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故に、青春とは脱出ゲームである。  作者: ナヤカ
【第四章】その者は一つの答えを語る
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そして振り出しに戻る

はい。一週間と待たず投稿……。

 数日が過ぎた。あれだけ執拗に絡んできた入宮は、パッタリと姿を見せなくなり、これまでのような平穏な日々が続いている。


 いや、元通りとはいかないのかもしれない。


 ロンリー先輩たちは、毎日放課後は部屋にくるようになった。やっているのはいつも麻雀。時々相手をさせられるが、先輩たちのイカサマにより、だいたい負けは確定している。「お前もイカサマを覚えろ」と、斜め上のアドバイスをくれるのだが、はっきり言ってそこまでする必要性を感じない。……とはいえ、やはり負けるのは悔しいので、イカサマの練習はこっそりとやっていた。だが、麻雀よイカサマは、一日や二日で習得出来るものではなく、それを披露するのはもう少し後になりそうだ。


 葉加瀬の方は、演劇部の部員募集に力を入れている。ポスターを勝手に破った罪悪感から、少し手伝ったりもしているが、正直演劇部に入りそうな奴等はいなかった。


 僕は……今日も今日とて屋上で現実逃避をしていた。


「達成感より、充実感か」


 何となく、入宮の姉の言葉が脳裏から離れない。充実感なんて、感じたこともないのでどんなものかもよく分からない。まぁ、こうして屋上でぼぉっとしているのが充実しているかと問われれば間違いなくNOなのだが。


 そんなことを思っていた時だった。


「烏丸くん!」


 その声を僕は知っている。


「なんだよ……入宮」

「今度のゴールデンウィークだけど、くらやみ祭りに行くわよ」

「……は?」


 唐突に、突然に、天を穿つほどの勢いで入宮きねりは言った。


「なぜだ」

「充実感を得るためよ!」

「いや、意味が分からないんだが」


 その返しに、入宮はドヤ顔で腕組み。


「私考えたの。充実感ってなんだろうって。でも、私はそれを実感したことがない。だから、実感してみようと思って」

「……それで祭りなのか?」

「えぇ。取り敢えず、今まで馬鹿にしていた人たちが、意味もなくやっていることをなぞろうと思うの」

「なるほどな。確かに奴等はリア充と呼ばれているし、方向性は間違ってないかもな」

「でしょ? 本当は、彼氏を作って行くのが良いんだろうけど、そんな男いないし。だから仕方なく烏丸くんで勘弁してあげるわ」

「なんだよ、それ。僕はそんな都合の良い人間じゃあないぞ?」


 言ってみるが、おそらく意味のないことは分かっていた。 


「あら、この前、学生の身で喧嘩したこと忘れたの?」

「あれは……お前が原因だろ。というか、また僕を脅すのか」

「そういう意味じゃない。烏丸くん、私に嘘をついてたってことでしょ? やっぱり私が見たのは烏丸くんだった」

「……だったらなんだ。嘘は入宮もついてただろ」

「私は隠していただけ。秘密よ、秘密。女の子には秘密の一つや二つあっても良いじゃない」

「何の躊躇いもなく正当化するよなぁ。もうそれには尊敬さえ覚える」

「なら、あなたも喧嘩のことは秘密にしておくべきね。だから、その為に私に付き合ってくれる? というか、これはデートのお誘いよ? 私から誘うなんて天と地がひっくり返ってもないことなんだから」

