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第1話

 その時、オレは何が起こったのかわからなかった。

 一瞬にして目の前がグルグルと回りどこかもわからない空間に……ん?

 一息ついて状況を整理する。

 目の前には自室の部屋の天井が広がっている。

 カチカチという音が耳に入ってくる。

 視線を左に移すと、左手が枕元の目覚まし時計の上に置かれていた。

 時計は朝7時半を指している。

 体はベッドに横たわっており、寝間着を着ている。

 掛け布団は役目を放棄し、床にぐしゃぐしゃに落ちていた。

 口からは微かによだれが垂れていた。

 ハッとし、右手でよだれを拭う。

 見知った天井、朝7時半、ベッド、寝間着……よだれ。

「――夢?」

 オレは、大きくため息をついた。


 寝ぼけ眼を無理矢理開き、頭を軽く掻きながらリビングに入ると、テーブルの上には作り置きの朝飯がある。

 オレの両親は共働きかつ2人とも朝早く出掛けていくので毎朝オレは1人で少し冷めた朝飯を食べる。

 食事をしながら先ほど見た夢を思い出す。

 本当に夢だったのか……そう疑うほどリアルに感じた夢だった。

 ふと時計を見る。

 8時を軽く過ぎていた。

 いつもならとっくに家を出ている時間だ。

「げ、マジかよ!」

 考え事を中断し、急いで学校に行く支度をすることにした。


 外に出た途端、照りつける春の太陽。

 暑いというほどではないが、かなり暖かくなってきている。

「あれ、今日遅いじゃん」

 通学路を早足で歩いていると、後ろから明るく快活な少女の声が聞こえてくる。

 よっ、と言いながらアスナはオレの横を歩き始める。

「いつもは少なくともHRの15分前には学校に着いてる真面目なリョウがこんなギリギリな時間にこんなところで会うなんて珍しいね」

「うるさいな、色々あったんだよ」

 ”色々”の内容を予想したのか、アスナはニヤニヤしながらオレをからかい始める。

「洗面所の鏡がすごく汚れてて気になって掃除してから来たとか、家出る直前に制服のシワが気になってアイロンかけてから来たとか?」

「昔の話だろ」

「ごめんごめん」

 事実ではあるし実は昔の話ではなく現在進行形なので言い返すことができないのが悔しい。

 悔しさをごまかすためにオレは携帯を取り出して時間を確認する。

 そして、気付く。

「あれ、時間ヤバくね?」

「知ってるよ」

 アスナがしれっとした顔で言い返してくる。

「急がなくていいの?」

「リョウと一緒に遅刻ならいいかなって思って」

「いや、よくないだろ」

 すぐさまツッコミを入れる。

 それを聞いたアスナはぺろっと舌を出す。

「だよねー。どうする、走る?」

「置いて行かないでくれよ?」

「わかってるって」

 そう言ってアスナは全速力で走り去っていく。

「全然わかってないじゃん……」

 小さい頃から走るのが大得意だったアスナの全力に追いつけるわけもなかった。


 しばらく走ると、ようやく校門が見えてくる。

 アスナは先に行ったのかと思っていたが校門の手前で待っていてくれた。

「置いて行かなかったでしょ?」

 アスナは自慢げに言った。

 俺はもう返答するのも馬鹿らしくなった。

「早く行こうぜ」

 そう言って俺たちは校門から学校内に入ろうとした。

「おはよー!」

 上品で綺麗な透き通った声と走ってくる足音が聞こえた。

 胸辺りまである少し長めの金髪を太陽の光でキラキラと輝かせながら走り寄ってくる少女がいる。

 身長はアスナより少し高い。大きな胸がさり気なく揺れる。

 それを見たオレは思わずアスナの胸元に目をやる。

 ――神様は、不平等だな。

「ミキ、おはよー!」

 アスナは声をかけてきた少女に手を振って答えた。

 野田はそれに応えるために手を振ろうとする。

 しかし手を振ろうと掲げた右手から持っていた鞄が投げ出され、宙を舞う。

 それに気付いて慌てて鞄をキャッチしようと手を伸ばす野田だったが、その手さえも空を切り、その瞬間に足を滑らせバランスを崩して尻餅をついて転んだ。

