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一般人遠方より帰る。また働かねば!  作者: 勇寛
3章

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8-2-裏 毎週月~金・朝7:45より絶賛放送中!情報バラエティ「朝ッパラ!!」 のち 白石特殊鋼材研究所

『10秒前ー。9、8、7、6、5…………」



「はい、おはようございまーす!」

「「「おはようございまーす」」」


 司会のタレント兼キャスターが番組開始からずっと変わらない朝の挨拶を行い、それに続いてアナウンサーやコメンテーターが画面の向こうに頭を下げる。


「本日も「朝ッパラ」。始まりました!いやぁ、昨日すごいことがずっと起きてて、僕はテレビとパソコンに齧りつきだったんですよ」

「そうですよね。まずはそれに関するニュースからです」


 そう言うと大きなパネルの前にタレントとアナウンサーが移動する。

 カメラもその2人を追いかける。

 その間にコメンテーターはいつもの定位置にある椅子に腰かけ、準備を始めた。

 巨大なパネルには事件発生から現時点までの時系列が書きこまれていた。


「本日最初の話題は、昨日夕刻に発生しました○○県の私立銀嶺学院の占拠事件についてです。現場の銀嶺学院周辺で川井アナウンサーが取材を行っています。川井さん、現地の様子を教えてください」


 呼びかけに答えた30代の男性アナウンサーが、局のロゴ入りのヘルメットをかぶって画面に映る。

 上着には防弾ベストと思しきものを着込んでいるが、画面の端に移る周辺住民が至って普通の格好をしており、違和感を禁じ得ない。


『はい。こちら昨日、複数の武装した集団による占拠事件が発生した私立銀嶺学院の敷地から約400メートルほど離れた規制線の傍からお伝えしています。事件発生時刻は昨日の午後5時半ごろと思われ……』




『……現場には爆発物の影響でしょうか。今も焦げ臭いにおいが少し感じられる状況です』

「川井さん、川井さん」

『ハイ、なんでしょうか?』


 スタジオのコメンテーターに呼ばれて返事をする川井アナウンサー。


「昨日、壁を吹き飛ばして車両で逃走していったところはそこから見えないんですか? 「光速の騎士」もその後に続いて走っていったって情報があるんですけど」

『はい。こちらからも現場を視界に入れることはできます。ただ、現在爆発があったと思われる場所には全てブルーシートが掛けられておりまして、外から詳細を確認することはできません。「騎士」が陸路で逃走車両を追いかけたということについては、一般の方々が撮影した携帯・スマートフォンでの映像が多々ありまして、ほぼ間違いないと思われます。その際に、こちらからバイパス道路の県道28号に向かう道沿いルートではなく、住宅街の住民の方が警察より防犯用のカメラの映像提供をお願いされているとの情報もあり、犯人追跡時に住宅街の中を“突っ切った”可能性が高いと思われます』

「……ありがとうございます。では、いったんスタジオに引き取ります。川井さん、現地では犯人全員の確保が確認されていません。十分に注意の上、取材を続けてください」

『わかりました。十分に気を付けて取材を続けます』


 再びスタジオに画面が戻ると、CGで作られた市内地図が芸人の前にドドンと現れる。

 銀嶺学院から県道28号までの犯人逃走ルートと、「騎士」の追跡予想ルート、そして3隊に分裂した「中本の交差点」には矢印と、「騎士」の追跡したキャンプ場と隣の市をつなぐルートにはさらに注釈も加えられている。


「こちらのルートが、「光速の騎士」が追跡を行った山道です。今テレビでは事件前に地元テレビ局が秋の紅葉時期の取材を行った時の映像が資料として流れています。道としては非常に曲がりくねった、車の行き来がしにくいルートと言えるでしょうか?」

「そう見えますね。本来は隣の○○市へと続く道でしたが、新線が整備されてからはだいぶ通行量も減っているという話で……。逃走車両がトンネル内で起こした事故で通行不可となってしまいましたが、住民の方への影響は少ないだろうということだけが救いでしたね」

「巻き込まれた人も、けが人もいなかったようですから。……ただ、警察の発表によれば武装集団がこの場所で人質を取っていたという情報もありまして」

「続報が入り次第、お伝えしたいと思いますが、ここから市内の救急救命センターへと複数の武装襲撃犯と思われる外国籍の男数名が救急搬送されています。現地の救急救命センター前には富樫ディレクターがいます。富樫さ……」



