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ガウンの持ち主


 布団の下にいたのはシリシアンではなかった。

 毛並みのモフモフ具合は似ていた。

 しかし明らかにスタイルが違うし、何より顔が熊だった。

 それは人並み以上に大きな熊だ。

 熊は手足を投げ出し大の字でスヤスヤと寝ている。


 リアムは持っていたキルト布団を、そっと熊にかけなおす。


 どうして熊なんだよ?!

 シリシアンはどこだよ!!リアムは頭を抱え寝台の前を行ったり来たりする。

 待てよ、まさか、食われた?


「……いや、いや、それはないよな」


 まさか、熊にもなれるのか?! 変幻自在か? 馬とか象とか?


「アハハ……」


 それを頭に思い浮かべて笑ってしまう。


 リアムは熊を起こさないように外へ出ようとしたが、ガウンを忘れたことを思い出し踵を返した。


 ガウンを手に取り再び去ろうとしたその時、熊が寝返りを打った。


 寝台の藁がガサガサッと鳴りキルトの布団から熊の頭が出た。


 リアムが振り返ると同時に熊の瞼がパチリと開いた。

 その丸く黒い双眼とリアムの青睟がちょうど出会った。


 むくり、と熊が上体を起こした。


 逆毛を立てぶるぶると頭を振り体を震わせた。


「ああ、よく寝たな」


 リアムは急いで扉へと向かった。


「待ちな。翅の子」


 あわよくば熊が寝ぼけて侵入者を見逃すことに期待していた。


 話す熊ならそれは間違いなく魔物だ。

 こんな人里離れた森に住んでいる魔物など、相当な変わり者か、厄介なやつの可能性が高い。


 さっきの人間のようにこの魔物も妖精を食べようとするだろうか。


 リアムはこの国に住む魔物達のことも、その種類や暮らしぶりをよく知らなかった。


 魔物達には階級があり、その階級により職業が決まっているのだろう。


 それは図書館のなかで働く魔物たちを見て薄々感じたことだった。


「それは俺のだぞ」


 熊は両手を付き出し大きな掌をリアムに向けた。


「はぁ? なんでだよ、これはシリシアンのガウンだ」


 リアムはガウンを胸に抱いて言った。


「シリシアーン?」


 最後のところで熊が欠伸をしたので、間抜けたような発声になる。


 熊は両目をグリグリと擦りそれから立ち上がった。

 寝台の前にガニ股で立ち背筋をピンと伸ばした。


 大きかった、とてつもなく。その背丈はリアムの2倍は優にあった。

 こうして立ち上がり見下ろされると全身が粟立つような恐怖を覚えた。


「そいつは白い白いアスパラガス」


「あ、ええと」


 確かにそう例えられることもなくはないかも、とリアムは少し面白く思って気が緩んだ。


「ひょろひょろ」


「うん、そう。白くてひょろひょろの……」


 と、そこで気づく。

 この熊は蝙蝠の化物じゃない方のシリシアンと会ったっていうのか?


「貰った。それは俺のだ」


「会ったのか? その人と」


「雨で落ちた蝙蝠。俺が助けた。羽根車に当たって落ちた」


「そうか、そうだ、その蝙蝠がシリシアンだ。彼はどこにいる?」


「助けたお礼にくれた。俺のだ」


 熊は少ししゃがんでリアムの前に両手を付き出した。


「うん、わかった。ほら」


 リアムは熊の手にシリシアンのガウンを置いた。


「これ、スルスルで気持ちがいいんだ」


 到底、サイズが合わないだろうけど。とリアムは少し馬鹿にする。


「綺麗なもの、飾りたい」


 熊は壁のフックにガウンをかけると、大きな手でスルッとなで、満足そうに眺めた。


「なにもない石積みの壁と、ボロボロの布か。なるほどそこに退廃美を感じないこともないな」


 熊はニッと口角をあげ、良き理解者を得たとでもいうようにリアムを見た。


「ほんと、いいよ」


 リアムも熊の機嫌を損ねないように笑顔をつくった。


「それで、その人に怪我はなかったか? 元気だったか? どんな様子だった? 出ていったのか? どこへ行くとか言ってなかったか?」


 リアムが矢継ぎ早に質問すると、熊は首を傾げ丸い耳を前へ向けた。

 そして、リアムの質問をひとつずつ思い出すように答えた。


「元気だった。怪我はなかった。いや、少し元気じゃなかったかも。家には帰れなぁい、そう言ってた。……ひょろひょろはなんだか、悲しそうに見えた」


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