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故に、青春とは脱出ゲームである。  作者: ナヤカ
【最終章】彼らはそれぞれの答えを語る
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友人からの手紙は真相を語る

 家に戻ると、一枚の手紙がポストに入っていた。また何かしらの勧誘か何かかと思ったが、そうではないことに気づく。


 差出人は、一週間ほど前に『脱出ゲーム』を送ってきた中学時代の友人からだった。



――さて、先日送った僕の最新作だが、もうテストプレイは済んだかな? 待てど暮らせどレスポンスがないため、僕は少し困っているよ。君は頼まれれば何だって即座にこなして見せるのが売りだっただろ? 僕は君のそういった部分を評価していたんだが、もし未だに手をつけていないなら、僕の目は節穴だったということになってしまうね。


 あぁ、そうだ。僕は別に催促の為にだけ、この手紙を送ったわけじゃない。とある事柄について、時効だと思ったからそのことを伝えようと思ったんだ。


 実は、僕が君と仲良くしていたのは金になるからだったんだ。……勘違いして欲しくないが、僕と君の間には金のやり取りなんて一切なかった。奢られたことはないし、僕が君に奢ったこともない。そこは理解して欲しい。


 僕が言っているのは君の情報が金になったということだ。中学の頃、授業では教師よりも豊富な知識をひけらかし、スポーツをやればそのスポーツに通ずる部活動生徒をなんなく凌駕してしまう。おまけに君は大会社の社長の息子で、妹さんは著名人だ。


 まぁ、君のせいではないが、そんな環境で傲らない方がおかしいと思う。そういった部分を、酷く嫌い、だが口には出さない奴等がわんさかといたんだ。そして、そういった奴等ほど君の事を知りたがった。


 君が休日何をしているのか、君が何に興味を持っているのか、奴等は金を払ってでも知りたがったんだ。



 何故だか分かるかい?



 君との接触を極力避けるためさ。君と居ると何もかもを奪われる、そんな恐怖が奴等にはあったんだ。だから、進路についてもだいぶ稼がせてもらった。奴等は君と同じ高校に入ることを心底嫌がっていたからね。


 だから、君の高校には同じ中学時代の奴はいないだろ?

 

 と、ここまで気味の悪いことを書いてきたが、僕は決して奴等と同じ側ではないことを弁明しておこう。僕が君と共にいたのは、純粋に面白かったからだ。君が他を圧倒し、奴等がその事に囚われている姿がとても滑稽で、僕にとってはとても有意義だった。願わくば、その光景を高校でも見ていたかった。


 しかし、それは僕のエゴに過ぎない。君は君の人生を歩むべきだ。そして、僕のように君を理解できる人間が確実にこの世界にはいるだろう。そんな友人と君が出会っていることを僕は心から願っている。


――追記。ゲームのことだが、今回は新しい要素を取り入れてみた。その難易度は君に合わせてつくってある。まぁ、君の事だから既にクリア済みだとは思うが、それは僕の知り合いが作ったプログラムを入れてある。難易度は世界レベルで、君はそれをクリアすることを大いに誇って良い。



「……性格悪すぎるだろ」


 読み終えると、体の力が抜けていくような感覚に陥る。


「……なんだよ、それ。僕が気づくよりもずっと先に、他の奴等は知っていたってことか……ははっ」


 あまりにもショック過ぎて笑えてきた。というか、もはや笑うしか出来なかった。


「それじゃあ、僕はどっちにしろ……」


 それなりに満ち足りていた中学時代、それは父親の威光を被った真実の自分。そして、それを拒み続けたこの一年間、つまり、それを脱ぎ捨て裸で挑んだ嘘の自分。

 そのどちらも、やはり僕は僕でしかなかった(・・・・・・・・)のだ。


 何かを変えようと足掻いたが、結局変わることなど出来なかった。勇んで自分から飛び込んだ道のくせに、結局それを成すことなど出来なかった。


 なら、僕はどうするべきなのだろうか。どうあるべきなのだろうか。


 だが、その考えさえも無意味なことのように感じてならない。何故なら、どんなに考えたところで僕が変わることはないのだから。


 だったらもう、認めるしかないのかもしれない。自分という人間がそうであることを。自分の人生がそうであることを。


 それは果たして諦めだろうか? それとも、乗り越えたということなのだろうか?


 分からない。


 ただ、そう思うと、突然目の前が真っ暗になるような気がした。その暗闇の中で、誰にも気づかれず死んでいくような気がした。


 そんな感覚から逃げたしたくて、僕はパソコンの電源を入れる。開いたのは、友人が作った『駄作脱出ゲーム』。それを終わらせることで、何かから一回だけ脱出しようと思ったのだ。

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