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第十七話 対等な者

先週は突然の休載、お詫び申し上げます。

前回のあらすじ:眼帯男と戦って見事お負けになりました天晴!

 ちゅんちゅん。


ガバッ!


「朝だー!!」


 みなさんおはようございまっす!なんか今日はスタミナが・・・というか気力が満ち満ちマックス!


 ・・・あれ?つか、昨日寝た記憶ないんだけれども・・・?


「おはようございます、ラーデンス様」

「え、あ、おはよう」


 声を聴いて初めて気づいた。ベッドの傍にメイドさんがいた。といっても、俺の知り合いじゃないようだけれども・・・?


「お初にお目にかかります、私の名前はミリアでございます。この度、ラーデンス様のお世話係に任命された次第です」

「あ、はい。えっと、ケインジス・ラーデンスです。・・・よろしく?」

「はい」


 そう言って深々とお辞儀するミリアさん。俺はまじまじと見つめてしまう。たわわと実った二つの実。服は、普通のメイド服である。それもメイドカフェとかそんな商業的なメイドが着るメイド服ではなく、スカートの丈も長く、色気も何もないメイド服だが、それでも仄かな色気を感じさせる大きさであった。


「では、御用がおありでしたらそちらのベルをお鳴らしください」

「・・・あ、はい」


 お辞儀をしたあと、淡々とした口調でそう告げたミリアさんはそのまま部屋を退出した・・・って、部屋?


 昨日は確か、第二王子に連れられて軍部に寄ってから眼帯のやつに勝負を挑まれて・・・あれ?そのあとの記憶がない・・・?

 だが、部屋はどこか見たことある感じなのだが・・・とう~んと、唸っていると思い出した。ここは、そう、王城のゲストルーム的なところだった気がする。案内の一環で覗いたのだが。

 まあ、厳密に言えば遠方の出身の王宮魔法使いが城内に与えられる部屋なのだが。豪華さはやはり、第二王子の部屋とかの半減以下・・・と言っても、それもやはり一般的な部屋とは一線を画す、高貴さのようなものがうかがえる。・・・気がする。うん。


 ま、俺のような根っからの庶民には、高貴さなんてのは分からないのだが。


 と、そんなことを考えているとコンコン。そうノックされた。


「あ、はい」

「む?起きているようであるな!安心なのである!」


 俺が返事をするか否かのうちにドアをバン!、と豪快に開けてきた人物は、第二王子だった。・・・いや、返事を待てよ。というか、今さらっと聞き流しちゃまずいことが聞こえてしまったような・・・?


「あの、第二王子。『安心』ってどういうことですか・・・?」

「むむ?それはな、貴殿は昨日ジーニアと戦って気絶したのであるな!」


 ジーニア?誰だ、それは・・・と思った瞬間、俺の脳は爆発的な回転を遂げ・・・たのかは知らないが、昨日の記憶が湧き出るように思い出される。

 そうだ、昨日の俺は、『試合』をして、顎に一撃を喰らって気絶したんだっけ?


 そう思ってさっと顎を触ってみるが、痛みも腫れも何も残ってなかった。


「貴殿の傷は既に、軍所属の治癒魔法使いが治療しているのである!安心するといいのである!」


 しきりに顎を触っていた俺の様子に、察したかのように第二王子がそう告げる。

 それを聞いて俺は、痛みがないことに納得した。・・・普通は、顎に強烈な一撃を喰らったら痛みが残るもんだと思っていたが、そういうことか。それに、確かに試合前の説明でもそんなことを言っていたな。


「それならいいのですが・・・、そういえば、どうして第二王子はこちらへ?」

「うむ、実はな・・・」


 聞きようによっては失礼にも感じられるような言い方にも、第二王子は気にせずに(気づかずに?)説明されたことによると、どうやら俺をどこかへ連れて行きたいようである。・・・まあ、それはいいのであるが、最初に天気の話から入ってくるからびっくりした。貴族はこういう面倒くさいことをしなきゃいけないのか・・・。貴族嫌だな・・・って、俺も一応貴族か。とりあえず、


「ええ、かまいませんよ。ただ、少し着替えるのに時間をいただけますか?」


 時間あるかと聞いてきた第二王子にそう答えて、第二王子に退出願う。さて、着替えるかと思ったところ、先ほどのメイドさんがやって来た。


「えっと・・・」

「お召し替えのお手伝いに参りました」


 呼んでもないんだけどなあ・・・と思いながら着替えを探すと・・・あれ?俺の荷物ない?


「ラーデンス様の荷物は、スーラン様の屋敷へというお達しでございます」


 そんな心を読んだかのような返答に口を引くつかせながら俺はメイドの方を見た。この人はたしか、俺の着替えを手伝いに来たというが、着替えがないなら手伝いようがなくね?


