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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
4章

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156/365

3-1-裏 マルマルリッキー絶賛放送中!!

●動画投稿アカウント名『マルマルリッキー』最新投稿動画より抜粋


「はい、どーもどーもこんちわっ!! リッキーです!!」

「同じくこんちわっ!! マルオっす! 皆さんマルマルリッキーへようこそ!」


 派手なアロハシャツにバミューダパンツ姿の金髪のガタイのいいリッキーと名乗った男と、やせ形で坊主頭のポロシャツ・綿パンのマルオと名乗った男の二人が画面の向こうの視聴者に向けて頭を下げる。いつもと同じ動画の始めに行う定型の挨拶を行い、動画が始まる。

 二人は自分たちを撮影しているカメラに向かってこの動画の趣旨を述べた。


「えーとですね。タイトルにもある通りなんですが、本日の午前十時半に我々リキマルの二人でですね、外ロケを敢行しようと思っております。場所はみなさんご存じのあの「騎士」が出てきた町にお邪魔するつもりです!」

「まあここはいつもの撮影部屋なんすけど。この動画が出るころには向こうへ移動済みって事っすね。リっちゃん、俺すっごい楽しみなんだけど」

「マル、もう旅行のパッキング全部終わってるしな。……それは、はええよお前」

「いいじゃんか、別にー」


 うだうだと駄弁る様子を捉えた画像に加工されたテロップと、フリー素材の音楽が流れている。時折、関係あるような無いような映像が差し込まれ、二人の笑い声が響いている。

 最近の動画のテンポやら何やらを一通りしゃべり、数回の広告が差し込まれた後で、ようやく本題に入る。


「……まあ、そういうわけでですね。俺とマル、あと撮影メンバーで現地にて直撃取材しようと思いまーす。皆さん、コレを見た後でチャンネル登録とあと通知設定も忘れずに!」

「では、生配信まではもうすぐ。皆さん、生でお会いしましょう!!」

「以上、マルマルリッキーでしたっ!!」


 テーブルに座る二人が揃って頭を下げる。

 そして画面にチャンネルの登録のバナーが表示され、静止画になる。


 特に変哲もない時間にして6分強のこれから始まる生配信をお知らせする紹介動画であった。






「ねぇ、リっちゃん。今更なんだけどすっごいドキドキしてきた。なんか心臓バクバクいってる……」


 カメラのスイッチを切ったタイミングで、マルオがリッキーに不安げに尋ねる。

 一方のリッキーはカメラが止まったところで自分のスマホを取り出し、操作していた。その画面から顔を上げて、心配そうな顔の相方ににかっ、と笑いかける。


「なんだよ、マル。大丈夫だって! 今まで他の「光速の騎士」を弄った人たちでBANされたのっていないじゃん。そりゃ、完璧ヤラカシ系の動画は止められてたけどさ。物申す系でさんざディスった動画も公開中なんだぜ? しかも結構な回数見られてるし。それに俺たちは悪口言いに行くんじゃなくって、実質話題のスポットに行ってみるだけになるんだし」

「そりゃ判ってるけど」


 彼らマルマルリッキーのアカウントの登録者数は現在八万五千人を少し割るくらい。この動画投稿から派生する収入単独で生活するには少し足らない。有名であるというには圧倒的に知名度が足らないのは事実だが動画にどっぷりと浸かっているような視聴者には名前くらいはお勧めに流れてきたことがある、くらいには認知度があるわけだ。

 東京などの大都市ではなく、地方で活動しているタイプの動画投稿者である。特にどこかと契約しているわけではなく、フリーで地道に活動を続けている。

 投稿自体を始めて約一年半。地元企業からの小さな案件動画もオファーがあったこともある。結局はお流れになったのであるが、仮採用された理由は“大きな問題を起こしていないから”だったのだ。地道な映像をコツコツ撮りためて編集し、テロップを入れ投稿。地元で活動しているということも多少なりとは影響していた。

 だからこそ、なのであるが動画投稿のトレンドというものにはかなり注視している。傾向と対策。勉学であれ、スポーツであれ、社会に出てからも必要不可欠なそれを彼ら、というか動画のネタを考えるリッキーは怠ったことはない。

