表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/366

3-2 試験 のち 瞬装

「ちょっと、硬いかな?もう少し、握りこんだときに遊びっていうか布地に余裕が欲しい気がしますね。全然気にならない程度ですけど、突っ張るっていうか……」


 パイプ椅子に座り、にぎにぎと右手だけ籠手を着けて感触を確かめ、気になった裏地部分の素材に注文を付けるスーツ姿のピエロ。

 その横では付箋がべたべたと貼られたルーズリーフの束に必死に何かを書き込む中年男性と、タブレットにペンで何かを入力している若い女性が立っている。

 わざわざ手間暇かけて装備一式を作ってもらっているので、不満など特にあるわけでもないのだが、“何かほんの少しでも気になるところはっ!!?”と言われてはなにか絞り出さねばなるまい。


「もう少し薄手にして伸縮性をあげるか、それとも全く違う材質を持ってくるか……。どっちがいいと思う?」

「……薄手に変えるならそんなに時間はかからないと思います。ただ、材質を変えるとなると今タブレット入力しただけでも候補が10件を超えてますね……。悩みどころです……」


 ううむ、と2人して考え込んでしまう技術者コンビに声を掛けるピエロ。


「いや、気持ち気になったくらいなんで。このままで全然オッケーですよ?ほら、卸したての靴とか、最初ちょっと硬いなって思っても履いてくうちにフィットしてくるもんでしょ?」

「いや、そういうわけにはいきません。そんな違和感を覚えるようなものを提供するわけにはいかないですから」

「そうですよ!我々のチームの沽券に係わりますから!!」


 ふんす、と両名とも鼻息荒くそう断言してくる。

 当然、目が血走っているわけであるが、十分に睡眠などの休息は取っていないことが丸わかりである。

 前日の夜からほぼ全力運転で動いている彼らは若干であるが、ブレーキが利かなくなってきているのだ。


「じゃ、じゃあ。いい感じにお願いします……」

「はいっ!!いま、情報を整理しますので少しお待ちいただきます!!」

「お、お願いします…」


 大きく元気いっぱいな返事をされて、茂は身に着けていた籠手を返却した。

 取り戻した籠手を捏ね繰り回すようにして相談を始める技術者2人が卓上の固定電話からどこか研究所内の別部署へと連絡を始める。

 昼のプレゼンからそのまま試作品が完成しているものを試してみるということで、別棟の少し広いホールへと移動しているのだ。

 ちなみに今は鎧の担当部門から“籠手”パーツの試着の具合を確認するという作業になる。

 何度も手を突っ込んで握りしめた手は、白い手袋越しに疲労感を伝えてきたのだ。


(……というか、別に今ここに転がってるのでいいんじゃ?そこまで完璧なものを求めてるわけでもないし。最低限急所を守れればいいわけで)


 視線の先にはおそらく試作途中の兜やら胴やら肩当部やらが転がっている。

 盾も取っ手のついていないものや、穂先の無い槍の柄だけの物が置かれている。

 バージョン違いで少しずつ違いはあるようだが、コンセプトが大きく違う場合以外は茂の眼には特に大きく違いがあるようには見えない。

 しいて言えば、真っ白なチョークでアルファベットや数字がでかでかと書かれているくらいだ。

 あとは試作品ということもあり、地の色味のまま組み立てられているので原色に近い、所謂目に痛い派手派手な色になっている。


(……ちょっと暇だし。勝手に見せてもらっちゃおうかな。別にいいよな。俺の装備品なんだし)


 放っておかれるままで急に暇になったのである。

椅子から立ち上がり、ふらふらと装備品の山に近づく。

 ホールの中には籠手の相談を始めた技術者以外にも、床に直置きしたノートPCにものすごい勢いで線を引いている若い男や、人を殴り殺せそうな分厚い本を何冊もめくりながら、コピー用紙に何かを書き殴る女性、忙しなく資材を大きな台車に乗せて運んでいる者たちが行きかう。

 熱気と熱意がまじりあい、中の室温はどんどん上がっていた。

 それに加え、狂気にも似た仕事熱。

 天井から漏れ出る外の光は少し前からオレンジを通り越し、薄墨交じりの光へと変わりつつあった。


(いつ帰れんのかなー。ちょっと、一息入れたいなぁ。……飽きてきたなぁ)


 積まれた装備品の山の前に胡坐をかくと、その前に置かれたものを一つ手に取った。

 真っ白なヘルメットタイプの兜、というかもうどこぞの戦隊物のヘルメットである。

 意匠だけは、前面に「光速の騎士」と同じデザインを配しているので、辛うじて一連の物に入るだろう。

 ちなみに右側頭部にはでかでかと赤の太マジックで“強度不足・不可!”と書かれている。


(さすがに強度不足は、無理だよなぁ……。他にどんなの有るのかな。おお、何かすごいゴッツイ盾じゃん!えーと、これは……“重い!”……。そりゃでっかいもんなぁ)


 ということを思いながらも、“重い!”とマーキングされた試作盾を手に取る。

 常人では重すぎるのだろうが、茂からすれば、“ちょっと重め?”くらいの感覚である。

 手に取ってブンブンと振り回したりすることは普通にできている。

 何度か振り回して、盾をそっと元の場所に戻す。

 そんなジャンク品の山を覗くような感覚を覚えた茂はあることに気付いた。


(これ、もしかして寄せ集めれば一式揃うんじゃないかな?)