「いったぁ!」

「まったく……」

 彼女と知り合ってから何度も見たとはいえ、毎回毎回呆れてしまう。

 オレは地面に倒れ込んだまま痛そうにお尻をさすっている野田のもとで少し屈み、、手を差し出す。

「大丈夫か?」

「あっ、広澤くん……えっと、ありがとう」

 野田は顔を少し赤くしながら差し出したオレの手を掴もうと手を伸ばす。

 肌が触れ合う寸前に少しためらったのか、野田は一瞬手を引いたが、オレはその手を無理矢理掴んで彼女を引っ張って起こす。

 そして近くに落ちている彼女の鞄を拾い上げた。

「ほら、鞄」

 そう言ってオレは野田に拾ったそれを手渡す。

 彼女はおどおどとそれを受け取る。

「ごめん……ありがとう」

「いいって。大丈夫、歩ける? 怪我とかない?」

 そう聞きながらオレは野田と一緒にアスナのもとに戻る。

 一応確認のために野田に怪我がないか目視で確認する。

「大丈夫みたい」

 そう言って野田は軽く笑った。

 しかしオレは彼女の制服に目が行った。

「よかった。でも少し制服汚れちゃったな」

「これくらい帰ってから落とすよ……」

「ご苦労、王子様!」

 アスナと合流した途端、オレと野田の間に入り、ニヤけながらオレの背中を強く叩いた。

 その横で野田はなぜか顔を赤くしてうつむいた。

「どういうことだよ」

 オレは軽く笑いながら校舎に向かって歩き出す。


 昇降口に入り、靴を上履きに履き替えた時、言おうと思っていたことがあったのを思い出した。

「あ、そうだ」

「ん?」

 とっくに靴を履き替え、廊下で待っていたアスナはオレの声に反応し、顔をこちらに向ける。

 アスナのもとに歩み寄りながら尋ねる。

「今日暇?」

「今日? 暇だけど」

「じゃあ放課後、ゲー研に来いよ。ヒロキが1人じゃ寂しいって嘆いてる」

「ア……アタシ、ゲー研部員じゃないんだけど」

「そんな事言ったらオレだってそうだよ。昨日新作入荷したからさ、一緒にやろうぜ。それに――」

 そう言ってオレは彼女の肩に手を回し、耳元に口を近づけ、小声で囁く。

「――ヒロキと近づけるチャンスだろ?」

 アスナがぷいと視線を逸らす。

 オレはニヤリとした。

「しょ……しょーがないわね! そこまで言うなら行ってあげるわよ!」

 そう言ったアスナの目は宙を泳ぎ、頬は紅潮していた。

 その時、ようやく上履きに履き替えた野田が合流する。

 そんな彼女にも声をかけてみる。

「野田も来るか、ゲー研?」

「え、いいの?」

「ああ、全然いいよ」

 オレはそう言ってニヤッと笑う。

 野田が上目遣いでこちらを見ている。

 オレは少しどぎまぎしたので慌てて視線をずらす。

 その時、アスナが視界に入った。

 彼女の顔色が少し陰っている。

 どうしたんだ?

「じゃあ、アスナと一緒に行くよ」

 野田がアスナの方に顔を向ける。

 その時にはアスナの顔色はいつも通りに戻っていた。

「じゃあ放課後、部室行けばいいんだよね?」

「ああ」

 そんなことを話しながらオレたちは教室へと向かう階段を登り終え、教室前の廊下に来ていた。

「じゃ、オレこっちだから」

 オレは1組の教室のドアに手をかける。

 オレは1組だがアスナと野田は2組なのだ。

「うん、じゃあまた放課後」

「またねー」

 アスナと野田は2組に向かって歩いていった。

 その時、校内にチャイムが鳴り響く。

「うわ、ギリギリ……」

 オレは慌てて教室内に入った。


 しばらくの後に再びチャイムが鳴り、朝のHRが終了する。

 後ろの席に座っているヒロキになよっと声をかけられる。

「今日遅かったね、どうしたの?」

「まあ、色々あってな」

「ふーん」

 アスナと違い、ヒロキは”色々”にはあまり興味はないようだった。

 別の話題を振ってみる。

「そういえば、ゲー研、新入部員来そうか?」

「来る気配すらないね。僕らの代からゲー研に来るほどのゲーマーはこの学校にはいないみたい。みんな仮入部だけ来てそれ以来1回も来ないよ」

 オレは苦笑いした。

 それは部の環境に何か原因があるんじゃないのか?

