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「アルフレート、相談というか報告がある」


 レコルナス祭も終わり、これから冬支度が始まるといった頃。

 夕食後にまったりと過ごしていたところ、ルドルフが訪ねてきた。


「相談? 報告?」

「ああ。ギルドから依頼っつーか、打診があってな」


 その一言だけで嫌な予感がするよ…!


「あんまり聞きたくないけど、まあこんなとこで立ち話もなんだから、入りなよ。散らかってるけど」

「おう。邪魔するぞ…いやほんとに散らかってんな!?」


 部屋の惨状に対する遠慮ない感想なんだろうけど、酷くない?


「ちょっと魔道具をね」


 新居で使う魔道具を準備していたんだけど、今日はちょぉぉっと広範囲に材料や道具を置いてしまっていた。

 いいじゃないか、終わったらきっちり片付けるんだから。


「とりあえず、座ったら? お茶くらい出すわよ」


 ロザリンが普段私が座ってる席を勧める。

 歩きにくくしててすまんね。


「で? 何だって?」


 一応作業の手を止めて、真面目に聞く。


「ああ。ギルドから火炎結晶の森のダンジョン攻略を打診されたんだが……」

「ふぅん?」

「十七階層から先の攻略を、再開してほしいらしい」

「えっ。やだ。なんで? もうすぐ冬じゃん」


 基本的に冬は休みたいよ。春まであったかい部屋で何か作って遊んでいたい。


「冬前だから、だとさ。祭りもあったが、それ以前に黒竜二頭が出たことで十五層以降の攻略に臨むパーティが減ったらしい」


 理由がごもっとも過ぎる。


「ぅぐう」


 ダンジョンって、攻略を続けてないと魔物が溢れ出す『スタンピード』って現象が起きることがあるんだよね。

 一匹単位では出てこれないくせに不思議現象である。

 ポチさんが消えちゃう、と大騒ぎして恥を晒した身としては解せない。

 最奥に置いてあるでっかい魔石を壊したり取ってくるとそのダンジョンは魔物も発生しなくなるんだそうだ。

 魔石まで到達できていないダンジョンは放置せず時々ガス抜きをしてやらなきゃならないらしいんだけど…。


「ダンジョンって、めっちゃ人行ってるんじゃなかったの?」

「だから浅い層にしか居ねえのが問題なんだろ」

「うー…ん。一番手と二番手パーティどうしたの」


 ウチより上位パーティ居たでしょ。


「二番手が王都に拠点移した。もうウチが二番手らしいぞ」

「マジか」


 なにそれ聞いてない…。


「い、一番手は…?」

「既に潜ってる」


 レコルナスにあんまり高ランク冒険者イナイ問題がこんなところで…。


「……うわーん。ロザリン! ルドルフが私をダンジョンなんかで働かせようとするよー」


 紅茶を入れたカップをトレイに乗せて持ってきたロザリンに泣きつく。


「真冬になってから行けって言われるより、いいんじゃないかしら?」


 正論だ…。

 ……確かに寒波が来てから飛竜に乗るとか、凍死しそう。あそこまで馬車や徒歩なんてもってのほかだ。


 飛竜に乗ってる間は、一部の魔法を使わないよう言われているし。

 前に飛竜に乗った時、掴まる腕がキツくなってきたときにちょっと身体強化を使ったら「飛竜の気が散るので自分の強化をする系統の魔法はやめてやってくれ」とセオドアに頼まれた。


 飛竜、意外と繊細だ。


「…ぅぬうう。ダンジョンかぁぁ…」


 しかたねえなぁー…。

 駄々こねたって結局行かざるを得ないのはわかってるんだよ。

 わかってるけど、嫌なものは嫌と主張だけはさせて欲しい。


「……目標は?」

「最低でも深層の状況確認と魔物の間引き。できりゃ先へ進んで地図を取る」


 うーん。


「…ロザリン」

「大丈夫よ。いってらっしゃい」


 あのときの反省を活かし、今度は更に防御体制を充実させよう。


「…行ってきます。…ね、ルドルフ。いつから行くの?」

「明後日だな」

「わかった」


 その後、出発時間なんかを軽く打ち合わせて、ルドルフは帰っていった。

 なんだかやる気をなくして、キリのいいところまで作業したあと、作りかけの魔道具や材料など諸々を仕舞った。


「……ね、ロザリン」

「アル。私なら大丈夫よ?」

「でも」

「大丈夫なように、したでしょう?」


 そうなんだけどね。

 ちょっと尾を引いてるよ。


「あと何をつけたら安心してくれるのかしら?」




*




 明日から、またダンジョンへ行くことになった。

 今日はその準備ということで、僕は午後からちょっと買い物に来ていた。

 とはいえ、ウチのパーティにはアルフさんが居るので個人で準備するものなんてたかが知れているのだけど。


 せいぜい万が一はぐれてしまったときに一人で生き抜いて帰れるだけの準備さえあればいい。


 基本の堅パンと干し肉、それから干し果実とナッツ。

 僕の場合は多少魔法も使えるので荷物更に少ない。

 前回みたいに竜種が出たりしなければ、だいたいなんとかなる、はず。


 ちなみに当のアルフさんは、午前中に銀麦亭の厨房を借りて食事の準備をしていた。

 任せきりなのでちょっと申し訳ないなとは思うのだけど、とても美味しいので楽しみでもある。


 必要なものを買い集めたあとは、せっかく買い物に出てきたのだからいろいろついで買いしようと思った。

 向かったのは書店の多いあたり。

 なにか目新しいものはないか、とつい見てしまう。


 店先の目立つ位置に置かれていたのは、冒険者ギルド監修の料理店紹介冊子だった。

 アルフさんとリーダーが関わっていた新人講習の副産物らしい。


 薄暗い店内に入って、棚を端から眺めた。

 あれは、昨年発表された火炎系魔法理論の資料…!

