1-2 毎週月~金 フレッシュな情報をあなたに!9:57~放送中「昼も見ッ!」 のち 模倣品
「では、昨日のことですが動きがあったそうですね?」
MC席に陣取る進行役のタレントが、巨大なパネルの横に立つ局アナへと話題を振る。
それを受けて、カメラ映像はその局アナのバストアップに切り替わった。
「はい、まずは昨日までにお伝えしました政府としての見解についての続報です。政府与党並びに野党連合の代表者、さらには有識者による会談がもたれ、大枠での合意に至りました。内容について説明しますと……」
横にそびえるパネルへ、長く伸ばした指示棒で目的の箇所を指し示す。
指示棒の先には「昼も見ッ!」とロゴの書かれたディフォルメされた指がついている。
大きくセンセーショナルな見出しが躍るそれの上に目隠しで覆われた部分があり、アナウンサーがそれを剥ぎ取った。
「まず、我々が「光速の騎士」「骸骨武者」と呼称していた該当人物について、あくまでこれは通称であり、個別の人物を指す固有名詞として妥当かどうか、という点についてです。政府の呼称は「鎧・太刀姿の当該人物」という形で統一されており、ネット発信の「光速の騎士」「骸骨武者」は使われておりませんでした」
パネルに一般の呼称、政府の呼称が併記されている箇所を指す。
その次の目隠しをアナウンサーが剥がす。
「そして、こちらが昨日の会談により大枠で合意したものになります。まず、一般呼称が「光速の騎士」であるこちらの人物」
ワイプでアナウンサーが右上に、メイン画面は複数の「光速の騎士」の画像の静止画が表示されている。
テレビ画面に正式名称「光速の騎士」と表示される。
「こちらに関しては「光速の騎士」とすることが決まりました。一般的に誰某を問う場合に最も国民の多くが判断できるということからです。ほぼすべての会談出席者は同意したのですが、一部出席者からは異論が出たとのことです。……あまりに英雄然としたネーミングで、犯罪行為を正当化・なあなあでの無効化にしようとする意図が見える、印象操作であるとした反対意見が……」
「なんなんですか、それ?」
情報を伝えるアナウンサーの言葉を、甲高い声で阻む。
主婦タレントとして今日のゲストに呼ばれている、40代の元アイドルだった。
カメラがパンして、その表情を映すとかなり険しい表情をしている。
「あの、その会談の反対意見を出した出席者の方は「騎士」の行為について、犯罪だと考えられているということですか?」
「どの程度を犯罪と考えているかについては、我々の取材ではわかりかねますが、行為全体を見たときにそれが含まれると意見されたようです」
「……安田弁護士、そのあたりの判断はどうなっているんでしょうか?」
MCのタレントが、コメンテーター席に座っている仕立ての良い高級スーツの男性弁護士に話題を振る。
振られた側の弁護士にカメラがより、顔の下に名前のテロップと略歴が出た。
フレイア法律事務所の安田という弁護士で、今回は「光速の騎士」の関わった事件で発生した保障関連での意見を求められてここに座っている。
「今回、一部の方から「騎士」を犯罪者だとした意見が出たことについては、ある程度の見解の相違が生まれると思われますので、仕方のないことであるかなと。実際に損害や、病院へ搬送された方もおられますし、それに伴う経済活動の停滞も事実です。ですが、「騎士」が関係した事件等について、発生した損害。これを完全に「騎士」の行為によるものとして、一概に犯罪であると断定するのは如何なものかと」
「と、言いますと?」
テーブルの上で手を組んで安田弁護士が滔々と話し始める。
「本事案が「騎士」の介在しないテロリズムとして発生し、その解決までを我々の認識で考えてみた場合ですが、現行の損害の桁が1つ2つ変わってくるはずです。駅前のロータリーについては開けた場所での状況下でしたのでここでは省かせていただきますが、船と学校内での事件では閉鎖された空間で人質が存在しています。「騎士」無しでは解決までの過程で人質に重傷者が出ている可能性は非常に高いと思います。これは日本の警察の能力を疑っているわけではなく、複数のテロリストグループによる犯行である以上、これがアメリカや西欧諸国のテロ対策に特化したチームであっても少なからず犠牲が出ている案件です」
「……大事の前の小事には目をつぶれとおっしゃるわけですか?」
