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第七話 魔法使いの弟子

お久しぶりです。今回は日常編・・・のようなものです。

 俺が弟子入りしてから数日が立って、俺はようやくこの家になじんできたと思う。ところで、魔法使いの弟子ってどのくらい忙しいかわかるか?今日は魔法使いの弟子の生活についての話をしようと思う。


 まずは・・・魔法使いの弟子の朝は・・・・あんまり早くない。


「師匠起きてくださいよー!!!」


 朝日が差し込む部屋の中、大きいベッドの中で、だらしない顔を晒しながら、だらしないオヤジのように腹を丸出しにして寝ている師匠を起こすことから俺の朝は始まる。普通、女の子を起こすのってすごくいいシチュだと思うんだけど、この師匠、見た目はいい割にこの寝相のせいでかなり損しそうだ。はぁ~、やれやれ。


 ちなみに、現在時刻は八時。日本だと大抵は既に会社に出勤済みの時間である。この世界では出勤時間は日本に比べて遅い・・・なんてわけはなく、大体の生活サークルは現代日本とあまり変わりがない。つまるところ、この師匠は朝に弱い。だが、執事頭のジールさんに教えてもらったが、これでも王都に居る間はきっちり起きるんだとか。仕事に遅刻はしないんだそうだ。だが、この屋敷に返ってきた途端自堕落な生活が始まるらしい。涙ながらに語っていたね。


 いい言い方をすれば、切り替えができる女性なのだろう。だが、悪い言い方をすれば、実生活が終わってるということだ。なんてところに弟子入りしてしまったのかと頭を抱えそうになるが、ほら、よくいうだろ?天才には変わった人が多いって。そう考えて日常を切り抜けています。


 そして、一時間――時には数時間――かけて師匠をおこしたあと、俺はついに魔法の勉強・・・ではなく、師匠に顔洗いをさせる。


「ほらほら、師匠早く顔洗って目を覚ましましょう!」

「あー・・・」

「あー・・・じゃありませんって!ほらほら!!」

「あー・・・」


 だが、大体寝た後の師匠はあんまり意識がなくぼーっとしているだけなんで、正直な話、まともな話は一切通用しない。というか、返答が「あー・・・」なので意思疎通できない。本当に、なんでこんなことに・・・。


 まあ、日常を嘆いたってなにも始まらない。千里の道も歩くのも決心してからだし、ローマは一日でできたりもしない。ゆっくり着実にやっていこうではないか。


 ・・・なんて甘えは通用しない。というか、正直な話、俺は使える手札は使うタイプなのでこの日もさっさと決着をつけることにした。


「ほら、師匠!!あなたのそんなだらしない姿をみてクーが真似したらどうするんですか!!!」

「はっ!!」


 師匠覚醒。ざばざばと顔を洗い、タオルで顔を吹き、こちらにニンマリ笑いかけてくる。アニメとかマンガなら、キラリンと歯が光りそうである。


「おはよう、ケインくん!今日もすがすがしい朝だね!」

「・・・・はぁ」


 むかつくくらいの笑顔である。本当に・・・殴りたい。だが、これで俺が追放されてもダメなのだ。・・・そう、クーを落とすまでは。


 クーとは師匠の妹である。人見知りをするタイプのおとなしいタイプであるが、師匠からの英才教育を受けて、その魔法のウデマエ・・・じゃない腕前はその歳にしてはかなりのものである。つうか、大人顔負けレベルとか使用人たちは言っていた。・・・普通の水準が分からないので使用人たちがかわいがってるだけなのか、あるいは事実なのかははかりかねるが。


 んで、前情報はどうでもよく、本当に重要なのは、このクーが本当にかわいいということである。そう、本当に重要なのは。あの姉とは違い可憐な可愛さで、まさしくその美貌は職人によって手入れされた花壇にさく一輪の素晴らしい花のようである。しかも、性格もあの姉とは似ても似つかないほど優しく、世話好きで年下の俺を兄弟の慕ってくれる。弟のように・・・とは言わないのは、どっちが上かわからないからである。たしかに、俺の世話は焼いてくれるのだけどね。年は一応あちらが上である。女性の歳を気にするのはいけないと思うけども、子供だから大目に見てほしい。


 さて、と。クーの話はこれくらいにしておこう。重要なのは、師匠はクーの名前を出されると立派な行動を心掛けようとするということだ。馬鹿につける薬はないというが、姉バカにつける薬はあったってわけだな。


 そして、洗顔とかなんやらが終われば次は朝食である。ここでも、師匠がなにかやらかすと思った諸君、そんなことはない。


 そう、食事ということは家族実ン名でとる。妹のクー共々。つまり、師匠はやらかさないのだ。おそらく王宮魔法使いであるが故に身に付けたテーブルマナーを駆使し、先ほどまでのだらしなさが嘘のような立派な姉がそこにいた。


