石積みの家
リアムは羽根車の板から千切れた黒い布を拾い上げた。
それは確かにシリシアンが着ていたガウンの一部だった。
リアムはそれを持って地上へ降りた。
風車小屋の周りをぐるりと歩き、他に手懸かりがないかを探した。
しかしこれといってシリシアンの行方が知れるような痕跡は見当たらなかった。
リアムは風車小屋の壁面に開いた四角い枠の窓から中の様子を覗いてみた。
ここにも人間がいるかもしれない。そう考えて慎重に見渡す。
小屋のなかは暗く、作業用の棚や机があるだけだった。
「空っぽだ」
もしやここに隠れているのではないか、と少し期待していたからがっかりする。
そして手に持っていた布切れの両端を持って広げた。
「どこいっちゃったんだよ」
人の血が目的なら、もっと人の多いところに行ったのだろうか。
黒い布の下端が風になびき旗のようにヒラヒラと動く。
リアムはそこでさっき使った魔法を思い出した。
そうか、もしかして、やれるだろうか?
やってみよう。
リアムは布を高く掲げて言った。心を込めて。
「布よ、切れて離れた仲間のもとへ行ってリボンを結べ」
するとリアムの両手にある布がピタっとはためくのをやめた。
リアムが指を離すと布はまるで蝶々のように空を舞った。そして高く飛んでいく。
「やった!!」
リアムも布の後を追いかけて飛び上がる。
あれがきっとシリシアンのところへ飛んでいくだろう。リアムは期待で胸をふくらませ、嬉々として布のあとを追いかけた。
布はやがて高度を落とし、針葉樹の森の中へと入ってしまう。
月明かりが僅かに届くようなそんな暗くしっとりと潤んだ森だった。
そんな闇に近い場所、木々の間にチラチラと光が瞬いているのが見えた。
星のようにひとつだけ。
ランプの炎か周囲の枝葉を明るく照らしていた。
石を積み重ね四角く囲った壁の家。屋根は板を並べ蓋をしただけのようなそんな家ともいえない、小さな小屋のようなものだった。
布はその小屋の板扉の前へ飛んでいくと、地面と扉枠の隙間からするっと中へ入ってしまった。
リアムもその小屋の入り口、と思われる扉の前に降り立った。
「人間の家か……」
扉の板に耳を当てなにか聞こえやしないかと耳を澄ませてみる。
すると、人が話す声のような音がする。
途切れ途切れボソボソと、余程小さな声で話しているのか、リアムの良い耳をもってしてもよくわからない。
今度は扉の前にうつ伏せに寝転び、今、布が入っていった地面と木枠の隙間から、小屋のなかを覗こうと試みた。
しかし、小屋のなかも地面と同じ質感の地面が見えるだけだった。
リアムは立ち上がり、小屋の周りを調べてみた。
窓や煙突といった外界へと開くものはなく、やはり入り口はさっきの扉だけのようだった。
さて、どうしたものだろうか。リアムは迷う。ここにシリシアンがいるかもしれない。なんとなく、いるようなそんな気はしている。
扉についた丸い金属のノブに手をかけ静かに回した。
扉はなんの抵抗もなく内側に開く。リアムは少し開けたその隙間からなか様子を伺う。
人の家のようだ。
入り口近くに竈がある。
火がくべられ置かれた鍋からは湯気が立っている。声のように聞こえたのはこの鍋から発せられる音だった。
壁際に藁を積み上げただけの粗末な寝台があった。布団をかぶり誰か横になって寝ているようである。
リアムはそっと小屋内へ入り扉をしめた。
何故入ったのか、寝台のすぐ脇にあるフックにシリシアンのボロボロになったガウンがぶら下がっていたからだ。
それでリアムは寝台で寝ている膨らみが、シリシアンであると確信した。
リアムは嬉しくなって、やや浮き上がりながら寝台へと駆け寄った。
「シリシアン、良かったやっと見つけた」
リアムは白晒しの生地に糸を通しただけの地味なキルト布団をめくりあげた。
「こんなところにいたのかよ、凄く探して、人間に殺られそうに、なったんだから……な」
リアムがそこに見たものは想像していたものとはだいぶ違っていた。
そして戸惑う。
キルト布団の端を持ったまま固まるのだった。




