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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
5章

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214/367

2-0 経緯 のち 不意打

 市内中心部、とあるホテルの高層階にある、レストラン。

 そんなレストランの中で、杉山茂は借りてきた猫のようにどうも自分のレベルとの差に居所がないようなプレッシャーを感じている。

 ふとした瞬間、会話が途切れたようなタイミングでうっすらと聞こえてくるような小さな音量で、クラシックの音楽がBGMで流れているということに気付く。

 周りをきょろきょろと見渡すと、客に気付かれないようにスピーカーが置かれていた。

 その空間に邪魔にならないように精密に配置されたそれらに、ほぉぉ、と感心する。

 テーブル同士もきつきつにならないように十分な、それでいてすかすかに見えないような絶妙な配置。

 このような客にすぐに気づかれないような工夫は、客商売をしている人間からすると、やはりすごく勉強になる。


「……んで、俺としては何が何だかわからないんですけど。いまどういう感じになってるんでしょうか?」


 まわりをきょろきょろと見回しながら、茂はずずず、と薫り高いエスプレッソを飲みながら、目の前に座る門倉、そして火嶋早苗の二人に問いかける。

 流石に一杯千円を超えるコーヒーは、おいしい。

 空間に代金のブーストがかかるというお店である以上、金額に味が正比例しているかは別の問題だが。

 誰にも聞こえないように距離を取るためにわざわざ一番奥まった場所の壁際の席で、まるで商談でもするかのようだ。

 ちなみに茂のほかに、学ラン姿の博人もいる。

 四人が四人とも若干の緊張感をもって話しているのには理由がある。


「取り敢えず、事件については警察の調査待ちという状況ですが。……先日私のところに、警察が話を聞きに来ました。まあ、オークションの参加者リストは残っていますから当然でしょうね」


 門倉は卓上のポットからとくとくと自身のカップへと紅茶を注ぐ。

 じっくり蒸らされてふわりと開いたアッサムが、コーヒーにも負けない香気を放つ。


「……物盗りの犯行、強盗殺人って話になった。っぽい報道が流れてる。……というだけじゃないんですよねー、きっと。こうやって呼ばれたってことは」

「そういうことです。オークションであの長船氏が落札した品が行方不明となり。そのオークションで少し険悪な雰囲気になった者がいました、という程度は調べればわかりますから。こちらとしては何の変哲もない一般のオークションで偽名を使うリスクは犯すべきではありません。実際“ただの”アンティークですからね」

「まあ、その過程で我々のところにこの事件に“もしかしたら”皆さんが関わっているのでは、ということが分かりましたから」

「あ、ははは。……ご足労掛けます」


 早苗がコーヒーカップに口をつけてほぅ、と息を吐きだしながらそう告げる。

 茂としては、色々申し訳ない気持ちにもなる。


「……それで? 何をしにあの現場へ? 教えていただけると大変にありがたいのですが?」

「いえいえ。この年にもなりますと、ああいった古いものに興味をそそられるものでしてね」

「わざわざ、そちらの最大戦力を伴って、ですか」

「ちょうど保護対象者のメンタル面でのリフレッシュも兼ねて、杉山さんには少しお付き合いいただいた、というだけのお話で。こちらの柳博人君は、そういったものに興味がある、という話でしたから」

「なるほど、それはそれは思いがけず万全な警備になりましたね」


 にっこりと早苗と門倉が笑みを交わす。

 そしてお互い同じタイミングでカップを持ち上げ、口をつけるとくいと傾ける。

 その動作の中で、3Dプリンターで出力したほほ笑みの仮面をぴったりと貼り付けたような表情が、双方ともピクリとも揺るがない。


「落札されたアンティークのブレスレット。……実際の価値では二十万がいいところでしょう? それをわざわざ故長船氏と競りに競って五十四万円。実価値の二倍強というのはどうなのですか」


 早苗が疑問を口に出す。


(ん? あれぇ?)


