嫌いが好き
「リアムは見た目はちっぽけでも、浅はかでははく、小賢しいくらいには賢いです」
リアムは驚き、シリシアンを見上げその本意を探ろうとした。
なんとなく、褒められているような気がして。
「良いだろう、招く結果は全てお前が引き受けるがいいよ。愚かなヴァンパイアの子」
え、え、それは、どういう意味? 自分のせいで、シリシアンに悪いことが起きるってこと?
なんだ、このババァは、偉そうに言いたい放題言いやがって。
「待って」
ホウネルが杖を高く掲げ、呪文を唱えようとしたところで、リアムがそれをとめた。
「自分があんたに魔法をかけて貰うことで、シリシアン様になにか起こるのか?」
「当たり前だろうさ。魔法には代償が付き物。何かを得たければ何かを差し出す、それが魔法の契約ってもんだ」
「自分が得るんだから、シリシアン様は関係ないじゃないか」
「おや、これは主人思いな。従事者らしい」
「別に、主人思いとか違うだろう。筋が……筋として、通っていないから……」
「この愚かで優男のヴァンパイアが、みすぼらしいお前をここに連れてきた。本来なら、おまえのような身分のものが私の部屋に入り私と話せるわけもない。勘違いも甚だしいやつ。ここでその出しゃばった口を閉じることも出来るんだよ。分をわきまえろ」
「……」
リアムはくるりと向きを変えホウネルへ背を向けた。
「あ、ちょっとリアム!」
すたすたと足早に草を踏んでいくリアムを、シリシアンが慌てて追いかける。
「ねぇ、どうして君はそんなに怒ってるんだ。黙って魔法をかけて貰えばいいじゃないか!」
「嫌だ!」
リアムは前に立ち塞がったシリシアンを押し退け、ズンズン歩いていく。
「リアム!」
「あなたが私に借りがあっても、私はあなたに借りを作りたくない」
「何を言っているのかわからないんだけど……」
「字なんか読めなくたっていいんです! 自分はこのままでいいんです! このちっぽけでみすぼらしい翅でも、不格好な手も、全部自分らしくて好きだから!」
全部嘘だった。
全部、好きじゃない。
自分の全部を受け入れられない。
世界を知れば知るほど、無性に虚しくなる。
自分は取るに足らない存在なんだと。
「ごめん、リアム。そんなつもりでここに連れてきたわけじゃないんだ」
「気まぐれなお節介はやめてくれ」
「……ただ、今より少し幸せになって欲しいから。借りがあるとか、そういうことじゃなくて」
「だから、それが余計なお世話なんだって! 底辺の妖精にいちいち気を配るなよ」
「友達だと思ってる」
「!!」
「リアムとは従者の前に、友達になったから」
「はぁっ?!」
リアムは足を止め、シリシアンの顔を凝視する。
「僕が教えるから、読み書き。最初からそうすれば良かったけど、勉強は面倒だし嫌がるかなって思って」
「ば、ばっかにすんなよ! 勉強くらい、で、できるし!!」
「うん。リアムは、あんに難しいレース編みが図案なくても出来るんだよ、字なんか簡単だよ。すぐに読めるようになる!」
「そ、そうとも……」
ん、文字ってレース編みより簡単なのか?
「うん、じゃあ、早速戻って始めよう!」
「あ、うん、わかった」
軽やかな足取りで草を踏んで行くシリシアンの後を、リアムは早足で追いかけた。
友達……トモダチ。
その言葉を放ったシリシアンの表情を、眼差しを、息遣いを思い出すと、リアムの胸はくすぐったくムズムズし、からだは軽やかだった。
……( 〃▽〃)俺らトモダチ!