 買い逃がしていたので、迷うことなく購入を決めた。


 ダンジョンから戻ったらゆっくり読もう。

 そう思いながら、大切に本を抱えて書店を出た。


 書店から出たところで偶然、アルフさんに会った。

 アルフさんも午後から買い物に出てきていたらしい。


 いつもならその名工が造った彫像か人形のような見た目は人の目を惹き付けるはずなのだけど、弱めに認識阻害の魔法を使っているらしく誰もアルフさんには気づいていない。


 僕が気付いたのは認識阻害は弱めに掛けると知り合いにはあまり効かないからだ。

 いかにも冒険者な装備でもなく何処にでもいそうな一般庶民な服装のせいで意外と周囲に馴染んでる。


 あちらも僕と同じく、別の書店から出てきたところだった。


 日常的に本を読む人は冒険者には少ないらしいのだけど、アルフさんも僕もわりと本を読む方だ。

 野営の時なんかにアルフさんが静かに読んでる姿もよく見かけるし。


 ちなみにそういうときに周囲に張り巡らせている索敵と、何かあれば初撃を入れて時間を稼ぐための魔法は本当に見事だ。さすがだと見惚れる。


 話を戻そう。アルフさんは読んでる本の系統もその時々で学術研究書だったり伝記だったり図鑑だったり物語だったり旅行記だったり、時には大人向けな本だったり、ジャンルに拘りは全くと言って良い程ないみたいで本当に興味の方向が幅広い人なんだなと思う。


「アルフさん」

「ふぇ、フェイ!?」


 何気なく声を掛けると何か慌てたようにぎこちなく応えてくる。


 うわぁ。失敗した。


 この人アレだ。多分人に言いたくないジャンルの本を買った直後だ。

 それを物語るようにアルフさんはものすごく気まずそうに買ったものをマジックバッグに隠した。


「なんか、そんなときに声掛けてすみません…」

「ううう。なんでわかるの…。気を使わせてごめんなさいぃぃ」


 恥ずかしそうに耳の先まで朱くしながら目を泳がせたアルフさんが僕に謝る。


「アハハ。何か掘り出し物でも?」

「画集と物語を少々…って言わせないでよ」


 笑って済ますべきだろうと少し戯けた調子で聞いてやれば、アルフさんも調子を合わせてきた。


「こんなところで知り合いに会うとは思わなかったよ」

「僕もです。僕はこれから銀麦亭に戻る予定なんですけど、アルフさんは?」

「本屋行ったら直帰するものだよね?」


 爽やかに言い放ってるけどあなたが買ったのって…。


「じゃ、一緒に帰る?」

「そうしますか」

「ところでフェイは何買ったの?」

「昨年発表された火炎系魔法理論の資料です。いやあ、入手しそこねてたんで大収穫でした」

「そんなお硬い本を。………余計に私が恥ずかしいじゃないか」

「アルフさん、同室に婚約者が居るのにそんなの要るんですか?」


 普段、そういう系統の話題は振ってこないのに珍しく思えて、聞いてみた。

 あちらも僕が言うのが意外だったのか少し驚いたような表情をしてた。


「要るの。ソレはソレ、コレはコレだよ。私がシたくても相手の都合もあるでしょ」


 自分で抜きたいときだってあるよ、とアルフさんは目を逸らしつつ言った。

 そっか、あるんだ。


「シたいのにデキないって日に一緒に寝るのって、結構苦しいし」


 生殺しですね。


「それに、私はロザリンちゃんに触れたいのであって、毎度毎度シたくてくっついてるわけじゃないんだよ」

「ああ……なるほど」

「ただくっついて寝たい日だってあるの。でも身体のほうは空気読んでくれない時があるじゃない?」

「……まあ、ありますね」

「そこで変に気を使わせるのも嫌なんだよ」


 アルフさんはそうぼやいて、気まずそうに視線を逸らした。

 恥ずかしいのか耳の先が赤くなってる。

 

 現在アルフさんは美女と銀麦亭の同室で暮らしてる。家が買えたら結婚するらしい。

 お似合いの二人でアルフさんもお相手のロザリンさんもそれぞれ互いにぞっこんな様子。


 意外とくだらないようで、本人には切実な悩みらしい。


 アルフさん、思考や知識は年齢通りだいぶ大人だけど、身体はまだ成人したてな感じですもんね。

 それくらいの年頃の落ち着かなさなら、僕にもなんとなく想像はつく。

 アルフさんがあと何年そのままの年頃なのかはわからないけど。


「あ、本来の目的忘れてた。フェイ、魔道具関連の本に強い書店知らない? あの店だとコレくらいしかめぼしいものがなかったんだよ」


 アルフさんが見せてきたのは魔道具作りの入門書みたいだった。


「ギルドの書庫だとすぐ試せなくて自分でも欲しくなったんだ」

「魔法や魔道具関連だと、あっちにいい店ありますよ」


 アルフさんは今までいつも魔力のゴリ押しでなんとかしていたけれど、効率のよい組み方を知りたくなったのだそうだ。

 連れて行ったら、とても興奮した様子で何冊も買い漁っていた。

 その様子は玩具を手に入れた子どもみたいで、本当に年齢不詳だなと思った

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― 新着の感想 ―
スタンピード発生してしまうと10話と矛盾が生じますが大丈夫ですか?
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