 その疑問に対して発生した自分の疑問を口に出そうとしたところ。


 ぽん。


 隣に座っている博人が茂の腿に、早苗から見えないようにして手を置いた。

 その合図に目だけを博人に向けると、ゆっくりと瞼を閉じて見せる。


(……口を出すな、と言われた気がする……)


 開きかけた口を閉じると博人が軽く頷いてくる。

 どうやら老練な門倉に任せるのが吉のようである。


「年甲斐もなくはしゃいでしまいましてね。どうしてもあのブレスレットが欲しかったのですよ。会場のあの独特な雰囲気に引っ張られたのかもしれませんね」


 門倉がよどみなくいけしゃあしゃあと述べてみせる。


「質素なものですが、デザインからすればあまり普段使いにもビジネス用にも合いはしないと思いますが」

「ええ、ただ飾って楽しむ分には良いサイズ感でしょう?」

「ああ、そうかもしれませんね」


 ふふふ、ふふふ、と二人がほほ笑む。


(あー、成程。火嶋教授は“解らない”側ってことか)


 件のブレスレット。

 現在、サイエンスな方面から、白石特殊鋼材研究所に導入された大学から横流しした高性能のコンピュータにより全力稼働での分析作業を実施中である。

 それによると、現時点での結果は芳しくない。

 茂や博人達の“見える人”が主張する魔力光というものに対し、科学的な観点からのキャッチは成功していない。


(でもなー。教授はもしかするとブレスレットは無理でも、あのブックカバーの方だったら見えるんじゃなかろうか?)


 門倉と同じようなレベルであれば、その可能性はある。

 初めて会った時のダイバーズウォッチの仕掛けに気付かなかったが、あれは時計という外装にくるまれていたせいなのではないか。

 そのあとに時計を砕いて呪物を取り出した後にはしっかりとそのモノがどういうものかを理解していたからだ。


(と言ったところで確かめようにも、あの汚いブックカバー。持ってない以上はどうにもならんけどね)


 再びコーヒーカップに素知らぬ顔で手を伸ばして、濃ゆいエスプレッソを啜る。

 茂たち“見える人”の協力なしに魔導具と思しきものを回収するには、再現性のある判断方法の確立が不可欠なのだ。

 とはいえ、いまは手に入った稼働する魔導具(ブレスレット)の現物に残る塗料や紋様などを、経年により摩耗し減衰した箇所を復元できないかの作業中。

 具体的には、魔導具としてブレスレットを加工する作業にて用いられた手法について、候補をいくつか類推し再現を試みている段階。

 ブレスレット以外の魔導具としては破損して見る影もないが、アンティークとして入手できたものは、現時点では後回しになっている。

 そのオブザーバーとして古代から中近世にかけての西洋風俗史に詳しい専門家、ファッションの変遷の研究者、ベテランの美術品修復士などに協力を仰いでいる。

 因みに、彼らには守秘義務についての誓約書の提出を以て、ブレスレットがどういった品なのかを説明したうえで参加いただいた。

 眉唾なその説明に難を示した者も、白石グループのネーミングと、白石がグレーな「騎士」の関係者であることが自分の中でつながったことで現実味を帯びていく過程で、参加を決めてくれた。

 ここで役立ったのが白石グループよりも「光速の騎士」のネーミングだったということは皮肉な結果だろう。


「その様子はあまり深入りするべきではない、と感じましたのでここまでにしておきましょうか。……本当に必要ならば情報提供はお願いしますよ?」

「どういった内容なのか、私にはとんと想像がつきませんが、はい、と言っておきましょうか」


 門倉と早苗がある程度の妥協に落ち着いたようだ。

 先日来のパチンコ店の駐車場での邂逅以来、早苗たちの「政府側異能能力者対策班」と白石グループの「光速の騎士サポート」とでもいうべき二つが裏で手を結ぶこととなった。

 ただ基本的に政府側、白石側も表立って動くものではないし、双方とも呼称すら定まっていない。

 その為、「光速の騎士」イコール杉山茂という事実は、早苗を含め彼女の信頼するごく少数だけにしか通知されず、実務的な窓口も早苗と門倉のホットラインを通じてのみ、である。