 どんなネタであれ、必ずセーフティーネットをかけてリスク回避を行い、先人の視聴回数の多いものを分析した動画を上げる。

 ただし、それをやっている者は多い。

 トップクリエイターから駆け出しのペーペー。大きな資本をベースにサポート態勢を確立した芸能関係者まで。

 すべからくそれを行っているわけだ。

 そうするとどうなるか。


「……マル。結構俺たち人には知られるようにはなった。でもさ、やっぱ注目されるようなものを出していかないとジリ貧なんだよ。今一番注目されてる「光速の騎士」に絡んでいかないとあっという間に埋もれていっちゃうってのはわかんじゃん?」

「リっちゃん、俺たち最近、そういうコピペ動画しか掲げてないんだよ……。なんか、モチベーション下がってさ。再生回数稼いで、認知度上げてかないといけない必要はわかるんだけど。……でもさー、比べちゃうじゃん、他の人たちとさ」

「そこで負けるんだよなぁ。キャラクター、弱いんだ俺らって」


 コピペ動画を行なうと、人気の内容である以上そこそこの反応が返ってくるが、当然のことながら差が出てくる。トークや、編集力、コピペに抗おうとする香りづけ程度の独自ルール、個々のキャラクターなどなど。

 誰かがやった内容をトレースした題材を各々のフレーバーで調整すれば、言い方が悪いかもしれないがアクが強い方が印象には残る。最悪、他者と動画内容が似たり寄ったりであってもインパクトを残せる力さえあれば、“次も見てみるか”とチャンスが生まれるわけだ。

 それを飽きることなく継続し、持続し、連続して投稿できる者だけが動画投稿者として飯を食っていけるという構図ができてきている。

 その点で、マルマルリッキーの二人には根本的な問題が存在しているのだ。

 それはつまり先ほども言った“アク”が薄いという点だ。そこで辛うじての抵抗として金髪アロハに坊主頭を突っ込んでみたりもしたのだが今一つ。二人ともが根が真面目であり、徹底的にリスク管理したうえで投稿を続けるという原点に返ったわけだ。

 炎上や人を貶すもの、食べ物を粗末にしたり、顰蹙を買いそうなものを避け、先ほどのコピペ投稿もある程度他の投稿者がやり倒してから、その視聴者のコメントから是非の反応を見て実施するというスタンス。頑張って奇抜な格好をしてはいても、本質がそのような為比較的安心して見ることの出来るアカウントだと皆から認識されるという奇妙さがウケはじめている。

 そんなこんなでガードが固くレスポンスが遅いながらも、確実に投稿し続けるドン亀スタイルのままでここまで登録者数を増やしてきた。継続と根気が実数にじりじりと比例してきている一例ともいえるだろう。

 だが、そろそろそれも頭打ちに近い所がある。

 そこで普段ならあまりやらない外ロケ、しかも生配信という冒険に出たわけだ。外でやるという事であまり電波の状況も良くはないはずで、面白い画が撮れるのかという少しばかり不安もあるにはある。周囲の人に怒鳴りつけられる可能性、いたずらをされて台無しにされる可能性。リスクはあるにはある。だが、ここらでまだ手あかが付き切っていない「光速の騎士」の出没地へ向かうという選択肢は飛び道具として考えればありと言えばありである。



「前にあの不思議バリアに触って大けがした奴も、不用意だって言われて炎上しかかったけど、結果そこまでは叩かれなかっただろ。……やっぱみんな「光速の騎士」関係で情報欲しいってのはわかったし」

「でも最後のオチ、これだよ? 結構酷くない? 軽い炎上くらいは覚悟する必要、あるんじゃない?」


 住居兼撮影部屋の隅に置かれているのは、ビニールでぐるぐる巻きにされた不格好なオブジェ。

 半透明なフィルム越しに覗くのは、精巧とは言い難いながらもポイントポイントでは特徴を捉えた「光速の騎士」のレプリカコスチュームであった。


「出来合いの量販品じゃなくて、今度のコミファンで使うってのをわざわざ借りてきたんだぜ? タロちゃん、結構自信作だって言ってたからさ。ジョーダンの締めくくりにはぴったりじゃん。タイトルにも「光速の騎士」って直接的には書いてないし。あくまで“あの”「騎士」ってしてあるもん。それくらいのアオリはセーフだよ。視聴者もマジで「光速の騎士」が出るなんて思ってないよ」