 暇を持て余した茂は、兜から鎧、籠手、ブーツ、“重い!”盾、穂先の無い槍の柄(ただの装飾された棒)を山を漁り、取りそろえていく。

 一応、一揃え集めると、地面に人型に並べる。

 一部重複する箇所は一番頑丈そうに見えたものをチョイスする。

 そのため“強度不足・不可!”のヘルメットは寂しげに山へとハウスされている。


「いやいや失敗ばかり多いもので。お手数をかけて申し訳ありません」


 そんな暇つぶしをしている茂の横に、鎧部門の担当責任者である吉田が痩せた頬を徹夜でさらにこけさせて現れる。

 血の気が引いたような顔をしているのに、眼だけはギンギンに血走っているということに茂は恐怖を感じた。

 きっと彼が動いているのは昼に連続で胃に投下したエナジードリンク2本という劇薬であるに違いないのだが。

 体を壊さねばいいのだとはおもう。

 ただ、人というものは限界を迎えるまでそれに気づかないものである。


「あ、いやぁ。そういうわけでも……。なんか、一言ちょろっと言うたびに動いてもらっちゃって心苦しいものが……」

「いえいえ。皆、楽しくやっていますので。ただ、ご希望の物をすぐに準備できないというのは心苦しくてですね」

「いえ!俺が無理言ってるだけですから!!」


 日本人っぽくお互いが引いて、引いて、引いて、というあの流れを演じるとどちらからとも言葉が出なくなる。

 なんとなく気まずい雰囲気が流れた。

 そこで吉田が横にうずたかく積まれた山の解説を始める。


「……これらはデータ取りの“試作品の為に作った試作品”ですから。強度を無視して軽さを追求とか、逆に重量もコストも無視して強度を限界まで追求してみるとか。そういう尖った仕様の、成功につなげるための失敗作なんですよ。いわばあえて失敗している作品ですね」

「はぁ……。そういうもんですか。素人目には結構いい感じに見えるんですけど」

「いえいえ。使い勝手は悪いはずですよ。元々使えない・使わないことを前提に作ったものですから」

「ふぅーん。そうなんですか……。あの、そういうものだったら、勝手に試してもいいですか?」

「?それは構いませんが?」


 返事を受けると、茂は立ち上がり人型に置いた失敗作の一揃えに右手をかざす。


「何を、され?……なぁっ!!?」


 ぐにぐにっとピエロの白手袋に包まれた右手の先が黒いよどみに包まれる。

 吉田が驚いて声も出ない中、その澱みは白石特殊鋼材研究所謹製の失敗作を飲み込んだ。


「少しだけ、動くか」


 ピエロマスクに右手を掛け、真下へと振り下ろすようにして手が動く。

 それと同時に、右手に漆黒の布地が現れ、ピエロの姿を覆い尽くした。

 わずか1拍。

 吉田の心臓が高く高く跳ねたその1拍で、あっという間に漆黒の球体が目の前に現れる。

 それが消えると同時に目の前にいたピエロの姿は既に何処にも有りはしなかった。


「はははは!言われた通りですね。うん、確かにバランス悪い。ここら辺は調整しないと駄目ですね」


 テレビの向こうで見たそれ。

 中途半端な試作品で変な配色交じりではあるが、全体のフォルムは「光速の騎士」である。

 黒い外套のようにして布をまとい、槍の代わりに棒を握っているが、突如として「騎士」が現れる。

 それが装備一式の具合を確かめるようにして軽くぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 がしゃがしゃとうるさい音が周りに響くが、全体の重心の位置を体で感じようとしている茂には気にならない。

 椅子に座らされて延々と待たされているよりは幾分ましで、体を伸ばせるだけありがたい。

 だから鎧の擦れる音以外にざわざわという気配が、遠巻きに起きていることも気づくのが遅れたのであるが。


(んー……。このままだと、変に重さが片側にずれてて動きにくいけど。でもかるーく動かしてみよう。日本の技術力、どんなもんかってのも気になるし)


 ぴょんぴょんとジャンプしていた状態から、軽いフットワークへと変える。

 がしゃがしゃという音は納まり、ブーツの底がきゅっきゅっと硬質な床を咬む音へと変わる。


「カッ!!!」


 真正面の山に向けて、穂先の無い槍を思い切り突き出す。

 びゅおっと空気を切り裂く音が、ホールへと響き渡る。

 仮想敵として、人型のシルエットを頭に思い描き、避けられた想定で、追撃の2手目。

 槍を引くと同時に、逆の腕に備えた“重い!”マークの盾に肩を添わせる。


(シールド・バッシュ!!)