 トップ同士の白石雄吾と横澤総理大臣の会談もあったにはあったが、現行政権の終わりが見えた状況下での詰めの作業は二の足を踏んでいる状態だった。

 次の総理大臣の意向次第では、「騎士」側を強引な方法で取り込もうとする可能性すらある。

 最悪、次の政権の方針次第では白石側から関係を絶ち、現在の黙認状態から、以前のイリーガルな立場に戻ることも考えねばならない。

 その為、踏み込みすぎないぎりぎりのライン。

 その線をどこに置くかの駆け引きがあるのだ。

 政府側としては「騎士」、「騎士モドキ」の異能、更には「アーマー・スーツ」という個人携行装備の極みのような技術。

 それらに対しての懐柔、そして監視は必須だ。

 だが、現代社会の枠組みにはあまりに異質なそれを許容する器が、公の立場としては早々には準備できないというジレンマがある。

 現に政府側である「骸骨武者」黒木兼繁、そしてさらに神木美緒、藤堂ユイのイレギュラーの取り扱いにすら四苦八苦しているくらいだ。

 特に「骸骨武者」に関しては、絶対的だった死の概念についての法律について、その根本から覆る恐れが大きく、未だ対応を決めかねている。

 古来より死という一点で線が引かれていたはずのアレコレが大きく揺らいでしまう。


「さて、では今回お集まりいただいた用件を先に進めましょうか。先日来報道もされている、強盗殺人事件。どうやら対応を間違えると問題が起きそうなので。伝手が火嶋教授からお借りした捜査資料からすると、被害者は長船吾助氏、四十歳。無職。周辺の聞き込みではいわゆるニートであったようですね。求職なども行わず、その日暮らしの生活をしていたようで」


 口火を切った門倉に合わせ、早苗が持ってきた鍵付きの頑丈そうなアタッシュケースからいくつかファイルを取り出す。

 そのかなりグレーなぎりぎりの線から横流しされてきたと思しき捜査関係の書類をぺら、と確認しつつ、門倉が司会進行をしてくれる。

 奥まった場所であるので、周囲には人はいないが内容が内容だ。

 少し声のトーンは落としてある。


「無職、ですか……最後にあったときには、俺金持ってる、って自慢するような感じだったんですけど」


 生前最後に見た、競売の担当者のキュレーターだかオークショナーだかと話している素振りでは、かなりいけ好かない小金持ち臭がしたのだが。


「親が創業した不動産会社があるようです。中堅どころではありますが業績は安定していますね」

「ああ将来は未来の社長さん、ってことですか」


 高等遊民だったということか。うらやましいことである。


「いえ、所有会社自体は長船氏に継承されずに、二年前に親類の手に渡っています」

「は?」


 資料の提供元の早苗が、瞳を閉じてコーヒーカップを傾けつつそう告げる。


「……創業家からすれば、甥に。長船氏からすると従弟同士の関係ですね。その新社長が大学卒業と同時に入社し、五年後に二十代で社長職に。長船氏はこの会社に一切関係していません」

「要するに、親からは見限られた。そういうことです。実家の会社には携わらせず、代わりに親のコネでいくつかの会社に入社した記録があります。とはいえ入社した会社も人間関係のトラブルが多く、すぐに退社しているのがほとんど。モラハラとセクハラが主たる原因だったようで。しかもそれを数回繰り返していますね。息子が典型的な駄目な二代目というのがわかっていたご両親がご立派です。最近では自分の子供を客観的にふさわしくないと判断できないものも多いというのに」

「スゴイ、リアリストだったんですか……」

「まあ調べれば調べるほど、社会性に問題のある人物ではあるようです。学生時代から今に至るまで、近隣住民から昔の同僚まで、悪評しか聞こえてきませんよ。ニートで人付き合いも殆どないというのに、強盗の線よりも怨恨の線が浮かびあがるほどですから」

「「はぁぁぁ……」」


 差し出された資料をのぞき込んだ茂と博人は、深くため息を吐く。

 それは、捜査も大変だろう。


「あれ?」


 ふと、茂が思い出す。


「どうされました?」


 早苗が声を出した茂に尋ねる。


「いや、確かこの被害者の長船さん。彼女というかそんな感じの人がいたような? 真っ白な服着てた外国の方っぽい人が」

「まあ恋人、というよりは愛人、情婦(イロ)のような雰囲気がしましたが。あと最近の言葉だとパパ活ですか。それが一番近いかもしれませんな」


 門倉が横から口出しをする。

 しかも元も子もない言い方である。


「その人物に関しては調査段階で確認しているのですが……。事件現場となった住居については、どう見ても独り身の生活をしていた様子です。交際しているような雰囲気は感じられません。……あ、住居内の写真もありますよ?」


