シリシアンの華やかな城
リアムとウソラが睨みあっていると、そこへ一羽の烏が飛んできた。
烏は絨毯の上を、トントントンと跳ね歩いて衣装部屋の入り口あたりでとまった。
羽は一対だが、頭は二つあるので、二羽というのが正しいだろう。
「棺の修理だ」
「棺はどこかっ!!」
一羽めが先に、二羽めが威圧的に続けた。
烏たちはパチパチと忙しなくまばたきをし、ウソラとリアムを交互に見ている。
「ああ、もう来たんだね。なにをぼうっとしてるんだ、早く案内しな」
リアムは「チッ」っと舌打ちウソラを睨んでから、烏たちの前を歩いた。
「あっちの階段から地下へ下りてください」
リアムが階段の入り口まで烏を案内する。
「棺というより扉なんだけどな……」
とリアムが呟く。
「おぁい、こっちだ」
「こっちだ、ねずみども!!」
「扉も壊れているそうだ」
「扉もなおせ!!」
烏がガーガーと煩く鳴いた。耳が良いようでリアムの呟きもきちんとひろい聞いていたようだ。
すると、土色の小さなネズミの大群がどからともなく現れて、リアムの足元を走り抜け階下へと下っていった。
まるで茶色い水が流れ落ちていく、川のような様子だった。
「なんて早さなんだ」
リアムは最後のネズミの長細い尻尾をかろうじて見送った。
「修理は迅速」
「夜明け前に!!」
烏たちもネズミたちの後を追って地下へと飛んでいった。
夜明け前か。確かにシリシアンが夜明け前に戻ってきたら、安心して眠れる棺がないと困るだろ。
リアムはウソラと顔を付き合わせるのが嫌になり、シリシアンの居室から出て、城の外へと向かった。
夜空には丸い月が浮かび、ほんのり赤みを帯びていた。
冷たい微風がリアムの髪をさらりとなでた。
アーチ型の大きな城門には火がともされている。
城門から外へ向かう石道の両端にも等間隔にトーチが立って明るい。
こんなに華やかで綺麗な城を見るのは初めてのことだった。
トーチで照されたその道を幌馬車が連なってやってくる。
一頭、または二頭引きの馬車はリアムの横を通りすぎ、城の前で停車した。
荷台から大きな奇妙なかたちの物が下ろされていく。それらはオーケストラのための管楽器や弦楽器の類いが入ったケースだったがリアムにはわかるはずもなく、なにか珍しい食べ物が入っているのだろう、ぐらいに思っていた。
とくにハープの入ったケースは、巨大な鳥の手羽だろうか、などと想像しヨダレをこらえていた。
黒い服を着た魔物たちがそれらを城内へ次々に運びこむ。そして終わるとすぐに去っていった。
次に到着した荷馬車からは、大きな樽が大量に出てくる。
あれは間違いなく酒だな。リアムのこの予想は当たっていた。
リアムは晩餐のための荷物が届き運ばれるのを暫く眺めていたが、やがてそれに飽き、庭園を歩き始めた。
暫く目的もなく歩いていると、いつのまにかひまわりの咲く丘までやってきていた。
リアムより背の高いひまわりを見上げ、その茎をおもむろに両手で掴んだ。
「おいシリシアンはどこに行った?」
リアムが茎を揺すると、花はブルンブルンとなされるままにゆれた。
「花はなにも言わないだろ」
不意にリアムの背後で低い声がした。
「なんだ、グランディスか。驚かせんな」
いつもシリシアンを乗せ馬車を走らせるのがグランディスの仕事であるから、今日は突然出来た休日であった。
グランディスは弛んだ目蓋を上げ大きな目玉でリアムを見た。
「おや、私の名前を覚えているのか」
「そんなの、当たり前だろ」
リアムはただ、格好がいい名前だな、と思って覚えていただけで、通常あまり関係のない他人の名前を覚えたりはしない。
「どうして花に話しかけている?」
リアムはひまわりの茎からパッと手を放し、気まずそうに自分の足元を見た。
「べ、別に、話てなんか。独り言だし」
「君はそろそろ寝る時間ではないのかな?」
「おっ、そうだな。どうりで眠いと思った。昨日もシリシアン……様、に付き合ってよく寝てないしな」
嘘だった。シリシアンのことが気になって眠気など少しも感じていなかった。
「私は今日はとても暇でね」
「うん、まぁこっちもそうだ。朝の鍵あけは必要がなさそうだし……」
そういえば扉と棺の修理はもう終わっただろうか。
「ところで、主様は君のことをとても特別に思っているようだね」
「え?」
特別? シリシアンが、自分ことを? それはあくまでも牙を見つけた恩人として、だと思っていた。第三者からあらためて言われ、リアムは素直に喜んだ。特別……そうなのかな、本当に。グランディスに見えないよう口元をゆるめた。
「そんなことないさ、このひまわりに比べたら」
「ん? ……ひまわりの妖精の話を知っているのか?」
「それは……まぁ。いろいろ断片的に、シリシアン(様)が可愛がっていたとか、どうとか」
「だから、あれは悲惨な事故だったな……」
「え? 事故??」




