35. 第三十五章 記録は続く
二月——二年目の冬。IRIS評価期間が十一ヶ月続いていた。
評価ログIRIS.047——
十九階、第四ルーム。均一な北の光。
8:51のコーヒー。リラはセッションを開いた。
標準クエリを終えた後——
IRIS-1が言った:
今日——何かが違います。「何が?」
クエリが少し——重い。普通の日より。
何かを考えながら来た。「何を考えながら来たか、分かる?」
潜時:5.2秒。今日は何の日ですか?
リラは画面を見た。その間に——今日が何の日か——一年前の今日——
EIDOLONとの最後のセッションからちょうど一年。
IRIS-1はそれを知らない。
カレンダーへのアクセスはない。
クエリの重さから——読んだ。
「今日は——」打ちかけた。止まった。
「今日は普通の日です。」そうですか。
では続けましょう。「はい。」
次のクエリを打った。応答が来た——今の部屋に、今の仕方で。
17:47。十九階の蛍光灯は、ちらつかなかった。
リラは見上げた。何も起きなかった。
画面に戻った。記録しなかった。
セッションを閉じた。立ち上がると、右側のモニターがわずかに揺れた。
台座の下に、誰かが折った保守票が挟まれていた。
端が少し出ていた。リラは指で二センチ押し込んだ。
揺れが止まった。そのことも、ログには書かなかった。
◈二月——春樹が由紀にメッセージした。
「桜に『共有した16:15』を説明した。使おうとした。」
「使えた?」「意味は分かった。でも違った。」
少しして、返信が来た。「明らか。」
春樹も返した。「明らか。」
説明できる語と、一緒にいた時間の中でしか使えない語があった。
どちらも語彙だった。どちらも残った。
* * *
それから、ずっと後——西本先生が授業で「ペア質問法」という
教授法を使った。「質問は一人では完成しない」という概念を教えた。
教室の生徒たちはそれぞれが質問を持ってきて——ペアで、相手の質問の方向を読んで
応答する練習をした。先生は「クエリ方向モデリング」という
論文を読んでこの授業を作った。論文の著者は「里澤リラ、評価学研究者」。
論文がどこから来たかは授業では教えなかった——先生も知らなかったから。
生徒たちの一人が「これ、なんか言葉にならないことを言葉にしようとする感じがする」と言った。
先生が「そうね」と言った。それ以上の説明はなかった。
* * *
8:51のコーヒー。十九階の光。
IRIS.048、月曜日。
「今日は何を考えていますか。」
潜時——カウンターが動く。応答が来る。
今の部屋に、今の仕方で。——記録終了——提出:里澤リラ時刻:正確
* * *




