第15話 王都到着
前回のあらすじ:王都の門前に到着
「おかえりなさいませ、ガイアス殿下」
「うむ、貴殿もご苦労である」
俺の悪い予感とは裏腹に門の向こうにいたのは数人の兵士であった。皆、一様の防具と剣を身に付けている。標準装備、というやつだろう。
ふむふむ言いながら兵士たちを見ていると、年嵩の兵士がこちらを睨むように見てきた。はて?俺が何かしたかしらん?
「ところで、殿下、そちらの者たちは・・・?そして、護衛の者どもは・・・」
俺と目があったとたん、年嵩の兵士はこちらから目をそらし、殿下にこちらの素性を尋ねた。ああ、そりゃ、王子の元に護衛がいなくなっていてその代わりにとばかりに知らない人物が複数人いりゃあ、疑うよな。
「む?何を言っておる。こやつは、王宮魔法使い第二席、レイ=スーラン殿ではないか」
「いえ・・・スーラン殿ではなく、そちらの者たちです」
第二王子のとぼけた様な発言をあっさりと流し改めて目標を指定する。・・・普段から、王子がのらりくらりとやっている様子が目に浮かぶような対応ぶりだった。
「ああ、まず、この子供はスーランの一番弟子のケインである。余の狩友というやつであるな」
「なっ、この子供が・・・スーラン殿の一番弟子ですか!?」
む?この子供とか言わなくていいだろう。スーランだって(見た目は)中学生くらいなのだから驚くほどではないだろうに・・・四歳児くらい。
「・・・その言い方はスーランに失礼であるぞ」
「・・・!!し、失礼しました」
低い声音で言った第二王子に、年嵩の兵士はこちらに謝罪する。いや、まあ、俺もそっちの立場だったらそう思うだろうけどもね。
「・・・ふむ、許してくれるかの、スーラン?」
「ええ、この程度のことで目くじらを立てるほど狭量な人間ではないですからね」
・・・誰こいつと一瞬思った。言うまでもなく、師匠のことである。こいつは普段はこんな言葉遣いはしないものだが・・・ってそうか。第二王子の前だからか。
「・・・ならよかろう。では、紹介を続けるのである。そこの三つ子と、杖を持った一人の女はCランク冒険者『黒狼の牙』である。ちなみに、その女もまたスーランの弟子である。この度、余がスカウトしてきたのである」
「スカウト・・・ですか・・・?」
「うむ、詳細は後であるが、四人とも鍛えれば光るものがあるのである。なれば今の内に・・・というわけである。幸いにも四人とも了承したのである」
「・・・ならば、私から言うことはありません」
「そして、残りがスーランの家臣であるな。さて、皆中に来るがよい!」
「・・・ガイアス殿下」
紹介は終わったとばかりに城内へ行こうとする第二王子を、これまた年嵩の兵士が呼び止める。だが、今度は、第二王子は不機嫌そうな顔をして振り向いた。
「なんであるか。余はそろそろ城内に戻りたいのであるが」
「城内には使用人は入れないしきたりとなっているのですが・・・」
呆れたように彼は言った。
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そんなわけで、師匠の使用人の皆様方には先ほどの関門(ただし、貴族側の方)を通って先に王都の別邸に行ってもらうことしてもらって、俺たちはついに王城へと足を踏み入れた。もっとも、入ったのが裏口みたいなものだから正面から、というわけにはいかなかったが。・・・まあ、師匠が王宮魔法使いである限り訪れる機会はそれなりにありそうではあったが。
ちなみに、三つ子は、先ほどの年嵩の兵士・・・もとい、総帥様に連れていかれたようだ。そう、彼はただの兵士ではなく、その兵士たちを束ねる総帥様であったのだ。形式的には軍属となる師匠の直接の上司なのだとか。とはいえ、普段の立場は王族の護衛であるので王族の承諾あって協力という形で動かす形になるらしいが。ちなみに、アリンダはその三人の訓練に付き合い、自身も訓練を行うらしい。魔術師としての。
正直、形式的であっても師匠の弟子(俺の兄弟弟子)になったのだから師匠に習えばいいと思うのだが、役職のために入ったとかいううしろめたさがあるらしい。力を得るために努力している俺であれば、その立場に甘んじて師匠の薫陶でも受けると思うのだが、個人の思想だ。あんまりつっこむまい。
まあ、『黒狼の牙』のことはおいといて、現状の俺たちの話をするとしよう。俺たち、いや俺は今――
「ここが、王族と一部の人間、及び王宮魔法使いしか入れぬ図書館である!」
「おお・・・・!!」
第二王子による、王城案内を受けていた!!