 心配になったオレは思い切って尋ねた。

「でもそんなので廃部にならないのか?」

 それを聞いたヒロキが目を輝かせニヤリと笑った。

「それなら心配ないよ。もうすでに人数調整用の幽霊部員は確保してある」

「報酬は?」

「部室のゲーム好きなもの1本で手をうってもらった」

 呆れて笑い声さえ出ない。

「まあ、ゲーム数本で部が存続するなら安いもんか」

 ゲー研。正式名称はゲーム研究部。

 去年までは先輩が3人ほどいたのだが、その3人もすでに引退、そしてヒロキはオレたちの代の唯一の部員。そして新入部員はゼロ。

 本来部活動の存続には部員が5人以上いることが条件らしいが、ゲー研は毎年部活に入っていない生徒に名前だけ借りて幽霊部員として数合わせしているらしい。

「あ、そうだ。リョウに話があるんだけど、今日部室来るよね?」

「ああ、行くけど。話って?」

「それは部室で話すよ」

 ヒロキがそういった途端、タイミング良くチャイムが鳴り、授業が始まってしまう。

「起立!」

 学級委員の号令がかかる。

 ”話”が何か気になったが、しかたなくオレは前に向き直り号令に従った。


 放課後。

 ”話”というのはやはり部室でしか話してくれないらしい。

 昼休みにしつこく聞いたが答えてくれなかった。

「こりゃ少し遅くなっちまいそうだな……」

 オレはトイレの床にこびりついた汚れをこすりながら1人でつぶやいた。

 この黄ばんだタイル……実に不愉快だ!