 という俺の心を読んだのか、それとも予め予想していたのか彼女は手に服を持っていた。子供用の服だった。だが、俺の見覚えのあるものではない。


「あの・・・ミリアさん・・・?」

「ミリアでかまいません」

「えっと、ミリアさ・・・」

「ミリアで」

「・・・ミリア」

「はい、なんでございましょうか」

「その手にある服は誰のなんです?」


 げっそりとした顔で俺はミリアさんの手にもつ服を見ながら尋ねる。


「これは、ラーデンス様の新しいお召し物にございます」

「へぇ・・・」


 そう言ってばさりとミリアさんが広げた服を見てみるのだが・・・そう見ても普段来ている服の二段も三段も上のランクの服に見える。なんといえば良いのか、見るだけで高級だという事実が分かるというか・・・。


「これ、すごく高そうなんですけど・・・」

「それは、当然です。これは第二王子がまだ幼き時分のお召し物でございますれば」


 ほぅ、なるほど。これは第二王子が来ていた服なのか・・・って、え?


「えっ、なんでそんな高級品が・・・」

「このお召し物のほかにも第二王子は、数々の品を下賜なさってあられますので一度、ご確認をなさってください」

「えっ」


 まだまだあるのかよ・・と思った。


####


 服を着替え終わって部屋から出ると、扉の前にはやはりというかなんというか第二王子がいた。


「む?おお!似合ってるのである!」

「えっと、第二王子、様々な物品をありがとうございます」

「うむうむ、礼など要らぬ。余と貴殿の仲ではないか」


 とりあえず、頭を下げてお礼を言ってみると、第二王子は鷹揚にそう返す。・・・それにしても俺と彼の仲って、王族と家臣って意味だろうか?俺は正確に言えばただの子供であるはずなのだが・・・確かに騎士爵家の嫡男であるわけだが・・・。


「む?どうしたのであるか?具合でも悪いのであるか?」

「あ、ああ、いえ。何でもありません」


 意味もなく没頭していた考えを振払い第二王子に向き直る。


「・・・えっと、それで私を連れだしたい場所はどこなんですか」

「おう、そのことであるな。それは、ついてからのお楽しみである!!」


 そう言って第二王子は踵を返して歩き始めた。その後についていく。

 廊下をすれ違う人々は、王子の姿が目に入ったら深々とお辞儀をしていく。・・・なんか自分が偉くなった気分だ。トラの威を借りた狐もこんな気分だったのだろうか?


 そのまま、第二王子についていくこと数分、城を出る。


「殿下、今から向かうところは城外なのですか?」

「そうであるな!そなたも行ったことのある場所なのである!」

「ん・・・?」


 第二王子のその言葉に俺は首を傾げる。言うまでもなく、俺は昨日ここに到着してから王城を案内してもらったほかどこにも・・・、そう軍部以外は。


 その事実に気づいた俺はまさか・・・と思った。


 そんな俺の思いとは裏腹に俺たちの歩は進む。周りにちらほらいた人もやがて少なくなり、軍部の前へと着いた。


「ええ・・・」

「む、どうしたのであるか?」

「・・・なんでもありません」


 正直、ここにはいい思い出なんてないんだが、それを第二王子に言うのもどうかと思った。というか、まだ昨日しか来たことないから、ぐちぐち言っても仕方ないのかもしれないが、百歩譲って、俺が戦闘狂だったなら気絶させられたのも経験だとして受け入れられただろうけど・・・。


 ・・・うじうじしてても仕方ない。男なら、当たって砕けろ!

 俺は心の中でそう言い聞かせて門をくぐった。


「昨日ぶりであるなジーニア」

「そうだな、ガイアス」


 軍部の中庭・・・というか、中央の広場には今日も上半身裸の眼帯男がいた。ジーニア、という名前なのか。初めて知った。


「そして、そっちの子供ガキは、昨日戦った奴だな。たしか、ケインとか言ったか?」

「はい・・・名乗りましたっけ?」

「いや。だが、ガイアスに聞いた」

「なるほど」


 ジーニアはそこで俺のことをジロジロと見だした。


「ふむ、小僧。ここで鍛えていくか?」


 ジーニアはおもむろにそう言った。それを聞いた瞬間、俺は即答してた。


「お断りいたします」


 そう言った瞬間、ジーニアは一瞬、ポカンとしたあと急に笑い出した。


「ふはははは!まさか、この儂の誘いを断りおるか。なかなか胆力のある子供ガキだ」


 ふと周囲を見渡すと、兵士たちが殺気を放っていた。・・・俺に向かって。


 あれ?選択肢間違えた?


「くくく、よもや、このジーニアの名前を知ってすら断れるか。ますます気に入ったぞ、小僧!!」


 え、何?ジーニアって名前に何があるの!?この人っていったい何なの!?