字面からするとやばいがそんなのはどうでもいい。そこらにある調度品が、芸術品が、そして王城用の使用人が!!!!一流こそここにあり、と叫ばんばかりにあった。
それらの品に俺は感動してしまったのだ。と、言っても俺は前世でも一般人であったわけで芸術の良し悪しなんざわからないものだが。ただそんな俺すらも圧倒する『雰囲気』というやつがあった。これが本物というやつか・・・と思いながらうんうんと頷いていた。
・・・師匠?城内は見飽きたって言って、旅に疲れたクーの面倒を見ている。第二王子を体良く押し付けたつもりだろうな。
まあ俺としては、王子は非常に面白いので全く迷惑でもないのでいいんだが。実際、王子も楽しそうにしている。
「へばっておらぬか、ケインよ」
「ええ、もちろんです」
まだまだ余力があるという感じでこちらを振り向く第二王子。やはり、軍部と仲がいいだけあって体力には自信がありそうだな。
「ふむ・・・とはいえ、城内は粗方案内し終えたのである。他に行きたいところはあるであるか?」
王子の言葉に俺は考える。王女とかに会えたらいいが、当然そんな要求は不可能だろうし、そもそも彼女らも兄たちからの圧力に耐えかねてどっかの貴族家に避難していたはずだ。ローズはどうなったか、分からないが・・・。
「そういえば、殿下。一つ聞きたいことがございます」
「む?なんだ?」
「ローズ第三王女はどうなされたんですか・・・?」
「・・・それはどういう意味であるか?」
ローズのことを質問した瞬間、ごうっ、という音で表せそうな重圧が隣から感じられた。・・・なにかまずい話題だったか・・・?もしかして、公にローズを知ってるやつは少ないとか・・・。なら、怪しまれても仕方ないか。
だったら、すなおに家に匿ってたなんて言えるわけもない。どういう言い訳をしようか。・・・そういえば、ガランドの見極めに彼女の護衛任務を使ったんだったな。そこから攻めるか。
「いえ、ほら、父が前に護衛したっていうじゃないですか。気になったのです」
「・・・む?そうか、なるほど」
そういった瞬間、横から感じていた重圧は消える。そして、第二王子は静かに言った。
「・・・二年ほど前から彼女は帰ってきてないのである。今は、一体どこでいるのであろうか・・・」
「えっ・・・」
まさか、第三王女が戻ってきていないだなんて思ってもいなかった。確かほかの王女は貴族家に匿ってもらっていたらしいが、彼女は一体どうしたんだ。・・・頼れる貴族家がいないから家にやってきたはずだったろうに・・・。
「・・・質問はそれだけであるか?」
「・・・え、ああ、はい」
「・・・」
第二王子からの質問に変な間を空けてしまったせいか訝し気な目で見られる。が、真実を言えるはずもない・・・。
「そういえば、殿下」
「なんであるか?」
「軍部の方は見せていただけないんですか?」
第二王子は軍部を見せろと言った途端さらに険しい気配を醸し出した。先ほどのローズ関連の疑惑も合わせて、こちらが他勢力のスパイである疑惑を持ったか?だが、それも予想通りだ。この疑惑を解消すれば、俺にかかったほかの疑惑も解消できるだろうから。
「軍部、であるか?あそこには貴殿の興味を持つようなものはないと思うのであるが・・・」
「殿下、将来自身が働くことになるかもしれない場所を見学しておいても損はないと考えるのですが」
第二王子が暗に「裏切り者に見せる手の内はない」と言うが、俺はそれに対して簡潔に返した。自分が将来軍部で働くかもしれない・・・それは、つまり俺が王宮魔法使いに志願していると伝えている。・・・今のところ、確実に入ろうと思っているわけではないので、「入れる自信が若干ない」ような言い方にもとれるよう、「なるかもしれない」という言葉も使用している。
