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S-1 とある村の転生者

 すみません、一昨日投稿する予定が二日もずれてしまいました!


 視点は主人公ケインのものではなく、違う人物のものです。ですので、みなさんがご覧の作品は間違いありません。


 今後もこのような番外編のような感じのものを盛り込む予定です。まあ、たまにという形ですが。


 一応、一人称は「僕」ですが、癖で「俺」にしているところがあるかもしれません。そこは誤字であるとご了承ください。

「・・・あ・・・」


 微睡(まどろ)みから無理矢理引きはがされるような感覚とともに僕は意識を覚醒した。全身を襲う気怠さと全身が濡れているような感覚。何があったか考える間もなく急激に疲労感と眠気が襲って来た。そして、僕は気を失った。・・・ただ、何か、暖かいものに抱かれているような気はした。


 そして、しばらくして目を覚ました僕は困惑した。というのも体の自由が・・・・というより、全身を上手く動かすことが出来なかった。

 ・・・だから僕は仰向けになったまま天井にぶら下がる赤ちゃん用のおもちゃを見ていた。


(なんで僕の直上にこれがあるんだろう?僕は赤ん坊じゃないのに・・・。あ、そういえば今日は重大な商談があったんだ!!会社に行かないとクビになってしまう・・・!!!)


 そう思って体を動かそうとしても起き上がることは愚か、何もすることが出来なかった。というより、さっきから気になっていたが、天井がアレだ。知らない天井と言う状態になっている。たしか僕の住んでいたアパートの天井はこんな綺麗なものではなかった。ぼろアパートだったし。それに赤ちゃん用のおもちゃも下がっていなかったし。・・・あれ、じゃあここは一体どこなんだ?


 こうなる前の記憶を脳内でひっくり返してみることにする・・・えーと、確か、昨日はいつもより残業が遅くなってふらふらだったが確かに家にはたどり着いた筈だ。そして、帰宅早々眠りにつこうとして、今日の重大な商談に遅れぬよう目覚まし何個かセットした筈だ。


 と、そこまで考えてようやく僕は、僕の寝ている周りに柵が置かれているのが分かった。・・・もしかして監禁?でも俺には大した身代金はかけられないはずだけれども・・・。そう思った所、ふと思いついたことがあった。寝る布団があって、その周りを柵が囲っているなんてまるでベビーベッドみたいだなと。・・・・あれ?これ、本当にそうであるような気がしてきた・・・え、ちょ、それ、マジで・・・。


 そんな風に呆然としていると、そのベッドの上から見下ろすように、覗いてくる人物がいた。それは男性だった。


「ふむ、実に元気そうな男の子だな」


 黒髪で顔も整っており、目も黒いというあまりお見掛けしないくらいの超イケメン男は、僕を見て何語かでそう言った。僕は外国に来てしまったのかと思って呆然とした。


####


 それからは、あっという間というくらいに日々は過ぎ去っていった。そして、四ヶ月が過ぎた。庭にあったらしい桜の花も散って、今は太陽眩しき夏。学生は夏休みとかあるだろう季節だが、自分が赤ん坊だとちゃんと認識した今の僕には関係なかった。そう、僕は赤ん坊になっていたのだ。よくあるラノベとかのテーマのように。


 それはともかくとして。ついに僕は首が据わったのだ。それで、母親にねだって外に連れ出してもらった。もちろん喋れないから駄々をこねてみたりなんかしたりして。そして、その先で見た魔物とか呼ばれる生物の存在や地球では見たことのない野菜の存在によって、僕はようやくここが僕にとって『異世界』なのだと実感した。


 ・・・まあ、この世界で生まれて異世界って言うのも奇妙な気分なのだけれど。あたかも、地球人が自身のことを宇宙人というようなものだが、前世の記憶を持っている僕からすればそう思えても仕方ない。


 ただ、ぶっちゃけた話、庭で剣を振っているこの世界の父、グライアを見たときは、ああ・・・この人は・・・と冷たい視線を送っていたものだが、その後に、斧の訓練中に負傷したと言う男性を見た時に考えは変わった。


 腕に大きい裂傷をした人間が一人運ばれて来たがこの世界の母、セレナはその血を怖がること無くその人に近づき、そして手をかざして呪文を唱えたのだ。


「大いなる光の精霊よ、この者に癒しの力を・・・《治癒》」


 その直後、へ?と間抜けな顔をして僕は、自分の目を疑った。見る見るうちにその男性の傷は塞がって行きついにはその男性は腕を動かせるようにまで成ったのだ。ダラダラと流れていた血は今や、皮膚や服にこびり付いているものだけで流れ出てはいなかった。