 番組が進んで9時55分までの「朝ッパラ!」の番組終了時間が近づいてきた。

 本来の番組予定を大幅に変更して放送した今日の銀嶺学院占拠事件の報道についての、視聴率はどうだったのだろうかと思いながら、MCのタレントが締めの挨拶に入ろうとする。

 そこへ急遽飛び込んでくるニュース速報。

 ペラ紙1枚を出されたアナウンサーが残り放送時間を調整しつつ音声を放送に乗せる。


「……ただいま、11時から官邸より先日のレジェンド・オブ・クレオパトラのシージャック事件、そして今回の銀嶺学院の武装占拠事件に関して横沢総理が会見を行うと連絡がありました。この後の「昼も見ッ!」内でその会見を生中継する予定です」

「なるほど。どういった話が横沢総理からされるのか、注目です。では、また明日!!」


 「朝ッパラ!!」のメインキャスター一同が頭を下げて、番組がエンディングに入った。




「あー。終わった終わったー。……新しい映像とかは特になかったなぁ……」


 白石特殊鋼材研究所の3F会議室内に設置されたテレビが次の番組へと移る。

 そして同じように挨拶をして、また同じ映像素材を使ったニュース番組が始まる。

 唯一違うのは総理による会見の準備が行われている会場の様子が、画面左上に小さく映し出されているくらいだ。


「仕方ないだろう。多分、本当に近くで「騎士」の姿を捉えた映像は全部警察とかに持ってかれているんだろ。ぽつぽつとネットに上がっているのもあるが、本当に当日の現場の物なのかわからないものもあるしな」


 タブレットでそれらの映像を確認していた男が、ため息とともに首をこきこき鳴らす。

 ふぁぁ、とあくびをしてテーブルに突っ伏す。


「下の連中からの連絡ってまだなのか?」

「まだだな。念のため少しばかり大回りして、物流倉庫内で積み替えをして戻るって話だったからな。ただ、もうすぐ帰ってきてもおかしくはないんだが……」


 彼らは何度目かになるため息を吐いた。

 それは疲れてダレているように見えてはいても、どこか温い熱を孕んだもので、完徹3日目になろうという猛者も中にはいる。


るるるる!るるるる!


「はい」


 内線電話を2コール目で取ると、騒いでいる様子の向こうの声が漏れ聞こえてくる。

 結局のところ、そんな勢いで話されていては鼓膜が持たない。

 卓上の電話機本体のスピーカーボタンを押して、周囲に音声が流れるようにする。


『戻ってきました!!装備一式です!ただ、盾だけは「騎士」が念のため使うかもしれないのでそのまま持っていくということでここにはありませんが……』


 それを聞いて、会議室にいるメンバーのうち、無精ひげが目立つ男が立ち上がりガッツポーズを決めてみせる。


「よぉぉしっ!!!」


 比較してその様子をうらやましげに見ているのが残りのメンバーである。

 説明の必要もあまりないかもしれないが、喜んでいるのは「盾」チームの担当者で、うらやましげにしているのは他の部門の責任者である。


「そうか、では3番へ運んでくれ。そこで状態の確認をすることにしよう。だいぶ酷いとは聞いているんだが」

『はい、確かにこれは必要でしょうね。遠目からテレビで見ていた以上に酷い状態です。どこかしら溶けて他のパーツに癒着していたり、割れていたり、無事で帰ってきたものはほとんどありませんね……。こりゃあ、修理より新規に作り直した方が早いですよ……』



 ……と、いうわけで白石特殊鋼材研究所第3格納庫である。


「……うわぁ、胸のど真ん中にこんな大穴。しかも衝撃分散用に付いてたダメコン用のパッケージ、全損じゃん」

「電装系統は完全にオシャカ。テレビでも見てたけど、あのバリア、電気っぽかったもんなぁ。絶縁処理はしてたつもりだけど、過電圧でショートしたんだろうな。……破断部のダメージは、こりゃあ熱変化のせいで強度が不足したからか?」