 正直な話、彼女のだらしなさは使用人のほとんどが知る事実であるが、彼女の妹だけは知らない。・・・もっとも、いつバレルかはもはや時間の問題のような気もするが。


「どう、クー?食事は美味しい?」

「うん、おいしい!」

「あぁ、かわいい!!」


 ・・・完璧なのはテーブルマナーだけだな。


 そんなこんなで食事も終えると彼女は王宮魔法使いとしての研究が待っている。その間に俺は何をするかって?完全に放置だから、外で魔法の練習をしてる。今やってるのは、どれだけ早く魔法を発動させるかってことだ。無詠唱な時点で、詠唱した魔法よりは格段に速い。だけど、相手が隠れひそんだりしていて、魔法を視認・・・つまり、撃った後であればよほどの速度でないと間に合わない。つまり、思った瞬間に発動する、それが理想だ。もっとも、今の状態では発動するまでに、使う魔法を思い描いてから2,3秒はかかる。


 まあ、これでもそれなりに早くなったほうだし、詠唱する魔法使いからしたら早すぎるだろと突っ込みをいただくだろう。だけど、まだ足りない。本当の強さにはまだまだってところだと思う。


 ・・・ん?魔法以外に何もしないのかって?もちろんやってるさ。毎朝、師匠を起こす前にランニングするし、イケメン執事の一人にして護衛をこなせるように訓練を受けた結果、一級とまではいかないがそれなりの腕を持つに至ったクリフに剣のことを学んでいる。師匠からちゃんと許可ももらっているため、クリフが仕事を抜けても大丈夫なようになっている。


「はぁぁぁぁっ!!!」

「・・・いや、それは駄目だよ。剣を振るうときは、剣に振り回されるなといったけれど、大声を出して振り回せばいいってものでもない。自分の心を落ち着かせて振ることが一番重要だよ」


 勢いよく斬りかかった俺をクリフは軽く受け流して、地面に倒す。・・・ぐふっ、少し痛いぜ。


「・・・はあ・・・はあ・・・」

「もう少し、体力をつける必要があるようだね。でないと、いくら自分の防衛優先の剣とはいえ、そう保たないよ」


 クリフは優しい口調で俺を諭すように言うが、その眼は厳しかった。この人、見た目は優男なのに訓練には手を抜かないタイプなんだ。まあ、命を落とさないよう真剣に教育してくれてるってことなんだけど、些か、スパルタ。いや、本当に。洒落にならないくらい。練習前に屋敷の周りを十周(10kmは優にあるに違いない)は当たり前、素振り千回は当然だし、準備運動は準備運動ではない。まあ、その甲斐あってか、俺の体は三歳くらいのはずなのに少し筋肉がついてきた。・・・筋肉をつけすぎるとあんまり背が伸びないと聞いたことがあるが、大丈夫だよね?


 ちなみに、俺がクリフに習っているのは、受流破砕剣という流派である。まあ、読んで字のごとく、攻撃を受け流しカウンターで相手を倒すための技だ。・・・と、いえど、カウンターで相手に痛手を負わせるようなのは達人レベルであるらしいので、そのレベルに至るまでは単純に攻撃を受け流すのに特化しただけの剣術である。まあ、それでも力いっぱいの攻撃を受け流すことによって相手が隙を晒せば、その胴体に剣を突き刺すだけでも十分痛手だとは思う。俺の場合は魔法もあるしな。ついでに、柔道でいう黒帯、白帯みたいな段位みたいなものは、低いものから、初級、中級、上級、超級、極級、神級となっている。超級受流破砕剣士といえば、その人は、超級の腕を持つ受流破砕剣という流派の剣士という意味だ。ちなみに、クリフは超級である。


 ついでに付け加えるなら、魔法も初級~神級と同じ様に区分けされている。だけども、呼び方は異なり、超級魔法使い、なんて呼び方はしない。魔法使いの場合は、その人が現時点で覚えている魔法の中で最も級位の高い魔法属性と級の名前を合わせた呼び方となる。俺の場合は・・・まんべんなく上級は覚えているが、無属性の魔法を一番多く覚えているため、無上魔法使いってことだな。字面だけ見るとトップみたいだが、違う。勘違いすんなよ。飽くまで、「無」属性「上」級が仕える「魔法使い」って意味だからな。


 さてさて閑話休題。


 そんな風に超級の剣士に鍛えられる三歳児の俺は、スパルタが終わった後は昼食に入るわけだが、ここの様子は朝食時と大して変わらないため割愛させてもらおう。昼食が終わるといよいよ師匠との特訓である。


「さて、というわけでお昼の後の勉強だけど、クー、眠くはないかい?」

「うん!少し眠いけど・・・頑張る!!」

「そうか!!クーはえらいなあ!」


 にへらぁっとだらしなく笑う師匠がクーをほめるのはいつもの流れだ。別に、うざくはない。だって可愛いし、クーが。


「師匠、クーが可愛いのは心の底から賛成しますが、早く始めましょうよ。聞きましたよ、今日の仕事が終わってないらしいじゃないですか」


 実のところ、師匠の研究は師匠が完璧に計画したはずの計画に沿って動いている。一日にできる仕事量を計算して、かつ、休みが終わるまでにちゃんと終わらせる量までも考えてある。早くなりこそすれ、遅くなることは許されないのだ。・・・だが、今日は