強面のベテラン俳優が顔を顰めていた。
元の顔が厳つい分、真剣なそういう顔を画面で見るとかなりのインパクトがある。
まるで怒っているかのようなそんな印象を受ける。
それに対して安田弁護士は苦笑気味に話を続けた。
「そういうわけではありません。私は「騎士」があくまで善意の第三者だったと言いたいだけです。本人の能力で可能な限りの協力を行ったという、広義の「緊急避難」の案件でしょうね。所謂“カルネアデスの舟板”という問答が有名なんですが」
元々そういう説明をする予定だったのだろう。
安田の説明と同時に「カルネアデスの舟板」の説明がテロップで表示された。
緊急避難の例として挙げられる「カルネアデスの舟板」の説明が、簡単にアナウンサーからなされる。
「もちろん、それにも限度があります。損失があまりにも大きすぎて過剰避難となる場合もあります。おそらくその出席者はその線引きを問うているのだと思います。つまり、それを免責とする範囲は明確に線引きされてしかるべきであり、さらに「光速の騎士」等という呼称で呼ばざるを得ない個人へとそれを与えるのは一考するべきであると」
「どうしてですか? 間違いなく人助けをしているというのに、そのカルネなんちゃらに該当しないって話になるんですか?」
安田が一つ息を吸い込む。
一気に話し過ぎて息切れ気味になったからだ。
「要するに、それが「光速の騎士」ではなく、例えばヤマダイチロウ(仮)という個人に断定できるのであれば問題なかったのかもしれません。それが当人であると断定できることを確認したうえで免責できるのであれば、です。未だに「光速の騎士」は正体を明かさず、あくまで正体不明のヒーローのままになった。その為に、同様の装束を着込んで、行き過ぎた私刑を執行する集団が現れています。というか「騎士」に触発された“無謀な自警団”を免責にするかしないかを含めた議論をする必要が出ているようでして。先日、複数の「騎士様のマスク」をした集団が、指定暴力団の事務所へ襲撃を行った事件、皆さんの記憶にも新しいでしょう。どうも周辺の監視カメラを確認したところ、かなり精巧なレプリカであったようです。……それは、法の下に照らせばただの暴力行為にすぎません」
安田のその言葉がパスになり、パネル横のアナウンサーが繋ぐ。
ぺり、と捲られた目隠しのシールの下に、検証中となった事件が複数書かれている。
「えー。安田弁護士のおっしゃった「光速の騎士」を模倣したと思われる事例を紹介します。先程の○○市の暴力団事務所襲撃事件、心神喪失で無罪判決となった3年前の婦女暴行犯への私刑事件、ゲームセンターへの襲撃事件、こちらは奥のVIPルームでオンラインカジノを利用した賭博行為が行われていたことが判明しています。これら全てで「騎士」のマスクを被った複数犯の犯行と思われていまして、いずれも捜査中です」
「……悪を以て悪を討つ。法治国家の在り様として認めるのはかなり問題がありますからね。正直な話、「騎士」「武者」ともに広義では模倣犯たちのくくりに分類されるかもしれません」
「逮捕者が出ているものもあり、警察で供述内容で「光速の騎士」に触発されたということを述べている物が数件あります。しかも逮捕者が未成年ということも衝撃ですが、自分たちのやったことを盲目的に正しいと思っている節が供述から見えてきます。これを受けて、彼ら超人が未成年に与える影響、良いことも悪いこともですが、を考慮するべきだとの意見が教育現場を中心に上がってきています」
ここで、少年少女の心の成長に関しての研究をしている大学教授のインタビューが入る。
それが終わると、今度は逆の立場の大学教授の意見を流す。
「……「光速の騎士」の行動に、僕は問題があるとは思わないんですけどねぇ」
関西でコントを中心に活動しているコメディアンが意見を述べる。
「だって、その模倣犯のバカって「騎士」のやったことを正しく理解できてないってだけの話ですよね? 自分から暴力に訴えて解決したって事例、今のところないはずでしょ?」
「……「騎士」の関わった大きな事件は、相手側がまず暴力的な行為に及んでから、「騎士」が行動を開始していると思われます。あくまで“対症療法”として出陣、といえばいいですかね。まあ、現れて解決して、そのまま逃走している、という形ですね」