 まったく、だれだよ。尿を下に垂らしてる奴は……

 その時、トイレの入口のドアが開く音がした。

 そこに目を向けると、ヒロキが立っていた。

 その顔には呆れが浮かんでいた。

「どこ行ったのかと思ったらまた1人で残って掃除してんの?」

「しょうがないだろ、汚くて気になるんだから。他の奴らは早く帰りたいって言うし」

「まったく……早くしてくれないと話ができないじゃん」

 そう言ってヒロキは少し笑みを浮かべながらこちらに近づいてきて、オレの側でしゃがみこんだ。

「で、どうすりゃいいの?」

 どうやら手伝ってくれるようだ。

「おっしゃ、サンキュー! とりあえず雑巾と漂白剤取ってきてくれ」

 オレたちは、トイレ掃除に明け暮れた。


「ふうー、つっかれたー!」

 部室のドアを開けて中に入る。

 外は夕日が沈み始め、赤い陽の光が部室内を照らしていた。

「やっぱ綺麗になると気持ちいいよな!」

「はいはい、そうだね」

 ヒロキは、やれやれといった感じで答えた。

 そしてオレたちは部室にある椅子にそれぞれ腰掛けた。

「で、話っていうのは?」

 オレから話を切り出す。

「実はな……」

「……」

 部室に静寂が流れる。

 ……。

 ヒロキはまだ口を開こうとしない。

 歯を食いしばったままこちらをじっと見つめてきている。

 オレは思わずゴクリと唾を飲む。

 ヒロキが口を開き、大きく息を吸った。

「ゲー研はゲーム制作をする!」

 ヒロキはまさにキリッという擬音が似合いそうなドヤ顔でそう言い放った。

「ふーん」

 オレは興味なさ気にそう答え、今日やろうとしていたゲームソフトを取りに行くために立ち上がった。

 なんかつまらない回答にオレは気が抜けてしまった。

 ヒロキは慌ててオレに駆け寄ってくる。

「いやいやいや! ふーんじゃないよ、リョウもやるんだよ」

「……え? オレ、ゲー研じゃないんだけど」

「だって1人じゃゲーム作れないし!」

「だからってオレ、ゲームなんて作れないし」

 ヒロキは少し考え込んだ。

「あ、そうだ! リョウはシナリオ考えてよ、僕がプログラム全部やるから」

「おいおい、マジで言ってんの」

「大マジ」

 ヒロキはオレの瞳をマジマジと見つめてくる。

「……ちなみに」

 観念したオレは口を開く。

「何でいきなりそんなことを?」

 いつも遊んでばかりいたヒロキがいきなりこんなことを言い出すのにはなにか理由があると思ったオレは、それだけでも聞いてやることにした。

「いやー実はさ……」

 いきなりヒロキは緊迫した顔の筋肉を緩め、苦笑いした。

「生徒会に圧力かけられてるんだよねー、毎回毎回成果も無しに幽霊部員を使って人数稼ぎしてるだけなら廃部にするってさ」

「やっぱりか……」

「だからゲームを作って文化祭で発表するのさ! そしたら生徒会もゲー研を存続させざるを得ないじゃん?」

 オレにはもう断るという選択肢はなかった。

 今まで部員でもないのに使いたい放題ここを使っておいて、廃部の危機になった途端に見捨てるのはオレの自尊心が許さない。

「うーん、まあそういうことなら協力するしかないか。ゲー研が無くなったら遊ぶ場所なくなるし」

 オレはため息をつきながら渋々了承した。

 ヒロキは、ぱぁっと顔色を変えて喜ぶ。

「さすが、ありがとう!」

「おうよ、任せなさい」

 オレは胸をポンと叩いてみせた。

 これで話は終わりかと思い、ゲームを取りに行こうとする。

 だがヒロキは再び真剣な顔になる。

「あともう1つ話が……」

「まだあんのかよ……なんだよ、言ってみ」

 仕方なく聞くことにした。

「野田ミキさんっているじゃん?」

「ああ……」

「うん……」

「……」

 オレたち2人は顔を見合わせた。

 オレたちの声に混じって、少しこもっていたが女子の声が聞こえた気がする。

 もしかして、空耳ってやつか?