 早苗がファイルをめくるように勧める。

 茂たちがぺらぺらと資料をめくると、居住環境を撮影したものが現れる。


「……汚ぁ。掃除とかもしてないんじゃねえの、コレ?」

「こんな家に、カノジョ連れ込むって? マジですか? なんつーか、見ただけで体かゆくなったんですけど、俺」


 ぶるり、と体を震わせ、博人が胸元から腹にかけて軽くカリカリと服の上から掻く。

 写真で見る限り、ごみ袋いっぱいのコンビニ弁当と、飲んだ後にそのまま床に放ったペットボトル何本も転がっている。

 飲み残しでお育ちあそばされたカビ、雑菌の皆様方が透明なはずのペットボトルをまだらに染め上げていらっしゃるのがわかる。

 廊下にも荷物が雑多に置かれ、完全に人の出入りを考慮していない。


「……やだなー。この家に入るんならソッコー窓開けて空気の入れ替えしたい。……すげえホコリ舞うんだろうけど」

「いくら一人暮らしだからって、これはちょっと……。服とかどうしてんだろ。洗濯とかもしないんじゃねぇの、このタイプって」


 同性の男としてもちょっと度が過ぎる汚さにドン引きする二人。

 清潔感が、ゼロどころかマイナスだ。


「近隣住民の聞き取りでは交際していた人物を見た、との証言は一切なし。友人は今のところ一人も見つかっていません。私の研究分野にも通じるので言わせてもらうと、経済面ではともかく、地域のコミュニティに関しては完全に関係が破綻しているパターンですね」

「お父さんとかお母さんはいるんじゃ?」


 茂の疑問に早苗がふるふると横に首を振る。


「完全に親子関係は断絶してますね。ただ、“うかつなこと”をされては困ると、金銭的なサポートではなく所有していた不動産のいくつかを長船氏の名義に変更したようです。それで、家賃収入だけは定期的に入るようにした。居住していたのもそのうちの家屋の一つです」

「……引きこもり万歳っすね。しかもかなり好待遇の。至れり尽くせりじゃないですか」

「いくつか紹介した会社もすぐに辞めるようじゃあ、もう普通の社会復帰は無理。将来のことを思って環境だけはどうにか整えた。……できたご両親だとおもうけどな。まあ、ほったらかしって言えばそこまでだけど。……人間関係って難しいなぁ」