「ほら、やっぱ自分からカチコミに行ったりしてないじゃないですか! そこんとこ理解せずに「騎士」を真似るってのが、浅はかっていうか、なんていうか……」
うんうんと我が意を得たりとばかりに頷くコメディアン。
「ただ、この「騎士」を模倣する流れ。これは日本国内だけではないんです。CMに続いては、日本国外で撮影された「騎士」の模倣事件についてもお伝えします!」
明るい音楽と共に、右下に「昼も見ッ!」と番組ロゴが表示される。
次の瞬間、画面いっぱいに牛丼を口いっぱいに頬張るスポーツ選手のCMが流れ始める。
「……ニュースで流れた最初のあのバカみたいな1件だけだろうと思ってたんだけどねー。まさか立て続けに、別の場所でやらかすとは。世も末ねぇ……」
「いかにこの国に、流されるまま行動する奴が多いのかということを、まざまざと見せつけられたよ、いやマジで」
「しかも、逮捕された理由が襲撃時の動画。仲間内でアップして残してたのが流出してってのがお粗末よね」
「……犯行の証拠残した上に、自爆してどうすんだよ。現代っ子だなぁ。……いや、犯行自体しちゃダメなんだけど!」
「すごいわー。本人談ってなると説得力が違うもの。いっそどこかでそういうビジランティはやらないで、って話せばどう? このバカ騒ぎ、多少は収まるかもよ?」
「無理じゃねえの? どう考えても、その場の勢いと消化しきれない正義感で突っ走った結果だろ? 正直、面倒見きれん。というか、正体ばれたら、やっぱ捕まるってこと確定したしな」
「まあ、一応お話は聞かせていただきますって感じでしょうね。多分カツ丼くらいは出してくれると思うけど?」
「その前に警察署の前で怒涛のフラッシュだろうな。……親しくもない自称友人と、聞いたことの無い自称親類が増えるのも、きっと確定だ。そのカツ丼、涙ですっげえしょっぱい気がする……」
テレビを見ながらポテトを齧る茂。
会議室の端に置かれたポットと客用のお茶セットを使い、急須で緑茶を煎れる。
とぽとぽと湯飲みに注いだ緑茶をずず、と啜るとまだ飲めるほどの熱さではなかった。
テーブルの上にことんと湯気の立つ湯飲みを置いて、疲れた様子で椅子に体を沈める。
「……まあそうなるだろうなー、と思ったから逃げてるんだけど。……フルでいろんな金を払えって言われたら俺、人生詰むと思うんだよ。だからさー、もうトラブルってマジ勘弁。俺を探すなよー、マスコミー……」
「前までは「騎士」に好意的な意見多かったんだけどねー。やっぱ現実問題、凶器もった超人が自分の周りにいるかもって怖いから。今は6が好意的、4が懐疑的・よくわからないってとこみたいね」
テレビに先日行われた新聞社の世論調査結果が表示されている。
各社ごとにばらつきはあるが、大まかにいってマユミの指摘通りである。
「人間、ライオンは檻の中にいるから、カッコイイと思うんだよ。檻無しでライオンに会おうってのはバカか、命知らずのどっちかだってことさ。でもな?」
ジト目でマユミを睨む茂。
「知ってるか? 俺の目の前に素手で立木をへし折れる女がいる。……得物なしでへし折れる女が」
「……私、そこまで注目されてないから。……世間の興味は貴方と、あのガイコツさんがメインだし」
「ずりぃよ、お前。……それに、学校での一件って俺と定良さん以外にも、変な奴らもいたぞ? なんかちょっと変わった感じの女が2人ほど」
「それについては話題になってないのよね。なんか、ネットではちらほら画像出てくるけど、あんまり盛り上がらないって言うか」
「情報操作、ってことかな?……そういう政治が絡む裏っぽいの、怖いんだけど」
「何をいまさら……」
ぶるりと肩を抱いてみせる茂に呆れかえった表情を見せるマユミ。
チーズバーガーを平らげ、包みをくしゃりとして、紙袋へ放り込む。
ゴミ箱へとそれを捨てると、大きく伸びをする。
んんんっ、と小さく体を揺らすとこきこきと軽く音がする。
(こういう感じ見てると、本当にフツーの女の子なんだよな、コイツ。……それが、超人って話になりゃ確かに怖いと思うもんな)
目の前のマユミは至って普通の少女に見える。
ただ、彼女が今後のことを何も考えず、純然たる暴力に身を任せるとなればかなりの死傷者が出るだろう。
その“可能性”を皆が恐れているのだ。
茂は多少関わり合いがあってその人となりは理解し始めているところだが、これが全くの他人であれば、その精神性に疑問を抱くことは容易に考えられる。