「突拍子もない例えだが、何故か賛同できるな」

「なら――」


 畳み掛けてくる入宮。だが、それには乗らない。


「僕は行かないぞ。僕は別に充実感なんて求めてないし、喧嘩のことなら先生に言ってくれていい。それも覚悟の上でやったことだ」


 何かを人質に取って、無理やり相手を引きずり出す入宮のやり方は既に心得ている。だから「その人質には価値なんてない」と教えることで彼女のやり方を突っぱねた。


 入宮は少し黙り、何かを考えていたが、やがて諦めにも似たため息を吐き出す。


「気になっているんだけど……烏丸くんって何者なの?」

「何者? 烏丸武人。普通の男子高校生だ」

「普通の男子高校が、同じ高校生を三人も相手にして勝てるの?」

「小さい頃から父親に武道の習い事をさせられてた。だから、喧嘩には多少自信はある」

「なんでそういった部活をしないの?」

「言っただろ。自由が欲しいって」

「嘘。こうやってボケーとしている時間でさえ、あなたは不自由を感じてるじゃない」

「そういった自由じゃないんだよ」

「じゃあ……烏丸くんが望んでる自由って何?」


 その質問は前にも聞いたことがあった。偶然にも同じ場所で、同じ時間帯で。遠回りをしてから回帰したようだ。


 ただ違ったのは、入宮と僕との関係性。あの時よりも僕は入宮のことを知り、彼女も僕を知った。そのことが、その質問に答えないという選択肢さえも躊躇させる。


「……入宮は、鍵を手に入れるために天文部に入ったんだろ?」

「えぇ」

「そして、その鍵は手にいれた」

「烏丸くんが取り戻してくれたから」

「……そして、目的を達した今、もう天文部にいる必要もない。つまり、お前が俺の手伝いをする必要もないんだ」

「それって」

「契約は破棄された」


 彼女があの日あの時、僕に声をかけたのはやはり理由があったから。だが、その理由は今やない。変わってしまったのは関係性だけではない。協力するための理由さえも失われたのだ。 


 なのに。


「そう。じゃあ、アプローチの方法を変えるわ」

「アプローチの方法を?」

「えぇ。私がもし、あんなにも人混みの多い所に行ったらどうなると思う?」

「なんだよいきなり。……気持ち悪くなる?」

「それもあるかも。でも、もっと可能性の高いことがあるでしょ?」

「……なんだよ」

「ナンパされるわ!」


 思わずコケそうになる。


「お前……今、酷く痛々しい自画自賛したの分かってるか?」

「自画自賛? いいえ、経験に基づく予測よ。アメダスなんかよりも正確な、ね」

「やけに言い切ったな」

「だって、いつもそうだったもの。環境が変われば必ず男が寄ってきた。この学校に入った時だってそう。うんざりするほど告白なんて受けたわ」

「……それは知ってる。そして、ことごとく罵倒したんだろ」

「だって、彼らは私の何を知って好きになったっていうの? 私は彼らとは話したこともないし、知り合いだったわけでもない。なのに、私の表面だけを見て想いを告げてくる。だから、私もそれをしたまで」

「結構勇気がいることなんだぞ? 告白って」

「罵倒することだって勇気がいるわ。誰だって嫌われたくないもの」

「……つまり、何が言いたいんだ」

「私のボディガードをしなさい。寄ってくる男を追い払って」

「僕がか?」

「私が知っている男の中では、一番適任だと思うけど? 喧嘩も強いし、それなりに弁がたつ」


 いきなり褒めだしたな……。


「それに、私に一目惚れしない節穴の目が一番の魅力ね」


 そして突き落とすのか。


「言っておくけど、私はあなたを飼ってる(・・・・)わ。首輪でも着けておきたいくらい」

「そっちの飼うかよ。てっきり、認めてるの方かと思ったじゃないか」

「どっちでも一緒でしょ? 認めてないと手元に置くわけないじゃない」

「手元に置いた前提で話をするな。僕は飼われた覚えはない」

「あなたにはなくても、こちらにはあるのよ。イジメと一緒ね。加害者に意識はなくても、被害者にはその意識がある」

「話をすり替えるな。まるで、僕が加害者で入宮が被害者みたいじゃないか。本当は逆だからな?」

「犯罪者って、みんな同じ事言うのよね」

「おい、また僕の価値が下がったぞ。……ホントに認めてるのかよ」

「もちろんよ。だから、こうして頼んでいるんじゃない」

「お前は……」

「いい加減諦めなさい。私に悪あがきなんて通用しないから」

「通用しないのは悪あがきじゃなくて、話し合いだろ……」


 そして、その嘆願さえも彼女には通用しない。


「いい? ゴールデンウィーク初日は必ず空けておくこと。詳細はLINEで送るわ。それじゃ」

「おい、ちょっと待っ――」


 入宮は、その言葉を待たず入宮は走り去ってしまった。


 ……マジかよ。


 こうして、僕のゴールデンウィーク初日は、悪夢の予定へと変貌を遂げた。

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