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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
雑話もろもろ

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雑ー3 コスト のち 改訂

 ここは白石特殊鋼材研究所、第3会議室。

 今日もまた社員の皆が一生懸命働いている。


「……前回試作版よりも強度は12%弱の向上、更に5・5%の軽量化を実現できる予定です。ただ、トータル18%程度の素材変更等に由来する調達価格上昇が見込まれます。当初予定された予算より足が出る可能性が……」

「予算に関してはある程度までなら補助を充てると言われている。ただ、18%か……。それだけの費用対効果があると思うか?」


 分厚いファイル「Kni―PL―Ver.3」と背表紙に印字されたそれを全員が見ている。

 今はその中のちょうど3分の1のあたりのページが開かれ、その報告についての説明を担当部門から説明されているところだった。

 その中で、予算に言及したところ、上座に座る応用工学部部長兼最重要機密プラン「裏鍛冶師(まだ仮称)」トップ小林辰雄より言葉がでた。

 会議室の中に沈黙が降りる。

 18%。

 その費用の上げ幅の大きさに皆が二の足を踏んでいた。

 その出費は、本当に必要であるのかどうか。


「……正直なところ、微妙ではあると思います。当然、軽量化の実現は、継戦能力の向上につながりますし、強度に関しては10%を超えますから。ただ、「騎士」本人の使用感が最も重要な指標です。完全なワンオフ仕様のこれを「騎士」へと提供して、リテイクがかかるということも考えると……」

「我々鎧担当チームより付け加えさせていただくと、現行の素材をベースにした場合、強度を上げる際に伸縮性が犠牲となるとすでに検証段階で結果は出ています。さらに機動性の面で現場がクエスチョンを出しています。……どちらかと言えば「騎士」のスタイルは躱して、当てる。亀のようにガードに特化するという方向性に舵を切るなら別ですが、今後警備部の特別編成班との連携を考えるならば、高機動高火力を目指すべきとの意見を受けています」


 主として会議の進行をしている男は全体としてのバランスを考慮した意見を、横入りした鎧製作担当班の出席者は現場として譲れないクオリティ面を主張した。


「確かに。だが、いざとなれば鎧を捨てるという選択肢を「騎士」が選ぶことも今回の資料映像ではっきりしたからな。場合によっては一回こっきりの使い捨てに終わる可能性もある。その場合後継版へと技術的なフィードバックが可能なのか否か。そして遺棄されるものから我々へとたどり着き、ひいては「騎士」へと辿られるのは本意ではない。……その視点からすれば、重装甲はむしろ遺棄という選択を選ぶ後押しとなる可能性がある。軽量化については喫緊の課題だな。コストがかさむというのであれば、素材の厳選や使用部材の再検討は? 同程度の物を低コストで用立てることは難しいか?」

「……コストを押し下げるのでしたら、ある程度の量の一括か、定期的な購入契約を結ばざるを得ません。それらをあまり大っぴらにやると、他社どころかグループ内からも探りを入れられます。ただでさえ、世間では「騎士」のパトロン探しが始まっていますので。……最有力がウチだというのはお分かりでしょう?」

「事実であるから否定しづらい……。先日、同業の大学時代の古い友人からカマを掛けられたよ。罪悪感と優越感。秘密は甘美だが、いっそぶちまけたくなるのも人の性なのかもな?」


 ぱさりとテーブル上のスポーツ新聞に目をやると、各種映像から引き伸ばされた「光速の騎士」の新型鎧がパーツごとに分析されている。

 正式名称『白石特殊鋼材研究所謹製「光速の騎士」専用全身鎧Ver2.0』は、こうして日本全国のコンビニや駅の売店、自宅へと紙面を通してその威容を現していた。

 とはいえ、遠目からの推測で行われた分析は一部、製作チームの意図とずれた解説もあり、憤慨しているメンバーもいる。

 具体的には“あんな目立つ配色は実戦では無意味だ”“別に前の兜のデザインを踏襲する必要はない。空力抵抗からしても不条理である”“一部彫金のようなものが見えるが、無駄”というもので、歯噛みして地団太を踏んだ者は数多い。

 ちなみにこの場にいる全員がその多数派に属する者たちである。


「アルティメットからは、細部のデザイン変更案が出ているのか?」

「現状で籠手周辺部に2案提出されています。内1案については3D出力したモデルの成型作業に入りました。ただ予算は大幅に超えると思われます。現時点でも21%の増です。今後のモデリングにもさらに……」

「問題ない。進めてくれ。試作段階での各種装備はナンバリングして保管を。……後日、目視での確認作業は必要だからな」

「はい」


 即決、そして即答であった。

 先程までの議論がなんだったのかと思うほど、あっさりと試作デザインと、そのサンプル製作に関しての議論はストレートに通った。

 多分に何らかの少年心が発揮された瞬間であろう。


「次の議題は……“盾表面部の敵対勢力への視覚的威圧を目的とした彫金案”か。……説明を」

「はい。現状の案としてはアルティメットより出された4案。それに加え、社内有志より提出された3案となります。無論アルティメットの方々は本職ということもあり、それを第一優先にするのは当然なのですが……」