「うっ!し、仕方ないじゃないか!!クーに花を貰ったんだよ!!永遠保存のために準備をするのは当たり前じゃないか!!」


 朝に、クーが起きてから作った花の冠を貰っていて、それを保存する魔法を完璧にするために結構時間がかかったらしい。ちなみに、こういう風に予定がズレたら彼女はどうするのか?それは、簡単。睡眠時間を削るのだ。


閑話休題それはさておき


「とりあえず、仕事が終わってないのは師匠の自業自得ですから早く始めましょう」

「なっ!?自業自得だって!?ボクはね...」

「師匠、まさか、クーのせいにする気では、ありません、よ、ね?」


 にっこりと笑いながら師匠を見る俺。チラリとクーの方を見ると、「私のせいだったの・・・?」とでも言うかのように涙目になっていた。師匠の顔から血の気が引いていく。タラリ・・・いや、ダラダラと師匠の額から汗が流れ落ちる。


「ま、まさか!!!あっはっは!!!そんなわけないじゃないか!!!あっはっは!!!」


 必死にそう言う師匠を見て俺は内心ほくそ笑みつつ、クーを慰める。くっくっく、姉の威厳台無しだなぁ。


 そんなやり取りをしつつ、師匠の講義が始まった。


「まあ、講義と言っても、本に書いてないことを教えるのが目的なんだよね」


 というのが本人の談だ。というわけで、師匠との魔法の修業?では魔法の詠唱などは習わない。習うのは、魔法の巧い使い方や、魔力を体に循環させて、魔法を練り易くする裏ワザのようなものだ。つまり、実践向けの、王宮魔法使い用の技術ってことだ。伊達に王宮魔法使いをやってないらしく、それなりに技術はあり、しかも大変わかりやすい教育をしてくれる。王宮魔法使いの仕事の一環に教育もあるらしいのでソレのおかげであるかもしれない。もっとも、教育というのは新しく王宮魔法使いとして任命された人間に対してのものであり、学校の授業的なものでもないのだが。


 さて、というわけで、俺とクーは体内に魔力を循環する鍛錬をしている。それは、無詠唱によりイメージの鍛錬、および、前世からの妄想というイメージ力の強化の結果によりうまくいっているといえよう。そう、やることは簡単。全身に通っている血をイメージすればいいのだ。前世に生物の時間で、習ってたあれが役に立ったのだろう。


 まあ、そんな比較的、イメージしやすい俺と違い、血管図どころか、解剖図すらまともにない(回復魔法を使えば傷や病はある程度治癒できるので手術は必要ないのだ)この世界で生まれたクーは、いとも簡単に、しかも俺よりも精度よく循環させていた。精度がいいとはこの場合、一回で流せる魔力量を差す。当然、一度に多くの魔力を流せる方が有利だ。なぜなら、そうできればその分、魔法を行使するのに必要な魔力を集めやすいということであるからだ。まあ、とどのつまり、俺たちは魔力を操る練習を通し、操れる魔力量の上昇を目指しているというわけだ。


ちなみに、魔法を使う時、込める魔力が多いほど威力が高いというのは周知の事実である。というわけで、強い魔法使いというのは総じて魔力操作の精度がいい奴ってことだ。


過去には、中級魔法なのに上級魔法並の威力で放つことの出来た者もいたらしい。当然、その人は英雄と呼ばれる一つの境地に辿りついた人だったけど。


「・・・まあ、かなり前からやってたクーが上手いのは分かるとしてもね、なんで数日前に始めたばっかの君がそこまで上手いんだよ」

「才能ってやつじゃないですか?」


 呆れがほとんどの顔をしている師匠に俺は適当にそう答える。いや、正直に前世の知識とか言えるわけないじゃん。まあ、当然ながら師匠はそんな理由で納得しない。


「才能ってレベルじゃないと思うけどね。まるで、前からやり方を知ってたとしか思えないけど」


 ・・・師匠ってば、ひょっとして鋭い?


「ん、でも才能って言うんならボクだって天才魔法少女と言われたこともあるね。そうだ、一度ボクと戦ってみよっか」

「え・・・?」


####


「・・・・いやいやいやいや!!!!」


 師匠謹製(とか言いつつ結局、大工さんに作ってもらったんだろうな)の魔法鍛錬館・・・通称、魔練館。その壁には防御魔法の術式が書き込まれており、生半可な魔法を撃ちこんでも、逆にその魔力を吸収するのだとか。ちなみに、それによって物理的な強度を強化するのだとか。


 そんな場所で、俺と師匠は向かい合っていた。


「勝負は一回。一撃でも掠ったら終わり。まあ、天才のボクにが相手だからハンデくらいはつけてあげよう!魔法は上級までってことで」

「いやいや、まだ誰もやるって・・・」

「がんばれ、おねーちゃん!ケインも・・・がんばってー」

「うん頑張るから、見ててよ、クー!」

「よっしゃ勝ってやるぜ!」


 ・・・・ハッ!逃げ道を防がれた。まさかの伏兵!?


「よし、それじゃあはじめようか!」

「ええい、ままよ!!!」


 そして、試合が始まった。

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