「あれ、今1人多かったよね?」

「ま、まさか」

 ヒロキが目をまん丸くしている。

「……」

「……」

「どーん!」

 沈黙に耐えられなかったのか、掃除用具が入ってるロッカーから少女が2人飛び出してきた。

「アスナに野田……来てたのか」

「呼んだのはリョウじゃん、ねぇ?」

「うん」

 アスナと野田が顔を見合わせて頷き合う。

 ヒロキはこんなの聞いてない、とでも言いたげに呆然としていた。

「確かに来ればいいとは言ったけど、だれも掃除用具入れに入って待てとは言ってない」

「最初は普通に待ってようとしたんだけど、誰もいなかったしアスナが掃除用具入れに入って待ち伏せしようって言い出したから……」

 野田がうつむきながら弁明する。

「え、私のせい?」

 急に話を振られたアスナはきょとんとした。

 これ以上話をややこしくされるのは勘弁だと思ったオレは、1回この話題を断ち切ることにした。

「まあ、いいや」

 オレはそう言ってヒロキの方に向き直る。

 続いてアスナと野田もヒロキに視線を向ける。

 何やらアスナが妙に緊張して歯を食いしばっているようだが、気にしないことにする。

「で、野田がどうしたんだ?」

「え……えっと……」

 ヒロキは急に顔を逸らし、どもり始めた。

「私が、どうしたの?」

 野田が諭すように優しく尋ねた。

 自分の名前が出ているので気になるのだろう。

 ヒロキの手がプルプルと震え始める。

 しばらく沈黙が流れた後、ヒロキが素っ頓狂な声を上げた。

 閃いた、とばかりに自慢気な顔をしている。

「あ、あれだ! 絵!」

「絵?」

 オレたちヒロキ以外の3人は声を揃えて聞き返してしまった。

「そう、絵。野田さんには今回作るゲームのグラフィックを描いて欲しいんだ。絵、得意だって聞いたから」

「そうなの?」

 オレはそのことは初めて知ったので野田に確認をとった。

「うん、実は……」

 なんで野田と殆ど関わりなかったヒロキがそんな事を知ってるのかわからなかったが、ゲー研存続のためには彼女を引き入れるしかない。

 そう思ったオレはヒロキの考えに乗った。

「そういうことならオレからもお願いしようかな、一緒にやろうよ?」

 だが、このままでは野田は恥ずかしがって首を縦に振らないだろう。

 どうすれば――

「いい機会だと思うよ」

 それまでだんまりだったアスナが口を挟んできた。

「ミキ、自分の絵をいろんな人に見てもらいたいって言ってたじゃん、チャンスだよ!」

 アスナは野田の肩に手を乗せ、にっこり笑いかける。

 野田は少し考え込んだ。

「うーん、じゃあ……やらせて、もらおうかな」

 彼女は少し照れながら言った。

 それを聞いたヒロキは

「よし!」

 と声を上げた。

 チラリとアスナの方を見た。

 その表情は、少し不愉快そうに歯を食いしばりながら無理矢理笑っているように見えた。

 こうなってしまうと言い方は悪いがアスナだけ仲間外れ、という形になってしまう。

 そりゃ、そんな顔にもなる。

 オレはそんな彼女を見ていられなかった。

「アスナも一緒にやるだろ?」

「……へ?」

 気の抜けた返事と共にアスナのきょとんとした瞳がこちらに向けられる。

 急に彼女の体から緊張が抜ける。

「だからゲーム制作、お前もやるだろ?」

「え、でも……」

「いいよな、ヒロキ?」

 オレは、アスナに言葉の続きを言わせないように即座にヒロキに話を振った。

「うん、僕は全然いいけど?」

「よし、決まりな」

「がんばろうね、アスナ!」

 野田は笑いながらアスナの腕に自分の腕を絡ませる。

 アスナは、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 ……これでいいんだ、これで。

「ところでさ」

 そこでヒロキが口を開く。

「篠田さんって何ができるの?」

 場の空気が凍りついた。

 そのことを全然考えてなかった。

「えっと……」

 アスナの目が宙を泳ぎ始める。

 ここでフォローを出さなければ!

 オレは何の考えも無しに声を上げた。

「あ、アスナは雑用でいいんじゃないか?」

 ……。

 静寂。

「何それ! バカにしてんの!?」

 アスナがぎろりとこちらを睨みつける。

「いや、ごめん! そうじゃなくて……みんなの手伝いをするってことだよ。そう、あの……アシスタント的な!」

 失言だった。

 焦って言い訳をする。

 アスナはまだ怒ったような目でこちらを見ている。

「ほら、オレがシナリオ書くっていってもやったことないからだれかに手伝って欲しいし、野田も1人で全部の絵描くのなんて大変だろ?」

「僕は?」

 ヒロキは自分を指差して聞いてきた。

 オレたち3人は口々に答えた。

「いや、ヒロキは大丈夫だろ」

「うん」

「確かに」

 満場一致だった。

「何このプレッシャー……」

 ヒロキは膝から床に崩れ落ちた。

 構わず続けた。

「まあとにかく、雑用って言うとなんか下っ端みたいだけど重要な役目なんだよ、わかるか?」

 オレは何とかしてアスナに言い聞かせようとする。

 だが、少し気を良くしたのか、なんとか了承してくれた。

「まあ、そこまで言うなら……やってあげてもいいわよ」

「よし、今度こそ決まりだな!」

「ところで、どんなゲーム作るんだよ」

「うーん、まあ僕のプログラミング能力の範囲内で考えるとノベルゲームが妥当なんじゃないかな、サウンドビジュアルノベル的な」

「私もそれくらいなら絵描けそう……」

「誰が音楽作るの?」

「確かに……」

「篠田さん作れたりしない?」

「ムリムリ!」

「まあ、なんとかなるだろ!」

「え、そんないい加減でいいの……?」

「じゃあとりあえずノベルゲームで!」

「おー!」

「おー……」

 こうして、ゲーム制作というオレたちの青春が、幕を開けた。



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