったせいで、丸三日はベッドから動くことすらできず難儀したし仕事にならなかった。四日目から何とか、完全に回復したのは五日目だった。コレ作るために四日も無収入ですよ。
頑張ったのは容量もだけど、経年劣化の予防に、時の流れが遅くなるように調整してみたり。
「マジックバッグって個人で作れるものなの…?」
「工房では作ってるんだから頑張れば作れるでしょ?」
「製法が特殊で工房それぞれが秘匿しているのではなかったか?」
「そこは魔力に物を言わせて無理やりに…」
工房とかならきっと無駄のない効率的な作成方法とかがあると思うけどね。
素人なので種族特性である膨大な魔力に頼ったんだ。
「なるほど。アルフさんだからってことですね」
「そのようだな」
二人で頷き合って何かを共有してる。私も仲間に入れてほしい。
「これ美味いな」
「どこのお店のですか?」
「んー、5年前の祭りで広場に出てた露店。そこの店主、2年くらい前から3番街でバーを経営してるみたいだよ」
「マジックバッグまでエルフ時間なんですか…」
「エルフ時間って何。バッグの中身の劣化を遅らせる工夫をしただけだよ」
アルフさんだからってことですね、とまた言われた。解せぬ。
ゆっくりお茶してからライリーとフェイが捌いてくれた狼を持ってギルドへ報告に行ったら、もう遅い午後というのかな?
午後三時くらいの感覚なんだけど…そんな時間だった。
夕方のギルド建屋内は各々依頼完了の報告をする冒険者たちでごったがえしてた。
ライリーとフェイが言うにはまだまだこんなもんじゃないそうだけど、充分混んでるよ。
活気があって、騒がしくて、妙にテンションが上がるのは私だけだろうか。
「次のかたー」
「んなっ!まだ話は終わってねえだろ!?」
「終わりです。意味のない時間外業務は行いません。次のかたー」
「飲みに行こうって言ってるだけだろ!」
「メリットが無い。顔を洗って出直しやがってください。次のかたー」
「なっ!?」
わぁ。流石キャサリンちゃん大人気。
しつこいお客さまへの毒吐きモードのつれない塩対応がたまらないです。太刀筋鮮やかでぞくぞくします。
いつもならその面白いやり取りをしばらく眺めるのだけど、今日はお腹がすいたので待ってられない。
これ以上引き延ばすようなら私も介入するからね。
私のお腹はさっきから切なくきゅるきゅる鳴き始めてる。
これ以上は待てんぞ。
「後ろの残念エルフがそろそろ良からぬことを考えはじめますので早めに退いてください」
うっぷす。
彼の怒りの矛先を私にスライドしようとしてるね?
「もう依頼達成されたんですね。さすが実力ならAランクと言われているだけのことはありますね」
そして怒りの矛先がキャサリンちゃんから私へスライドしたところで私のランクを匂わせ攻撃を封殺しでっかい釘をパイルバンカーのごとく撃ち込んで彼の怒りそのものを強引に圧し潰すというフォロー。
その手際の良さが恐ろしいです。
ご機嫌を損ねたときのキャサリンちゃんは最初は毒を吐く程度だが、深追いし過ぎると心を折りに掛かってくる。
彼女は非常に人を見る目がある。
なにせ私のことも残念エルフと呼んでるくらいだからね!
完全に中身が大したこと無いのがバレている。
その目で的確に相手が気にしていること等の精神的急所を見抜き、そして貫くのだ。貫いてさらに抉り取るのだ。場合によっては「明日も頑張ろう」という気力を根こそぎ刈り取っていくのだ。
「なお、窓口業務を行うギルド職員はCランク相当以上の武力を有することが就業条件となっております。そのお年で武力に於いて受付嬢に劣るようでは…ねぇ?」
…おぉう惨い。
繰り出されるあまりにも鋭い追撃に慄いてしまうよ。
なんとなく、ひゅんってなった。どこがとは言わないけど。
ライリーとフェイは引き攣った笑みを顔に貼り付けている。
きっと私も似たような表情をしているんだろうね。
「アルフレートさん。唯一の取り柄の顔を直してください」
「キャサリンちゃん酷い。私にも手芸が得意とか別の取り柄だってあるよ!でも顔を褒めてくれてありがとう?」
「魔法が得意とかより先に手芸を挙げるあたり、本当にあなたは残念ですね」
酷いよキャサリンちゃん。
そしてライリー、フェイ、なんでそこで頷くの!?
「酷くない!?まぁいいけど!」
「今日請けた依頼の一角狼の納品に来ました」
「アルフレート」
「はいはい」
ライリーに促され、昼間の無傷な一角狼をマジックバッグから出す。
「……出来る限り傷のない状態の一角狼。…確かに確認しました」
じっくりあらゆる角度から一角狼の観察をしてから、キャサリンちゃんは満足そうに微笑んだ。
「損傷が一切ありませんね。参考までにお聞きしますが、どのように仕留めたのですか?」
「軽く殴って気絶させてから魔法で冷やしただけだよ」
動物ってのは体温が下がるだけで不調になるし下がり過ぎれば死んじゃう。
確か人間なら体内の温度が35℃まで下がると低体温症になって、30℃まで下がると意識を失うんじゃなかったかな。昔テレビで見た気がする。
なお、「凍結」まではさせていない。
体の温度を下げただけだ。
これは凍らせてしまうと細胞内の水分の膨張で細胞が壊れるだろうから「出来る限りいい状態」を保とうとしたら冷凍より冷蔵と考えたせい。
スーパーの売り場でトレイに並んだお肉のドリップを思い浮かべたからなのだけど。
「拳闘士のライリーさんが?」
「いや、この個体は私が。ライリーが殴ったのは拉げたから駄目かなと思って…」
「…なぜ最初から魔法で攻撃するのではなく殴ろうと思ったのですか?」
「チョロチョロ動かれると魔法が当て難いと思ったからかな?」
なんだか今また、「残念エルフ」って思われてる気配がするよ。
コントロールが悪いのか、私は小規模な魔法をマトに当てるのが苦手なんだよ。
狼って小さいし。なかなか当たんない。
「他に四匹仕留めてそっちは解体してあるんだけど」
「解体はアルフレートさんも?」
「一切してません」
「なら引き取ります」
「酷い!」
そう言われたくなくば最低限人並みの技術を身に着けて下さい、と締め括られ、報酬を受け取って私達はギルドをあとにした。




