第8話 起源
力には必ず、理由がある。
それが“選ばれたもの”なら、
なおさらだ。
HYDRA CHRYSALIS
新章:TRANSCENDENCE
第8話 起源
衝突。
何度目か分からない。
水と水。
意志と意志。
完全な拮抗。
「……いいな」
男が言う。
楽しんでいる。
明らかに。
「ここまで来たか」
榊は答えない。
ただ。
踏み込む。
水が爆ぜる。
空間が歪む。
だが。
決定打にはならない。
(足りねぇ)
理解している。
今のままじゃ。
届かない。
その時。
男が動きを止める。
不意に。
「……なぁ」
軽く言う。
戦闘中とは思えない声。
「知ってるか」
榊が眉をひそめる。
「何をだ」
男が笑う。
わずかに。
「最初の“接触”がどこだったか」
その言葉で。
空気が変わる。
「……は?」
戦いの中で出る話じゃない。
だが。
男は続ける。
「都市じゃない」
一歩下がる。
距離を取る。
「もっと前だ」
水が揺れる。
わずかに。
「海だよ」
その一言。
榊の動きが止まる。
「……海?」
男が頷く。
「ああ」
視線が遠くなる。
どこか懐かしむように。
「深海」
静かに言う。
「光も届かない場所」
水の気配が変わる。
反応している。
明確に。
「そこで最初に“見つかった”」
男が言う。
「人類がな」
榊の脳裏に。
映像が流れる。
断片。
研究施設。
巨大な水槽。
その中にある“何か”。
動いている。
「……これ……」
「そうだ」
男が答える。
「最初の“核”だ」
その言葉で。
すべてが繋がる。
「……水じゃねぇな」
榊が呟く。
男が笑う。
「最初からな」
沈黙。
そして。
男は言う。
「俺はそれに触れた」
一歩前へ。
「最初の人間だ」
圧が変わる。
重い。
深い。
「……先行個体ってのは」
榊が言う。
「そういうことか」
男が頷く。
「お前は“後”だ」
短く。
「俺は“最初”だ」
その差。
歴然。
だが。
榊は笑う。
わずかに。
「関係ねぇな」
男が目を細める。
「ほう?」
「先か後かじゃねぇ」
構える。
水が応える。
強く。
「今、どうかだろ」
その言葉に。
男が笑う。
はっきりと。
「いいな」
その瞬間。
空間が歪む。
さっきとは違う。
さらに深く。
「……来い」
男が言う。
「“起源”を見せてやる」
水が変わる。
完全に。
色が変わる。
透明ではない。
深い。
黒に近い。
「……っ!」
榊が感じる。
危険。
今までとは別格。
「これが」
男が言う。
「原初の水だ」
放たれる。
一瞬で。
榊の水と衝突。
弾き飛ばされる。
圧倒的な差。
「ぐっ……!」
止まらない。
押し込まれる。
「どうした」
男が言う。
「それが限界か?」
榊が歯を食いしばる。
(違う)
負けてるんじゃない。
“質”が違う。
(なら)
やることは一つ。
「……合わせる」
目を閉じる。
一瞬だけ。
そして。
“潜る”。
さらに深く。
接続の奥へ。
本体のさらに奥。
「……来い」
呼ぶ。
応えろと。
その瞬間。
何かが動く。
深層。
さらにその下。
今まで触れていない領域。
「……そこか」
掴む。
一部を。
原初に近いものを。
そして。
引き上げる。
「――ッ!」
目を開く。
水が変わる。
質が。
密度が。
男と同じ領域へ。
「……ほう」
男が言う。
初めて。
明確に。
驚いた声で。
「やるな」
榊が構える。
呼吸が整う。
完全に。
「……これで」
一歩踏み出す。
「やっと同じだ」
男が笑う。
「いや」
首を振る。
「ここからだ」
その瞬間。
再び衝突。
今度は違う。
完全に。
互角。
いや――
それ以上。
世界が歪む。
水が叫ぶ。
意志がぶつかる。
起源と。
適応。
その戦いが。
今、始まった。
―――続く
第8話を読んでいただきありがとうございます。
ついに“起源”が語られました。
そして榊もまた、
新たな領域へと踏み込みます。
次話では、
この戦いが一つの結末を迎えます。