「セレナさん、ありがとうございます!!」


 そう男性が感謝の言葉を口にした時、僕は現実に復帰しようやく理解したのだった。この世界には魔法があるのだと。

 その事実に僕は歓喜して両親やけが人をびっくりさせたのは言う必要のないことだろう。


####


 ところで、僕は新たな家族を得たというわけなのだが、今の僕には二人の家族がいる。父親と母親だ。


 父親の名前はグライア。グラウンドにちょっと似ているがその名前に見合うような体躯を持った男である。黒髪で黒目と日本人みたいな特徴を持っていたが顔は西洋系の顔立ちをしていて若干違和感がある感じである。職業は木こりで、体もムキムキでイケメン・・・職業にさえ目を瞑れば前世の世界でもモテそうなものだ。この世界では・・・どうなんだろうか?


 う~ん・・・俺のラノベ知識によるとだいたい文明レベルは中世レベルってことが多い異世界転生系だったけど、その場合だったら村というか集落なら木こりとかいてもおかしくない・・・か?うぅむ・・・?まあ、いいか。


 母親の名前はセレナ。おっとり系の美人だ。緑の目と赤色の髪を持っている。胸はあんまり大きくないけど・・・正直子供の俺が気にすべき事象ではないと思う。うん。


 彼女は治癒魔法――光属性の一部である――を使用することが出来て村の人々から慕われている。まあ、美人だし多少はね?


 んで、今住んでる村なんだが・・・実を言うと名前がない。というのも、この村は最近になって開拓された村で、今王都へと開拓申請だかなんだかを出しているらしい。もう開拓してるんで村として認めてくださいってわけだ。ちなみに、代表は我が父。なのでこの申請が通れば、父は騎士爵として爵位を得て貴族の地位を得ることになる。もっとも、開拓村の騎士なんて木こりと変わらないけどなと本人は笑い飛ばしているが。・・・というか、赤ん坊にそんな話をしないでほしい。相手が僕だからいいものを、普通の赤ん坊なら泣きそうなものだ。


 あとは農民のガルとかいろいろいるけどみんな俺と何の見た目も変わらない人間ばっかりだった。エロフ・・・もとい、エルフやドワーフなんかはいないんだろうかと俺はふと思った。折角魔法なんてものがある素晴らしい世界なのに、そういうファンタジックなことがないのか・・・。


 そんな風なことを考えられるほど僕の頭は平和ボケしていたし、この世界のことを全然知っちゃいなかった・・・。


####


「よし、ジェイス。今日はお前に木こりの仕事を見せてやろう」


ある日、朝食の席でグライアが突然そんなことを言いだした。アホじゃねえの、僕はまだはいはいもできない赤ん坊だぜ?そんな目で僕はグライアを見た。


 ちなみにジェイスは僕の名前である。


「あなた・・・」


 僕を抱えているセレナもきっと・・・。


「いい考えね!!」


 え!?賛成するの!?「ぎょっ」とした顔で俺はセレナを見てるが彼女はこっちを見ていない。グライアを見ている・・・!


「ああ、セレナも来てくれるな?」

「ええ、あなた!」


 とんとん拍子に固まっていく話に俺は呆然としている。


 ・・・え?これマジなん・・・?


####


「あうあー」

「はいはい、いいこでちゅねー」


 数十分後、不貞腐れた顔の赤ん坊が、赤髪の女性に抱かれて森の中にいた。・・・僕だった。


 そう、結局、あのあとトントン拍子に話が進んで僕も森へと行く羽目になったのだった。いくらこの世界初心者の僕でもこの世界における危険性は分かっている。前世では、子供が一人で出歩いていたら危ない時代だった。公園からあらゆる遊具も撤去され、大人が子供に声をかけた時点で事案発生となる時代だった。かく言う僕も・・・っと、こんなこと思い出してもなんにもならないな。


 まあ、そんな、野生の生物とあまり出くわさないであろう街中まちなかで育った僕ですらかなり過保護に育てられたというのにこんな危険なことをしているとは・・・この世界の生存率はかなり低いと思われる。


「さて、始めるか」

「あ・・・あうー?」


 そう言ってグライアが切ろうと立ち止まった先にはとんでもない大木があった。大人が数人手をつながないと囲めないほど太い幹、さらにひょっとすれば大人の男の胴体ほどもあるかもしれないほどの太い枝を有する、雄々しき大木。屋久杉よりは小さいが、人間には想像できないほど長い樹齢を持ってそうな大木だった。