「・・・まあいい。無理強いは趣味ではないのでな」


 そう言ってジーニアは肩を回しつつ歩き去って行った。


「あの・・・第二王子」

「なんであるか?」


 その後姿を見送りながら、俺は第二王子に尋ねる。


「あの人いったい誰なんです?」


####


 二十年前、三大国――いや、四大国(・・・)の一角であるサイトニス王国と、同じく四大国の一角であるジュリアス魔導公国の間で戦争が勃発した。大国同士の戦争は、他の二大国どころか、大陸中のあらゆる国家を巻き込んでの大戦争へと発展した。


 そのうちの一つの戦争である、ダイガラ丘戦争は最も凄惨な戦争であったと伝えられている。お互いの連合軍入り混じっての大戦争、魔法、兵器、兵士、召喚獣、魔物も互いを殺し合う、まさにこの世の地獄の窯が開いたような戦場。その戦争にジーニアは一兵士として参加していた。


 後にその戦争について語るよう言われた者は、最初に一言「あれは、まさしくこの世の地獄であった」と語ったのだとか。


 この戦争における死者の正確な数は未だに明らかにされたいない。約、という形で表された数字すら、本当の数字の半分なのではと言われるほどだ。


 その戦争に赴いた、あるいは戦場を見たもののほとんどは心身を摩耗し、暗闇を恐れ、魔物を怖がり、他人との接触を嫌うようになったという。


 さて、その戦争において、ジーニアという男は、初陣であったにもかかわらず、部隊長の首を落とすこと数十回、魔法使いの単独撃破数三桁代、殺した兵士は数知れず、敵味方ともに鬼神と呼ばれ恐れられた。


 体に残る数多の傷跡は、ほとんどがその戦争によるものだという。もちろん、片目もだ。


 そして、この戦争に於いてサイトニス王国はジュリアス魔導公国を打ち破り、この戦争に勝利した。さらに、この戦争から後の戦争はすべてサイトニス王国側の勝利に終わりそして、ジュリアス魔導公国は壊滅した。


 現在の三大国にはジュリアス魔導公国の一部が混じっているがサイトニス王国に対する配分が多いのは、偏にこの戦争に勝ったのが原因だろう。


 その一番の立役者であるジーニアには元帥に次ぐ地位の大将の位が、平民出の人間としては例外的な地位が与えられた。


 そのため、最初は軍部でも疎まれていたが、彼の普段の態度を見ている者ほど、彼のシンパとなっていく。そして、軍部には、対立のかけらもなくなった。


####


「すごい人物なんですね・・・」

「・・・ああ」


 あれ?どうしてだ?第二王子がなんかすごく残念そうな子を見ているような気がするぞ?


「ま、まあ仕方ないのであるな。武芸者でなければ分からぬものもあるというものである」


 うんうんと頷きながら第二王子はそう呟く。一体どうしたんだろうか?


「・・・あっ、なるほど。あの人大将だから断られたことがないのか。しまった、これは目をつけられたのか」

「・・・いや、そういうわけでもないのだが・・・」


 あれ?ますます哀れみ度が上がった気がする。・・・なんだ?


「貴様、それでも王宮魔法使いの弟子か!!」


 突然大きな声が響いた。声の主を見ると・・・ローブを被った奴だった。誰だ、こいつ?


「む?誰であるか?」


 第二王子が問いかけるとそいつは膝間づいた。


「はっ、恐れながら。私は、ダーリアの弟子、クルジンと申します」

「・・・ふむ、貴殿も王宮魔法使いの弟子であるか」

「はっ」


 頭を下げたまま肯定する声に、第二王子は髭をなでる。


「軍部へは、なぜに来た?」

「将来の己の居所を見に来ました」

「ほう・・・」


 ローブの奴はどうやら、俺のした言い訳と同じことを言っている。それを面白がったのか第二王子は相好を崩す。


「よもや貴殿は、もう王宮魔法使いになる気であるか?」

「はい。魔法使いの高みを目指すのであれば、やはり・・・」


 ほぅ・・・見上げたやつだな。素晴らしい心構えだと言わざるを得ない。俺なんか嘘だったのにな。


「まあ、ならばよいであろう」

「ハッ。・・・ところでガイアス殿下」

「む?なんだ?」

「その、一つお願いございます」

「ふむ・・・?」


 図々しくお願いする態度が気に障ったのか第二王子の片眉が上がる。これ怒ってる?おこなの?


「聞くだけならタダである。言ってみるのである」

「ハッ・・・、そちらのものと『試合』を・・・」

「む・・・?」

「え・・・?」


 俺は関係ないと思って聞いていたらなんか巻き込まれたんだけど、え?


「ジーニアさんを知らないという無知を晒してなお恥じないその態度を矯正したいと私は考えています」

「ふむ」


 そう言ってチラリとこちらを見る第二王子、俺は必死に首を振った・・・横に。


「そうそう、そういえばケインも王宮魔法使いになるかもしれないといった旨のことを言っていたであるな」


 ・・・あれ?なんか嫌な予感がするぞ?


「ふむ、どうであるか?ここは、将来の王宮魔法使い同士で『試合』というのはなかなかによい『試合』でありそうである」

「えっ」

「はい、それならば私も全力でお相手させていただきましょう」

「えっ」

「ふむ、それでは。ケインとクルジンの『試合』を・・・そうであるな、三十分後に第三演習場で行うのである」

「えっ」


 かくして、軍部に来て二日連続で『試合』をすることになった。


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