「現場の俺たちの方が、先に始めたのに。横入りしやがって、か?」

「まあ、ぶっちゃけて言えばそういうことです。デザインを優先した物では実用品たり得ない、と息巻いていますよ。コンペを行って、本気で競わせてみますか?」

「……まずはどんなものが上ってきているのかを見ないことには」

「では、資料を1枚めくっていただいて。A3横の資料を確認ください。3Dモデルでの参考資料です」


 ぱらり、と折りたたまれた資料が開かれる音が会議室内に乾いて聞こえた。





「……万が一の破損・紛失に備え、銀嶺学院の事件時と同型の盾の製造には着手しました。槍、盾、斧については基本消耗品と考えています。ですが、盾単体で15キロ弱という重量は如何せん重すぎます。「騎士」専用とはいえ、軽量化は考慮すべきかと。情けない話ですが、持ち上げようとして想定外の重量がかかりぎっくり腰になった職員もいますので」

「いや、「騎士」個人の感想はどうなのかね。私が見たいくつかの資料映像において、盾を使用した殴打が見て取れる。「騎士」としては問題なく運用できているということでは? 頑健且つ高重量を以てその威力を出しているとも考えられるぞ」

「ベースとなるオリジナルは現在の黒塗り盾、仮称“重装型”よりもかなり軽く作られています。学院内で回収できずに構内に隠したために、銀嶺学院の再開までは現物がない状態ではありますが、データ上オリジナルに近いものを早急に準備したいと考えているのですが、再現は難し……」


るるるるる! るるるるる!


 議論が白熱する中で、会議室の電話が鳴る。

 一番近くの出席者がそれをとり、答える。


「はい、こちら第3会議室。……なんだ、アポは?……いや、少し待て」


 壁の固定電話の受話器を手で覆い、振り返った男が小林に話す。


「部長、どうやらトラブルの様です。……正門の警備スタッフから、今回の事件についてマスコミの取材が来たと」

「……来たか。しかし思ったより早いな。どこかからリークでもされたか?」


 ざわっ、と会議室がざわめく。


「……カマをかけに来たのかもしれません。担当者不在ということで、名刺をもらっておいて、正式なアポを取るように、と警備で追い返しますか? ここは各種素材の研究拠点としての要素も強い。事前アポなしの訪問に関しては、拒否してもおかしなことはありません」

「……いや、顔見世程度は応対しておこう。ただ、工場区画内へはご遠慮いただく。事務棟は避けて入口の警備詰所で行うことにしよう。カマを掛けに来たのであれば、こちらも相手がどの程度知っているかを探るべきだしな。……本命としてウチに来たのか、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、で手当たり次第のローラーをしているのか。場合によっては上の指示を仰ぐ必要もある。何も知らぬふりで、他の企業の様子も探れるかもしれん」

「……時間を置かずに応対する方が怪しまれずに済むかもしれませんし。まあ、焼け石に水でしょうが」

「本社の広報部は電話交換のオペレーターの増員をするそうだ。国内だけでなく海外からも取材攻勢が来ているからな。だからと言ってウチの総務に丸投げするわけにもいくまい?」

「そうですね」

「……それで? 来ているのはどこのマスコミだ?」


 額をボールペンの尻でこりこりと掻くと小林がメモを取ろうと、不要になったコピー用紙を裏返す。


「週刊トッカン記者の工藤、カメラマンの黒川って名乗ってます。記者とカメラマン、セットで来てますね」

「仕方ない。……一旦抜ける。私が戻るまで進めておいてくれ。記者さんたちは部屋へ案内を。研究拠点につき構内含め入り口も一切撮影禁止だと言い含めてな。……インスタントでいいからコーヒーと、適当に茶菓子も準備してくれ。2人で来たということだから、そうだな。……手すきの者を3名ほどテーブルに着かせてくれるか?」

「了解しました」


 銀嶺学院の事件のあの瞬間、ヨーイ・ドンで一斉に知識欲が日本全国へとばら撒かれたのであった。

 一体あの「騎士」は誰なのか、あの真新しい鎧はどこが用立てたのか、それを調べるというそんなゲームが至って真剣に、「光速の騎士」本人を置き去りにして行われていた。





 小林がマスコミ対応に部屋を出て、議題が再開される。


「では、次の議題。……サポート用ギミックの開発部署の創設の可否についてですが……」


たたたたっ!

がちゃん!!


 ノックも無しにドアが開かれ、小林が顔だけを突っ込んで叫んだ。


「ああ! 言い忘れたが、72ページからの専用特殊車両の項目は後に回しておいてくれ!! それに関して私からプランについて説明するからな!!」


 応用工学部部長小林辰雄。

 管理職に籍を置くまでの専門は建機並びに大型特殊車両の設計を行っていた男である。

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