万が一、王宮魔法使いに誘われたとしてもそれを軽くかわせるようにしているわけだ。もっとも、そもそもスカウトされない可能性もあるわけだが・・・。
そんな俺の思惑通りに受け取ったのか、第二王子は髭を撫でつけつつじっとこちらを見ていた。そして、破顔する。
「ふ・・・ふははははは!!!なんとも野心深いものであるな!その歳で王宮魔法使いを志すか!」
「夢は大きく持てと言いますし。しかも、王宮魔法使いとして活動している師匠を超えるには、最低でも同じ王宮魔法使いを目指さないといけませんし」
「ふははははは!!!そうか、そうであるな!!うむ、貴殿の考えはあい分かった」
「では・・・」
「うむ、軍部に案内するのである」
こうして、なんとか俺は疑念を晴らすことが出来た。・・・はずだ。
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かくして、第二王子に軍部に案内されたわけだが・・・。
「なっ・・・」
そこは王城より離れていた。こんなんで王族の護衛とかこなせるのかと思ったが、どうやらそういう護衛は城内に休憩所みたいなのがあるらしく問題はないらしい。んで、軍部を王城から話している理由だが、何代前かの総帥が、軍部の勢力で王族に迫ったことがあったそうだ。それは失敗し、クーデターとして表立って活動していた軍務卿などはもちろん処罰されたらしい。で、その後に時の王は軍部を城から離れたところに設置したらしいのだった。
だが、それはまあ、いい。俺が驚いたのは・・・。
「ん?おう、ガイアス!よく帰って来た!!」
「え?ガイアスが帰って来たって???」
「か~っ、だから言ってだろ?!大将なら確実に帰って来るってよ!」
第二王子に対する兵士たちの軽さだった。というか、一国の王子とはいえ王族を呼び捨てにするとはなんなんだこいつらは・・・というのが俺の正直な感想だ。もしかして、こいつらアレか・・・脳みそまで筋肉でできている連中なのかと思い、この国の現状を憂おうとした。
「ん?・・・おい、ガイアス、そいつは誰だ?」
最初に第二王子の訪問に気づいた男がそう尋ねた。彼は、筋トレでもやっていたのか、上半身は裸でその肌は汗でテラテラと光っていた。暴力的なまでの筋肉が衆目にさらされていて、俺は眩暈がした。さらに、胸から腹にかけて裂傷のようなあとがあり、その他の部位も細かい傷がたくさんあった。極めつけに、男の左目は眼帯で覆われていた。
とても凄く堅気には見えないんだけれども、という感想を俺は抱いた。
「ふはは、気になるのであるか?気になるのであるか???」
「おうさ。子供を軍部の中に連れてこないって掟をお前が破るとは思えぬ」
もったいぶるような第二王子に、その男は分かりやすく反応する。一刻も知りたいと。
「なんだ、もったいぶるな。儂が短気なのは知っとるだろうに」
「分かってるのである!・・・ふはは、驚くのである。この少年は、スーランの弟子なのである」
「え、スーランの弟子だって!?」「奴の弟子になるもの好きなんていたのか」「つか、逆にあいつのお眼鏡にかなってるってことかよ!?」「やばいぞ、これはやばい・・・」などという割と失礼な反応が返ってきた。・・・全部コソコソのような小声であったが。
「ふはは、皆の驚きが手に取るようにわかるのであるな」
そんな中、第二王子だけは愉快そうに分かっていた。幸せそうだな、この人は。
「しかし、あの女の弟子であるならばそれなりに腕が立ちそうだな・・・どれ、模擬戦でもやるか」
「え?」
パキポキと腕を鳴らしながら立ち上がる眼帯男は戦闘狂くさい笑みを浮かべていた。