 僕は思った。こいつ、頭おかしいんじゃないの?と。


 グライアの顔を見た。本気だった。


「よ~っし、行くぞ。『ギガントスラッシュ』!!」


 ノリノリで、それこそ悪ふざけをする学生のようなノリで何らかの技名を叫んで、斧を担ぎ大木へと走り出したグライアを見ながら僕はボーっと考えた。病院を進めてやりたいが・・・この世界に病院ってあるんだろうかと。普通の怪我ならセレナがやってくれるだろうけど、精神びょ・・・ゲフンゴフン・・・はあるんだろうかと。だが、次の瞬間、僕は自分の目を疑うことになる。


 グライアの斧が大木の幹に叩き付けられた瞬間、シャキンという音が響き、大木がミシミシ音を立てて倒れてきた。・・・こちらに。


「・・・あ、ちょい加減ミスったか」


 グライアはそう言って頭をぼりぼり掻いた。いや、あの・・・もしかして僕の人生終わり?そう思った僕は本日二度目の驚きに見舞われる。


「しゃあねえ。『ギガントインパクト』!!」


 そう言ってグライアが倒れてくる大木に再び技名を叫びつつ斧を叩き付けると、大木は、こちらに倒れてきていたが方向が変わって少し僕たちを避けて倒れた。


 ドシィン!!


 そんな感じの轟音を立てて倒れた幹を僕は呆然と横目で見送った。


「あうあうあうあう・・・・(いや、なんだこれ、ありえねえ・・・)」


 僕はそこで、生きていると実感することなく気絶した。


####


「全く、もう!今日はやりすぎです!!」

「す・・・すみません・・・」


 ふっと目を覚ますとそこにあったのはいつもの天井・・・開拓村の木こり、グライアの家の天井だった。なんだか騒がしいなと思い、その方向を向くと、グライアがセレナに怒られていた。


 会話の内容から察するに、おそらく今日の件だろう。やっぱりあんな大木を倒す方が間違っていたのだろう。


「あんなに高く買い取らせるなんて、恨まれたらどうするんですか!!」

「す・・・すまん・・・!本当に・・・すまん・・・!」


 ・・・あれ?


「全く、ジーアさんがジェイスを見て察してくれたからいいものを・・・!!」

「わ、悪かったって!もう、許してくれよ!!」

「許しません!あなたは今日は晩御飯なしです!」

「そ、そんな~」


 ・・・はい、まったく意味が理解できない?買い取らせる?高い??・・・やばい本当に意味が分からない。


 落ち着け、クールになるんだ僕。そう、身の回りから整理しよう。僕はまだ0歳児の赤ん坊、その名もジェイス。貴族じゃないから苗字はない。・・・と、ここまではいい。


 父はグライアという名前の、この村のリーダー格の木こりだ。その奥さんで僕の母親はセレナというおっとり美人で回復魔法が使える。


 そんな二人に連れられて森へ行った。グライアが大木を伐採したところで僕は気絶した。そこからは僕の知らない空白の歴史があるというわけか。ここで、先ほどの会話を整理してみよう。


 「何か」を買ったのは恐らく「ジーア」なる人物。彼、あるいは彼女は恐らく両親の知り合いなのだろう。どこか気安い雰囲気を感じた気がする。んで、グライアはそんな人物に相場より高く「何か」を買わせた。ただ、「ジーア」なる人物は、相場より高いことが見抜きつつも、こちらにある何らかの事情を察して買い取った・・・というところだろうか。


 問題は、「ジーア」が買った「何か」なのだが・・・、まあ予測してみよう。グライアの職業は木こり。そんな木こりから買うものと言えば、そりゃやはり「材木」しかあるまい。・・・ということは「ジーア」なる人物は商人あるいは大工みたいな人だろう。知り合いという事実を鑑みると、おそらくはいつも「材木」を卸しているお得意様・・・といったところか?


 ・・・たとえ知り合いとはいえ、気安い間柄とは言え、相場より高く売りつけるなど自分の信頼に泥を塗るようなものだ。どうして彼はそんなことをしたんだろうか。


ジェイス()がいたから」と、セレナは言っていたことから考・・・え・・・。


まさか・・・と、僕の頭の中に答えが浮かぶ。嘘であってほしいが、今日一日・・・というか、朝のグライアの感じから外れてはないだろうな・・と思って僕は愕然とする。


 そう、簡単な話だ。彼は本日、僕に自身の実力を見せるために木を切るとこを見せに行ったということならば、あとはその木をどれくらい高値で売ったかということを自慢したいに違いない。そう、それがたとえ・・・カッコつけて高めに打った値段でも。


 状況から見ても明らかだろう。グライアは床に正座させられている・・・のか、土下座をしているのかはよく知らないが、まあ、大変に反省させられているようだ。


 呆れてモノが言えないとはこのことだ・・・。とりあえず、寝よう。寝る子は育つ。


 そう自分に言い聞かせて僕は再び眠りについた。


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