どこぞやの団体のスローガンで“銃が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ”と言っているそうである。
それはそれである一面を正しく表しているのだろうが、一方で“銃が無けりゃ、銃では死なねえし”と思うのも、これまた正常であると思うのだ。
お国柄やら民族性やら生活やら政治やら利権やら。
そこらへんも加味してぐちゃぐちゃになっている彼の国と、日本の現状が違うとはいえ、だ。
要するに「光速の騎士」にも当てはまることだが、その人格を肯定できるだけのファクターが無ければ、安心できない。
そしてそのファクターがどのレベルまでを必要とするかは、個々の人間によって差異があるわけで。
自らの力を日本の国内で行使するということに対して茂が二の足を踏むのはそこが原因だ。
茂自身は自らのこの力を、根っこの根っこから“不要”と感じている。
これは社会に対し不安を煽るだけの“歪”な力だと。
自らを常に律し続けなければいけない、茂の“心”という不完全な安全装置に頼る爆弾と言ってもいい。
治安の悪い異国の路地裏で1丁ウン百、ウン十ドル程度で売られる中古拳銃よりもよほど性質が悪い、粗悪品だ。
未来永劫・将来に渡って自分が善人で居続けられる自信など、有る方がおかしい。
茂は自分という人間を“正しく”信じていなかった。
(絶対的な信頼なんてありゃしないし。……どんなに清廉潔白だと言い切っても、危険だから首輪をつけろって騒ぐ人は絶対にいる。……仕方ないっちゃ仕方ねぇ、と思うしかないだろ)
目の前の少女を見る。
至って普通の10代の、女の子。
もし仮に、自分が「騎士」であると露見した場合、彼女を守るというあの口約束はどうなってしまうだろうか。
職場に迷惑がかかるだろうし、バイトはすぐにでも辞する必要が出るだろう。周りも騒がしくなり、それに加えアキトシ・サーフィス・ガルシアの報復の可能性を考慮する必要も出る。当然その対象は自分だけでなく、離れて暮らす実家の面々や東京の猛、友人関係にも及ぶだろう。
それにマユミ。
「騎士」の接触した人物を洗えば、容易に彼女の存在が浮かび上がってくる。つまりそれはイコール、トゥルー・ブルーのターゲットに逆戻りするわけだ。
守ると口約束とはいえ決めた以上、そうなることは業腹である。
だからこそ、マスコミ各社には強く自粛を求めたいわけで。
(まあ、そんなこと俺が思ってるなんて知らないだろ。……とりあえず見つけてやるって勢いだけで動いてるもんなー)
飲みごろになった緑茶をずずと啜る。さすがに一流企業の客用のお茶。多分茶葉が高級なのだろう。馥郁たる香りと、程よい渋味、そして爽やかな後味。
それが口いっぱいに広がった、気がする。
あくまで気がするだけで、本当にそうなのかは知らない。緑茶の茶葉の良し悪しは正直よくわからないのである。
「それで? 世間様から全力で隠れてる状況だった上に、1ヶ月もここへ来なかった。そのくせ、急に来る気になったのはどういうワケ? 装備品の更新っていうのもあんまり乗り気じゃなかったじゃない?」
「まーな。……門倉さんに丁度誘われたからってのもあるけど、ちょっと嫌なモン見ちゃったもんで」
「なになに? 何かあったの?」
ずい、と顔を寄せてくるマユミ。
幾分げんなりしながら手元に残るポテトの箱をひっくり返して口にざらざらと落とす。
茂は冷めたポテトと、端っこのカリカリを口でもしゃもしゃ咀嚼し、ポテトの箱をたたみながら答える。
「丁度今、テレビでやってる「騎士」の模倣事件。国内のは若い奴らのバカ騒ぎなんだけど、国外の「騎士」のレプリカマスク被って暴れてる事件な? ほとんどは国内の若い奴らと同じベクトルのバカだけど、一昨日くらいにちらっと見た映像の中で、な?……どうもその中に「ホンモノ」が混じってる臭いんだわ」
「……あなたみたいな超人とか、私たちみたいなデミ・サイキッカーとか?」
「断言できないけど“ちょっと普通とズレてる”奴だな。……多分。俺の勘違いならホントにありがたいんだけど」
じっ、と茂の見つめる先。
テレビのモニタには、アメリカ某所での撮影とされる静止画が映っていた。「騎士」のレプリカマスクを着用し、大きく握りしめた右手を高く掲げた男性と思しき静止画。
茂はその画面を只々、見つめていた。