「……いえ、この断面からすると、破断後に炙られてるって感じですね。つまり衝撃を受けて砕けてると考えた方が妥当です」

「分析班!パーツごとのダメージを3D処理して、データ化できるか!?次のVerで必要な限界値を計算するから!!」

「!!主任、主任ッ!!!ここっす、ここ!!ほら、新素材を加えたココ!!本体の表面部は砕けてますけど、中のインナーに使った新素材!!千切れる事無く残ってます!!」


 わいわいがやがや……。

 入庫と同時に駆け寄ってきた「光速の騎士」の各種装備の担当部署ごとに自分のパーツを分捕って分析に回しながら、どの程度の疲労が各パーツに掛かったか、壊れている箇所はどのように壊れたか、“次回以降”に必要なもの、不必要なものをピックアップするのに一生懸命である。

 一方今回、間に合わず臍を噛む思いをしていた槍、斧チームはその得られたデータからさらに一歩進んだより「騎士」にフィットするであろう品を作る、というのが目的である。

 その為、この格納庫の中心から少し離れた位置で屯っている必要はないのだが、それはそれでただ単純に「白石特殊鋼材研究所謹製光速の騎士専用装備Ver2」の雄姿を眺めに来たのである。

 要するにただのミーハーであった。


「……やっているなぁ」


 そうつぶやいたのは自分のオフィスからやってきた白石特殊鋼材研究所、応用工学部部長・小林辰雄。

 本研究所内の最重要機密プラン「裏鍛冶師(仮称)」のトップであった。


「あ、部長。お疲れ様です!」

「おう、お疲れー。……しっかし、ズタボロにやられたよなぁ。まあ、最初のあのバリバリッってやられた時にはひやっとしたぞ。門倉さんの話だと外がこれだっていうのに中の「光速の騎士」は大丈夫だったらしいからな。……人外って言葉、早々使いたくはないがどういう体してるもんかねぇ」

「警備部の訓練に同行した奴らの話も誇張してるって思ってたんですが。でも、本当なんでしょうねぇ」


 近くにいた馴染みの職員とそんな他愛のない話を駄弁る。


「あ、そういえば東京からのお客さん、そろそろ来るんでしょ?」

「ん?ああ、本社のデザイン部を経由して連絡を取ったんだが、詳細な内容は言えないだろう?そんな怪しい依頼を、白石グループだからっていっても承諾してくれるかどうかはわからないって話だったんだが。ただ、聞いて驚け。……本命が釣れた」

「マジですか!?うわ、本当に?」

「まあ、ここで見た内容は外部に漏らさないという念書まででな。実際にここに来てからが商談スタートになる」


 がちゃん……。


 そう言った小林の後ろで鋼鉄製の扉が軋んで開く。

 先頭を歩くのは「鎧」部門の担当職員だ。

 その彼が後ろを歩く男に話しかける。


「……お願いしたい内容というのは、ここにあ……」

「あわ、ああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!」


 格納庫内にいる全員がその方向を向くほどの大きな大きな叫び声。

 視線が全てそこへと集中する中で叫び声、いや奇声を発しながらその男がどたどたと自分のカバンをその場に置き去りにして走り出す。

 どたたっと駆け寄った先は「光速の騎士」Ver.2の破損した鎧の胸部パーツを全方向からカメラ撮影している場所だ。


「おぉぉぉぉぉっ!!!」


 そこでもさらに奇声、いやアレは歓喜の声か。


「どうやら受けてもらえそうだな。……まあ、かなり吹っかけられるかもしれないけれど」

「いや、大丈夫じゃないですかね?多分、適正価格でお願いできそうです」


 なんとなくわかる。

 アレは間違いなく自分たちの同類だと。

 横で若干引き気味の所員のPCを覗き込み、忙しなく今までの撮影画像を見せるように要求していた。


「日本人は変わり者が多い。……こういうところがそう言われる原因だと思うぞ」

「我々も変わり者です。まあ、それだからこそこんな仕事ができるんですが」

「違いない」


 ははは、と笑いあう2人。

 その2人が喜色に塗れた表情の線の細い闖入者の落とし物を取りに向かう。

 鞄の他に名刺入れもあった。

 恐らく先程の案内していた職員と名刺交換をしたのだろう。

 名刺は合計2枚落ちていた。

 1枚は研究所の職員の物。

 もう1枚は闖入者の物だった。


 名刺の肩書は「株式会社アルティメット 代表取締役社長 伊勢誠」となっていた。 

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