「まあ、そんな人物です。皆さんが見たとおっしゃるその女性。……どんな理由で彼と交際をしていたんでしょうね?」


 それを女性である早苗から言われるとうーん、と悩んでしまう。


「……お金? ダメ男好き?」

「実は俺たちが見たのは幻だったとか」


 散々な失礼なセリフを吐く茂と博人。

 聞けば聞くほどそういった関係を築けるように思えない。

 あの真っ白なカラーリングの、女性は本当にいたのかと自分に問いかけたくなる。


「会場のホールに設置された監視カメラと、駐車場の出入り口の防犯カメラに写っていました。少なくとも幻ではないようなので、どういう人物か調べているところです」


 ファイルの横のポケットから、カメラ映像からキャプチャされたその女性の荒い画像の写真が取り出される。

 それを見て茂は幻ではなかったか、と思い直すことができた。


「……その次のページから、少々ショッキングな内容になります。ご覧になるかはお任せしますが」


 ちょうどページをめくろうとしていた茂の指が止まる。


「え? これ、死た……じゃない。御遺体の写真とかも?」


 こくん、と門倉が頷く。

 茂はどちらかといえばネットよりもテレビを見るテレビっ子なのである。

 ワイドショーとかも“大きな声でうるさいなぁ”と思いながらもBGMのように流し見しながらご飯を食べたり洗濯物を畳んだりという生活をしている。

 なので、大まかな事件の概要は聞き知っているのだ。


「……ご飯は美味しく食べたいんですが」

「できればご覧いただきますと話が早いもので」


 門倉に促されてしぶしぶページをめくる指を進めた。

 すると、隣で一緒に資料を覗き込んでいたはずの博人がすす、と椅子ごと茂から距離を取った。


「うぉおい、博人ぉ?」

「俺、今日は由美と夕飯食いに行く予定なんで。麻婆豆腐が美味いらしいんっすよ、その店」


 今まさに食欲を失おうとしている茂に、まさかの裏切りの言葉を掛ける博人。

 先ほどとは違うドン引きを博人に感じる。

 仕方なく自分だけで資料を覗き込む。

 瞬間、目に入る真っ赤なでんじゃらす。ばいおれんす。そしてすぷらったー。

 隅々まで見る前に、ぱたんとファイルを閉じる。


「ふぅぅぅ……」


 心を落ち着けるのに、少し温くなったエスプレッソをぐびぐびと飲み干す。高いのに勿体ない。

 ふしゅー、と大きく鼻から息を吐き、心を何とか落ち着ける。

 落ち着いたところで、感想を述べる。


「……あー。やった奴、カンペキにまともじゃねえ感じですね」

「ほぉ、お強いですな。このレベルを耐えますか」


 心底感心したような声で茂を称える門倉。

 横の早苗も心なしか嬉し気に茂を見ている。


「あはは。……ま、色々ありましてね」


 こちらではご無沙汰だが、向こうの世界でだとそういうご遺体、要は著しい破損がある死体を見ることは多かった。

 魔物に食いちぎられた半分しかないものであったり、腸(はらわた)だけ食われていたり。

 盗賊・山賊の犠牲者や、街中の不審死の確認。時折、イカレた邪教の狂信者による儀式という名の猟奇殺人などなど。

 色々と経験もさせていただいている。

 もっと言えば、半分以上腐り果てているアンデッドの皆さんと、会話するようなお仕事も近いケースとして実務済だ。

 経験や馴れというのはまったく恐ろしいものである。


(この程度ならまあ、ギリいけるな。ただ、しばらくはお肉やめとこうかな、うん)


 胃にやさしいものを中心に献立を考えよう。

 野菜と大豆を中心に。

 卵は最後まで火を通して。決して半熟卵は加えてはならない。

 何故かは言わないし、言うべきではないだろう。


「……それほど、っすか?」

「クリスマスの飾りつけを“そういうの”で代用してると思え。しかもパリピクラスの飾りつけだぞ」


 あえて“そういうの”がナニだったかを言う必要はないだろう。


「……頭おかしいってのだけは十分に解りました」


 茂の遠回しな配慮に感謝しつつ、その生臭そうな飾りつけを想像しかけた自分の頭からその映像をたたき出す。

 博人はこの後、美味しい麻婆豆腐が食べたいのだ。

 ずず、とコーヒーを啜る。


「内容が内容ですから、女性の方には刺激が強いかと思いまして。エレーナはともかく、あの子は外させていただきました」


 あの子、マユミ・ガルシアのことだろう。

 精神的なフォローが必要なところであるはず。

 このイカレたクリスマスパーティーは見せない方が良い。


「一応、捜査状況はこの後も共有させていただこうと思います。できる限り、ですが」

「お願いします。我々も少し気に留めておきましょう」


 と、言う形で話が終わる。

 テーブルのファイル類を手早くアタッシュケースにしまうと、ちょうど皆のコーヒーや紅茶も尽きそうなころだ。


「……じゃあお開き、でいいですか?」


 茂が皆に確認を取る。

 この情報交換がメインだと聞いてきたので、それが終わった以上やることもない。

 すると首を縦に振ると思っていた門倉が、薄く笑みを浮かべゆっくりと首を横に振った。


「いえ、申し訳ない。実はお渡しするものがありまして」

「ん? なんです?」


 促すがそれを渡してくる素振りがない。

 と、いうことは今ここにはその“お渡しするもの”が無いのだということだ。


「先日よりお預かりしたままになっていましたVer.3シリーズをベースにブラッシュアップに成功しましたので。いや、本当に時間がかかりまして申し訳なかったのですが、ようやくロールアウトにこぎつくことができました。製作チームの皆が心血を注いで完成させた『白石特殊鋼材研究所謹製「光速の騎士」専用全身鎧Ver.4.0』。こちらと併せ、ヘビーシールド改、仮称『オーガザンバー・ロールアウトモデル』【岩砕是悦(ガンサイゼエツ)】。そして整備したご愛用の槍、補修した盾。こちらをお渡しできる用意ができました」