「結婚しましたー、彼氏彼女できましたー、もう疲れ果てましたー。んで心配して見てみたらジョークです……とかと一緒?」

「そうそう。いくらなんでもみんな冗談だってわかるって! 流し始めてすぐにこのレプリカ見せちゃうしな!」


 ぺんぺん、とレプリカコスチュームを叩くとプラ板やらなんやらで作られているレプリカが大きく揺れる。

 リッキーの知り合いの美術専攻のアニメ・ゲーム関係のコスチュームを作成しているタロちゃん(女性)に頼んで借り受けてきた「光速の騎士」っぽいそれはなかなかの出来で、遠目から見ればそこそこ本物っぽく見える。

 動画投稿などをしているとこういう普段繋がれないような人脈とも不思議とつながれることもある。

 次月の大型イベントホールを借り切って行われる漫画・アニメの一大祭典であるコミック・ファンファーレ(コミファン)のコスプレイベントに向けて、多くのクリエイターが「光速の騎士」並びに「骸骨武者」の衣装をこぞって作っているのである。

 先々月に現れたその大きな潮流は、個人・チーム・企業を巻き込んでのブームとなりつつある。やはり、日曜朝の平和を守る特撮が看板の古豪「アクション・ゼロ」、そしてネットを中心とした硬派な大人向けの特撮を次々と送り出している新進「一直線工房」の二社が現在進行形の特撮ドラマと“同時進行”で「騎士」、「武者」の本気のスーツを製作している旨が各ホームページにて公表されたのが大きい。

 これらをコミファンにて、本職のスーツアクター付きで公開すると発表された日の日本国内のトレンド一位と二位がこの二社となったというのも快挙といえる。

 そこに自尊心がくすぐられた一般参加者が怒涛の覇気を見せる。有志による各パーツごとに分けられた寸法見本図があらゆる角度から検証され、専門のサイトへと掲出されている。最終的に現在状況は、大手メーカー対プライベーターの戦いへと移りつつあるそうだ。

 さらに言えば「光速の騎士」「骸骨武者」共に、いくつかのバージョン違いが発生しており、それについても各支持層による熱い議論が交わされている。曰く、最初期のホテル・スカイスクレイパー時点での両者を支持する「原典派」。レジェンド・オブクレオパトラ時の「強襲派」。銀嶺学院時の「輝光派」という具合である。

 ちなみにピエロは「強襲派」の「外典」に付随しているそうである。なんじゃそりゃ。


「実際に着るの俺なんだよ? それ着て歩いておまわりさんとかに通報されないかなぁ……」

「一応カメラのヘースケには撮影中貼ったジャケット着てもらうし、大丈夫だよ。槍とか剣とかそういうのは持たないしさ。要はコスプレしながら町を歩こうってだけの話だろ?」

「まー、そうかぁ。……そういう投稿もいくつか見てるしなぁ。まあ、大丈夫か」


 リッキーは立ち上がり、マルオの肩を抱く。


「心配性だな、マル。大丈夫だって! そうだな、今回の生配信終わったら原点回帰って意味で昔の動画をリバイバルしよう。ほら、昔投稿した「バットスイングで一キロ競争」とか、「ジャガイモ料理五〇連作」とか!」

「う、うん。そうだね。そういうみんな楽しんでくれたオリジナルのやつ。……ガンバろっか」

「おう、大丈夫だって!!」


 かはははは、と大笑いするリッキーにつられてマルオも穏やかに笑いだす。



 そんな笑い声をあげる彼らは、世界が変わることを知らない。

この動画公開日に、彼らの動画投稿アカウント、マルマルリッキーはある記録を打ち立てる。

 日本の閲覧急上昇ランキングの一位、東南アジア各国の三位~六位、北米西海岸の四位。そしてその映像を二次加工し、各々の母国語の字幕を付けた“めっ!”な映像がしばらくの間ネットの海を漂うこととなる。

 

 その日、彼らは世界で最も視聴者数を稼いだ動画投稿者となったのである。


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