 沈み込んだ体を一気に前方へと送り出す。

 地面を噛んだブーツの底が、床にくっきりと靴底をこすりつけるようにしてスタンプし、「光速の騎士」の身体がばねに飛ばされたようにして急加速した。

 だが、その瞬間。


ぶちぃっ!!


 急に大きな断絶音が響いた。


「とととっ!!?」


 たたらを踏むようにして、つんつのめった茂が不格好なダンスを踊る。

 1歩2歩とケンケンをしながら動き、先程大きな断裂音がした右のブーツの底を見た。


「うわっちゃぁ……。やっちゃったなぁ……。千切れてるわ……」


 ちょうどブーツ本体と、底に貼られていたラバー素材の接合部が千切れているようである。

 踏込の衝撃と、加速度に耐えられなかったのではないだろうか。

 片足でカカシのように一本足で立ったまま千切れたブーツの底を覗いた。

 悪いことをしたなぁ、と横にいるはずの吉田に声を掛けようとした。


「すんません、ちょっと強めに踏み込んだら変な力が掛かったみた、い、で……?……えーと、どうしました?」


 ふるふると吉田が小刻みに震えていた。

 尋ねた疑問に対する返答がなく、聞こえていなかったのか、と再度話しかけようとゆっくりとブーツを下した瞬間である。



「カメラ班っ!!映像は、映像は撮れているかッ!!!」


 手を伸ばした「光速の騎士」からするりと逃れるように、大声を張り上げ吉田が定点で置かれているカメラに向かい全力で駆け出して行った。


「お、おおぉう……。ど、どうしたんだ?」


 ぽつんと取り残される茂を余所に、定点カメラとケーブルで接続されたPCのモニタ前にはホールにいる全員が小山のように群がっている。

 押すな引くなの状態の中で、どうやら「ピエロ」から「光速の騎士」に装備を変更し、その後の軽い動きの映像確認をしていたのだ。

 しばらくの沈黙の後、モニタ前でキーボードに何かを打ち込んでいる男が叫ぶ。


「位置がっ、位置が悪かったっす!!もう、あと5メーター、いや2メーター半!右にずれた位置で変身してくれていたら、撮り逃さなかったのにぃぃっ!!く、くそぉぉぉぉっ!!!」


だんっ!!


 モニタが机に叩きつけた拳の衝撃で大きく揺れるほど、悔恨の念を強くした男が崩れるように机に突っ伏す。

 それを労わる様にして彼の肩に置かれる手、手、手。


(いや、まず“変身”ちがうし。それにもう狂気じゃなくて狂奔とかじゃん。行き過ぎたフーリガンじゃん)


 そこにホールの外から音楽が流れ始めた。

 ちゃーらーらら、ちゃーらーらら、という店舗とかでよく流れる閉店時間を告げる定番曲だ。

 おそらくではあるが、時計を見ると18時ぴったりを指している。

 つまりはこの白石特殊鋼材研究所の勤務時間終了の音楽であろう。


(……ゆっくり休んでもらった方がいい。ちょっとみんな変な方向にアクセル踏みすぎだ)


 皆が集まっているモニタ前へ向き直り、外套代わりの黒い布に右手を掛ける。

 ばさぁっ、と大きく翻ったそれが「光速の騎士」を歪な球体様に包み込むと、それが一回りして宙へと消える。

 その後には壊れたブーツを手に提げたピエロマスクの男がいるだけである。


「あのー。なんか就業時間終わったみたいですし。ここら辺で今日はひと段落っていう……」

「カメラ、カメラの映像を確認しろっ!!今の瞬間、撮れてないか!?直接目にしたが、解らなかったぞ!?」

「島倉、お前なんでさっきの撮り逃した後に、カメラの倍率を下げて広く映せるようにしておかないんだよ!!?あっちのカメラは映ってないのか!?」

「先輩そりゃ無茶ですよ!もう一台は電源入れていないんです!だって今日は紹介だけだって打ち合わせしてたじゃないですか!!」

「だ、だが。見切れてしまったが、この映像、クリーニング掛ければもっと解像度あげれるんじゃないか!?」

「や、やってみます。やってみます!」


 手に提げたブーツをぷらんぷらんと所在無さげにしながら、茂は自分を余所に盛り上がっている集団をみて思う。

 今日の夕ご飯はいったい何時ごろになるのだろうか、と。

 お腹すいたな、と天井を見上げて思うしかできなかった。


作者はエナジードリンクがすごい苦手です。

栄養ドリンクとかは大丈夫なんですけど。

なんかすごいドーピング感がするのが苦手で……。

あれ1本飲んだら鼻血出そうな気がしちゃうんですよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