「………………え?」


 言われた内容についてしばし理解が追い付かず、反応が遅れる。

 まず、そんなに一気に整備をお願いしたものを返されても、という困惑。

 あれ、俺って新しい装備ほしいって言ってたっけ、という疑問。

 最後に、なんでそういう恥ずかしい名前を堂々と言えるのだろうか、門倉さん、という驚愕。そして後ろから襲い掛かるとてつもない羞恥。


「あちらの会場にて準備しておりますので、テストも兼ねてまずは使用感など、ご確認いただこうかと」

「……ん?」


 混乱している茂に向けて、門倉が窓の外を指さした先にあるのは、工事中のブルーシートの覆いで隠されたビルのようだった。

 地方の景気は中心市街地であってもそこまで芳しいとは言えないのが現状。

 古くからある商業ビルなども統廃合を繰り返し、更地になることも多い。

 あまり来たことのないホテルから方向を指されても、いまいちそれが何だったのかが解らなかった。


「あ、あそこって古いダンスホールあったとこですよね。夏にビアホールとか開いてた。昔なじみがライブとかやるって話で何度か行ったことありますよ」

「ええ、改修工事全般を但馬アミューズメントで引き受けるということですから、せっかくですので内密にお借りしました。真一様もあちらでお待ちです」

「……え?」


 準備万端、用意周到。

 全ての逃げ道を埋めきってから話を持ってくるというこのやり方。


「……はぁ。まあいいですよ。どっちにしても手元に武器の一つでも持ってた方が良さげな雰囲気になり始めてますし」


 ぽりぽりと頭を掻く。

 念のため。

 そう、念のためだ。


「教授も、当然ですが……?」

「見学させていただく予定です」


 にっこりとカップを片手にほほ笑む早苗。

 美人が笑うと、圧がすごい。

 まるで言い返せる気がしなくなるのは、モブ属性の茂にとっては致命的ですらある。


「じゃあ、ちょっとだけトイレ行ってきます。……大丈夫、逃げませんよ」


 一応、財布をテーブルにぽんと置いてトイレに向かう茂。

 ちょっとだけ、緊張して尿意が来たのだ。

 まあコーヒーのカフェインのせいもあるかもしれない。

 きゅぅぅ、と鳴る、何故かしくしく痛み始めた胃が、色々な理由で締め付けらえてお腹が痛くなったのもある。きっと、ある。

 取り敢えず、トイレ。

 緊急避難的にトイレへと駆け込むべきなのだ。

 とてとてと少し煤けた後姿の茂を見送り、博人が口を開く。


「ちょ、ちょっと酷くないですかね?」

「……まあ、この程度までなら大丈夫でしょうね。杉山さんとてお渡しするものが、万が一の場合には必要ではあると認識はしているんですから。ただ、踏ん切りがつかないのでしょう」


 門倉が茂の心の内を読み切って見せる。


「良いご関係を構築できているようで何よりですが。……“彼”の件は伝えてあげるべきでは?」


 早苗が苦笑しながら門倉に問う。


「いえ、お伝えしましたよ。“テストも兼ねた”と、ね?」

「……忠告はしましたよ、私は。ふふふ」


 と言いつつも早苗も楽しそうだ。

 そんな大人二人を見て博人は思う。


(茂さん、もうちょっとずるく、っていうかうまく立ち回って生きた方が良いと思うんだけどなぁ。……なにされるんだろ、あの人は)


 ため息を吐きそうになる口を、コーヒーカップに当てて閉じる。

 つぶやきをそっと口に流しこんだ温いコーヒーで、のどの奥へと追いやる。

 博人は思う。

 大人って、汚いもんなんだなぁ、と。

※どうでもいい話


書き進めたところで気付く。

タマゴサンド(玉子サンドじゃないよ)とツナサンドの優劣。

一枚のうっすいハムと輪切りのキュウリ、カラシマヨのクラシックタイプのハムサンド。これに対する最近のカリカリでモリモリなアメリカンスタイルのハムサンド。そしてルール違反ともいえるステーキサンド。この三者に対する考察。

……何書いてんのか、と。

最近、本編進まないのに何を書いてるのか、と。

作り直ししたのでちょっと時間掛かりました。

ええ、ただの言い訳でございます。どうでもいい話でした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この作品のタイトル、て「友、遠方より来る。また嬉しからずや」に似てますよね?
[気になる点] この作品は定期的な飯テロが入るのだな、と思っていた時期が私にもありました。
[気になる点] 相手はたぶんわくわくしながら待ちわびているね 万全の戦いするために大好きな酒も断っていそうだ
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